6年3組物語 第12話

狩人と疑似餌

「う〜〜ん…」
 金蹴りマニア少女・西村優子のフラストレーションは日々高まっていた。
最近、獲物が乏しいのだ。
変質者が減少しているわけでは、決してないはずなのだが…
「つまんない……」

 やはり自分が、小学生としては大きくなりすぎたのも原因だろうか。
4月の身体測定では177cmに達し、大人の男でも自分より大きな人はそうそういなくなってしまった。
(やっぱり、あんまり大きいと怖がられちゃうのかな…)
 大体の痴漢や露出狂といえば、自分より小さく弱そうな女の子を狙うだろう。
こんな背の高い自分の近くで、そんなことをする度胸のある変質者もなかなかいまい。

 そういうこともあってか、近頃は目に付くところで性犯罪者を見かけず、蹴飛ばす相手が見当たらない状況だった。
しかし欲求不満だからといって、周りにいるクラスメイトの男子たちの玉を蹴り上げて代わりにするなんてことは
自分の主義に反する。自身の気持ちを満たすために、別に悪くもない弱い子を泣かせることまではしたくない。
やはり、『蹴ってもいい相手』でないと優子自身もスッキリした気持ちにはなれない。

 それから学年の中に一部、変質者狩りを行っているグループがあるという噂も聞いたことがある。
そのおかげで、自分の獲物が減っているのだとしたら…
そのことを思うたび、決まって優子は少し腹立たしい気持ちを抱いた後、我に返って自己嫌悪する。
本当の善意で悪い男たちを退治しているのかもしれない人たちに対して
ただ自分の金蹴り欲を満たす相手が減るといって、余計なことをするなと思うなんて…と。
大体そういう悪い男は、普通に考えたらいないに越したことはないはずだ。
なのにそれを捜し求め、蹴りを入れて楽しみたいなんて…

 でも、あの味は忘れられない…
スニーカーの爪先や、膝に伝わってくるコリッとした感触と、沈んでいく男たちのあの惨めで面白い悶絶の表情…

 下校中もそんな飢えた気持ちを抱いたままで、歩いている最中に何気なく膝を高く突き上げている自分に気付いたりもする。
(…いけない。私、何を考えてるの?これじゃ私のほうがよっぽど変質者じゃない)

 一人で顔を赤らめながら歩いていると、前を同級生の谷口姉妹が楽しげにおしゃべりしながら歩いているのに気付いた。
今さっき学校が終わって自分も下校しているところだというのに、彼女たちにはなぜか、荷物がなかった。
(え?もう帰り着いて、どこかに遊びに行くのかしら。それにしては早すぎるような…)
 ふとその後ろで、何やら荒い息遣いが聞こえてきた。
何だろうと思い振り返ると、そこにはよたよたしながら重い足取りで歩く一人の子が…
「みずきちゃん」
 同じ6年3組の男子、森野瑞貴だった。
よく見ると体の前後に赤いランドセル2つを負い、手には自分のものらしい黒いランドセルを担いで苦しそうに歩を進めている。
…優子にも、すぐわかった。
谷口姉妹に鞄持ちをさせられているのだと。

 谷口姉妹と瑞貴は家が近所らしく、一緒に登下校したり町内で遊んだりしているのを
少し離れた場所に住んでいる優子も時々見かける。
一緒に遊ぶといっても、そろって180cmにもなる萌香・萌里と、138cm/27kgと3組男子の中でも特に華奢な体つきの瑞貴では
対等の遊び相手となるのはまず不可能であり、それはほとんど瑞貴が2人の長身少女の遊び道具となる構図だった。

(それにしてもこの子…ほんとにかわいいわ)
 小さな瑞貴を見下ろしながら、優子は改めて思った。
他の男子とは明らかに作りが違うと思える、まるで女の子のような、それもかなりハイレベルにかわいらしく整った顔立ち。
女の子で言えばショートカットだが男の子にしては長めの髪形、それに口を開けば声も高く、細い。
そしてこの小柄でスリムな体型、今穿いているハーフパンツから出ている脚はいまだ発毛もなく、ツルツル。
ほぼ全ての女子児童から君付けされることはなく、『みずきちゃん』と呼ばれる現状も無理はない。
どんなに男らしい服装をしても女の子に間違えられる、そんな瑞貴だった。

 その、6年生の女の子の平均体重/体力値をも下回るような華奢で非力な瑞貴が持たされている2つのランドセル。
それは今日に限って、特に重みが増しているのだ。
萌香と萌里は今日の放課後、全教科の教科書を机の中に入れっぱなしだったことを、
見回りに来た学年主任の室谷三郎に口やかましく指摘され、今日渋々持って帰っているのだった。
全科目の教科書とノートの数々、2人分。
それが、彼女たちの近くに住む瑞貴1人に押し付けられた。
彼にとって耐え難い重量のランドセルが、背中に負うだけでなく胸の前にも抱えさせられる。
肩にかけられた2個のランドセルの、4本の太い皮ベルトがギリギリと瑞貴のなで肩を重力で痛めつける。
その上瑞貴は、自分のランドセルも忘れずに手で持って帰らなくてはならないのだ。

「ひどいよね、谷口さんたちって。自分たちのほうがどう考えたって力あるんだから
自分たちが持ってあげるのが普通なのに、みずきちゃん1人に全部持たせるなんて。
みずきちゃん、きついでしょ?私が持ってあげるよ」
「い、いや…僕がちゃんと持っていかないと、また谷口さんたちに変なことされちゃうし…」
 瑞貴に荷物の全てを持たせた谷口姉妹はもう既に、ここからは見えないところにまで歩いていってしまったようだ。
あまり遅れた場合のひどい仕打ちに怯えてか、瑞貴も彼なりに歩むペースを速めていく。
(また、変なことされちゃうって…谷口さんたち、みずきちゃんに一体どんなことを…
もしかして、みずきちゃんに無理やりエッチなこととか…まさかね……)
 瑞貴の言葉から何気なく妙な想像をして、優子は少しドキドキしてしまっていた。
つい、そんないやらしい悪戯をしてしまう気持ちもわからないでもないと思った。

(ふふ…ああやって赤いランドセルなんか背負ってたら、知らない人は絶対女の子と思うんじゃないかな)
 それも、ただ女の子みたいだというだけではない。
瑞貴には天性というべきなのか、相手に愛玩欲、悪戯心を起こさせる妙な雰囲気を感じずにいられない。
(女子の目から見ても、こうだもん。
もしよその男の人に女の子と間違われたりとかしたら…)

 そのときだった。

 ガバッ!!
「!!」

 住宅地の曲がり角に差し掛かったところで、目の前にいた瑞貴が突如として消えた。
目を疑った優子が、角まで駆けつけて見たものは…
狭い路地に引きずり込まれて、見知らぬ男に押し倒されている瑞貴の姿だった!
「ぃ…いやっ!!」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
 男は息を荒げながら、瑞貴の手首に手で体重をかけてアスファルトに押し付け、逃がさないようにしている。
この男もやはり、見間違えたのだ。瑞貴を、女の子と。
ちょうど今、赤いランドセルを身に付けていたのが余計に災いしたようだ。
この直前に優子が思っていた心配事が、その矢先に現実として降りかかったのだった!

「ゃ、やめ…て…!!」
 獣欲をむき出しにした変態男のギラギラした顔から目を背けるようにしながら絞り出した瑞貴のか細い声は、
ますます男を勘違いさせ、熱くさせるだけだった。
赤いランドセルを背負った小さな子を引きずり込んでよく見てみれば、こんなに上質な美少女だったとは、と。
瑞貴の両手を毛むくじゃらの左手で押さえつけながら、男はいそいそと右手で自らのズボンを下ろそうとする。
脱ぐのに手惑い、苛立つほど男の股間は怒張してトレーナーとパンツに引っかかっていた。
無駄でしかないか弱い抵抗をする瑞貴の様子、半泣きの顔に男の支配欲はさらに掻き立てられ、
背後にとても危険な少女が立っていることに気付かないほど欲情が最高潮に達していた。

「危ない、みずきちゃん!!」
 瑞貴の身を案じて出た言葉ではあったが、それを発した優子の口元は吊り上がってもいた。

 ズボゴォォォッッ!!
「ごぁ…がっ………!!」

 瑞貴は突然、四つん這いの体勢で自分を押さえ込んでいた小太りの男の全身が数cm浮き上がったのを感じた。
(え、えっ…!?)
突然動きを止めて様子の一変した男を、瑞貴は戸惑いながら見上げる。
血走った眼球はひっくり返って黒い部分が見えなくなり、額や鼻の頭に無数の脂汗の玉が浮かび上がる。
太い糸を引いて垂れた男の唾液が、瑞貴の顔のすぐ横に音を立てて流れ落ちる。
そして、その上に覆いかぶさるように男が崩れ落ち、自らの涎に顔面をなすりつけながら悪夢に沈んでいった。

「大丈夫?みずきちゃん」
 いまだにヒクヒクと痙攣を続けている男を上から手で転がして瑞貴から引き剥がしながら優子が声をかけてきた。
「う、うん……」
 まだ何が起こったのか整理のつかないまま、優子に手を引かれ起こしてもらう瑞貴。
瑞貴は、優子がこの男をやっつけて助けてくれたんだということはなんとなく理解できた。
しかし、どのような手段を用いたのかまではわからなかった。
醜い欲望にギラついた男の視線から顔を遠ざけることだけに必死だったため、
その男の股間に深々と、優子の白いスニーカーの甲がめり込んだのは目に入らなかったのだ。

「あ、ありがとう。西村さん…」
「みずきちゃんは特別かわいいから、変な人に狙われないように気をつけなきゃね。
さ、谷口さんたちも待ってるわ。急いで」
「う、うん…それじゃ」
 再び二つの重いランドセルを背中と胸に負いなおし、自分のランドセルも肩に担ぎなおして
フラフラしながらも走り去っていく瑞貴の姿を、
優子は久しぶりにありついたご馳走の後味を噛み締めるようにうっとりとしながら見送っていた。
いまだ足の甲に残る、蹴りのインパクトと同時に伝わった、小さく軽いながらも手ごたえ抜群の、あの感触。
背中越しに蹴り上げたので表情は見えなかったものの、一瞬高圧電流でも浴びせられたかのように伸び上がった後
背中を丸めながらゆっくりと崩壊していく、金蹴りされた男特有の情けないあの反応。
久しく味わえなかったこの味に、優子の危ない趣味はさらなる思い付きをも生み出そうとしていた。

「…使えるわ、あの子。
あの子の近くにいれば、獲物には困らないかも…」
 彼女の餌食となり、睾丸を体内の最深部にまでねじ込まれたかのような鈍痛地獄の中で失神した哀れな変態男を
足元で眠らせたまま、優子は瑞貴に対して浮かんだ新たな思いに胸を高鳴らせ始めていた。


 つづく





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