隣に住む女の子

隣の家のあすみちゃんは小学4年生。
あすみちゃんが小さかった頃はお隣同士の僕に何かと頼ってきて、僕は毎日あすみちゃんの手を引いて
小学校まで一緒に通っていた。
いつもあすみちゃんは僕のことを「お兄ちゃん」と呼び、僕たちは本当の兄弟のようにいつも一緒に遊んだ。
いつだったか、野良犬に追いかけられて逃げ回っていたあすみちゃんを、僕が棒を振り回して
内心恐かったけどなんとかその野良犬を追い払って助けたとき、あすみちゃんは僕の胸にすがりついて
「あーん、恐かったよー」
 なんていって泣いていたことを思い出す。
同じ学年の中ではいつも一番背が低く、みんなに小ささをからかわれ続けていた僕にとっては、
あすみちゃんがまるで妹みたいに僕のことを慕ってついてきてくれるのが口には出せなかったけどうれしかった。
僕はあすみちゃんにとっていつまでも頼れるお兄ちゃんでいたい・・・そう感じていた。
 そう、あすみちゃんが小さかった頃までは・・・

 僕が中学校に上がり、あすみちゃんも小学校4年生になった、今から2年前の春。
僕にとって認めたくない、いや実はとても恐れていた事態が現実味を帯びてきたのだった。
お人形さんという表現がピッタリあっていた、小さくかわいいあすみちゃんの身長がすごい勢いで伸び始めたのだ。
もともと小さかった上にその頃から伸びが鈍くなってきていた僕を尻目に、
あすみちゃんは日を追うごとに大きくなっていった。
僕はあすみちゃんと一緒に遊びながら、いつもあすみちゃんの目を盗んでこっそりと2人の背を比べた。
その差は比べるごとに確実に狭まっているのが確認でき、僕はただただ焦った。
3歳年下の女の子に背丈で並ばれる!
毎日ハラハラさせられる僕の気持ちには気づく様子もなく、
あすみちゃんは無邪気に僕をお兄ちゃんと呼びかけながら一緒にボール遊びをした。

 しかしある日、ついにその日が来てしまったのだ。
「あれー?ひょっとして、あたしとお兄ちゃんって、おんなじ大きさくらい?」
 2人でトランプをしていた最中、ついにあすみちゃんがその事実に気づいてしまった。
僕はこんな日が来ることはどこかで覚悟していたものの、その瞬間には青ざめてしまった。
「立って、お兄ちゃん」
 あすみちゃんは目をキラキラ輝かせながら立ち上がり、僕の腕を掴み立たせようとした。
その引っぱる手にも、僕は戸惑わされた。力も強くなってる・・・僕のほうがそれほど立とうとしないうちから
2人は向き合って立ってしまっていた。3歳下の女の子に簡単に引き起こされたのだ。

 そしてあすみちゃんがゆっくりと、自分の頭の上に置いた手のひらを僕のほうにずらしてくる・・・
 ズリッ。
「わあーやっぱり!あたし、お兄ちゃんとそんなに変わらない!追いついちゃった!きゃははは♪」
 僕の丸刈りの頭に手のひらが擦れた瞬間、あすみちゃんは本当にうれしそうな表情で笑い
絨毯の上を飛び跳ねた。その様子を見ながら僕は・・・ショックに胸のあたりが詰まってきた。
「これからはお兄ちゃんとあたしでどっちが大きくなれるか競争だね!ふふっ!」
 あすみちゃんが僕の両肩の上に手を置いて微笑みかける。
僕は声が上げられなかった。中学生の僕が・・・小学4年の女の子に追いつかれた・・・
ひょっとして・・・追い抜かれる!?情けないけどその場で泣き出しそうになってしまうのをこらえるのに必死で、
胸と喉が詰まって僕は何も口に出すことができなかった・・・

 ある日の帰り道。僕が中学校から家路についていると、頭の上を後ろから何かが通過した。
ハッとして振り返ると、そこにはランドセルを背負ったあすみちゃんが立っていた。
「お兄ちゃん、驚かせてごめんね。それより今の見た?あたし、お兄ちゃん抜かしちゃった」
 僕は頭の中が真っ白になった。さっき僕の頭上を通り過ぎたのはあすみちゃんの手のひらで、
それは明らかにあすみちゃんの身長が僕を上回った、屈辱の烙印だったのだ・・・
胸が張り裂けるような感情で、唇の震えが止まらなくなった。
「どう?あたし、おっきくなった?・・・それよりお兄ちゃん、今日これから遊ぼうよ」
「うっ、うるさいっ!!」
「お、お兄ちゃん・・・?」
 僕はあすみちゃんとまともに目を合わせることもできないままその場から走って逃げ帰ってしまった。
顔をあわせれば、涙がこぼれるところを見られてしまうかもしれないから・・・
その日は帰るなりベッドに倒れこみ、布団をかぶりこんでただ泣いた。
僕がいくらチビだからって・・・妹みたいにかわいがっていたあすみちゃんよりも背が低くなるなんて・・・
4年生の女子に背を抜かれるなんて・・・
そのまま日が暮れるまで泣き続けた。

 中学2年には僕は身長の伸びが完全に止まってしまった。151cmという低さで。
その間もあすみちゃんは順調に、恐ろしいほどのペースで成長を続けた。いや、今も続いている。
あすみちゃんは自分が日を追うたび大きくなっているのがとてもうれしいらしく、毎日僕に会うたびに
手のひらを自分の頭に当ててから僕のほうへとスライドさせてくる。
もうそんなことをしたって差は歴然としているというのに。
あすみちゃんの手のひらは日に日に僕との差を広げて、遥か高い場所を滑っていく。
僕の方にもう一方の手を置いたまま、余裕で僕に身長の差を見せ付けて笑顔を見せる。
そのたびに僕は無念さで胸がいっぱいになり、何も口にすることができない。

 今ではあすみちゃんは、無邪気にもさらに屈辱的な方法で僕との背を比べるようになった。
まず僕の頭の上にその大きな手のひらを乗せてから、自分のほうへ持っていくようになったのだ。
僕のいかにも子供っぽい坊主頭をなでてからあすみちゃんのほうに向かっていく手は日に日に低い位置に
どんどん下がっていき、鼻、唇、顎、鎖骨、そして今では胸のあたりにやっと届くほどとなってしまった。
僕の目線はあすみちゃんの、最近ブラジャーを着け始めた発育中のおっぱいと同じぐらいに位置する。
そのたびに僕は目のやり場に困って1人で赤くなってしまい、あすみちゃんが不思議そうな顔で見下ろしてくる。

 33cmもの差をつけられた今になっても、あすみちゃんは毎朝僕と一緒に学校へ行こうとする。
僕たちの通う校区は小学校と中学校がほとんど隣り合った場所にあるので、あすみちゃんが僕より小さかった
小学校4年生の1学期頃までは僕たちは何も気にすることなく2人で通学していたけど、
あすみちゃんの背丈が僕を追い越してからは恥ずかしくてできるだけ並んで歩くのは避けていた。
自分より大きな小学生の女の子を連れている男子中学生なんてかっこ悪くてたまったものじゃないから。
同級生の女子にでも見られたら絶対バカにされてしまう。
だから、僕はいつもこっそり先に登校しようとするけどあすみちゃんにいつもあっさり捕まえられる。
「最近お兄ちゃん冷たい!お隣さん同士なんだから一緒に学校行こうよ!」
 と言ってふくれたような顔をして僕の手をすごい力で引き寄せ、そのまま分かれるまで手を離してくれない。
中学3年生にもなって151cm、35kg、足は23cmしかない小さくて貧弱な僕に対して、
184cm、64kg、足のサイズ29cmの小学6年生、あすみちゃんがお兄ちゃんと呼びかけながら、
中学3年生で最も小さい男子と、校区で最も大きい小学生の女の子が手をつないで登校するのだ。

 せめて人の通る場所で、大きな声でお兄ちゃんと呼ぶのはやめてほしい。
そう呼びかけられるたびに、まわりの人たちが珍しいものを見る目をしながらすれ違っていく。
僕はいたたまれなくなり、あすみちゃんから手を離そうとしてもその握力がすごくて離れられない。
「お兄ちゃんだって〜」
「妹よりちっちゃいなんてかっこわるーい」
「妹に手引かれて連れられてる〜。恥ずかしくないのかなぁ」
 通学路にいるほとんどの小中学生の女の子からそんなクスクス笑いがかすかに聞こえてくる。
屈辱にまみれた姿をさらしものにされているようで僕はもうその場から消えてなくなってしまいたくなる。
「ほらぁ、急がないと遅刻しちゃうよ。お兄ちゃんってば。ほらほら」
 恥ずかしさで顔を上げられない僕を、あすみちゃんは僕が束になってもかなわないような力で
グイグイ引っぱって一緒に歩こうとする。脚の長さもまるで違うあすみちゃんのペースで歩かれると
僕は足がもつれて転びそうになる。
「あっ、ごめんねお兄ちゃん。歩くの速すぎちゃった?合わせてあげるね」
 そういってあすみちゃんはやっと歩くスピードを緩めてくれた。よたよたと追いついていくので必死の僕。
その様子にもまわりの女の子たちから笑いが巻き起こる。
しかも今日は運の悪いことに、僕と同じクラスの女子数人とバッタリ顔を合わせてしまった!
「ふふっ、俊二くん、面倒見のいいやさしい妹さんがいて幸せ?」
「俊二、男でしょ?もうちょっとシャキっとしなよ!」
「お兄ちゃんらしいとこ見せないと、妹に負けちゃうよ〜」
「あすみちゃんっていうんだよね。、チビお兄ちゃんのお守り大変だと思うけどがんばってね」
 女子たちはあすみちゃんを本当に僕の妹だと思い込んで僕をからかいまくった。
おしゃべりな女子は当然学校についてからクラス中でこのことを言いふらし、
僕はますます情けないチビというイメージで見られることになった。
・・・昔は僕があすみちゃんの手を引いて学校に連れて行ってあげてたのに・・・

「なんか、あたしのほうがお姉ちゃんみたいだよね」
 僕の手を引きながらあすみちゃんが言った。
あすみちゃんはあくまで悪気のないつもりで言った言葉だったことはすぐにわかったけど、
その言葉はものすごく僕の胸に深く突き刺さった。・・・でも、何も言い返すことはできなかった。
まるでその通りだったからだ。
 体が大きくなりすぎたことでランドセルを背負えなくなって、普通の黒いリュックで通学するあすみちゃん。
私服なので、自分の口から言わなければ絶対に小学生だとはわからない背の高さ、大人びた顔立ち。
男物のジーンズを補正しないでそのままはきこなせてしまう長い脚は大人の女の人でもそうはいないはずだ。
184cmのファッションモデルのようなあすみちゃんに手を引かれて学校に連れて行かれているのが、
151cmで顔立ちと坊主頭がいかにも子供な、学生服を着ていなければ小学生にも間違えられる僕。
他の人の目からどっちが年上に見えるかといえばそれは間違いなくあすみちゃんだ。
「それじゃ。お勉強がんばってね、お兄ちゃん」
 バンッッ!!
小学校と中学校の分かれ道でようやく手を離してくれたあすみちゃんは別れ際、その大きな手のひらで
僕に喝を入れるかのように背中を叩いた。
「ぐぅぅ、ごほっごほっ・・・」
 その力に息を詰まらせて悶える僕に手を振ると、あすみちゃんは僕を連れていたときとは比べものにならない
速度で小学校のほうに向かって歩き出した。
僕はあすみちゃんに、思いっきり手加減して付き合ってもらっていることをあらためて思い知らされた。
まだ子供のはずのあすみちゃんに、まるで弟のように子ども扱いされる僕・・・

「あすみちゃん、誰?その子」
 ふざけて僕をお姫様抱っこして遊んでいたあすみちゃんのもとに、見たことのない女の子3人が
寄ってきて僕を覗き込みながら取り囲んだ。どうやらこの子たちは、あすみちゃんの同級生のようだった。
「この人はねぇ、あたしのお兄ちゃん!」
 あぁっ、そんな誤解を招くような言い方しないで・・・と思いながら口に出せないでいると、
あすみちゃんは僕を下ろした。自分で地面に立った瞬間、僕はショックで声が出なかった。
その場にいた全員の中で、僕だけが圧倒的に背が低かったことに。
今集まってきた女の子たちはあすみちゃんのクラスメイト、つまり小学生のはずなのに・・・
僕の頭はこの子たちで一番小さな子の、顎にも届いていなかったことに!
さすがにあすみちゃんほどの大きさはないけど、それでもその大きさには驚かされた。
ザザっと音を立てて僕のまわりを取り囲んだ女子小学生3人が一斉に声を上げた。
「ちっちゃーい!!」
 3人のその声が見事にそろっていたことで女の子の間から笑いが巻き起こった。
それが僕をますます惨めで恥ずかしい気持ちにさせた。

「うっそ、あすみちゃんってこんなちっちゃいお兄さんがいるの?」
「弟くんじゃなくて?」
「えー?この人何歳?小学生にしか見えなーい」
 その後、あすみちゃんの口から僕が中学3年生だと言うことが告げられると3人からさらに驚きの声が上がっ

た。

 パシーン!
「いたっ!」
 突然、僕の頭を後ろから誰かが手で叩いた。
昨日散髪に行ったばかりで青々とした僕の丸刈りの頭からは乾いた大きな音が響いて、
その直後に小学生の女の子3人組から爆笑が響き渡った。
「きゃははは、いい音〜!!」
「由紀ちゃん、かわいそうじゃない意地悪しちゃ!」
 あすみちゃんが僕の頭を叩いた由紀という女の子に言いながら僕をかばった。
「だって、まん丸でかわいいんだもん」
「マルコメくんみたいだね〜」
「もう、コ・ド・モって感じよねー☆」
 由紀を先頭に3人の女の子が僕に群がり、坊主頭をみんなでなでてさする。
女子小学生に見下ろされて頭をなでまわされる屈辱。僕はまた涙がこぼれそうになった。
「くすくす、このジョリジョリした感触気持ちいい〜」
「でもさぁ、こんななでやすい場所に頭がある中学生っておっかしいよねー」
「あたしの脇の下までしかないよ?この人」
「ん?なぁに?ボク、あたしたちが大きいのに驚いてるって顔してるね」
「今時女の子で170ぐらいあるの、小学生でも当たり前だよ?あたしは173cmだけど」
「男子はボクぐらいしかないのもいっぱいいるけどね。今は女の子のほうが大きいの知らないの?」
「中学生でこれだけしかないボクが悪いんだよ。えいっ☆」
 由紀が僕の額を人差し指でつつきながらグイッと突き放した。その力に僕はあっさり突き飛ばされて
みっともなく尻餅をついた。3人の間で笑い声がドッと起こる。

「うっわぁ、ちっちゃいだけじゃなくてかっるぅーい!マジで子供だね〜」
「あすみちゃん、こんな坊やをお兄ちゃんって呼ぶのおかしくない?」
「えーでもぉ・・・あたしがちっちゃい頃から一緒に遊んでくれたお兄ちゃんだし・・・」
「でもあすみちゃんは今すっかり大人っぽくなって、このボクはうちのクラスの男子かそれより下みたいな
幼稚な坊やじゃない!もう逆転しちゃってるんだしさ、今日からあすみちゃんがお姉ちゃんになってあげたら?」
「う〜ん・・・」
「じゃあそういうことで決まりね!これからはあすみちゃんがお姉ちゃんとしてしっかりこの子を
一人前の男に育ててあげなきゃね!」
「ねぇ聞いたでしょ、中学生のボク!今日からあすみちゃんが頼れるお姉さんとしてお世話くれるってさ!
ボクからもお願いしなさい。あすみお姉ちゃん、いっぱいかわいがってね〜って」
「そうだ、これからは当然あたしたちのこともお姉ちゃんって呼ばなきゃダメだよ!」
「あたしたちもあすみちゃんに負けないぐらい、いいお姉ちゃんになるからさ!思いっきり甘えてきていいよ☆」
「お、お兄ちゃん・・・あたし・・・」
「あら、ダメよあすみちゃん。お姉ちゃんなんだからこの子のことそんなふうに呼んじゃ。
弟のことは名前で呼ぶのが普通でしょ?遠慮しなくていいんだよ」
「・・・俊二・・・くん・・・」
「ダメダメ!弟は呼び捨てしなきゃ!俊二!!ってさぁ」
「えぇー・・・?あ、あたしは呼び捨てなんてできないよぉ・・・おにぃ、いや俊二くんのこと・・・」
「・・・ま、いっか。やさしいんだね、あすみちゃんって。
さぁ今度は俊二の番ね!俊二、今ちょっとあたしたちのことお姉ちゃんって呼んでごらん!おっきな声でね」
「恥ずかしがったりしちゃダメよ?さ、練習しなさい」

 その日から中学生の僕は、この4人の大きな女子小学生それぞれに対して、
あすみお姉ちゃん、由紀お姉ちゃん、香織お姉ちゃん、奈々お姉ちゃんと呼ぶことを命じられて
女の子たちの弟としてかわいがられ続ける屈辱の日々を送ることになったのだった・・・


おわり





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