inserted by FC2 system Battle_09 プライド


『もうなんでこんな相手と試合しなきゃならないのよ。』
マリアは試合前から怒っていた。

彼女は白いハイレグのレオタードに身を包んでいた。
モデルとしても活躍していた彼女。
そのスタイルは格闘家になった今でも変わらない。
長い筋肉質の手足にふくよかな胸。
美しい金髪を後ろで束ねて彼女は立っていた。

トーナメント準決勝の相手、元横綱の曙が入場してくる。
マリアを睨みながら鼻息も荒くリングインしてくる曙。
『わぁ、汚ったない。何なのあの涎だれ。そして品のない脂肪の塊まり。見ているだけで気持ち悪くなりそう。』
マリアのストレスはさらに高まっていく。
『さっきもう片方の準決勝で、恵さんに弄ばれてた魔裟斗っていうキックボクサー。
あんな男前の相手なら私もゆっくり寝技で仕留めてあげるのに。なんて組み合わせについてないんだろう。』
悲しくなるマリア。

来賓席で見守る綾が頭を抱える。
「まったくマリアったら。全く試合に集中していない。素質は十分なのにほんと困った娘だわ。
恵の爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだわ。」
やがて両者はリング中央で向かい合った。

曙の吐息にマリアは震え上がった。
『はぁ。あの涎だれには最高に注意しなきゃね。だけどあの脂肪の塊りは、すごく柔らかくて蹴りがいがありそうね。
まぁどちらにせよ、あいつの汗でリングが汚れないうちにさっさと始末しちゃいわないとね。』
距離をとる2人。
曙は大きく四股を踏む。
足が上がらずなんとも見映えの悪い四股であったが、曙の気合は高まった。
四股が終わると同時にマリア目掛けて突進してくる曙。
「ふがー」
と叫びながら迫ってくる。
『嘘でしょー。』
マリアは恐怖する。
かつて恵がデビュー戦で、ボブ・サップの突進を胸で受け、時期覇王としての威厳を示したという話はマリアも知っている。
『私も。』
と覚悟して胸を差し出すマリア。
恵以上にパワーのあるマリアであれば、曙の突進も、綾のように力で跳ね返せるはずである。
しかし突進してくる曙の顔に、一滴の涎だれが見えた。
『やっぱりダメぇ。』
マリアは直前でそれを回避する。
目標を失った曙はバランスを崩してそのまま転倒。
2回3回と転がり回った。
「はぁ。」
ため息をつく来賓席の綾。
「はぁ。」
同じくリング上でため息をつくマリア。

『何て言われようが嫌なものは嫌なの。もう頭にきたこいつ、懲らしめてやる。』
モデルのような歩き方で曙との近寄るマリア。
慌てて立ち上がる曙。
「覚悟しなさいね。」
マリアはそういうと、強烈なミドルキックを曙の腹に突き刺した。
曙の分厚い脂肪が波を打って広がる。
思わぬ苦痛に顔をゆがめる。
全身から冷や汗が滲み出る。
しかしかろうじてマリアの蹴りに耐え切った曙。
「残念だったな。俺のボディはお前の蹴りなんて通用しねえぜ。」
呼吸を整えながらマリアに言い放つ曙。
「あらそうかしら。さっきの蹴りはお遊びよ。本気で蹴ってあげるから覚悟しなさい。」
そう言うと、今度は一段と威力を増した蹴りが曙の脇腹に突き刺さった。
さっきとは比べものにならない衝撃。
マリアの蹴りは曙の体の内部まで確実に破壊していた。
あまりの威力に血を吐いて苦しむ曙。
彼の吐いた血がマリアの脚にかかる。
『うわぁ。最悪。』
落ち込むマリア。
曙はうずくまるようにその場に膝をついた。

『もう頭にきた。許さない。』
自分の脚を血で汚された彼女は怒り心頭に達した。
膝をつき苦しむ曙の顔面に、凄まじい勢いのローキックを叩き込む。
曙の巨体は腰を折られるように仰向けになって1メートルほど飛ばされた。
呼吸はしているものの戦闘意欲のなくなった曙。
怒ったマリアは攻撃の手を緩めない。
驚異的な跳躍力でジャンプして曙の体を踏みつけると、そのまま2回3回と勢いをつけてストンピングを浴びせる。
踏まれるたびに、血を吐き体を跳ね上げる曙。
既にその時彼の命は失われていた。

何回も踏まれて、赤い脂肪の塊りになっていく曙。
マリアの脚にもより一掃の血がついた。
動かなくなった曙に、ようやく攻撃の手を緩めるマリア。
「はぁはぁはぁ」
珍しく呼吸も上がっている。

「困った娘ねぇ。まだ若いから大目に見るけど、あの精神力じゃ覇王になんかなれないわね。もっと成長してもらわなきゃ。」
呆れ果てた綾は、来賓席でそうつぶやいた。

( 了 )

inserted by FC2 system