美しい筋肉 EXTRA

「ついでだから、完膚なきまでに懲らしめてあげる。」
そういうと、合唱部の女子部長は、座り込んでいるボディビル部の部長の首根っこを掴むと、引き摺って歩き始めた。
「ぶ、部長をどこへ連れて行く気だ!」
ビビりながらも部員が恐る恐る問いただす。
「あなたたち、いろんな部を練り歩いてきたらしいけど、1つだけ避けたトコがあるでしょ?」
「・・・うっ・・・・・」
部員は言葉を失う。フフン、と鼻で笑うと、
「おとなしく付いて来なさい。」
とズンズンと部長を晒し者にしながら校舎を練り歩いて行った。

しばらくして着いたのは、体育館に併設してあるトレーニングルーム。
部ごとにトレーニングルームの使用時間が決まっている為、今はボディビル部の使用時間ではない。
だが、むしろ男たちにとって敢えて避けたい時間帯でもあった。
「部長ー、居るー?」
「何ー?」
入り口あたりで合唱部部長が声を掛けると、中から返事がした。
「それ、入りなさい!」
掴んでいたボディビル部の部長を無造作に室内へ放り込んだ。
よろよろとへたり込む部長に続いて部員の男たりも渋々ながら中に入る。
「あら、あなたは確か合唱部の・・・、で、こいつらは?」
中には、やや背の高い女生徒がジャージを着込んで立っていた。ジャージの上からでも胸の大きさがわかるぐらいスタイルが良い美人だ。
「こいつらが今うわさのボディビル部の貧弱くんたちよ。」
「へー、こいつらが・・・」
その女生徒は、品定めするように男たちを見下ろした。なぜか、男たちは目を合わせようとしない。
「あなたたち体操部だけ避けてたみたいだから、ついでと思って連れて来たのよ。」
「まあ、こんな貧弱な身体でボディビルなんて言ってるぐらいなら私たち体操部を避けるのも無理ないわね、クスッ」
その体操部の女生徒から嘲笑が漏れる。
「良いわ、体操部部長直々にこの貧弱くんたちにお灸を据えてあげる。」
そういって、おもむろにジャージを脱ぎ始める。ジャージの中に隠れていたのは驚くべき肉体だった。
太腿は、太くしなやかな筋肉で覆われており、男たちの胴体よりも太い。
上半身も、肩幅の広さは言うに及ばずその恐るべきは上腕である。
だらんと伸ばしたままでも、男たちの渾身の力瘤よりも大きな力瘤が、これでもかと盛り上がっている。それも当然である。
新体操とは違い、女子とはいえ体操競技は男子と同じく、自らの腕のみで身体を持ち上げたりするのは日常茶飯事である。
勿論、鍛え方も半端ではない。
凄まじい筋肉を纏いながらも、それでいて巨大なバストは、鍛えられた大胸筋のお陰で上向きにピンと張り、
腰のくびれは女性らしさを失っていない。これこそが、調和の取れた美しい筋肉といわんばかりである。
ボディビル部の男たちはその凄さを知っていたからこそ、避けていたのだ。
だが、その猛者揃いの女子体操部にあっても、この女部長は別格であった。
体格では勝っているこの学校の力自慢の体育教師でさえ、筋量及び腕力ではこの女部長に敵わない程だ。

「こんな貧弱な身体で筋肉美なんて、よく言えたものね。」
女部長がおもむろにボディビル部の部長に近付くと、その両脇の下に抱え込むようにして手を入れる。
「ひぃっ、何を・・・」
男が抗議する間もなく、一呼吸で女部長は、そのまま脇を抱えるようにしてその男を軽々と持ち上げた。
男の足が1メートルは浮いている。
「何、この軽さ? こんなのでよく鍛えてるなんて言えるわね。」
「お、下ろせっ・・・!」
男はじたばたするものの、ガッチリとホールドされていて身動きが取れない。
「ふふふ。ほら、高い高ーい。」
何と、女部長は男をそのまま天井スレスレまで放り上げた。
「う、うわぁああああっ!!!」
このトレーニングルームは体育館と併設している為か、天井が高く3メートルはある。
そして、天井ギリギリまで強制空中浮遊させられた男が重力に従って自由落下してくる。
よく子供をあやす時にする、いわゆる『高い高い』である。ただ、その高さは子供をあやすどころではない。

ガシッ!!

寸分違わず、男は女部長の両手に脇から着地する。
「な・・・、いくら軽いたって部長は60Kgはあるんだぞ! それを軽々とあんな高くまで放り上げるなんて・・・」
「あななたちが普段、どれぐらいの重量でトレーニングしてるか知らないけど、本当なら片手でも充分なぐらいよ?」
そう言いながら、また男を上空へ放り上げる。
「ほら。高い、高ーい。」
「う、うわぁあああっ!! や・・・やめっ」
男はもう声にならない。それからは何度も何度も、恐怖の『高い高い』は続いた。
天井スレスレと女部長の筋肉隆々の腕とを何往復もさせられた男は、いつの間にかよだれを垂らし、失禁していた。

「うわぁ、汚いわねー。本当にだらしないんだから。・・・それと、逃・が・さ・な・い・わ・よ。」
合唱部部長がそれを見て笑いつつも、逃げようとするボディビル部部員たちの前に立ちはだかった。
「次はあなたたちね。」
「ひぃっ・・・!!」「 ゆ、許して・・・」
体操部の女部長に睨まれただけで、残りの男たちは完全に腰が抜けてへたり込んでいる。

「この部長でさえ軽過ぎてお話にならなかったのに、さらに貧弱なあなたたちじゃ物足りないわね。」
少し考え込むと、女部長は驚くべきことを言い放った。
「・・・そうだ。取り敢えず、そこの二人。立って片方を肩車しなさい。」
「えっ、それってまさか・・・」
「そう、あなたが今想像した通りよ。二人纏めて『高い、高い』してあげるって言ってるの。」
驚いたことに、女部長は大の男2人が肩車した状態で持ち上げ、尚且つ空中へ放り上げるというのだ。
幾らその男部員が軽いとはいえ、50Kgはある。男たちは、計100Kgもの重量を純粋な腕力のみで抱き上げられるとは
到底思えなかった。サーカスなどのパフォーマンスで、力自慢の男が軽技師を投げたりするような芸なら
見たことはあるが、とてもじゃないが本来なら、女性が男1人を抱き上げることさえ困難なのだ。

「それとも、力ずくで痛め付けられたいのかしら?」
まごついている男二人に女部長が凄む。
「ひぃっ・・・! わ、わかりました・・・。」
渋々、比較的体格の良い方が下になり、もう片方を肩車する。
さすがに、小兵といえど男2人が肩車をするとその高さは2メートルを超える。
「脇は締めて良いからしっかり固定しなさい。上になってる方が落ちても知らないわよ。」
男たちは奥歯をガチガチと震わせながらもガッチリと固定された肩車を完成させる。
すると、女部長が下の男の腰辺りにすぐさま手を当て、まるで何の重さも感じていないかの如く軽々と持ち上げた。
「大の男2人掛かりでこの程度なの!? ホントに詰まんないわね。これならバーベルを挙げてる方がいくらかマシだわ・・・。
でも、あなたたちの運動神経じゃ3人肩車なんて曲芸は出来そうもないし・・・。」
下の男は、肩車を維持するだけでも辛いのに、それを自分ごと持ち上げたまま維持し、
平然と会話する女ヘラクレスに言い様の無い恐怖を感じていた。

「まあ良いわ。そーれ、高い高ーい。」
またしても恐怖の『高い、高い』が始まった。そして、それが休まず何度も繰り返される。
時折、上の男の「痛っ」という天井にぶつかった時の呻き声が聞こえる。
「あら、ごめんなさい。さすがにあなたたち二人だと高さがあるから力加減が難しいのよね。」
平然とそんなことをを言い放ってみせる。まだまだ余力があるということなのだろうか。恐るべき腕力である。
それを上の男も感じ取っているのか、天井にぶつかる痛みを堪えながら必死に姿勢を維持している。
ただただ、この恐怖の時間が終わるのを待って必死に耐えているのだ。

「・・・! 良いことを思い付いたわ。」
女部長は何かを思い付いたのか、20数回往復した辺りで肩車をした部員二人を解放した。
「残りの二人。」
「は、はいっ・・・!」
まだ折檻を受けていない残りの二人は、突然呼ばれて慌てて返事をする。
「体育館の用具室に体育祭用のロープがあると思うから長めの奴を何本か持って来なさい。」
「・・・ロ、ロープですか? 何に使うんですか・・・?」
部員の一人が恐る恐る尋ねる。
「それは、これからのお楽しみよ。だから、さっさと取って来なさい。勿論、そのまま逃げたりしたら・・・わかってるでしょうね?」
「ひぃっ・・・! い、今すぐにっ・・・!」
部員は凄まれると慌てて隣の体育館にダッシュした。

5分後。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
部員が息を切らせて4、5メートルはあるロープを何本か持って来た。早速、女部長がそれを手に取る。
「・・・ふむ。この長さなら1人1本ずつで充分ね。・・・合唱部の部長さん、ちょっと手を貸してもらえないかしら?」
「・・・良いけど、これ、どうするの?」
合唱部の部長も、体操部女部長の真意が掴めていないようだ。
「このロープで残りの二人を体育座り(三角座り)させた状態でギチギチに縛って欲しいのよ。」
「・・・縛れば良いの?」
合唱部部長はこれは何のプレイだろう?、とつい思ってしまう。
「くすっ、勘違いしないで。そんなに変なことをするわけじゃないから。」
その様子に気付いたのか、体操部部長が慌ててフォローを入れる。

・・・・・・・・・

「・・・・・これで、・・・良しっと。これだけ固定すれば大丈夫ね。」
男二人を体育座りの状態でロープでガチガチに縛る。男たちは身動き一つ取れない。
「ま、まさか、このままどこかに放置して晒し者に・・・」
男の疑問も尤もだろう。このまま、ビキニパンツ一丁でロープでグルグル巻きにされた状態で放置された日には、
恥をかくどころではない。
「そのつもりなら普通に簀巻きにしてるわよ。私はこれでも面倒見の良い性格で通ってるの。
だから頼まれた以上は、そんな間接的なやり方をするつもりはないから安心しなさい。」
そう言われて、男たちは女子に縛られるという屈辱的な状況にも関わらず安堵の溜息を漏らす。
だが、女部長はそれを見逃さず、嘲笑しながら付け加えた。
「これからやろうとしてるのは、もっと直接的で屈辱的なことよ。」
男たちがその言葉に反応する間もなく、女部長は座った状態の二人をポンッと押して転がした。
身動きが取れない男たちはまるでボールのように1回転半して、背中を地に付けた状態で何とか止まる。
「・・・な、何を・・・」
「まだ何もしてないでしょ。押して倒しただけよ。そうしないと背中じゃなく、あななたちの汚いお尻を持たないといけなくなるのよ。」
「「・・・??」」
男たちは何のことを言ってるのか合点がいかないようだ。
「こういうことよ。」
そういうと、女部長は両手をそれぞれ男たちの背中の下に入れ、一呼吸で軽々と持ち上げた。
相変わらず、その動きは重さを感じているようには思えない。
「「ひぃっ・・・!!」」
あっという間に持ち上げられたことと、背中を支えて持たれているために視点が天井を向くことになり、
実際の高さ以上の恐怖が男たちを襲う。

ボール状にロープで固められた大の男2人を何なく持ち上げ、仁王立ちする女ヘラクレス。
合唱部の女部長からしてもこの光景は異様で凄まじかった。
「私がいうのもなんだけど、あなたってホントに凄いわね・・・」
「あら、鍛えればあなたもこれくらい軽く出来るようになるわ。それに、驚くのはこれからよ♪」
体操部部長はまだまだ余裕なのか、合唱部部長にウィンクしてみせた。
隅の方では、先ほどの肩車の二人がその光景に肩を寄せ合ってガタガタと震えている。

「じゃあ、行くわよ・・・・・そーれ。」
珍しく溜めを作ってから掛け声を発したかと思うと、左手に持っていた男を軽々と中空へ高く放物線を描くように投げ上げた。
更に、間髪入れずに右手の男を左手に持ち換える。そして、空いた右手に狙い済ましたように宙を舞った男が着地する。
「まさか、これって・・・」
合唱部部長が感嘆の声を漏らす。そう、これは紛れも無い『お手玉』である。
知らない者は居ないであろう古くから伝わるお遊戯だ。
ただ、扱う『玉』がボール状に固められた男、というだけの違いでしかない。
尤も、その唯一の違いこそが、この体操部女部長の凄さと、ボディビル部部員のヘボさの証明なのだが・・・。

「「う、うわぁぁああああああっ・・・!!」」
だんだんと悲鳴が大きくなる。何と、徐々にスピードアップしている。
まるで、本来の小豆入りの玉でやっているかのように速い。そして、それが間断なく続く。恐るべき腕力&体力だ。
「それ、それ! あははははははは」
女部長の嘲笑がトレーニングルームに響く。勿論、怪力『お手玉』は続けたまま、だ。
「本当にこんな貧弱な身体でよく筋肉がどうのと言えたものね。
本当に『美しい筋肉』っていうのは、生半可な努力で手に入れられるような代物じゃないの。
せめて、私やそこの合唱部部長並の筋肉を付けてから出直して来ることね。」
男たちに対してそう侮蔑の言葉を吐き捨てると、それまでお手玉していた男を隅っこで震えている二人の男にそれぞれ放り投げた。

ドカッ ドカッ

「「ぐぇっ!!」」
勢いよく人間ボールに落ち潰されるボディビル部員。

「そこでお漏らしして伸びてる部長も一緒に連れてとっとと帰ることね。それとも、この腕でもっと痛めつけて欲しい?」
体操部部長がおもむろに右腕を曲げ、力瘤を盛り上げる。

モリモリモリィッ!!!

そんな効果音が聞こえてきそうなぐらい巨大な力瘤が盛り上がる。
腕を伸ばした状態でさえ、その存在をこれでもかと主張していた上腕二頭筋が、更に大きくなっている。
さっき、自分たちの自信を打ち砕いた合唱部部長の力瘤がまだ可愛いと思えるほどだ。
男たちはまだ、弄ばれる程度で済んでよかったのかもしれない。
もし、この剛腕で直接痛めつけられていたら一溜まりもなかっただろう。
気付けば、部長以外の残りの4人も失禁していた。男としての自尊心を全て打ち砕かれたようだ。

その後、この男たちがこのトレーニングルームで鍛えることはなくなった。
というより、この件がトラウマとなり、トレーニングマシンのある部屋そのものに入れなくなったという。
期せずして、この日がボディビル部の最後の活動の日となったのだった・・・。


おわり





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