神脚美技・殺人蜂

街中を歩く赤いコートを羽織った少女と蒼いチャイナドレスの美女を男達は尾行していた。
備考の対象としてはよく目立つ服装であり男達は見失う心配もせず、しかし、自分達の行動を悟られぬように行動を続けている。
「春麗、気付いてるか?」
赤いコートを羽織り同じ色のベレー帽をかぶった小柄な少女が隣を歩く、蒼いチャイナドレスの美女に声をかける。
「つけられてるわね……キャミィ」
チャイナドレスに身を包んだ美女、春麗が赤いコートを羽織った少女、キャミィに対してそう答えた。
「どうやら、見知った顔みたいね?」
春麗が振り返りもせず、キャミィに問いかけた。
ICPOの捜査官である春麗は街路のそこかしこにある店のウィンドウを利用し尾行者の顔を確認する。
「そうだ…しかも複数。目に入る範囲だけで十人近く…気配だけならその倍はいるようだ」
春麗に倣いキャミィも男の顔を確認すると同時に他に同じように自分達をつけている気配がないか素早く探りそう答えた。
英国特殊工作部隊に所属するキャミィにとってそれは造作もないことである。
「判ったわ……おびき出して始末しましょう」
「了解」
春麗の提案に対し、キャミィが短く答える。
それと同時に二人は走り出した。
二人の後を追う男達も同じように走り出す。
やがて、春麗とキャミィはは二手に分かれて裏路地へと飛び込んだ。
春麗とキャミィを追い、入り組んだ裏路地を駆け抜けた二手に分かれた男達は人気のないバスケットコートで合流した。
「お前達!春麗の姿を見なかったか?」
春麗を追っていた一団の先頭を切っていた男がキャミィを追っていた男達へと問いかける。
「いや、見ていない……くそ!見失ったか」
キャミィを追っていた男達の一人がそう言うと歯噛みをする。
そんな男達の頭上から女の声が響いてきた。
「誰を捜しているのかしら?」
男達を低層ビルの屋上から見下ろし春麗が問いかける。
「私達ならここにいるぞ」
春麗の言葉の後を傍らに立つキャミィが引き継ぐ。
そして、二人はビルの壁面を蹴り三角飛びを繰り返しながら地上へと向かい始めた。
「あんなところにいたのか!?」
「撃て!撃て!」
男達は口々のそう叫ぶとスーツの脇の下にしのばせたホルスターから拳銃を抜き照準を定め引き金を絞る。
しかし、二人の動きは速く銃弾はビルの壁面を抉るばかりであった。

「スパイラル・アロー!」
自分の高さが男達の頭と同じくらいになった瞬間、キャミィは羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。
翻り、宙を舞うコートを尻目にビルの壁面を思い切り蹴り、身体を反転させ男の方へと足を向けながら身体を捻る。
錐揉み状に回転しながら迫り来るキャミィ。
そこへ、男の一人が拳銃を向け照準を定める。
しかし、引き金にかけた指に力を込める前にキャミィの両足が男の顔面を抉った。
キャミィのスパイラル・アローで男は勢い良く吹き飛ぶと仲間達の輪の中心へと入っていった。
そんな男の傍らにキャミィも降り立つ。
「銃を使うな!同士討ちになる!」
一人の男がそう叫ぶと着地し、しゃがみ込んだキャミィの背後から襲いかかった。
「キャノン・スパイク!」
たわめた全身の筋肉を一気に伸ばしキャミィは襲いかかってきた男の頭部へ目掛け片足を突き上げた。
顎を蹴り抜かれ、男は脳震盪を起こしそのまま倒れ込む。
その様子を横目に見ながら春麗は彼女を見上げた男達の顔面を飛び石の様に渡りキャミィの側へと着地した。
それと同時に春麗に顔を踏まれた男達がその場へと倒れ込む。
「どこかで見たことがある顔だとは思っていたが…お前達は対S.I.N捜査官だな?」
男達の輪の中心に立ち、その顔を睥睨しながらキャミィが問いかける。
「最近、捜査情報が漏れていると思っていたけど、貴方達の仕業だったのかしら?」
キャミィの問いに対して全く答える気配を魅せない男達に春麗が更に問いかけた。
しかし、男達はその問いかけに対しても口を噤んだままでいる。
「ガイルを負傷させたのもお前達か?」
更にキャミィが男達へと問いかけるが相変わらず黙りを決め込んでいる。
「話す気はないか…」
「だったら、ちょっとお仕置きが必要ね」
黙ったままの男達をキャミィと春麗が一睨みすると二人は動き始めた。
男達も彼女達の言葉を口火に二人へと襲いかかった。
男達とキャミィがすれ違う度にパンチ、キック、膝蹴り、肘打ちなどを繰り出す。
その度に男達は崩れ落ちていった。
キラー・ビーの異名を取るキャミィの一撃は鋭く、正確に男達の正中線上や脇腹等を撃ちぬき呼吸困難に陥れ、
内臓を攪拌し耐え難い痛みを与え、彼らの意識を刈り取っていく。
一方、春麗は前蹴り、回し蹴り、踵落とし、膝蹴りなどの蹴りをあらゆる角度から男達へ目掛け打ち込んでいく。
それは急所など構うことなく打ち込まれていった。
春麗の足技は神脚美技と形容されている。
しかし、その威力は技の美しさとは裏腹に圧倒的な力を持って男達をねじ伏せていった。
春麗の蹴りは男達の身体を捕え、掠めるだけで脳や内臓へと振動と衝撃を伝え
痛みも苦しみも感じる前に男達の意識を奪っていく。

やがて、二十人以上いた男達は一人を残して全て、行動不能に陥っていた。
集団とはいえガイルをS.I.N捜査から脱落させた男達は春麗とキャミィに
何れも一撃の下に仕留められ、運の悪い数名を除いては外傷もなく倒れ伏している。
その様子に残された一人は圧倒的な格闘戦の技倆の差を感じ竦み上がっていた。
そんな男を春麗とキャミィの視線が射抜く。
男はその場にへたり込むと後退り始めた。
春麗とキャミィはブーツの音を響かせながら男へと歩みを進める。
その靴音に怯え後退っていた男の背後にビルの壁面が現れた。
その目の前に春麗とキャミィが立ち塞がる。
女性的なボディラインを残しつつ鍛え抜かれた肉体、特に筋肉に支えられ美しく形が整った双丘が男を威圧する。
男は春麗とキャミィ、二人から目を逸らそうとする。
その瞬間、キャミィのキックが男の眼前を通り抜けた。
風圧で男の前髪がなびき、切れ飛んだ数本の髪が舞い散る。
「さてと、事情を説明して貰おうか?」
年齢不相応な冷たいキャミィの視線と問いかけに男の咥内は渇き、上下の唇が張り付いたまま満足に動かなかった。
次いで春麗の前蹴りが男の顔の横を駆け抜ける。
その蹴りは硬いコンクリートを砕きクレーターを作り上げた。
細かい破片が飛び散り、男の顔を叩く。
「少しは、喋る気になってくれたかしら?」
キャミィとは対照的に気軽に、世間話でもするかの様ににこやかな表情を浮かべ軽い口調で春麗が問い詰める。
男の恐怖はそこで限界に達し、支離滅裂ながらも軍需産業S.I.Nの捜査を進めるうちにその力に魅せられ
S.I.Nのスパイとなったことを自白し始めた。
「なるほど…ちょっと可哀想なことをしたわね」
男の告白に春麗は憐憫の表情を浮かべ呟いた。
「そうだな、私達の力をもっと先に知っていればこんな事にはならなかっただろう」
春麗の言葉を引き継ぎキャミィが男へと告げる。
全てを語り胸の内を吐き出した男は二人の言葉に力なく頷いた。
「それじゃ、悪いが貴方達のことを逮捕させて貰う」
キャミィはその言葉を終えると簡易手錠代りのタイラップを投げ捨てたコートから取り出し男達を拘束し始めた。
春麗は捜査本部へと連絡を入れ護送車を手配してから拘束作業へと加わった。
やがて、拘束された男達は目を覚まし一カ所へと集められた。
男達の視線は春麗とキャミィに集中している。
その視線に気付いたキャミィが口を開く。
「戻ったらたっぷりと取り調べをしてやる。楽しみにしておくんだな」
「そうね、ちょっと手荒なことをするかも知れないけど」
キャミィの言葉を春麗が引き継ぐ。
男達はその一言に竦み上がった。
大きな傷も与えることもなく、命も奪わずに一撃で相手を仕留められる程の技倆の持ち主が
その技術を拷問に使えばどれだけ恐ろしい目に遭うか想像を始めたからだ。
春麗とキャミィはそんな男達から一瞬、目を離し互いの目を見る。
その瞳の奥に笑いを堪える互いの姿、相手の表情が写り爆笑したくなるのを堪え始めた。


おわり





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