5年3組物語 第3話

掃除の時間

 男子と女子の間の絶望的なまでの格差から、すっかり女尊男卑的社会が形成されつつある5年3組。
そんな歪んだ由々しき事態を正して、小学校の学級として正しい姿へと導いていくのはその学級の担任の
仕事である。・・・そうでなければならないのだが、この担任というのがなんとも情けない。
 5年3組の担任、沼田義男。156cm、39kg。クラス内の全ての男子よりは身長は高いが、全ての女子より
低く、体重も軽い。その分力も弱く、全ての女子に力比べで圧倒されてしまうのだ。もともと気の弱い性格でも
あり、暴れまわる女子に対してもなかなか強い調子で注意することができない。自分が両手でかかっていっても
片手であしらわれてしまうような、自分より20cm以上も大きい女子がゴロゴロいるクラスである。注意しようと
近づいても、そんな彼女たちに遥か高くから見下ろされるだけで沼田は何も言い出すことができなくなって
しまうのだった。そんな情けない姿に、頼りにしていた男子は絶望し女子はますます彼への軽蔑を強めて
いくのだった。実際、ほとんどの女子が沼田に担任としての敬意を払っていないのだ。あまりにも小さく、
弱く、情けない彼をクラスの女子の大半は先生として認めていない。中には、男子いじめのついでに担任の
沼田をも餌食にしてしまう女子まで現れ始めた。沼田の中で、男として、大人として、教師としてのプライドは
小学校5年生の女の子たちの目線の下で音を立てて崩壊していくのだった・・・

 五時間目の授業が始まる前に行われる掃除の時間。
基本的に先生はこの時間、空き時間となる。沼田は職員室で五時間目の準備を終え、
チャイムが鳴るまでの間、緑茶を入れわずかなくつろぎのひと時を過ごしていた・・・
 と、そこに
「せ、先生!!沼田先生!!」
 一人の女子生徒が息を切らせて職員室まで駆け込んできた。その勢いに沼田は息を飲んだ。
「な・・・なんだ!?どうしたのかね、一体!?」
「はぁ、はぁ・・・先生、すぐ来てください!大変なんです!!」
 駆け込んできたのは沼田の受け持つ5年3組の宮田愛子だった。その目には涙が浮かび潤んでいる。
その様子に沼田はただならぬ嫌な予感を感じていた。しかし、担任という立場上児童の訴えに耳を貸さない
わけにもいかず、とりあえずは愛子の話を聞くことにした。
「と、とにかく落ち着きなさい。何が大変なんだ?」
「あの・・・掃除中に、また男子がいじめられてるんです・・・女子に・・・かわいそうです!
あのままじゃ安井君たち大けがしちゃう・・・先生何とかしてください!今すぐ助けて!!」
 今にも泣き出しそうに声をうわずらせながら愛子は沼田に男子生徒の救出を求める。
5年3組にはその体格と芽生え始めた性への好奇心から男子を思いのままにいたぶって楽しむ女子が多い中
この宮田愛子は少数派の、学級内に蔓延する男子いじめブームに心を痛める優しい少女なのだった。
沼田に対しても生意気な言動にばかり及んでいる多くの女子とは違い、この愛子他ほんの若干名だけは
自分よりはるかに小さな沼田を担任の先生として認めてくれているのだった。
 しかし、沼田の感じていた嫌な予感というものは見事に的中していたのである。
愛子の口から出た内容が、やはり大暴れする女子たちをなんとかしてほしい旨の訴えだったことだ。
体つきでも力でも、沼田は女子たちにはまるで歯が立たないことは今までの経験上明らかである。
体育の時間などには智恵理をはじめとする大きく逞しい女の子たちにより沼田は遊ばれてしまっている。
注意をしてもまるで聞き入れてはもらえず、圧倒的身長差で見下ろされ、肉付きの悪い貧弱な体を笑われ、
時には偶然を装ってその威圧感さえ漂わせる大きなお尻で突き飛ばされたりもする。
体重でも女子たちの足元にも及ばない沼田は紙くずのように吹き飛ばされて惨めにグラウンドの土にまみれる


そして上から、
「あれ?先生いたの?ちっちゃくてわかんなかった。ごめんね〜☆」
 などとわざとらしく謝る幼い声が降りかかり沼田はますます自尊心を深く深く傷つけられるのだった・・・

 そんな様子は日常茶飯事であり、愛子も知っているはずであった。自分が出て行ったとしても
あの女子たちの前には手も足も出ようはずがないことぐらい。
だから・・・みすみす軽くあしらわれに行くようなことはしたくなかった。
いや、一歩間違えば彼女たちの機嫌を損ねて今度は自分がいじめの矢面に立たされてしまうことだって
十分に想定できた。何しろ彼女たちは沼田を先生扱いなどまともにしてくれないのだから。
虐待されるのは男子だけで十分だ、なんで愛子はいちいち自分のところに言いつけに来たんだろう・・・
と、そんな教師にあるまじき責任逃れな考えまで頭に浮かんできた。
 しかし、涙ぐみながら男子の身を案じ担任である自分のところまで助けを求めてきた愛子を見上げると
出て行く決心をせずにはいられなかった。
自分のクラスで起こっている問題であり、解決するのは担任の努めである・・・と言う使命感が20%ほど、
残りの80%を占めていたのは・・・ここで逃げて男子たちを見殺しにするようなことでもあれば
数少ない自分への支持者である愛子にまで見限られてしまいそうで怖かった、と言う心であった。
 足取り重く自分の教室へと向かう沼田。
「先生!早く!!手遅れになっちゃう!」
 164cmの愛子が156cmの沼田の手首を握り引っぱって急がせながら階段を上っていく。
クラスの女子で最も力の弱い愛子ではあるがそれでも沼田からすれば比べものにならない腕力である。
愛子に腕をぐいぐい引っぱられ沼田は何度も階段に足をつまづかせた。転ばないようについていくことだけに
既に必死だった。一番非力な愛子相手にこの有様だ。クラスの女子の誰がいじめをしているのかは
定かではないが、これよりはるかに上回るパワーの女子が相手なのは決定しており沼田は今から震えを
覚えていたのだった。
「ほらっ!!先生!」
 愛子がようやく手を離してくれたその瞬間、沼田の目には想像を絶する悲惨な男子の姿があった。

 ドンッ、ドンッ、ドォン!!
「ほぉら、こうしてきれいにしなきゃね〜♪」
「ぐええ!!やめ、や、めてぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 沼田の目に飛び込んできた光景。それは、大きな女子生徒に軽々と抱え上げられ何度も何度も
黒板に叩きつけられる小さな男子生徒の姿だった。
「ほらっ、ほらぁ!」
 ドン、ドンッ、ドォォォン!!
「あがぁ!ぐぇっ、ゆる、し、で・・・げほっ、ごぼ・・・」
 執拗に幾度も叩きつけられたのだろう、被害にあっている男子、安井栄作の着ている白い体操服は
黄色、赤、緑と色とりどりのチョークの粉がこびりつきとんでもない色に変色してしまっている。
この学校では掃除の時間は男女とも体操服に着替える決まりである。
男子は白の体操服に白の短パン、女子は白の体操服に紺色の白ライン入りブルマーに。
涙をボロボロ流して、舞い散るチョークの粉に激しく咳き込みながら必死に許しを乞い泣き叫ぶ栄作。
黒板には小さくて弱い男子たちを嘲る内容の落書きが所狭しと書き殴られている。
そんな黒板を栄作の体で掃除しているかのように叩きつけ続ける少女。

「や・・・やめなさい!!何をしてるんだ君は!!」
 恐怖に怯える心を隠しつつ沼田はその女の子に声を上ずらせながら叫んだ。
チョークにまみれて泣きじゃくる栄作を担いだままその長身少女は首だけを沼田のほうに向けて
きょとんとした表情を浮かべた。
「何をしてるんだと聞いてるんだ!今すぐやめなさい!」
「何って・・・黒板の掃除だけど?見てわからない?」
 大して悪びれる様子もなくその女子生徒、谷口萌香は栄作を抱え直し、雑巾のごとく黒板を擦り上げる。
栄作は体操服と短パンのみならず、生身である手足や顔、髪の毛までも粉にまみれてカラフルに
染め上げられつつあった。手足をジタバタさせても萌香はビクともせず、むなしく泣きわめいている。
クラスの男子の中で最も背の高い栄作を軽々と道具のように扱う力に沼田はおののいていたが
愛子の目の前であまり弱いところは見せられずこわごわと萌香を叱りつけた。

「や、やっていいことと悪いことの区別がつかないのか!いい加減にしなさい!たにぐ・・・」
「な〜に〜、うっるさいなあ!」
 真っ赤な顔で泣く栄作をそのへんに放り投げて萌香はめんどくさそうに沼田へと歩み寄る。
近づくにつれ沼田は彼女を見上げる首の向きがどんどん上がって行きそれに応じて高まる恐怖感に
沼田は内心震えた。
 沼田156cm、39kg。萌香178cm、67kg。身長で22cm、体重では28kgもの差。
「なぁに?先生」
「い、ぃぃかげん・・・に・・・谷口・・・さん」
 叱るところだったから呼び捨てで怒るつもりだった沼田であったが、目の前に迫る長身の萌香の迫力に
圧倒されついいつもどおりのさん付けをしてしまった。
「何の用?声がちっちゃくて聞こえな〜い」
 さらに1前に踏み出し沼田との間合いを詰める萌香。両者が触れる寸前の距離となった。
沼田はほぼ首を垂直にまで見上げている。顎の下には萌香の小学生離れした発達ぶりのバストが。
少しでも首の角度を下げれば沼田の顔は萌香の胸に埋まってしまいそうなほど。
「ぁ・・・あっ、あの・・・あのあの・・・」
震えが止まらない沼田の滑稽な姿に萌香はついに吹き出してしまった。
「ぷっ、くすくす。な〜に〜変な先生。あたしたち掃除の真っ最中なんだからじゃましないでくれる?
用がないなら戻ってよ〜。どうせ手伝う気なんかないんでしょ?」
「ぼ、僕が言いたいのは・・・」
「だから何が言いたいわけぇ?はっきりしないなー。男らしくズバッと言いなさいよ!
・・・あっ、わかったぞぉ?先生、まさかあたしに恋しちゃったのかな?」
 そんな萌香のからかう言葉に、その時間教室掃除の当番である女子たちの間でドッと爆笑が巻き起こった。

「なっ・・・何を言い出すんだ突然!!」
 恥ずかしさでつい顔を真っ赤にしてしまった沼田は必死になって萌香を見上げながら叱った。
「じゃあなんで赤くなってんの?ぬ・ま・た・くん!」
 またも女子一同から大笑いの声が教室中に響き渡る。
萌香はまるでトマトのように紅潮した沼田の顔を覗き込み、彼の低い鼻をつんつんつついて遊ぶ。
「ほんとのこといわれたから真っ赤になっちゃったのね。正直に言ってごらん?あたしにときめいてるって。
普段はまじめな先生みたいなふりして実はロリコンだったんだね、沼田君ってさぁ。エッチ!変態!
でもごめんね。あたし、チビオヤジになんか全然興味ないから」
 萌香は沼田の頬をぐいっと人差し指1本で押して突き放した。その勢いに沼田はあっさり転倒。

「さてと、変なじゃまが入ったから遅れちゃった。急がないと時間内に終わらないよ。
安井!まだ掃除あるんだから!立ちなよほらぁ!」
 まだ泣き止まない栄作を萌香は引きずり起こし、先ほど適当に絞ってきた雑巾を持ち出して2つに折ると
嫌な予感を感じ暴れながら嫌がる栄作の口に無理やり折り目を咥えさせ強引に逆エビの体勢に捕らえた。
「ぐ、ぐむぅう!もがああああ!!」
 異臭を放つ汚い雑巾でくぐもった悲鳴しか上げられない栄作。涙と涎が止まらない。
「雑巾がけしなきゃね。萌理、手伝って!」
「オッケー!」
 萌香と双子の姉妹、萌理が泣き叫ぶことしかできない哀れな栄作のもとにやって来た。
萌香と萌理、二人で栄作の片足づつをつかんでさらに高角度の逆エビの体制に移行する。
「せーの、発進ーん!雑巾がけマシーン栄作君のお通りだよーん!」
 谷口姉妹の必殺・ダブル逆エビ固め。今までにこの恐怖の技の前にのべ何十人もの男子が惨めに
泣かされてきている。その哀れな生贄の中には中学生、高校生もゆうに10人以上含まれているのだという。
無理もない。彼女たちは2人とも178cmの長身と並の男では大人でも歯が立たない力の強さであるのだから。
 そして今、そのダブル逆エビ固めの発展型、ダブル人間掃除機が150cmの栄作に炸裂したのだった。
雑巾を咥えさせられて顎しか接地していない状態で栄作は教室内をいつ終わるともなく引きずり回される。
口を開くことができず雑巾は放せない。その雑巾が床を擦って教室の床の汚れを取っていく。
背骨をはじめ全身に襲い掛かる苦痛と雑巾の悪臭、心を無残に踏みにじる惨めさ。
しかし萌香&萌理が飽きて放してくれるまで脱出は許されない。やはり泣くしかできない。

「こっ・・・こらっ!!きみたちはなんてことを・・・今すぐやめろ!やめるんだ!!」
 その様子を見て慌てて起き上がって谷口姉妹に駆け寄り栄作を引き剥がそうとする沼田。
この惨状を見るとさすがに、恐怖感より正義感が勝ったようだ。
「こらぁ!先生の言うことが聞けないのか!安井君を放しなさい!たに・・・」
「うるさいよ。掃除のじゃま!」
 ドンッ!!
「うぎゃあ!」
 力ずくで栄作を救い出そうとした沼田であったが、それをうっとおしく感じた萌理が軽くお尻を突き出すと
小さく軽い沼田はあえなく突き飛ばされ教室の窓際でちんぐり返しの体勢でひっくり返ってしまった。
その様子に女の子たちの間からひときわ大きな大爆笑がはじけた。

「いたたた・・・き、きみたちは先生を何だと・・・うっ、こ・・・これは・・・」
 ようやく体を起こし痛む全身をさすりながら眼鏡をかけ直す沼田の視界に広がるもの、それは・・・
栄作以外にも掃除当番として教室にいる男子ほぼ全員が、同じ数だけいる女子たちによって凄惨な拷問に
かけられている光景だった。
井上亜由美に強烈なコブラツイストで全身を絞り上げられ、
垣原亜紀に短パンをブリーフごと引きおろされほうきで尻百叩きを加えられ、
机を運ぶ際少しでも床を引きずれば小野美由紀に手加減なしの膝蹴りを叩き込まれ、
相沢智恵理に怪力キャメルクラッチで全身の骨を軋まされて・・・
教室中、女子の楽しげな笑い声と男子の弱々しい悲鳴がとどろいていた。
女子一人も満足に注意できない沼田には荷が重すぎた。彼はただその様子を呆然と立ち尽くしながら
見続ける以外に何ひとつできることはなかった。奥歯がガチガチと音を立てていた・・・
 助けを求めに行ったもののその頼りにしていた沼田がまったく役に立たず、
愛子と、同じく男子いじめに心を痛める優しい女子の1人である高橋小百合はどうすることもできず
ただ胸の前で両手を組みながら瞳を潤ませることしかできないでいた・・・

「あれぇ?まだ掃除中?」
「井上さんたち、ちょっとゆっくりしすぎじゃない?」
「ソウヨ、モウ5ジカンメハジマッチャウヨ」
 5年3組の、教室以外の場所の掃除当番を割り当てられた生徒たちがぞろぞろ戻ってきた。
最初に帰ってきたのは中庭掃除を担当していた藤原舞、山野ちあき、ジェニー・レインの3人だった。
「あっ、ごめんねー。ちょっと今日時間かかっちゃってさー」
「何の用か知らないけど沼田君がチョロチョロしてウザいから手間取って」
「ちあきちゃんたち、ちょうどいいところに来てくれたみたい。このチビじゃまだから預かっといて。
ボケーっと突っ立ってるから掃除がはかどらないんだよね」
 そう言うと朝井茜が棒立ちしている沼田をガシッとつかむと3人のほうに豪快に放り投げた。
茜の強い腕力に沼田は足がついていかずヨタヨタしながらドア付近に立つ3人の下へと走らされて・・・
ドアの敷居につまづいて181cmのジェニーの胸元に顔から飛び込んでしまった。
 ぱふん。むにゅ。

「むごぉ・・・むぅふむごぉおお!?」
「OH!センセ、イキナリ、ナニシテルノ?エッチ!」
 縫い目の悲鳴が聞こえ、今にもはちきれんばかりに体操服を内側から押し広げるジェニーの爆乳に溺れ
一瞬にして視界と呼吸を奪われた沼田はわけのわからないままジタバタして顔を激しく左右に振る。
 ぐりっ、ぐりぐり!ぷにゅ。
「アッ・・・ン。センセ・・・ダメ・・・センセ、イヤラシイデス。ジェニーノ・・・オッパイ・・・ホシイノ?」
「ふふっ、なに考えてるのかしらね。沼田君って・・・マザコンだったのね」
「ただのマザコンじゃないね。相手は11歳の小学生だよ?こんな変態みたことないよ」
「ちあきちゃん、今度思いっきり甘えさせてあげたら?沼田君、泣いて喜ぶよ。きっと」
「絶対イヤだ、こんなチビ。舞ちゃんこそかわいがってあげなよ」
 ダイブした先が小学5年生の教え子の胸の中だということに気づいているのかいないのか、
沼田は狂ったようにその甘い柔らかいジェニーのダイナマイトバストの中で埋もれて悶え続けていた。
そのどこまでも柔らかいぬくもりと甘い香りに包まれて・・・
沼田のジャージの一点は熱いたぎりに硬く硬くテントを張り先端にシミまで作り始めた。
 頼りにしていた担任のそんな様子を見届けながら小百合は頭を抱えながら小声で1人つぶやいた。
「・・・最っ低」

 その頃、谷口姉妹に背骨をへし折られんばかりの拷問雑巾がけがようやく終了していた。
栄作は一息ついて休んで泣き止む間もなく萌香と萌理に片足首づつつかまれて窓の外へと吊るされ、
校舎の外壁に何度も何度も叩きつけられてチョークの粉を乱暴に払われた。
・・・5年3組の教室があるのは校舎の4階である。あまりの恐怖に栄作は泣き声さえ奪われた。
ただ涙を下の中庭にとめどなくボロボロと落とし、次第に意識は遠のいていったのだった・・・


つづく





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