カウガール

「やぁ、君がコーヘイくんかい?」
「はい、よろしくお願いします」
僕はそう言って"日本式"に頭を下げた。

高2の夏、僕は交換留学生としてアメリカの片田舎までやって来た。
牧場を経営しているブラウンさん一家が、ステイ先として名乗りを上げてくれたのだ。
ブラウンさんは親日家で日本語もペラペラ、英語を学ぶには最適な環境だ。

「パパ〜、彼がコーヘイ?」
奥のリビングらしきところから女性の声がした。

「ああ、そうだよ。シンディも挨拶しなさい」
「・・・シンディって、確かブラウンさんの娘さんの・・・」
「そう、スクールにはシンディが案内してくれる。歳は君と同じだし、"よろしく"やってくれたまえ」
ブラウンさんは、何故か親指を立てて僕にウィンクした。

奥から出て来た少女・・・いや、美女を見て僕は驚愕した。

スカイブルーの瞳に、透き通るような金髪のポニーテール。
Tシャツに、デニムのホットパンツという牧場の娘らしい、如何にもな軽装。

それだけなら、普通の活発な女の子という感じなのだが、スタイルがスバ抜けていた。

メロンを丸ごと2個、そのまま搭載したかのようなドン、と前面にこれでもかと突き出したビッグバスト。
漏斗のようにキュッと括れたウェスト。そして、大きく張り出したヒップ。
日本人では体現し得ない、立体的なフォルム。

これだけでも、その辺のグラビアモデルなんかでは太刀打ち出来ないようなスタイルなのだが・・・。

Tシャツの半袖から伸びる上腕には、モコッと大きな力瘤が盛り上がっている。
爆乳のせいで丈が足りなくなったのか、へそ出しルックになっているお腹には綺麗に割れた腹筋。
ホットパンツから伸びた太腿は、まるで競輪選手のように太い。
しかし、全体的にどこかしなやかさを感じる。ボディビルダーとは違う、野生美といった感じだ。

「私の娘は少々、発育が良くてね。力仕事を率先して手伝ってくれるのは有り難いんだが、この間も・・・」
「パパ!」
何か言おうとしたブラウンさんを、シンディが一喝した。
それを受けてブラウンさんが両手を広げて、やれやれのポーズをした。

「おお、怖い怖い。私も昔はカウボーイで鳴らしたものだが、今じゃ娘に喧嘩で負ける始末だ」
そう言って、ブラウンさんは苦笑いをした。
僕から見ても、ハッキリ言ってブラウンさんの体格は良い。年齢を考えればかなり鍛えているはずだ。

日本人の平均的な身長の僕と比べて少し高いぐらいだから、ブラウンさんはおおよそ180pぐらいだろう。
シンディは、そのブラウンさんよりも更に、目線一つ分ぐらい身長が高い。
背が高く肩幅も広いシンディは、ブラウンさんと並んでいても、明らかにブラウンさんよりも逞しかった。


「ワタシ、シンディ。よろしくネ」
ブラウンさんよりも片言だが、シンディも日本語が話せるようだ。

「うん、よろしく、シンディ」
僕は、シンディが差し出した手に握手で応えた。

ギリギリ・・・メキ、メキッ・・・

「・・・ぐっ、くぁっ!」
「Oh! ソーリー!!」
僕の苦悶の表情を感じ取ったのか、慌ててシンディが手を離した。
凄まじい握力で握り潰されたかと思ったが、何とか赤アザが付いただけで済んだようだ。

「シンディ! また、加減間違えて怪我させるんじゃないぞ!」
「・・・ご、ごめんなさーい」

「大丈夫だったかい? すまなかったね。我が娘ながら、ホントに困った娘だよ。
 この前も、アメリカンフットボーラーのボーイフレンドと喧嘩して、向こうが病院送りだ」
「もう、パパ! 言わないでって言ったのに・・・」

「コーヘイ君に、"ヤマトナデシコ"の極意でも教えて貰いなさい」
ハハハ、と大笑いしながらブラウンさんはリビングに消えて行った。

「ホントに、ごめんなさいネ」
「・・・い、いや、大丈夫だったから」
済まなそうに、両手をお腹の前で組んで謝るシンディ。
両腕の力瘤が爆乳を挟む形になり、只でさえ前に出っ張ったバストが、更に押し上げられている。
一昔前に、日本の巨乳アイドルが両腕でバストを挟んで、谷間を強調するポーズがあった。
だがこれは、そんなものの比ではなかった。その迫力の前に、僕はさっきの痛みなんてどうでもよくなっていた。
まあ、思春期の男子なんてこんなもんだ。

実際、あれ以上、力が入ってたら本当にヤバかっただろうけど・・・。


翌日。

スクールは昼からということなので、午前中はシンディが牧場を案内してくれることになった。
といっても、シンディが牧場仕事をするのを着いて行って、横で眺めていただけなのだが・・・。

兎にも角にも、いろんな意味でのシンディの仕事振りは凄まじかった。

馬の世話に、バッファロー(アメリカバイソン)の放牧。単純作業だが、その頭数が半端ではないのだ。
種の保存の観点から、州政府の援助を受けてバッファローの繁殖をしているらしい。

「バッファローなんて初めて見た・・・」
「気性は激しいけど、基本は草食動物だから刺激しなければ大丈夫ネ」
そういって、シンディはニッコリと微笑んだ。
着いて回っただけの僕が息を切らしてハァハァ言っているのに、当のシンディは汗一つ掻いていない。

「大丈夫? 後は、木を運んで終わりダカラ」
「・・・へ、木?」
シンディはすぐ裏手にある森に入ったかと思うと、巨大な丸太を2本、両肩に抱えて戻って来た。
それを大きな作業場のような建物の側に置き、また森に入って行く。
何度も往復を繰り返す内に、いつしか巨大な丸太のピラミッドが出来上がっていた。

後から聞いた話だが、ブラウンさんは来日した時に材木屋で木の加工を勉強したらしく、
アメリカに戻った後、こっちで材木商を始めたんだそうだ。

しかし、シンディは軽々と運んでいるが、この丸太って一体、何sぐらいあるんだ・・・?
試しに、持ってみようとするが、とてもじゃないが持ち上がる気配は無い。

「コーヘイ、どうしたの?」
「いや、この丸太ってさ、何sあるのかと思って・・・」
「ンー、ちゃんと量ったことないけど、だいたい500ポンドぐらいカナ? でも、水を吸ってるからもう少し重いかも・・・」
「500ポンドって、確かs換算すると・・・・・227s!?」
水分を含んでるとして、250〜300sぐらいか。
そんな信じられない重量を、2本同時に、しかも何往復も・・・。

「このぐらい軽いヨ♪」
そういってシンディは、誇らしげに右腕を折り曲げる。
カボチャがそのまま腕に乗っかったような、巨大な力瘤が盛り上がった。

「昨日も思ったけど、シンディってボディビルか何かやってるの?」
「ノー、何もやってナイ。スクールとか牧場の仕事もあるし、身体を鍛える為だけに時間使うなんて勿体ないワ」
子供の頃から身体を動かすのが好きで、自然と牧場仕事を手伝うようになったらしい。
シンディの超絶ボディは、その賜物なのだそうだ。


モ゙〜! ドカッ! モ゙〜!! ドカッ!!

丁度その時、放牧地辺りからバッファローの鳴き声が聴こえて来た。何かがぶつかるような音もする。

「・・・Oh! またなの」
「どうしたの? シンディ」
「バッファローのオス同士が喧嘩してるみたい」
シンディは、昨日ブラウンさんがやったように、両手を広げてやれやれのポーズをした。

放牧地に戻ってみると、バッファローが2頭、相撲のぶつかり稽古のように突進しては体当たり、を繰り返していた。
バッファローは、高さ2m、体長は3mにもなる。体重は、大きい固体だと1tにもなるという。
相撲取りとは比較にならないぐらいの巨体。それが激しくぶつかり合う。
柵で区切られているとはいえ、ホンの目と鼻の先で起こっているその光景に、僕はただただ圧倒されるばかりだった。

しかし、本当に驚くのはここからだった。

「コーヘイはここで見ててネ。入って来ちゃダメよ」
そういってウィンクすると、柵に左手を掛けると助走もせずにヒョイッと跳び越えてしまった。
柵は、僕の胸の高さぐらいはあるから、150pぐらいの高さだろうか。
少なくとも、助走もせずに簡単に跳び越えられる高さではない。

柵を支点に自身の身体を持ち上げる腕力、上方に高くジャンプする脚力。
そして、それらを瞬間的に発揮する瞬発力。

たった1つのジャンプで、シンディが純粋なパワーだけではなく、
運動能力でも常人を遥かに凌駕していることが容易に感じ取れた。

しかし、巨体を揺らし突進し合う2頭のバッファローを、シンディはどうやって止めるというのだろう。

「Hey! こっちよ!」
シンディは、ゆっくり歩いて近付きつつ、距離的に近い方のバッファローに呼び掛けた。

ブモ゙〜!!

だが、いきり立っているのか、バッファローはシンディの呼び掛けに気付いた様子は無い。

「出来れば怪我させたくないけど・・・。加減はするけど、もしもの時はごめんなさい!」
そう言って、シンディは一気に駆け出した。

「・・・ん? 今、シンディは"加減"って言ったのか?」
柵の外で見ていた僕には確かにそう聴こえた。

シンディのダッシュは凄まじく早く、あっという間に間合いを詰めてしまった。
ここで、僕は信じられないものを目にした。

シンディは、1頭と間合いを詰めたかと思うと、横からその剛腕をその首に巻き付けた。
いわゆる、チョークスリーパーの形だ。そして、シンディは何と、そこから首投げに移行したのだ。
1t近い巨獣が宙を舞う。

ドオォォォン!!!

空中で一回転したバッファローが、地響きと共に草原に叩き付けられた。
シンディに叩き伏せられたバッファローは、ノビてしまったのかピクピクしている。
そして、何事もなかったかのように、シンディは残る1頭と向き合った。
その残った1頭も、喧嘩相手を横槍で倒してしまったシンディに、照準を切り替えたらしい。

ブモ゙ッ! ブモ゙ッ! ブモ゙〜!!

一瞬、闘牛と闘牛士の如く見合ったシンディとバッファローだが、
痺れを切らしたバッファローが、シンディに向かって突進した。

ドゴオォォン!!!

僕は思わず目を逸らしてしまった。さすがのシンディも一溜まりもない、そう思った。
1t近い重量によるぶちかまし。アクセルを踏み込んだ自動車と、正面からぶつかるようなものなのだ。

しかし、衝撃音はたった一度のみ。
吹っ飛ばされたであろうシンディが、どこかに激突したり、地面に叩き付けられたような音は聴こえて来なかった。
恐る恐る目を開けるとそこには、バッファローと正面から組み合ったシンディの姿があった。

「・・・凄い!」
僕は思わず、感嘆の溜め息を漏らした。
シンディが無事だったという安堵よりも、あの突進を押さえ込んだという感嘆の方が大きかった。

よく見ると、シンディは両手でバッファローの角を持ち、身体全体で受け止めていた。
長い角があるため、ここからフロントチョークに行くのは難しそうだ。

どうするのか、と思って見ていると、何とシンディは力任せに角ごと頭を押さえ込み始めた。
バッファローの頭が、地面スレスレになるぐらい低い位置まで下がって行く。
シンディの圧力に耐え切れず、バッファローはついに前脚、そして後ろ足の膝を折った。
シンディは、純粋な腕力であの巨体を組み伏せてしまったのだ。

「コーヘイ! もう入って来ても大丈夫ヨ」
しゃがみ込ませたバッファローの側で、シンディがこっちに向かって手を振っていた。

「シンディ! 身体は大丈夫なの!?」
僕は慌ててシンディに駆け寄った。

「ノープロブレム!」
そういって、シンディは僕に力瘤を見せ付けながらニッコリ笑った。

1頭はノビて横になっているし、もう1頭は完全に心を折られてシュンとしている。
その間、僅か数分。シンディが柵を飛び越えてから、今の瞬間までものの5分と経っていない。

バッファローの巨体を投げ伏せた腕力、そして、その突進を受け止めた膂力。
そのどれもが圧倒的過ぎて、僕はただただ驚くばかりだった。


おわり





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