08.ショッピング
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いじめの一件以来、哲平たちとは気まずい雰囲気が続いている。
気がつけば僕は、佳織たち女の子グループと随分仲良くなっていた。
そんなある日・・・・・・
佳織たち仲良し4人組に「買い物に行こう」と誘われた僕。
水泳部の小次郎と野球部の直哉も同じように誘われている。
これってもしかして、ある種の集団デートだったりするのだろうか???
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「一緒に買い物付き合ってくれない?」
「もちろん、喜んで御一緒しますよ!」
バレー部の広末七海に頼まれた水泳部の栗本小次郎が即答する。

「伊豆野くんも一緒にきてくれないかな?」
「いいよ。どうせ今度の日曜は練習休みだし。」
新体操部の紺野美咲に頼まれた野球部の伊豆野直哉も同意する。

最近よく彼女たちに近寄ってくる彼ら2人。
七海さんと美咲さんに気があるようだ。
下心が見え見え・・・・・・。
あんまり友達にはなりたくないタイプ。

「太郎くんも来てくれるよね?」
「うーーん、どうしよう・・・まぁどうせ暇だし、一緒に行こうかな・・・。」
佳織さんに頼まれた僕も、結局のところ引き受けてしまう。

「翔太もどうだい?」
僕は誘った。

「冗談じゃない。誰がそんな地獄に付き合うもんか!」
彼の有無を言わさぬ断りに、僕は一抹の不安を憶えた。

「でも、渋谷に買い物行くだけだろ? どうしてそんなに必死になるの?」
「うるさいわね。私たちにとってショッピングは戦争なのよ。明日になれば解かるわ・・・」
七海が答える。

バレー部の喜多嶋佳織、広末七海、柏木真央の3人に、新体操部の紺野美咲。
彼女たち4人は大の仲良し。
休み時間もいつも一緒に遊んでいる。

そんな彼女たち4人と僕ら男子3人は、買い物に出掛ける約束を交わした。

約束の日。
僕は待ち合わせ時間よりかなり早く駅についた。
しばらくするとそこに佳織がやってきた。

「おはよう。」
「あっ、おはよう。」
初めて見る佳織の私服姿。
ピンクのポロシャツにジーパン姿。
スタイル抜群の彼女は、何を着てもモデルのように格好良い。

しばらくすると小次郎がやって来て、待ち合わせ時間前には7人全員が揃った。

「じゃあ、そろそろ出発といきますか・・・」
明るくてグループの仕切り屋でもある七海がスタスタと改札へ入っていく。
他の6人もその後を追うように付いて行く。

電車が来た。
自動ドアが開く。
佳織が腰を屈めて電車に乗った。

考えたこともなかったが、身長198センチの彼女にとって日本のドアは小さすぎるのだ。
普通に歩けば頭をぶつけてしまう。

やがて電車が動き出す。
僕は車内を見て改めて驚いた。

電車が小さく見える・・・・・・。

身長198センチの佳織に193センチの七海、187センチの真央と178センチの美咲。
学校ではすっかり見慣れてしまったが、やはり彼女たちのサイズは規格外だ。
佳織なんかは中刷りの広告を見下ろしているではないか。

隣で立っていた男性がひとり、彼女たちの大きさに驚いて車両を移った。
普通の男性は、女性から見下ろされることが嫌いなようだ。
他の乗客たちも、彼女たちの大きさに眼を丸くして驚いている。

しばらくすると、電車内がざわつき始めた。
無理もない・・・・・・。
これまで見たこともないような長身の女性が一度に4人も現われたのだ。

「すげぇデケェよ・・・・・・」
「脚長えーーー!」
「あの娘、バレーボールの選手じゃない?」
「アイツ喜多嶋佳織じゃん。隣にいるのは広末七海だよ。やっぱでかいね・・・・・・」
「新体操の紺野もいるぜ!」
乗客の呟きが漏れて聞こえてくる。
今思えば彼女たち4人中3人はオリンピック選手。
知名度が高いのは仕方ない。

「いいこと・・・。私たちはどうしても目立っちゃうの。
 危険なこともあるから、しっかりガードしてね。」
男子3人は静かに頷いた。
今日の仕事を始めて認識した僕ら。
彼女たちがショッピングを戦争と言い切る意味が始めて理解できた。

渋谷が近づくに連れて電車が徐々に混み始めた。
彼女たちの近くを避けて乗っていた乗客たちも、徐々に自由度を失い始めた。
僕ら3人は、他の乗客と彼女たちの間に入って危険な状況を回避しようと頑張った。

しかし乗客はどんどん増えていく。

電車はとうとう満員になった。
身動きも取れないほど。

僕は困った。
電車が揺れるたびに、佳織に触れそうになってしまう。
しかも不運なことに、僕の顔の位置は彼女の胸の高さと同じなのだ。
汗を掻きながらも必死に耐え続けた僕。
しかし体力も限界に近づいてきた。

「気にしないでいいわよ。」
僕の苦労に気が付いた佳織が声を掛けてくれた。
心優しい彼女の気遣いに、僕はすこしだけ気が楽になった。

また電車が揺れる。
僕の顔は、とうとう佳織の胸にうずもれてしまった。
柔らかくていい匂いがする。
胸の鼓動が大きくなった。

「ごめん。」
「気にしなくていいって。」
彼女は笑顔で僕を許してくれた。
彼女の優しさに、僕はますます惹かれていった。

「プシューーーー」
「渋谷ーーー、渋谷ーーーー。」
駅に着いた。

「さぁ行きましょう!」
七海がみんなを引っ張る。
改札を出て、早歩きでお店へと向かう彼女たち。
歩幅の違う男子3人は、小走りに彼女たちを追いかける。

「おっデケえ!」
「喜多嶋佳織じゃん、握手してもらおうぜ!」
渋谷の街を普通に歩いていても、頭ひとつ大きな彼女たちはどうしても目立ってしまう。
中にはサインや握手を求めてくる人たちもいる。
僕ら3人は危険な状況に陥らないように必死にガードする。

しばらく歩いてようやく目的の店へと着いた。
『大きいサイズ専門店 Gアパレル。』
納得の看板だ。

一旦店に入ればひと安心。
疲れきった僕ら3人は、彼女たちと別れて向かいの喫茶店で休むことにした。

1時間半ほど経って七海から電話が入る。
「そろそろ帰るわよ。」

僕らは店の前で再び合流した。
彼女たちは両手に持ちきれないほどの買い物袋を下げている。
僕らは荷物を分け合って、再び戦場へと歩みを進めた。

人ごみの中を一気に抜ける。
2、3度囲まれそうになるピンチはあったが、男性陣の頑張りもあって無事駅まで辿りついた。
女性陣は大きな体をなるべく目立たないように気をつけながら、やってきた電車へと乗り込む。
幸運なことに電車はそれほど満員ではなかった。
彼女たちに見下ろされることになる何人かの乗客は、やはり隣の車両へと移っていった。
戦いはようやく山場を越えた。

電車は街を抜け郊外へと進む。
疲れきった僕の体力は、もはや限界へと近づいていた。
その時、目の前に座席がひとつ空いた。

「太郎くん座っていいよ。」
「俺はいいから佳織さんが座りなよ?」
「そんな遠慮しなくっていいって。私の方がずっと体力あるんだし。」
佳織がさらっと言いのけた。
確かにそれは疑いようのない事実。
僕は彼女の優しさに甘えて座席に腰を下ろした。

正面をみると窓から外の景色が見えた。
佳織が立っているはずなのに向かい側の景色が見える。
僕は彼女の股の間から景色を眺めていたのだ。
とんでもない彼女の脚の長さに驚きながら、僕はうとうとと眠りについてしまった。

ようやく駅に戻ってきた。
長い長いショッピングが終わった。

「じゃぁ今日はこのまま帰るとするか。」
スポーツで鍛えているはずの彼女たちも、今日はさすがに疲れが見える。

「今日はどうもありがとう。」
佳織のひと言が、僕の疲れをほんの少しだけ和らげてくれた。

つづく





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