09.休み時間の過ごし方
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入学して1ヶ月も経つとS組の中にも自然に仲良しグループが形成されてくる。
それぞれのグループがそれぞれの過ごし方をしている休み時間。
僕は今日まで、ひとつの奇妙なグループが気になって仕方がなかった。
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D学園のS組に毎年優秀なアスリートが集まる理由。
それはその恵まれた環境にある。

S組の教室は、普通の教室3部屋分の広さを持つ特別仕様。

黒板がある普通の教室の後方には、マットが引かれたトレーニングスペースがある。
ここには筋トレマシンが揃っており、少しの休み時間でも体を動かすことができる。
さらにその後方には、シャワー完備の男女ロッカールームが控えている。
スポーツ中心の高校生活を送るには、この上ない環境が揃っているのだ。

休み時間になると、各自はこの広い教室にある自分の居場所で時間を過ごす。
入学して1ヶ月も経つと、クラスの中にも自然にグループが形成されてくる。

哲平たち6、7人の男子グループは、男子ロッカールームで時間を過ごす。
ここは少し汗臭いが、漫画やゲームなど遊ぶものには事欠かない。
ちょっとしたエッチな本なども置いてある。
彼等にとっては、クラスの女子に見下ろされることなく過ごせる時間が何よりも嬉しいのだろう。

佳織や七海たちバレー部グループ仲良し4人組は、教室の席に座ってお喋りしている。
僕も仲間に入れてもらっている。
水泳部の小次郎と野球部の直哉も一緒にいることが多い。
僕にとっては一番居心地の良い集団だ。

そしてもうひとつ、とても興味深いグループがある。
いつもトレーニングスペースにあるマットの上で遊んでいる男女のグループ。

「昨日はヒョードルの圧勝だったね。」
レスリング部の御手洗智子が大好きな格闘技の話を始めた。

「いや、あれは完全なノゲイラのミスよ。クラッチの外し方を間違えただけ。」
柔道部の徳留里奈がマニアックな答えを返す。

「まぁどっちにしても、私の見た感じ2人ともそんなに強くはないね。」
バスケ部の筋肉ギャル藤崎綾乃がコメントする。

話だけ聞くと、ちょっとマニアックな格闘技好き女子高生の会話に過ぎない。
しかしその体勢が、僕には全くもって理解できない。

智子の下には男子がひとり仰向けに転がっている。
彼は同じレスリング部の大柴和弘。
智子は制服のまま彼の腹部にどっしりと座り込み、身動きできないほどの圧力で押さえ込みながら会話をしている。

柔道部の里奈は、得意の寝技で相撲部の小山田隆を捕獲している。
スカートから伸びる力強い美脚で完璧な三角締めを完成させている。
隆は既に深い眠りに落ちているようだが、里奈はそんなこと気にせずに会話に熱中している。

そしてグループのリーダー的立場にある藤崎綾乃。
一流の女性アスリートが集まった1年S組の中でも、その肉体はダントツに逞しい。
褐色の肌に茶髪のメッシュといういつものギャルスタイル。
それでいて、めくり上げた制服の袖からのぞく広い肩幅と盛り上がった筋肉は、まるでボディビルダーのよう。
身長も運動神経も、佳織と並んでクラスのトップに君臨している。

そんな彼女の投げ出した脚を体操部の甲元拓馬が必死にマッサージしている。
まるで女王様に仕える奴隷のようだ。

やがて彼女たちの話題が腕相撲へと移っていく。

「じゃぁ拓馬、腕相撲やろうぜ!」
「はいっ」

綾乃と拓馬はマットに寝転がり、腕相撲の体勢でがっちりと組み合う。

「バカッ!片手で相手になるかよ、両手だろ・・・」
「はいっ」

拓馬は両手を使ってしっかりと組み直す。
体操部の拓馬は筋肉質な体型で、男子の中ではかなりマッチョな部類。
それでもそんな彼がひ弱に見えるほど、綾乃の腕は逞しく鍛え上げられている。

「レディ・・・・・・GO!」
里奈が合図する。

最初に主導権を握ったのは意外にも拓馬だった。
顔を真っ赤にしながら両腕に力をこめる彼は、片腕の綾乃を追い詰める。
しかしあと1センチ。
わずか1センチのところが押し切れない。

一方の綾乃は余裕の笑顔。
明らかにわざと押されているようだ。

「弱いねぇ〜。もっと押してみろよ、ほら!」

綾乃が挑発する。
拓馬はさらに力をこめるが、彼女の手は動かない。
やはり力が圧倒的に違う。

次の瞬間、拓馬の右手を激痛が襲った。
綾乃が力を入れ始めたのだ。
腕を倒すのではなく、100キロを超える握力で拓馬の右手を握りつぶす彼女。
骨が軋む。
拓馬は腕相撲など忘れて必死に振り解こうとするが、握られた右手は外れそうにない。
綾乃はまだ余裕の笑顔を見せたままだ。

「ギブアップ、ギブアップ、許して、ごめんなさい!」
必死に許しを請う拓馬。
何も悪いことなどしてないのに必死で謝る。

拓馬が苦しむ姿を3人で大いに笑った後、綾乃はようやく解放した。
腕を倒すのではなく、手を握りつぶすという荒技。
腕相撲では普通ありえないギブアップでの決着で綾乃は力を見せつけた。

「あれって一種のイジメだよね・・・・・・」
一部始終を見ていた僕は、翔太にそうささやいた。

「違うね。あれはイジメじゃない。
 いいかい、世の中の人間は2つのタイプに分類される。
 男と女じゃない。SとMだ。分かるかい?」

「SとM?何それ?」

「キミは高校生にもなってそんなことさえ知らないのか・・・・・・。
 いいかい。Sはサディスト。相手に苦痛を与えることが快感に感じる人種。
 そしてMはマゾヒスト。苦痛を与えられることが快感に感じる人種だ。
 彼らM男と彼女たちS女にとって、あのような行為はお互いが望む行為なんだ。
 決して嫌がっている訳ではない。だからイジメには当たらないんだよ。
 分かったかい?」

「ふーーーん。そんな変わった人もいるんだね・・・。」

「?????」

「キーンコーーンカーーンコーーン」
こうして休み時間は過ぎていくのであった。

つづく





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