11.D学園の女番長
*************************************************************************
学校近くの河川敷に大勢の不良たちが集結している。
隣町にある県立G高校の不良グループが、D学園にちょっかいを出してきたのだ。
両高校の不良たちによる激しいケンカが終わった後、遅れてやってきた1人の長身ギャル。
制服の腕をまくったその姿……綾乃だ。
*************************************************************************

「アイツがD学園の女番長、藤崎綾乃です。」
「うわさ通りデケエじゃねえか…」

喧嘩と聞きつけて綾乃が駆けつけて来た。
しかしひと足遅かったようで、既に決着はついていた。
D学園の不良たちは全員ひとり残らず意識を失い、地面に横たわっている。

「すごい…マジの喧嘩だ……。」
「太郎くん、これからもっと凄いものが見られるよ。」
僕と翔太は近くの草むらから、現場の様子を伺っていた。

「随分派手なことやってくれたわね。」
「アンタが噂の女番長さんかい。
 俺の舎弟が随分お世話になってるようなんで挨拶に来てやったぜ。」

綾乃と向かい合って会話しているのは屈強なヤクザ風の男。
彼女と並ぶとかなり小さく見えるが、180センチはある大柄な男だ。
彼の後ろには隣町にあるG高校の不良グループが10人ほど控えている。

「太郎くん、あの男はここらでは有名なヤクザの用心棒。
 若い頃はプロの格闘家として活躍していたヤツだ。
 高校生同士の喧嘩に口を挟むとは、みっともない大人だよ…」

「それにしても強そうな人だね……綾乃さん大丈夫かなぁ…」

「綾乃が大丈夫かって?笑わせてくれるね。
 そうだ太郎くん。今日はキミにひとつだけいいことを教えてあげよう。」

翔太が得意気に話し始めた。

「綾乃はケンカの天才。
 小学生のころから渋谷にあったギャルサークルの用心棒として活躍してたんだ。
 あの街からチーマーやヤクザを一掃したのが実は彼女なんだ。
 あんな男ひとりで太刀打ちできる相手じゃない。」

「……綾乃さんってバスケット選手じゃなかったの?」

「バスケットは本場アメリカで覚えたのさ。
 12歳のとき、あまりの乱暴を見かねた両親が留学させたらしい。
 そしてわずか3年のキャリアで全米MVP。
 女性初のNBA選手も夢ではないと言われているんだ。」

茶髪で褐色の肌はいつものギャルスタイル。
袖をまくった制服からは力強い肩の筋肉が覗いている。
化粧は派手だが目鼻立ちは整っており、実はかなりの美形だったりもする。

「アナタには2つの選択肢があるわ。
 このまま大人しく帰って二度とD学園には手を出さないと誓うか、
 私に無理やり誓わされるかの、ふたつにひとつよ。」
「大した自信だな…。だけど、ふざけんなよ!」

男は綾乃の顔面をめがけて力強いパンチを放った。
しかしその拳が彼女に届くことはなかった。

綾乃が左手1本で軽々と彼の手首を掴んだのだ。
ズバ抜けた動体視力と運動神経が為せる技。
ケンカ慣れしたヤクザの男もさすがに全身から血の気が引いた。

「仕方ないわね…。コイツ等の仇もあるし…。」
綾乃は地面に横たわるD学園の不良たちに眼をやると、一度大きなため息をついた。

「特別サービスで10秒間だけ味あわせてあげる。藤崎綾乃様のホン気をね。」
サディスティックな笑みを浮かべた綾乃。
ついに彼女が本当の強さを見せ始めた。

「ゴキゴキゴキッーーーーー」
手首をつかんだ左手に力をこめる綾乃。
強力な握力で男の手首は骨から砕け散った。

「うぎゃーーーっ!!」
あまりの痛みに悲鳴をあげる男。
綾乃はそのまま強引に体を引き寄せると、今度は逞しい右膝を男の鳩尾に突き刺した。

「ぐほっ……」
肋骨が折れると同時に内臓の一部が損傷を受ける。
男の呼吸も完全に止まった。

彼女が本気で戦う以上ケンカは成立しない。
いかに屈強な男が相手とは言え、それは一方的な虐待になってしまう。
男の戦闘意欲はこの時既に失われていた。

しかし綾乃はまだ攻撃の手を緩めない。
男の首に右手をまわすと、強烈なヘッドロックで締め上げた。

「ゴゴキッ…!」
顎関節が完全に砕け頭蓋骨も悲鳴を上げる。
男は既にショック状態に陥っており思考が停止している。

そのまま柔道の払い腰で投げつけ、男の体を地面に叩きつけた綾乃。
腰を激しく強打した男は、腰骨の一部に亀裂が入った。

次の瞬間、
「はっ!!!」
呆然と現場を目撃していた僕の背筋に悪寒が走った。

ルーズソックスの上からローファーを履いた綾乃の右足が男の頭上に上がる。
このまま勢いをつけて男の頭を踏み潰す気だ。
彼女のパワーから考えると、男の頭蓋骨は粉々に砕け散るだろう。

「まずいっ!!」
僕は殺人事件の目撃者になってしまう!
しかし今更どうしようもない。

綾乃が勢いをつけて頭を踏みつける。
僕は思わず眼を背けてしまった。

恐る恐る眼を開ける僕。
幸運なことに男の頭部は原型を留めていた。
最悪の事態は避けられたようだ。

よく見ると綾乃のローファーは男の頭を踏み潰す直前で止まっていた。
綾乃の表情が和らぐ。

「10秒経ったわ…。終わりよ。
 生きてて良かったわね。あと1秒長かったら今頃死んでたわ。」

体中の骨を折られて動けない男。
顎の骨も砕かれているのでしゃべることもできない。
口からも少量の血を吐いている。
股間からは黄色い液体が漏れている。
ケンカの天才、ギャル綾乃に挑んだ男の惨めな姿だった。

「アンタ等もやる?」
G高校の不良たちにも声を掛ける綾乃。

彼らはあまりの恐怖に震え上がっている。
あんなケンカを見せられた直後だから仕方がない。
10人が束になったって到底敵わないことは、ここにいる全員が理解していた。

「じょ…冗談じゃねえ。殺されてたまるか…」
「逃げろ!!」
男たちは膝をガクガクと震わせながらも必死に逃げようとした。

「待ちなさい!」
綾乃から声が掛かる。
男たちは全身から冷や汗が湧き出てきた。

「救急車を呼んであげなさい! コイツこのままだと、本当に死んじゃうよ。」

彼女はそれだけを告げると、そのまま何事もなかったように河川敷から去って行った。

つづく





inserted by FC2 system