18.大運動会(後編)
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年に1度の大運動会。
いよいよ最終種目1500メートル代表リレーが始まる。
これまで『白虎団』『青龍団』『朱雀団』のポイントは肉薄。
結局このリレーの勝者が、優勝を手にできる展開となった。
果たして我等が『白虎団』は、念願の優勝を手にすることができるのか……
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「佳織…頼んだぞ…」
「ええ、頑張りましょう……」

1年S組の代表は哲平と佳織の2人。
アンカーひとつ前の佳織が差を広げて、アンカーの哲平が逃げ切る。
これが作戦だった。

「よーーーい、ドン!」

いよいよリレーが始まった。
まずは1年生女子代表の100メートル。
3チームともほぼ同時にバトンが繋がる。
続く1年生男子200メートル、2年生女子100メートルでも互角の展開。
そして2年生男子の200メートルでやや展開がバラける。
トップに立ったのは我等が白虎団。
願ってもない展開に1年S組のみんなは大喜び。

『順調だっ…このまま佳織にバトンが繋がれば絶対勝てる!!』

続く3年生女子でも追い上げを許さない。

このままリードを保って最後の2人、
S組代表の2人にバトンが渡れば優勝は間違いない。
白虎団のみんなはそう思っていた。

しかしそこには思いがけない展開が待っていた。

「あっ…」
「コンコローーーン!!」

3年生女子代表から3年生男子代表へのバトンパスで、焦った走者がバトンを落としてしまった。

「えっっ!!」

白虎団のみんなが思わず悲鳴を上げる。
転がったバトンを拾うため、慌てて逆戻りする3年生男子の代表。
その隙に残り2チームが次々と追い抜いていく。

落ちていたバトンを拾い上げ、再び走り始めた彼。
しかし残る2チームは既に30メートルほど先を走っていた。

『負けた…。』
『ダメだ…。』
誰もが優勝を諦めた。

『無理だ…。これでは幾ら佳織でも追いつけない。
 万が一追いついたとしても、アンカー勝負になったら相手は陸上部の先輩。
 俺に勝ち目はない…。』
アンカーの哲平も勝負を諦めるしかなかった。

しかしただ1人。
まだ勝負を諦めてない者がいた。

「パチッ!」
激しい音を立てて自分の太腿を叩く。

『やるしかない…』
これまでに見たことないほど気合を入れる佳織だった。

S組女子代表にバトンが渡る。
先頭は朱雀団、続いて僅差で青龍団。
佳織にも30メートルほど遅れてバトンが繋がった。

『ババババババッ……』
物凄いスピード。
驚くほどのストライド。
長い脚が異常な速度で回転する佳織の走り。

上位2チームとの差がみるみる縮まっていく。

しかし相手2チームの走者も2年3年のS組を代表する女子選手。
佳織と言えどもそう簡単に追いつかせてはくれない。

結局200メートルの距離の中で30メートル近い差を追い上げたものの上位2チームには並ぶのがやっと。
頼みの佳織でも、リードして哲平に繋ぐと言う当初の目論見通りとはいかなかった。

結局3チームほぼ横一列になってアンカーにバトンが渡る。
哲平の手にも佳織からのバトンが渡った。

『相手は陸上部。勝てる見込みはゼロに近いが精一杯走るしかない…。』
哲平はそう思っていた。
しかし次の瞬間思いがけない事態が起こる。

「ひょいっ…」
「えっ?????????」

「ダダダダダダダッ……」

見ている者もみんな愕然とした。
バトンを渡したはずの佳織が、そのまま哲平を抱きかかえて走り続けたのだ!!

「えええええっ????」
何が起こったのか理解できない哲平。

「しっかり捕まっててよ…」
そんな哲平に彼女はそう囁いた。

哲平は振り落とされてなるものかと必死に抱きついた。
佳織の首に手を回し、両脚をウエストの位置に巻きつかせた。
それは、お母さんが子供を抱っこするときの体勢とまったく同じだった。

哲平を抱っこしたまま走り続ける佳織。
男子ひとりを抱いているとは思えないスピード。
青龍団、朱雀団の陸上部男子選手を相手にしても、決して負けていない。

信じられない光景に大運動会は一気にヒートアップする。

「頑張れ、白虎団ーーーーーっ!」
「青龍ファイトーーーッ!!」
「朱雀ーーーーっ!!!」
「負けるな佳織ーーーっ!」
声援が飛ぶ。

残り50メートルを切っても3チームは横一線。
哲平を抱いたまま350メートル近くを走ってきた佳織。
さらに彼女は他の陸上部2人より200メートル余計に走っている。
それでいて彼らに引けを取らない彼女の身体能力は、もはや異次元のレベルだった。

ここで佳織はさらに気合を入れる。
ついに垣間見せた彼女の本気。
全身の筋肉が一段と盛り上がる。
彼女に抱きついたままの哲平にも、その力強さがハッキリと伝わった。

198センチの美しい体が突き抜ける。
長い脚、たなびく黒髪。
そんな彼女に必死に捕まる哲平。
陸上部男子選手2人はあっと言う間に引き離されていく。

そのまま哲平の背中がゴールテープを切る。
白虎団優勝の瞬間だった。

ゴールした後、哲平を降ろすとすぐに地面に座り込んだ佳織。
さすがの彼女も今回ばかりは疲労困憊のようだ。

1年S組のみんながゴール地点に駆け寄る。
足の速い女子が真っ先に駆けつけ、それを追うように男子がやってくる。

やがて団長の哲平を中心に歓喜の輪ができる。
そして胴上げが始まる。
哲平の体が、高々と宙を舞う。
校舎の2階を裕に超える高さ。
間違いなく女子の仕業だ。

「お疲れ様っ。凄かったね。」
「ありがとう…。でも今日は本当に疲れたわ…。」

僕は佳織がこんなにも疲れている姿を始めてみた。
こうして高校生活最初の大運動会が、感動の元に締め括られたのであった。

つづく





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