21.国家機密
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僕は今日、翔太からとんでもない話を聞いた。
テコンドーの選手と言う金山淑恵さん。
学校ではどちらかというと大人しい彼女だが、実は韓国情報局のスパイらしい。
今晩、彼女が襲われるという情報を入手した僕らは公園の茂みに隠れてその時を待っていた。
果たしてこのあと僕らの目の前で、何が起こるというのだろうか?
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「秘密情報部員???」
「シッ…声が大きい!!」

昼休み、僕は翔太に思いがけないことを聞いた。
S組のテコンドー部員、金山淑恵さんが、実は韓国KCIAの秘密情報部員だと言うのだ。
とても信じられない話だが、翔太の話だけに恐らく本当なのだろう。

さらに翔太はこう付け加えた。

「今日の夕方、日本で暗躍するある国の武装組織が彼女を襲撃するという情報を掴んだ。
 これは滅多にないチャンスだから、一緒に見に行こうじゃないか。」

こうして僕らは、公園の茂みに隠れることとなった。
薄暗くなり公園の街灯が明るく光りだした頃、ついに淑恵さんがそこを通りかかった。

Tシャツに短めのショートパンツを穿いている彼女。
そのショートパンツからは、逞しい太腿がのぞいている。
蹴り技中心のテコンドーだけに、彼女の下半身は極度に鍛え上げられている。
今日は素足の上から白い運動靴を履いているようだ。

そんな彼女が僕らの目の前を通り過ぎようとした瞬間、急に足が止まった。

「誰?」

見つかったのかと思い少し驚いた僕。

すると目の前から黒い迷彩服を着た男たちが現われた。
その数7人。
それぞれの手には日本刀が握られている。

「私に用かしら?」
「探したぜお嬢ちゃん。
 韓国情報局でイチバンの武闘派が、こんなところで何をしているのかな?」
「何の話?人違いじゃないかしら?」

何とかやり過ごそうとする淑恵。
すると他の男よりひと回り大きなリーダー格の男が口を開いた。

「お嬢さん…。他の男は騙せても、俺の眼はごまかせないぜ…。」

淑恵がその男の顔を覗き込む。
そして大きなため息をついた。

「アナタの仕業ね……。」
「覚えていてくれるとは嬉しいね…。
 情報局の教官としてテコンドーを教えていた俺を、当時はよくもバカにしてくれたな。」
「バカにしたですって?アナタが弱すぎただけでしょう?」
「お陰様で13歳の女にボコボコにされた男とレッテルを貼られた俺は信用を失い、情報局をクビになった。
 そして今じゃ武装組織の用心棒さ。今日は長年の恨みを晴らしてやるから覚悟しな!」

淑恵もこれでは逃げられない。
背負っていた荷物を地面に下ろし、この場で戦うことを決意した。

「やぁーーっ!」
ひとりの男が日本刀を振りかざし、淑恵に向かって切り掛かっていく。
しかし、その日本刀は勢い良く空に舞い上がっていった。
淑恵の高速廻し蹴りが、男の手を砕いたのだ。

目にも留まらぬ蹴りの速さに驚愕する男たち。

その直後、刀を失った男の腹に淑恵の前蹴りが突き刺さる。
アプチャ・プシギと呼ばれるテコンドーの前蹴りは威力も抜群。
彼は悶絶して意識を失い地面に横たわった。
恐らくは内臓破裂、命を失うのも時間の問題だろう。

そんな彼の後頭部を運動靴で踏みつけながら淑恵が言った。

「こんな腕で襲ってくるとは、私もなめられたものね。」

次いでもうひとりの男が背後から襲いかかってきた。
しかしその男が刀を振り降ろすより前に、淑恵の跳び後ろ廻し蹴りが男の側頭部にヒットした。
一撃で完全に失神するほどの破壊力。
意識を失い力なく倒れた男の胸を、淑恵は冷徹に踏みつける。

ゴキゴキッ!!
胸骨が陥没する。
彼女の両手は未だにショートパンツのポケットに突っ込まれたままだ。

強い…!

男たちも、淑恵の強さを改めて実感した。
彼らは彼女に対抗するため、力を合わせることにした。
歩調を合わせ、3方向から同時に襲い掛かる。

しかし淑恵の強さは想像を遥かに超えていた。
次々と振り下ろされる太刀筋を見切りながら、横蹴り、蹴り上げ、飛び廻し蹴りの3連発。
3人の男たちは彼女の逞しい両脚の餌食となった。
次々と蹴り飛ばされ、命を奪われていく男たち。

「ちくしょーーっ!」
6人目の男が淑恵に襲い掛かる。
彼女は冷静に突進を躱すと、足を掛けてその男を転ばせた。

慌てて起き上がろうとする男。
しかし目の前には、両手をポケットに入れたまま右脚を高く振り上げている淑恵の姿があった。
薄暗い中で輝く魅惑的な開脚立ち。

「や…やめて……」
恐怖におののきながら命乞いする男。
しかし淑恵は容赦しなかった。

ボコッ!!
強烈なかかと落としが脳天を直撃した。
彼女の運動靴が頭蓋骨にめり込む。
白目を剥いたままゆっくりと倒れていく男。
淑恵はそんな男の顔面をもう一度蹴り上げた。

6人の男を返り討ちにし、楽々と抹殺した淑恵。
人の死ぬ現場を始めて目撃した僕は放心状態に陥った。

彼女は最後に残った大柄な男と向かい合う。

身長179センチの淑恵より頭ひとつ大きいこの男。
2メートル近くある屈強な体つき。
情報局のテコンドー教官だったという過去も伊達ではない。

「ふっ、流石だな…。武器を持った男6人を瞬殺するとは…。
 だがな、俺はそう甘くはないぜ。
 この3年間、俺は鍛えに鍛えたんだ…。すべてはお前を…」

「ボコッ!!!」
「アガッ…ッ………」

男が熱い話をしている最中。
淑恵の強烈な前蹴りが彼の急所にヒットした。

「フッ、ふざけるなっ……」
「話が長すぎるのよ…。」

下半身を押さえて地面にしゃがみこむ男。
幾ら鍛えても鍛えきれない部分。
彼は淑恵と戦うことすら許されなかった。

「悪いけど、私アナタのことなんて何とも思ってないから。
 訓練所で優しく蹴り殺してあげた方が、アナタにとっては幸せだったかもね。」

下半身を押さえたまま地面に膝を着く男。
立ち上がりたくても足に力が入らない。

目の前に立つ淑恵は冷たい視線で見下ろしている。
鍛え上げれた太腿は3年前より比較にならないくらい逞しくセクシーになっていた。
彼の命はこの美脚に委ねられている。

「たっ…助けて……。」
男が命乞いを始める。

「ふっ…」
あまりの変りように思わず笑ってしまった淑恵。
端っから助けるつもりなどない。

「アンニョン(バイバイ)」
そう冷たく言い放った彼女。
左脚で力強く踏み込むと、サッカーボールを蹴るかのように右脚を振りぬいた。

「ガコッーーーーーッ!!」
鍛え上げられた美脚の恐るべきパワー。
男の巨体が3メートルほどぶっ飛んだ。

蹴りの直撃を受けた男の顔面は陥没している。
哀れな男の最期だった。
彼女の両手は未だにポケットの中だ。

「ピッポッパッ…」
淑恵はようやくポケットから両手を取り出すと、携帯電話でどこかに電話を掛けた。

「公園に男7人の遺体。すぐに始末して頂戴。」

一部始終を見届けたあと、僕と翔太は公園を脱出した。

「凄いだろ…。あれが金山淑恵の正体だ。
 情報局ナンバー1の武闘派。そして殺し屋専門の殺し屋。
 本当にS組には面白い女子が揃ったもんだよ…。」

珍しく興奮している様子の翔太。
一方の僕は、未だに放心状態から抜け出せないでいた。

つづく





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