22.秋の学園祭
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秋は学園祭の季節。
僕らは『学生プロレス&メイド喫茶』という一風変わった出し物をすることになった。
スタイル抜群メイドの給仕を受けながら、学生プロレスが観賞できるという夢の空間だ。
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「いらっしゃいませご主人様…。」
「カッ…カフェオレ下さい…。」

1年S組によるメイド喫茶は空席待ちの行列ができるほどの大人気。
180センチを超える長身メイドたちが圧倒的な存在感を放っている。

ミニスカートから伸びるすらりと長い美脚。
トップアスリートの彼女たちが見せるかわいらしい作り笑顔。

怖いもの見たさの客も訪れて、次から次へと注文が入る。
飲み物の準備やコップを洗う裏方も大忙しだ。

「かかってこいーーーっ!」
「負けるなーーーっ!」

喫茶スペースの中央に設置されたリングでは、男子による学生プロレスの真っ最中。
運動神経の良い彼らによるコミックプロレスショーも予想以上の盛り上がりを見せていた。

「いいぞーーっ!」
「頑張れーーーっ!」
リングサイドのテーブルには、メイド姿には興味のないコアなプロレスファンが集まっている。

何事も順調。
学園祭もこのまま大成功に終わるだろうと思っていた。

しかし午後も2時を回った頃。
リングサイドの特等席に陣取った4人の男たちがリング上のレスラーに文句をつけ始めた。

「テメェ等基本ができてねぇぞ!」
「もっとしっかりやらんかい!」
回りの客も気にせず言いたい放題。

やがて彼らは勝手にリングに上がり始めた。
本格的なプロレス技でS組の男子を容赦なく痛めつけ始める。

最初のうちは余興のひとつとして歓迎していた僕らだが、彼らの暴力はどんどんエスカレートしてくる。
もはや笑っていられないような状態。
彼らは昼間から酒でも入っているような雰囲気だ。
これまで学生プロレスを楽しんでいた観客たちも、次第に引き始めている。

「アイツ等本物のプロレスラーらしいぞ!」
ボクシング部の大樹が控え室に走りこんできた。

「駅前プロレスっていうマイナー団体らしいが、学生プロレス荒らしとして有名らしい。」
「通りであんな立派な体格な訳だ…。」
「プロレスも本格的だしね。」
「邪魔しに来た訳か…。」
「だけど、このままじゃケガ人が出てしまう…。」
「残念だけど、プロレスは中止するしか……。」
控え室を重苦しい空気が包み込む。

そんな時、口を開いたのはメイドの仕事を終えて戻ってきた綾乃だった。

「仕方ないわね…。今日はメイドに徹するつもりだったんだけど…。」
彼女の手には覆面マスクが2枚握られていた。

「佳織っ、ほいっ」
「えっ????」
綾乃は手にしたマスク2枚のうち1枚を佳織に手渡した。

「私??????」
「当たり前だろ。さぁ行くぞ!!」

やがて喫茶スペースにコールが入る。

「只今より、特別マッチを行います。
 赤コーナーより、ピンクタイガー&ホワイトキャッツ組の入場です!」

観客そしてS組の生徒たちから歓声が送られる。

白と黒がベースのメイド服姿に鮮やかなピンクのタイガーマスク姿。
抜群のスタイルだが少し自信なさそうに歩いてくる。
厚底のワンストラップシューズを履いているため身長は2メートルを超えている。
こちらが恐らく佳織。

同じメイド服に白くてかわいらしい猫のマスク。
肌の露出している部分は日焼けが目立ち、マスクから溢れる髪は茶髪。
大きな肩幅に盛り上がった腕の筋肉。
間違いない、こちらが綾乃だ。

リング上に上がって本物のプロレスラー2人と向かい合う。
腕を組んで男たちを見下すピンクタイガーとホワイトキャッツの2人。

レスラー2人も女に見下ろされて気分が悪い。

「お嬢ちゃんちょっと生意気やの〜。」
「痛めつけてやらないかんの〜。」

男たちはTシャツを脱いだ。
ついに戦いが始まる。

「カーーーーン!」
ゴングが鳴った。

「私は右、佳織は左ね…。」
綾乃はそう言って一人の男に向かって歩き始めた。

180センチ近くの屈強なプロレスラーを目の前にした佳織。
しかし彼女は恐怖感など微塵も感じなかった。
世界の女子トップアスリートと比べれば彼らの鍛え方など子供同然なのだ。

『どうしよう…。私、格闘技なんてしたことないし…。
 プロレスもお父さんがDVDで観てた猪木と馬場しか知らないし…。」

彼女は途惑っていた。
温和な性格の彼女はこれまでケンカらしいケンカなどしたことがないのだ。
どのくらい力を入れて戦えば良いのか全く分からない。

「うぉーーっ!」
そんな中、佳織に向かって勢い良く体当たりしてくるひとりの男。
彼女は恐る恐る右脚を出した。

ジャイアント馬場並みの16文キック。
靴のサイズ32センチと言う佳織の脚が男の鳩尾に突き刺さった。

「ゴホッ……」
男は呼吸ができずに思わず膝を付いてしまう。
『なんて重い蹴りだ…。こんな蹴り今まで食らったことがねぇ…。』

一方で佳織自身も大いに驚いていた。
『この人弱い…。あんな蹴りで膝をつくなんて…。本気で蹴ったら大変なことになっちゃう…。』

「このヤローーーっ!」
男は決死の覚悟で再び佳織に襲い掛かる。
怪我をさせるのが怖かった佳織は男のタックルを正面から受け止めた。
そしてそのまま長い手足を使って器用に技を掛ける。

『確かこうだったはず…』
彼女が掛けた技、それは昔DVDで見たことのあるアントニオ猪木の卍固めだった。

「ギギギギギッ……」
思いっきり手加減しているつもりの佳織。
しかし男の体は悲鳴をあげていた。

「あがががががっ……」
汗を掻きながら声もあげられないほど苦しんでいる男。
プロレスに慣れ始めた佳織は、徐々に男の苦しむ姿を楽しむ余裕が出てきた。

リングの残り半分では綾乃がもうひとりの男を虐めていた。
屈強な男の体が軽々と振り回されている。

豪快なラリアートで1回転。
さらに高速ジャイアントスイングで10回転。
ケンカ慣れしている綾乃だけに、レスラーの限界は完全に理解できている。
キチンと手加減した上で、客の喜ぶ大技を連発しているのだ。

リング下では男たちの仲間2人が焦っていた。
女子高生2人の動きに恐怖を感じながらも、仲間を助けるためリングに上がろうと立ち上がった。

しかしそこに2人のメイドが忍び寄ってきた。
レスリング部の智子と柔道部の里奈だった。

「ご主人様困ります。大人しく席に座って頂かないと…。」
「後ろの席の方が見えなくて困っておられます…。」

そう言いながら、智子は豪快なスープレックスを放つ。
プロレスラーの男が1発で失神するパワー。

隣ではもうひとりの男が椅子に座ったまま深い眠りについていた。
里奈の送り襟締めによって眠らされたのだ。

2人のプロレスラーを一瞬にして葬り去る強さ。
流石はS組格闘系部員の2人だ。

リングの上では綾乃と佳織によるドミネートプロレスが展開されていた。
まるで大人と子供の戦い。
身体能力があまりにも違いすぎる。

バックドロップ、キャメルクラッチ、ロメロスペシャル……。
次から次へと美しい技を決めていく2人。
彼女たちのレベルは、これまで見たどんなプロレスをも凌駕していた。
観客も大いに盛り上がっている。

最初は途惑っていた佳織もプロレスの楽しさを味わっていた。
『たまにはこんなのもイイな…』
彼女の心の奥底には、サディスティックな本能が眠っているのかもしれない。

女子高生2人に散々弄ばれたレスラー2人の体力はもはや限界に達していた。
リングに倒されたままピクリとも動けない。

「そろそろ終わりでよろしいでしょうかご主人様?」

メイド服の綾乃が可愛らしく尋ねる。
観客は大爆笑。

「ま…参りました…。」

プロレスラー2人は力なく答えた。
大観衆の目の前でこの上ない屈辱だった。
目にはうっすらと涙が溜まっている。

「じゃあ、そろそろ楽にしてやろっか?」
「そうね。」

彼女たちはプロレスラーの巨体を軽々と持ち上げた。
そのままリングを1周して観客にアピールする。
レスラー2人は既に観念していた。
無駄な抵抗など考えもしなかった。

そして観客のボルテージがMAXに達する。

「せーのっ!」
「ドスーーン!!!」
2メートルを超える高さから勢いをつけてのパワーボム。
男たちの意識は即座に失われた。

厚底のワンストラップシューズで男たちを踏みつける2人。

「ワン…ツー…、スリーーーーー!!!」
「カンカンカンカーーーン!!」

彼らはもう二度と学生プロレス荒らしなどバカな真似はやらないだろう。

メイド服姿で観客に深々と一礼するピンクタイガーとホワイトキャッツの2人。
高校生活最初の文化祭は、こうして大成功のうちに幕を閉じることとなった。

つづく





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