23.バスケ部見学
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朝晩の冷え込みが厳しくなってきた。
今日は練習が休みの水曜日であるが、外に出るにはいささか寒すぎる。
そこで僕と翔太は体育館に出向き、バスケ部の練習を見学することにした。
D学園の男子バスケ部と言えば、昨年も高校日本一に輝いた全国屈指の名門。
女子も今年から強化を始めたと聞いている。
S組でも抜群の存在感を放っている藤崎綾乃。
そして海江田舞の2人はどんな活躍を見せてくれるだろうか?
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「あれっ…??綾乃さんいないね。」
「アイツが真面目に練習する訳ないだろっ…」

ボールの弾む音が心地よく鳴り響いている。
第2体育館では男女のバスケ部が熱心な練習を行っていた。

女子の練習は1年S組の海江田舞を中心に進められている。

「舞さん格好イイね。」
「彼女は日本バスケットボール界では有名なアイドル選手なんだ。
 専門雑誌では特集が組まれたりしててね…。」
「へぇーー…」

確かにバスケットをしている舞の姿は魅力的だ。
クラスでも3本の指に入ると言われるかわいらしい顔。
それでいて他の選手を全く寄せ付けないスピード&テクニック。
3年生の先輩を厳しく怒鳴りつけるところなんかは、彼女のS的な性格の表れだろう。

僕はもう片方のコートでやっている男子チームの練習も気になった。
選手の中に飛びぬけて背の高い黒人選手がいる。

「翔太くん、あの人誰?」
「あぁ、あれはアマン=ジョップくん。セネガルから来ているバスケの留学生。
 身長203センチで佳織さんより5センチも高い。D学園でも一番の長身さ。」
「ふーーん。」

あの身長で器用にボールを扱うアマン。
さすがに日本人とはDNAが違う。

しばらくして男女のキャプテンが話を始めた。
男子の5人が黄色いビブスをつけてコートに入る。
同じように女子の5人が赤いビブスに袖を通す。

「練習試合みたいだね。男子対女子でやるのかなぁ?」
「バスケットの場合リングの高さは男女一緒だからね。」

5人ずつが同じコートに入る。
そしてジャンプボールで試合が始まった。

男子チームは序盤からセンターのアマンにボールを集めて得点を重ねる。
D学園で1番の203センチという長身。
170センチ台の女子選手では流石に止められない。

しかし一方の女子も負けていない。
身長187センチの長身ガード、海江田舞が孤軍奮闘して点差を開かせない。

彼女のポジションはポイントガード。
ボールを前に運び、攻撃を組み立てるのが主な役目。
パスを出す他に、遠くからのシュートやドリブルでの突破力が求められる。
普通はチームでも一番小柄な選手の役目だが、彼女はそれを器用にこなしている。

味方のスクリーンを使ってうまく切れ込み、立ちはだかるアマンの長い手足を躱してレイアップを決める。
そうかと思えば一転して、身長で上回る男子ガードの頭上から華麗な3ポイントを決める。
控え選手からは舞の華麗なプレーに歓声があがる。

男子チームのレギュラー選手たちはあまり面白くない。

女子チームの攻撃はほとんどが舞のシュートで終わる。
男子もそれを分かっているから、彼女がボールを持つと必ずダブルチームを仕掛けてくる。
しかし彼女はそんな男子をあざ笑うかのように、次々とシュートを決めていく。

かわいらしい顔をしながら高校日本一の男子チームレギュラーを圧倒する実力。
シュートを決めたあと、胸を張って男子を威嚇する姿などはとても格好いい。
ファンが多いと言うのも納得できる。

舞の活躍でガード戦では完全に優位に立った女子チーム。
しかし相変わらずアマンを中心とした男子インサイドの攻撃は止められない。
リバウンドもすべて奪われてしまう。

前半の2ピリオドが終わって61対66のハイスコアゲーム。
男子のリードはわずかに5点。
女子にとっては大健闘と言える点差だろう。

休憩を挟んで後半が始まる。

男子は選手層の厚さにモノを言わせて、次々と選手を交代させながら舞へのマークを厳しくする。
常に2人のマンマークがつき、ボールを持てば3人目がやってくる。
その分フリーになった他の選手が次々とシュートを決めるが、リング下のアマンにブロックされる回数も増えた。
気が付けば点差はどんどん広がっていく。

「ちくしょう…。」
第3ピリオドが終わって77−98の21点差。
悔しさを見せる舞だが、ひとりではさすがにどうしようもない。
試合は完全に男子のペースかと思われた。

「ちわーーーっす。」
そんな時、体育館にひとりの女子選手が現われた。

金髪メッシュに日焼けした小麦色の肌。
逞しい筋肉に目を見張る長身。
こんな女子なんてアイツしかいない。
ケンカの天才、ギャル綾乃だった。

先輩に替わって当然のようにコートに入ってくる。
男子チームも目の色が変わった。
これからが本当の勝負だ。
僕は興奮しながら試合の成り行きを見守っていた。

舞が静かにボールを運ぶ。
男子はマンツーマンでディフェンスに入る。
ボールを持った舞は、華麗な切り返しでマークを振り切る。
すると慌てて2人目の男子が舞のチェックに入る。

その隙をついて舞が前方にパスを送る。
走りこんできたのはフォワードの綾乃。
彼女はボールを受け取ると、リングから3メートル離れた位置から踏み切った。

『高い!!!!』
試合を見ていた誰もがそう思った。

ブロックに入った身長203センチのアマンより遥かに高い。
100センチ以上は跳んでいる。
まるで空を走っているような感覚。

彼女はそのままボールをリングへと叩き込む。
豪快なワンハンドダンクが炸裂した。
とても女子選手とは思えない迫力。

綾乃の加入により試合は一転して女子のペースになった。
身長では9センチ劣るものの、驚異的な身体能力で男子のエース・アマンを完全に押さえ込む綾乃。
得点源を失った男子は攻撃が組み立てられない。
その隙をついて舞が相手ボールをスティール。
フリーからのレイアップを決めて点差は縮まっていく。

綾乃の動きも止まらない。
迫力あるダンクを次から次へと炸裂させたかと思えば、華麗なフェードアウェーも確実に決める。
ディフェンスでもアマンのショットをブロックするなどして男子に攻撃を許さない。

今度は舞がリング上へとボールを送る。
そこに飛び込んできたのはやっぱり綾乃。
驚異的な滞空時間で舞からのボールを受け取ると、そのまま空中からスラムダンク!
芸術的なアリウープが決まり、ついに22連続得点。
99−98と女子が逆転に成功した。

その後も舞が3ポイントを決めたり他の選手がレイアップを決めるなどして点差はどんどん開いていく。
残り時間わずかで121−105。
女子の勝利はほぼ確定した。

気分が悪いのは男子チームの選手たち。
特に綾乃の登場以来、無得点に抑えられているアマンのストレスは限界近く溜まっていた。

「はぁっ!!」
リング下でのリバウンド勝負に敗れ、再び綾乃にボールを奪われてしまったアマン。
彼は悔しさのあまり彼女のバスケットシューズを思いっきり踏みつけてしまった。

「!!!!!」
綾乃の視線が急に厳しくなる。
圧倒的な迫力でアマンを睨みつける。

「上等じゃねぇか…」
「ボコッ!」
綾乃の肘がアマンの鳩尾に突き刺さった。
呼吸ができずコートにうずくまる。

「悔しかったら鍛えて出直して来いバカヤロー!」
先輩に向かって激しい口調で怒る綾乃。

女子チームのキャプテンは慌てて綾乃をベンチに下げた。

結局試合は121−109で女子の勝利!
海江田舞と藤崎綾乃……
2人の1年生加入によって強化を図った女子が、高校日本一の男子をも上回る実力を示したのだ。

「あの2人凄いね…」
「あぁ今年は間違いなく男女アベック優勝だよ…。」

翔太の言葉はさりげなく男子チームの健闘をも称えていた。

つづく





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