24.高校生刑事
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僕は翔太から「遊びに行こう!」と珍しく誘われた。
しかしこれには、ある危険な陰謀が隠されていたのだ。
やがて大きな事件に巻き込まれてしまう僕。
絶体絶命のピンチに、果たして救世主は現われるのか?
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寒い寒い12月の夜。
僕はマフラーと手袋を着けて翔太を待っていた。

「夜7時に商店街の銀行前に待ち合わせだ。キミに面白いことを体験させてあげよう。」
珍しく彼からの誘いだった。

しかし約束の7時を過ぎても彼は現われない。
僕は商店街の一角でただ漠然と待ち呆けていた。

クリスマスを来週に控え街は賑やかに飾り付けられている。

「ルルルルルル…」
突然僕の携帯が鳴った。
翔太からだった。

「もしもし…」
「あぁもしもし翔太だけど、悪いが銀行の2階にある部屋に来てくれないか?」
「2階の部屋?」
「うん。ちょっとした事務所なんだが、まぁとにかく来てくれ。」
「あ…あぁ分かった。今行くよ。」

僕は訳の分からないまま銀行の2階へと向かった。
そこには何の看板もない部屋がひとつ。
一応明かりはついているようだ。

「こんばんは。」
「ガチャっ…」
僕はドアを開けた。

「はっ!!!!」
僕は心臓が飛び出るほど驚いた。

部屋の中には覆面を被り銃を手にした男が数人。
今から強盗にでも出掛けるような格好で立っていたのだ!!

驚いたのは覆面男たちも同じ。

「てっ…てめぇ、何しに来やがった!!」
「すっ済みません!部屋を間違えました。」

慌ててドアを締め、部屋を出ようとした僕。
しかし男たちがそのまま帰してくれるはずがない。

僕はたちまち囚われの身となってしまった。

「てめぇ…何故俺たちが強盗するのを知ってやがるんだ!」
「誤解です…たまたま部屋を間違えたんです…。」

男たちの質問に対し、僕は必死に弁解した。
しばらく話しているうちに、強盗たちも少しは納得してくれた様子。

「分かったよ、お坊ちゃん。だけどな…。
 アジトを知られて顔を見られたからには、生きて帰す訳にはいかないんだ。」
「そ…そんな……。」

僕は紐で両手を後ろ手に縛られ、事務所の柱に括り付けられた。
口には布を詰め込まれ、声も出せない状況にされてしまった。

「みんなが寝静まったあと、海に沈めてやるから覚悟しとけよ…」
強盗の言葉に僕は涙が出てきた。

思えば16年短い人生だった。
両親には本当に大切に育ててもらったと思う。
D学S組に入学できたことが、僕のできた唯一の親孝行になってしまうとは…
佳織さんへの想いも、結局伝えられないまま僕の人生は終わってしまった。
翔太は始めから僕を陥れるつもりだったのか…。

そんなことを考えているうちに何時間かが過ぎていった。

「そろそろ行くかっ…」
4人いる強盗集団の中のリーダー格の男がそう言った。
いざその時が来ると、僕の心臓は激しく鼓動を打ち始めた。

殺されることを覚悟して僕が大きなため息をついた瞬間。

「バコーーーン!!」
突然けたたましい音が鳴り響いた。
事務所入り口のドアが蹴破られたのだ。

入り口を見ると1人の女性が立っていた。
よく見慣れたD学園の制服。
彼女はそのままゆっくりと事務所へと入ってくる。

事務所の電気に照らされて浮かび上がった顔。
やや童顔だが目つきだけは並外れて鋭い。
1年S組の空手部員、知念美由紀さんだった。

「▲☆◇!!○■×!!!(知念さん!!)」
「神宮寺くん!」
あまり親しく話をしたことのない彼女だが、もしかして助けに来てくれたのだろうか?
僕の命は彼女に委ねられることとなった。

「てめぇ何ものだぁ!!」
強盗が彼女に銃口を向ける。
しかし彼女は慌てた様子も見せず悠然と話し始めた。

「内閣情報局特別捜査官、知念美由紀… 誘拐の現行犯で逮捕します!」
「○△◇○▲☆■×???(内閣情報局特別捜査官???)」
「特別捜査官だと?? 笑わせるな…。」
「ガキのくせに女1人で乗り込んでくるとは見上げた度胸だぜ…。」

素手の女子高生ひとりが相手とあって男たちも少しは余裕を見せている。
そんな彼らに対して、美由紀は冷たく言い放った。

「怪我をしたくなかったら、抵抗なんて馬鹿な真似はやめることね。」

銃口を向けられているのにもかかわらず美由紀は落ち着いている。
強盗たちも少し気味の悪い思いがした。

「偉そうなこと言うじゃねぇか。おまえも一緒に海に沈めてやる!」
「パシューーーン!!!」

サイレンサーの装備された銃が火を噴いた。
僕は思わず目を背けたくなった。

男の放った銃弾は美由紀さんを貫通した。
少なくとも僕の目にはそう見えた。

しかし銃弾は入り口の壁に命中している。
美由紀は残像を残すほどの素早い動きで銃弾を躱したのだ。

気が付けば男の真横にまで瞬間移動していた美由紀。
軽い手刀で持っていた銃を叩き落すと、179センチの長身から男を睨みつけている。
童顔に鋭い視線のコントラストが妙に色っぽい。

そのまま彼女は男の右足に軽く蹴りを入れた。
彼女のローファーが軽く触れる程度の下段蹴りに見えた。

それなのに男は足を押さえて激しくのた打ち回った。
悲鳴をあげながら事務所の床の上を転げ回る。
僕には大袈裟すぎるほど大袈裟なリアクションに見えた。
しかしよく見ると、彼の右足は膝の位置から90度直角に折れ曲がっているではないか!

空手を極めた者の蹴りをいうものを、僕はこの時始めて理解した。

次いで2人目の男が手にナイフを持って襲い掛かる。
しかしその男の動きは美由紀の目前で止まる。
何か空気の壁にでも遮られているような感じ。

すると一瞬だけ間を置いた後、男の体は激しく後方へと吹き飛ばされた。

男の顔面と体には、無数の拳の痕が残っている。
恐らくあの一瞬のうちに、美由紀から無数の突きを受けていたのだろう…。
僕ら一般人の目には、それが空気の壁のように見えただけの話だ。

ここまでくるともはや現実の世界とは思えない。
しかしいつもと変らないクラスメイトの制服姿が目の前にあるのは紛れもない事実。

残る2人の強盗団はそれぞれが手に銃を握り締めている。
しかし美由紀の強さに恐れをなし、両手は大きく震えている。
とても狙いをつけて銃を撃てる状態ではない。

彼女は残る2人に向かって1歩1歩近づいていく。

「来るな!!」
震え上がった2人は1歩1歩後ずさりながらそう叫ぶ。

やがて壁に遮られ、目の前に美由紀が迫ってくる。
スタイル抜群の女子高生を前に、男たちの震えはさらに大きくなる。

179センチという長身の美由紀だが、残った男2人はそれより大柄。
しかし制服姿の彼女に完全に萎縮しており、もはや幼稚園児ほどの存在感しか放っていない。

そんな男を威嚇するようにますます睨みを効かせる美由紀。
彼女は男たちの目前で強く拳を握ると、横にあった鉄製の事務机を殴りつけた。

「ボコーーーン!!!!!」
鉄製の分厚い机板が真っ2つに折れ、4本の足もぐにゃっと折れ曲がった。

頑丈な机を一撃でスクラップにするとてつもない威力。
これが一度に50枚の瓦を割るという彼女の力なのだ。

「まだ抵抗する気??」
美由紀は尋ねた。

「お願いします……。たっ…、逮捕してください!」
男2人は銃を置きへなへなと地面に座ると、大人しく両手を差し出した。
彼らの股間は恐怖のあまりぐっちょりと濡れていた。

「これで良しとっ。」
美由紀に助けてもらった僕は、事務所にあった紐で強盗団の4人を柱に縛り付けた。
絶対逃げられないように、何度も何度もキツく縛った。

美由紀は事務所の電話から110番にダイヤルする。
しかし何もしゃべらずに、受話器を机の上に置いた。

「じゃぁ行きましょう。」
「う…うん。こいつ等はこのままで良いの?」
「まぁ時期に警察がやってくるわ。」

僕ら2人は事務所を後にして、クリスマスの照明も消えてしまった真夜中の商店街を歩いた。

「今日はどうもありがとう。」
「ううん…。でも私、太郎くんに変なところを見られちゃったわね。」
「気にしないで。僕はこの街で一番口が堅い男だから。」

いつもは鋭い目つきの彼女が、珍しく笑顔を見せた。

「内閣情報局だっけ?」
「うん。でも本当の仕事は他にあってね。
 D学園にいるある国の殺し屋を監視しているの…」
「殺し屋???」
「ええ…。でも悪い奴にしか手を出さない正義の味方みたいなヤツなんだけどね。」

『テコンドーの金山淑恵さんのことだ……』
僕にはすぐ分かった。
でもとても知っているとは口にできない。

「それにしても今日は驚いたわ。
 知らない人からイキなり電話が掛かってきて、あそこに行けって言うものだから…。
 騙されたかと思って行ってみたら本当に事件だったなんて…。 一体誰の仕業かしら???」

これも知っている。
間違いなく翔太の陰謀。
まぁそれによって貴重な体験ができたのもまた事実。

「じゃぁ私はここで。」
「うん、今日は本当にありがとう。」
「夜も遅いから気をつけて帰ってね。」
「はいっ。お巡りさん!」

僕は深々と敬礼した。
彼女はまた最高の笑顔で敬礼を返してくれた。
童顔は笑うとより一層童顔に見える。

つづく





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