27.バレンタインデーの告白
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「嘘でしょう!!!」
「シーーーッ。聞こえる!!」
佳織や七海と同じ仲良しグループの一員、新体操部の紺野美咲。
実は彼女が、ある男子クラスメイトに恋をしてしまったと言う。
相手は筋トレバカのラグビー部員、辻元智也。
オリンピック選手でもある美咲が、なんであんな奴に惚れてしまったのか???
バレンタインデーの今日。
彼女は意を決して告白することにしたのだが……
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休み時間。
筋肉バカの智也は、いつものように教室後ろのトレーニングルームにいた。
バタフライマシンで大胸筋を鍛えている。
40キロの負荷で1回1回丁寧に前後の動きを繰り返していた。

「ねぇ智也くん。隣を使ってもいいかな?」
「うん、どうぞ…。」

美咲がうまく智也に近付いた。
178センチの長身で、S組女子としては珍しくスレンダーなボディの持ち主。
そんな彼女が緊張しながらトレーニングを始める。

「智也くんはどうしてそんなにトレーニングを頑張れるの?」
「僕はラグビー選手としては体が小さい方だから、鍛えないと怪我しちゃうんだ…。」

そう答えながら美咲のマシンを何気なく見つめた智也。
なんと美咲が使っているマシンの負荷は80キロ。
自分の倍の重さ。
それを女子の中でも一番華奢な彼女が軽々とこなしている。
智也は少しだけ焦った。

「ラグビーって楽しい?」
「うっ、うん…。凄く面白いスポーツだと思ってる…。」
「へーーっ、そうなんだ…。」

美咲は会話に夢中。
トレーニングをしているという意識さえ持っていない。

気まずくなった智也はマシンを変える。
ラットプルダウン。
背筋を鍛えるためのマシンだ。

智也はいつもより重めの40キロにセットした。

「フン…フン…」
気合を入れてトレーニングに励む。

しばらくすると美咲も隣のマシンに移動してきた。
智也と同じタイプのマシンの前に立つ。
緊張していた彼女は負荷を調整することすら忘れていた。
予めつけてあった80キロのおもりをそのまま軽々と引き上げる。

「!!!!!」
智也は信じられなかった。
ボディビルダーでもない限り、このマシンで80キロの重量は有り得ない。
この華奢でスレンダーな彼女のどこにそんな筋力が秘められているのか……。
彼はオリンピック選手の凄さをひしひしと感じていた。

「美咲さんって力あるんだね…」

「えっ…あっ、そっ…そうなの。小さい頃からトレーニングしてきたし…。
 智也くんは、鍛えてる女の子ってやっぱり嫌い??
 小さくてカワイイ子の方がやっぱり好きかな……。」

「いやっ…そんなことないけど…、逆に尊敬しちゃうかな……。」

2人の間に少し気まずい空気が流れた。
智也はベンチプレスマシンに移る。
腕の力にはかなりの自信がある彼は、60キロの重量を何度か上げ下げしてみせた。

「智也くんもなかなかやるじゃない…」

「まぁ、美咲さんと比べたらまだまだかもしれないけど、僕も少しずつ力が付いてきてるんだ。」

「そういう地道な努力ができる人って、素敵だと思うなぁ…」

「そう言ってくれると僕も嬉しいな…。」

2人はトレーニングを忘れていろいろと話し始めた。

「新体操ってね……。実は柔軟性以上に筋力が必要な競技なの。
 だけど美しさが前提だから、見せない筋肉が大切なの…。」

「見せない筋肉??」

「そう…。ほら、ボディビルダーの筋肉は見せるための筋肉ってよく言うでしょう?
 それとは逆で、新体操選手の筋肉は見せてはいけない筋肉なの…。」

「なるほど………」

「私だってね、見た目は華奢だし腕だって細いけど、
 その辺のボディビルダーなんて片手で捻っちゃうくらい力持ちなんだよ。」

「ホントに?」

「ええ、例えばね…」

美咲は智也に替わってベンチプレスマシンに仰向けになった。
負荷を40キロ上げて100キロにする。
智也では到底持ち上げられない重さ。

「よいしょっ…」
「フンッ、フンッ、フンッ……」
美咲は100キロの重さを軽々と持ち上げる。
さらにかなりのハイペースで何度も何度も上げ下げする。

「まだ軽すぎるわね…」
美咲はさらに20キロのおもりを追加した。
合計120キロ!!
智也は思わず唾を飲み込んだ。

「ミシッ、ミシッ、ミシッ……」
さすがに先程よりは随分重そう…。
マシンの軋む音が聞こえる。
それでも美咲自身は、まだまだ余裕がありそうな気配。

「もうひとつ行ってみようかな…」
さらにおもりを追加する。
ついに140キロ…。
智也が持ち上げることのできる重さの倍以上だ。

「よいしょっ…、よいしょっ…」
「ミシッ……、ミシッ……」
マシンが悲鳴をあげている。
美咲の表情からもさすがに真剣さが伝わってくる。
それでも細い腕には薄っすらと力瘤が浮かぶ程度の筋肉しか見られない。
そんな彼女の姿を、智也は心の底から美しいと感じ始めていた。

「ふうっ…、ねっ、なかなかの力持ちでしょ。」
美咲は笑顔で智也に尋ねる。

「凄いね…。びっくりしちゃった。」
智也も正直な感想を述べる。

「もし良かったら、僕にもその見せない筋肉の鍛え方を教えてくれないかな??」

「ええっ??」
智也からの突然の提案に美咲は驚いた。
胸がドキドキする。

「忙しいだろうから、暇な時間だけでもいいんだけど…」

「私で良かったら、毎日付きっきりで教えてあげてもいいよ…」

「ホントに?」

「えぇ喜んで…。」
珍しく少し恥ずかしそうな表情を見せる美咲。

「じゃぁ明日の休み時間にもまた…。」

「うん分かった。あっ、あと…」

「何???」
美咲は恥ずかしそうに紙袋を手渡した。

「智也くんにチョコレート作ってきたの。プロテイン入りのスペシャルチョコレート。
 手紙も入ってるから家に帰って読んでくれると嬉しいな…。」

「どっ…どうもありがとう…」

智也も少し途惑っているようだ。
2人の様子を遠くから眺めていた佳織、七海、真央そして僕の4人は軽いガッツポーズを決めた。
美咲も僕らの方を振り返って、恥ずかしそうな笑顔をみせる。
彼女の告白は、手ごたえ十分といったところだろう。

つづく





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