29.春の高校バレー
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毎年恒例、春の高校バレー選手権に男女揃っての出場を決めたD学園バレー部。
僕と翔太は練習休みの水曜日を利用してその練習を見学にやってきた。
初めて見る佳織さんの練習姿は、一体どのようなものだろうか?
僕は期待に胸を膨らませて体育館へと向かった。
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「もっと飛び込めーーーっ!!」
「追え追え追え追え追え…」

甲高い声で厳しい激が飛ぶ。

今年初めての全国大会出場を決めた男子バレー部が厳しい特訓を受けていた。
練習を指揮するのは全国大会3連覇中の名門女子バレー部だ。

「何やってんだよ!!」
「もっと気合入れろーーー!!」

男子から別名『鬼コーチ』と呼ばれている七海が次々とボールを動かす。
選手たちは必死になってボールに食らいつく。

「まだまだーーーっ!」
「ドーーン!」
七海がスパイクを放つ。
流石にこれは止められない。

「しっかり取れよ!」
「バンーーっ!」
彼女が激しくボールをぶつける。
ぶつけられた男子は2年生のキャプテン。
後輩の女子に厳しい指導を受けながらも必死に特訓に耐えている。

都道府県予選では強豪校をなぎ倒し、初めての優勝を飾った男子バレー部。
そんな彼らが後輩の女子に指導を受けるのは少しかわいそうな気がする。
それでも女子バレー部の実力がその遥かその上をいっているのだから、耐えるしか仕方がないのだ。

2ヶ月前の練習試合でも、男子バレー部は女子を相手に2セットやって1点も奪えなかった。
今の男子部員に佳織の弾丸サーブを取れる者など1人もいないのだから、試合にならないのは当然。
あまりにもレベルが違うため、最近は一緒の練習すら行わなくなっている。

男子の特訓が一息つき、ようやく女子の選手たちも本格的な練習を始めた。
男子選手も怖くなるほどのスピード、パワー、高さ、コンビネーション。
練習の迫力が明らかに違う。

しばらくすると、体育館に大柄な男性が次々と入ってきた。
「こんにちはーーーっ。」
「よろしくお願いしまーーす。」
バレー部員たちは、男女を問わず挨拶を繰り返す。

「あの人たち何?」
「この近くに本拠地があるVリーグチームTAジャンパーズの選手たちさ。」
「TAジャンパーズ?」
「そう。日本社会人リーグのトップチーム。
 エースの植村選手は全日本でもエースを務める日本一のアタッカーなんだ。」

身長2メートルを超える選手たちが準備運動を始める。
しばらくしてネットを男子の高さに調節し、練習試合の準備が整った。

「ピーーッ!」
女子バレー部キャプテンのフロートサーブで試合が始まる。
ジャンパーズはきっちりセッターに返しエース植村にトスが上がる。

「バッ!」
男子エースによる最初のスパイク。
女子バレー部も七海と真央の2枚でブロックに行く。

「バチチッ!」
うまくコースを読んだ真央だったが、男子のパワーの前に左手が弾かれた。
ボールはそのままコートの外に落ちる。
最初の得点はジャンパーズに入った。

「よしっ!」
幸先の良いスタートに植村のテンションも上がる。

「ピーーッ!」
続いてジャンパーズのファーストサーブ。
女子バレー部は七海がきっちりとレシーブする。
セッターの真央はネットからやや離れた位置にトスを上げた。

そこに飛び込むのは女子バレー部エースの佳織。
信じられない跳躍力で空高く舞い上がると、体を反らせてバックアタックを放つ。

「バッコーーーン!」
3枚ブロックの横を打ち抜いて、ボールがコートに突き刺さった。
男子選手も全く反応できない凄まじい威力。
流石は世界ナンバーワンの女子選手だ。

「よーーしっ!」
気合を入れながらハイタッチを交わす女子バレー部の選手たち。
男子社会人チームを相手に1対1の同点に追いついた。

続くサーブは後衛に下がった七海。
キレのあるジャンプサーブが相手レシーブを乱す。
それでも何とか踏ん張って上げた二段トスに再びエース植村が飛ぶ。

「バッ!」
「バチチッ!」
難しいトスではあったが強烈なスパイクを叩き込んだはずだった。
しかし植村のスパイクは、佳織によって完璧にブロックされてしまった。
ボールは男子コートに落ちる。

「ピーーッ!」
「よっしゃーーっ!」
笑顔を浮かべる女子選手の面々。
女子バレー部の連続ポイント。
全日本男子エースのスパイクを、女子エースの佳織が完璧にシャットアウトしたのだ。

続くサーブも七海から。
今度はきっちりセッターに返したジャンパーズ。
センターからのクイックで攻撃するが、女子バレー部キャプテンが見事にレシーブする。
そしてチャンスボールが佳織に上がる。

「バッ!」
「バッコーーーン!」
今度は男子ブロックの上からスパイクをコートに突き刺した。
味方が頑張って作ったチャンスは確実に決める。
これこそが真のエース。
ジャンパーズの選手たちも諦めて脱帽するほどの威力だ。

その後も佳織は強烈なスパイクと確実なブロックで得点を重ねていく。
七海もサーブにレシーブ、速攻とオールラウンドな活躍を見せる。
そしてその攻撃を組み立てる真央のトス回しも男子社会人チームを翻弄する。

「バッコーーーン!」
「ピーーッ!」
最後は七海が中央からの速攻を決め、第1セットは女子バレー部が奪った。
25−12の大差。
ジャンパーズの選手たちもさすがにショックの色を隠せない。

「相手は女3人だぞ!
 喜多嶋と広末の2人を徹底マークして止めるんだ!」
ジャンパーズ監督からも厳しい激が飛ぶ。

そして5分ほどの休憩を挟んだあと第2セットが始まった。

次こそは勝とうと気合が入るジャンパーズ。
しかし第2セットに入り、女子バレー部の動きはますます速く、そして力強くなっていく。

序盤から圧巻の6連続ポイント。
この間、男子全日本のエース植村は女子エース佳織によって完全に捻じ伏せられている。
ジャンパーズ選手たちの焦りが冷や汗へと変っていく。

身長206センチの彼は佳織より8センチも身長が高い。
それでも佳織は、その驚異的な跳躍力により高さでも彼を圧倒する。
柔らかい体を十分に反らしてから放たれるスパイクの威力は比べ物にもならない。
握力や腕力、脚力といった全身の運動能力に大きな開きがあるのだろう。

「佳織さん、やっぱり凄いね…。」
「はっきり言って相手になってないね。まるで大人と子供だ。
 いくら男子バレーボール界のエースであろうと、佳織の相手をするには力不足だね。
 正直、比べるのも可愛そうなぐらいレベルが違ってるよ。」

見ている僕もそう思った。
試合も後半に入る。

男子エース植村にトスが上がるが、彼は佳織のブロックを怖がってスパイクを打ち切れない。
中途半端なフェイントを七海が軽々とレシーブすると、真央はチャンスボールを佳織に上げる。

「バッ!」
「バッコーーーン!」
再び男子ブロックの上からスパイクをコートに突き刺す佳織。

「ピーーッ!」
「よっしゃーーっ!」
圧倒的な力でチームを引っ張る佳織。
日本女子をオリンピック王者に導いたエースの風格が見て取れる。
飛び散る汗と笑顔はこの上なく魅力的に感じた。

「ピーーッ! ゲームセット!」

結局第2セットは25−9で終わった。
男子社会人のトップチームも、佳織や七海を擁する女子バレー部には全く歯が立たなかった。

これは低迷期を乗り越えオリンピックで金メダルを取るに至った全日本女子バレーチームと、
いまだオリンピックに出場することすらできない全日本男子との実力差を物語る結果でもあった。

『社会人チームが勝てないんだから、俺たちが負けるのも当たり前だよな…』
D学園男子バレー部の選手たちはそう思った。

つづく





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