ダイエット(後編)

フゥッ、フゥッ、フゥッ・・・・・
断続的な呼吸音が聞こえる。ここは、マンションの一室。そう、翔子の部屋だ。
2DKの分譲マンションの一部屋を改造し、トレーニングルームにしてある。
翔子はそこで、信じられないような巨大なプレートをはめたバーベルでトレーニングしていた。


あれから数日。
翔子は通っていた会員制のスポーツジムを辞めた。扱える器具に物足りなさを感じるようになったからだ。
多くの人間が使うことを前提としたジムのため、器具の種類は多いものの、1つの器具あたりの扱える重量はそれほどでもない、
とはいえ、多くのボディビルダーが通う日本でも有数のジムである。ビルダーからみても鍛えるには充分な環境である。
ただ単に、翔子の筋力があまりに凄すぎたのだ。

だがそんな翔子でも、最初は5kgのダンベルでさえ2,3回カールさせるのがやっとなぐらいだった。
しかし、復讐心という名の執念は凄まじく、翔子は鍛えに鍛え抜いた。
普通ならオーバーワークになりかねない量を敢えて自分に課し、それをクリアする。それを高校時代から何年も続けた。
継続は力なりとはよく言ったものだ。カロリーコントロールをするまでもなく、いつしか脂肪は自然に落ち、筋肉に変わっていった。
ダイエットという当初の目的は、わずか1年足らずで達成されたのだ。
だがそれは、翔子にとってはあくまでもただの通過点に過ぎない。
あの憎い上倉を、いやあの時、私をあざ笑った男ども全てに復讐するためにはこれではまだ足りない・・・。

また一方で、鍛えて筋肉が付くことに悦びを感じるようにもなっていた。鍛えれば鍛えるだけ、答えてくれる自分の肉体。
いつの間にか、ジムで一番の重量を平然と扱うようになり、ベンチプレスの世界記録を非公式ながら楽々と更新するようになっていた。
その頃からだろうか。片手カールをダンベルではなく、バーベルで行う翔子にとって、両腕を同時に使うトレーニングにおいて、
ジムで扱える重量では足りなくなったのだ。

すでに、何人もの男どもを屠って来た翔子だが、力への渇望は未だに満たされていない。
上倉の情報を掴んだときはすぐにでも復讐を果たそうと思った。
しかし、中途半端な復讐では今まで費やした年月に見合わない。
そう考えると、もっともっと力を付けたい。
この前の男は反撃してきたが、そんな気さえなくなるほどの圧倒的な力の差を見せ付けたい。
だが、このままこのジムに居ても、現状維持がせいぜい。それではダメだ。

翔子は、自分にはまだまだ伸び幅があると思っている。ただ、これから更に高みを目指す為にはジムを変えるしかない。
でも、今以上のジムなんてあるのだろうか? そう考えた時、1つの案が浮かんだ。
まだ、貯金はある。だったら、これからも高い月謝を無駄に払うぐらいなら自分のマンションの部屋を改造して、
トレーニングルームにし、それ相応の器材を自分で用意すれば良い。
そして、ティーチングトレーナーとしてジムに籍を置く代わりに、ジムのオーナーの口添えでかなりのトレーニング器材を用意することができた。
シャフトを手に持てる極限まで太くした、2tまで重量を増やせる特大バーベル。カール用のダンベルも500kgまでなら増やすことができる。
その他のマシンも、全て特注で一般人では到底扱えない重量を搭載したものばかりだ。

特製のトレーニングルーム&マシンで鍛え始めて早1ヶ月。翔子は、自身の筋量が明らかに増えているのを感じていた。
ジム通いから自宅トレーニングに変えて早速効果があったようだ。着実に、扱う重量も増えている。

ここにある重量でも足りなくなる日はそう遠くないかもしれない。勿論、そこまで復讐を引き延ばすつもりもない。
後は、タイミングである。上倉の元級友を始末して以来、通り魔は行っていない。だが、すぐに上倉に接触しても
足が付く恐れがある。復讐のための努力はしても、そのために今後の人生を捨てるつもりは全くない。

「時間はた〜っぷりあるわ。後は、期が熟せば・・・・・。」
そういって、翔子はトレーニングを再開する。
「時期が来るまで、鍛えに鍛え抜いて・・・最高の状態で相手をしてあげるから。上倉、待っていなさい・・・。」



自宅でトレーニングを初めて数ヶ月。翔子の身体は明らかに筋量が増え、厚みが増していた。
元々、平常時に筋肉が目立つタイプではなかったのだが、最近はそうでもなくなってきた。
それまでは、見た目は『肉付きの良い豊満ボディ』だったのが、
今では、豊満だが、服の上からでもはっきりと筋肉の隆起具合がわかるほどだ。
これでは、外に出るたびに変に目立ってしまう。
上倉に復讐するという本来の目的の為にはそれは得策ではないし、その上倉本人にも警戒される恐れがある。
姿を見た瞬間に逃げられでもしたら元も子もないないからだ。

「ちょっと、脂肪を削り過ぎたかしら。少し体脂肪率を上げないといけないわね・・・。」

普段、翔子は筋肉を見た目、目立たせないように脂肪をある程度残すように鍛えている。
その代わり、パンプアップした時のギャップは凄い。
が、幸か不幸か、最近はハードトレーニングの成果が如実に身体に現れるようになった。
翔子は、高校時代に100kgを超す超肥満体だったことからもわかる通り、本来は脂肪の付き易い体質なのだ。
しかし今では、脂肪が付くよりも燃焼する速度の方が速く、同じぐらいの速さで筋肉が付いていく。
勿論、筋肉が付けばそれだけ、筋力UPに繋がるのでそれ自体は嬉しい。

「プールトレーニングを減らしたのが影響あるのかしら・・・・・。」

トレーニングを自宅に変えて、唯一減った鍛錬がプールトレーニングである。
両手足や身体にウェイトを付けて、後は普通にプールで歩いたり泳いだりするだけの単純なトレーニングだ。
こればっかりは、自宅ではどうしようもない為、多少おざなりになっていたかもしれない。

「やっぱり、ジム通いは必要みたいね。」

結局、自宅トレに切り替えてからは、ティーチングコーチとして月に1,2度程度通うのみだったジムに
再び頻繁に通うようになった。だが、それが結果として翔子の復讐を早めることとなる。



古巣のジムへのプール通いを始めて早1ヶ月。
翔子は、筋量や筋力を落とさずに、元の女性らしさと力強さを同居させたハイパーボディを取り戻しつつあった。
いや、更に高い次元へと進化させたといっても良いかも知れない。
程よい脂肪は、メートル級の爆乳のカップサイズを更に上げ、腕や肩、太腿などの筋肉の見た目は更にしなやかになった。
そんな爆裂ボディを特注の競泳水着が包む姿は、美を備えた女ヘラクレスさながらだった。

「どっちにしても、目立つのは避けられないワケね・・・。」
翔子は、目立ってしまうのは半ば諦めていた。ジム内でボディビルダーに紛れれば、なんて考えは甘かったようだ。
ジム内の誰と比べても、翔子ほど、高い次元で筋肉の美と力強さを体現している者は居ない。
しかし、それは意外な僥倖をもたらした。

「いや〜、凄い身体ですね〜。」
スイムトレーニングを終え、プールサイドに上がろうとした翔子に男が話し掛けてきた。
「いえ、そんな・・・。・・・・・・・・・・・・・っ!」
位置的にプールサイドの男を見上げる形となった翔子は、その男の顔を見て思わず声をあげそうになる。

(上倉・・・・・・っ!)
何と、その男は復讐の最終目標である上倉だったのだ。


「どうしました?」
フリーズしかけている翔子を上倉は不思議そうに見ている。
「もしかして、今の一言がいけませんでしたか? 勿論、凄いっていうのは良い意味で言ったんです。お気に障ったらすみません。
ただ、『噂の君』がどんな人だろうかと思っていたら僕の想像以上で・・・。」
「『噂の君』・・・?」
初めて聞くフレーズだ。
「ええ。これは、このジムに通ってる友人談なんですが、貴女はこのジムで密かな人気なんですよ。
女性でありながら男性ビルダーでさえ足元にも及ばない筋量を誇りながらも、女性としての美しさを失っていないって。
格好良くて、綺麗で・・・すみません、これは今見た僕の感想です。」
翔子は、初めてこのジムで自分がどう思われているかを知った。通りでオーナーが慰留を望むワケだ。
客引きの意味合いもあったのだろう。
「・・・初めて知りました。そんな風に思われていたなんて・・・」
「だって、私もその友人に釣られてこのジムに通い始めたぐらいですから。隠れ人気とはいえ、相当なものだと思いますよ。」

翔子は神に、いやその上倉の友人に感謝した。
手掛かりを掴んだとはいえ、どう上倉と接触したものかと思案していたところだったからだ。
それが向こうからノコノコとやって来てくれたのである。
こちらは気付いたが、向こうは元同級生とは気付いていない。そして、明らかに口説きモード。
翔子は、上倉の普段の一人称が『俺』だというのを知っている。初対面相手に口説きに掛かるときに『僕』を使う。
本性を知らない相手ならば、コロッと堕ちたかもしれない。
(この辺は昔と変わってないのね。相変わらず女たらしで・・・女を性の対象か遊び道具としてしか見ていない低俗な男・・・。
でも、願ってもないチャンスだわ。慎重に行かないと・・・)

「しかし、本当に惚れ惚れするほど綺麗です。初対面でこんなことをいうのも失礼かもしれませんが・・・。」
「綺麗っていうのこの身体のことかしら・・・?」
かつての自分とは気付かず、いけしゃあしゃあと口説いてくる上倉。
しかし、そんな気障なセリフがまた妙に様になっている。恐らく、あれからも女遊びは続けていたのだろう。
(善人にでもなられてたらどうしようかと思ったけど・・・・・杞憂だったわね。)

「僕も運動不足解消の為もあって鍛えているんですが、どうやったらそこまでの身体を作り上げることが出来るのだろうかと・・・。
えっと・・・・・お名前を伺っても良いですか? 僕は、上倉といいます。」
「中原、中原翔子よ。」
翔子は、敢えてフルネームを名乗る。
「中原さん・・・ですか。」
一瞬だけだが、上倉の表情が曇る。
「どうしました?」
「いえ、どこかで聞いた名前だな、と思いまして。貴女とは初対面なのに・・・気のせいですね。すみません。」
予想通りだ。上倉も元級友同様に目の前の自分を初対面と信じ疑っていない。

「・・・それで、もし良かったらなんですが、僕に効果的なトレーニングの仕方をコーチしてくれませんか?
最初、このジムでは水泳だけのつもりだったんですけど、貴女のような素晴らしい身体の持ち主を見てると
僕も真剣に鍛えてみようかな・・・と。」
「私が密かに人気かどうかは知らないけど、あなたみたいに面と向かって褒められたのは初めて。良いですよ。」
「ええっ? ホントに良いんですか?」
「ええ。それに、言ってなかったですけど、私、ここの会員兼ティーチングトレーナーなんです。
だから、断る理由もないですし。ただ、夕方とかはそれなりに予約があるので、
お教え出来るのは遅い時間になっちゃいますけど、それでも良いですか?」
「それは勿論。中原さんさえ良ければ大歓迎です。」
話は簡単にまとまった。お互い、『目的』の為には相手に近付く必要があるので、当然の結果といえる。


それから、1ヶ月。翔子はプールトレのついでに上倉のコーチをするというのが日課になりつつあった。
たまに食事に誘われれば、断らずに応じる。お互いの腹積もりはともかく、表面上は打ち解けているかのようだ。
(もう、1ヶ月。そろそろ良いかしら・・・)
翔子がそろそろ行動に移そうかと思い始めたある日、上倉が始めて翔子を「飲み」に誘った。
食事で軽く飲むことはあっても、それを目的として誘われるのは初めてだった。

「どうです? なかなか良いバーでしょう?」
確かに、少し都心から外れているが、落ち着いた感じの良いバーだった。
「ええ、そうね。」
(酔わせてホテル・・・なんて考えてるつもりなら普通はホテルか、ホテルに近いとこを選ぶはずよね。
どういうつもりかしら・・・)
翔子は、上倉を侮っていたのかもしれない。
ヤるのが目的なのは明白だろうが、それはせいぜい酔わせて勢い任せだろうとタカを括っていたのだ。
そして、翔子自身もアルコールには自信があったので、酔った振りをして敢えて誘いに乗ってやろうかすら考えていた。
しかし、驕りからかやけに酔いの回りが早い。そう思っているうちにいつしか意識は朦朧となり、ついには意識が飛んだ・・・・・。




「う・・・・・・・・ん、ここ・・・は・・・・・?」
翔子が目を覚ましたのはあれから数時間後だった。だんだんと意識がハッキリしてくると、周囲の状況が飲み込めてきた。
「・・・ん? 何これ・・・」
翔子は、大きなベッドに大の字に寝かされ、両手両足にそれぞれ1つずつ手錠をはめられ、
その手錠のもう片方の輪っかはそれぞれのベッドの足にはめられている。
両腕・両脚共に余裕はなく、すぐには身動きできない状態だった。
だが、衣服の乱れはほとんどなく、意識を失っている間に何かされた形跡はない。

「やっとお目覚めか。どうです、気分は?」
辛うじて声の方に顔を向けると、ベッドから少し離れたところで上倉がソファーに座りタバコを吹かしていた。
「あなた、タバコ吸ったのね。」
今まで、上倉は翔子の前ではタバコを一度たりとも吸っていない。だから、翔子はてっきり吸わないものだとばかり思っていた。
「あれ? ・・・結構余裕あるね。案外、度胸あるんだな。やっぱ、女でも身体を鍛えると度胸がつくものなのかね。」
「ここは・・・どこ?」
見える範囲で部屋を見渡してみる。かなり広い部屋だ。反対側の扉まで10メートルはあるかもしれない。
家具らしきものは、上倉が踏ん反り返っているソファーとテーブルぐらいで、
後は無造作にベンチプレス用のマシンとバーベル等のトレーニング器具や、
使い方のわからないような道具がそこかしこに転がっていた。ただ、何故か窓が一切なく外の様子が全く伺えない。
「ここは、都心から少し外れた郊外の『俺』の家、にある『特別ルーム』だ。
まあ、要は地下室を少し改造しただけなんだけどな。」

地下室。通りで窓がないわけだ。そういえば、上倉の口調が変わっている。一人称も『俺』になっていた。
「これでも、結構稼いでいてね。
親元を離れて独り暮らしするにも、都心で狭苦しいマンションよりも郊外の一軒家というわけだ。
でないと、『遊び』を楽しめないしな、クククッ・・・」
下卑た含み笑い。そう、これが上倉の本性だ。むしろ、高校時代よりも磨きが掛かっている。
だが、翔子もここまで相手の仕掛けが早いとは思わなかった。


「カクテルに一服盛ったのね。」
「バーのマスターには金を掴ませてあるからな。
で、そっちの酒だけアルコールを強めにすれば、アルコールに気をとられて、薬には気付かないって寸法さ。」
「・・・随分と手馴れてるわね・・・・・。でも、わざわざ一服盛った割には寝てる間に手を出さなかったのね。」
「寝てる間にヤったって詰まんないだろ? 普通にホイホイなびいて来る女なら適当にホテルでヤって終わりだが、
あんたみたいなガードの硬いタイプはこうしてご同伴願うってワケだ。」
「・・・これが最初ってわけじゃなさそうね。よく今まで後ろに手が回らなかったわね?」
上倉がニヤリと誇らしげに笑う。
「そこは、俺の話術と金、それでダメならちょいと危ないクスリの力を借りれば万事OKさ。
大抵は、普段見たことがないような金額を掴ませれば喜んで股を開くがな。
それにもし、万が一警察沙汰になっても、キャリアの親父が『上』の方に居るんでね。何とでもなる。」
翔子は唖然とした。高校の時から裕福な生まれとは聞いていたがトンでもないドラ息子である。
天に変わって粛清、なんていうつもりは毛頭ないが、こんな女の敵でしかないような男は誰かが止めなければ、と思う。

「しかし、あんたを運ぶのは苦労したんだぜ? プールであんたの身体は見てるからある程度は想像してたが、
結局は男3人掛かりだ。」
「3人?」
まだ後2人、仲間が居るということなのか?
「・・・ふむ。こういうのも面白いかもな。オイ! お前ら、入っていいぞ。」
上倉は何かを思いついたのか、部屋に仲間を招き入れる。ガチャッという扉を開く音と共に、2人の男が部屋に入ってくる。
1人は、190cmはあろうかというガタイの良い大男で、もう片方は翔子と同じぐらいの身長の太った男だった。
名前は、背の高い方が須藤、太った方が村木といった。
翔子は、そのどちらとも面識はないはずなのだが、どこかで見たような気がする。
二人目の太った男が部屋に入ると、男は内側から鍵を掛け、鍵を自分のポケットに仕舞い込んだ。

「二人ともあんたと同じジムの会員だよ。」
言われて気が付いた。直接話したことは無いものの、確かに二人ともジムで見たことがあるような気がする。
「じゃあ、あなたに私のことを教えた友人っていうのは・・・」
「ご名答。こいつらがその『友人』だよ。」
「で、その『友人』がこの場に居るってことは・・・まさか・・・・・」
「そう。最初からこのつもりだったのさ。
『鍛えてる自分は男より強いと勘違いしてる女を嬲る』っていうテーマにあんたはピッタリだった。
俺も、学生時代からいろんな女を喰ってきたんだが、最近は少し食傷気味でね。
たまには変わった料理も食いたくなった、ってワケさ。
あんたは、身体は男以上に凄いがルックスは良いし、それにその爆乳。
そんなにデカくて尚且つ張りが良いってのは流石の俺もなかなか拝めないからな。」
そういうと、上倉は品定めをするような嫌な目付きで翔子を嘗め回すように見てくる。どこまで性根が腐っているのだろうか。
翔子は、怒りが沸々と込み上げて来るのを感じていた。
「でも、『自分を強いと勘違いしてる女』を相手にする割には、大の男3人掛かりなのね。」
「心配するな。奴らは基本的にギャラリーだ。二人ともあんたの隠れファンだってのは本当だしな。
まあ、だから俺と終わった後はおこぼれ位はくれてやるかもしれんが・・・。
それに視姦されながらってのがまた燃えるだろ?・・・クククッ」
「あなたの貧相な身体じゃ私に勝てないと思ったから、こうやってベッドに括り付けてるんじゃないの?」
翔子が冷静に言い放つ。
「けっ、無駄な体力を使いたくなかっただけのことだ。
それにあんたみたいなガタイは良いけど、豊満な肉体を『人間ベッド』にするのもオツってモンだろ。
後は、逃げようって無駄な気を起こさせない為ってのもある。出入り口は俺の後ろの扉だけ。
しかも、さっき見た通り内側から鍵も掛けさせた。換気を兼ねた排気口も人が通れる幅はない。
で、叫んでも声は絶対に外には届かないし、携帯も例外なく全て圏外だ。勿論、この部屋には固定電話も置いてないぜ。」
そういって上倉がおもむろに服を脱ぎ始める。
「これで、わかったろ? あんたは俺らに大人しく抱かれる以外に選択肢はないんだよ。」
それを聞いていた翔子は、フッと笑った。
「何がおかしい? それとも、そんな磔の状態から何かしようってか?」
さすがに未だに翔子が余裕のある表情を崩さないのが気に障ったのか、上倉は苛立ちを覚える。


「そうね。状況がわかるまでは、大人しくしてるつもりだったけど、もう現状も把握できたし。そろそろ良いかしらね。」
ググッと翔子の腕に力が篭もる。
「何を言っ・・・・・・・・なっ!!」
バキッという音と共に翔子の左手の手錠の鎖が弾け飛んだ。
「こんなもので私を拘束できると思ってたなんて・・・ホントにおめでたいわね。」
続いて右手、右足、左足と何事もなかったかのように手錠の鎖を引き千切っていく。
四肢が自由になると、今度は残った手足の輪っかを外した。力任せに強引に外した為、輪っかはグニャグニャに変形している。
「マ・・・・・マジかよ・・・」
傍観を決め込んでいた後ろの男二人も呆然としている。

「いつでも抜けた出せたとはいえ、やっぱり捕まってるのは窮屈だし退屈ね。」
翔子は、手足をプラプラさせながら軽く言い放つ。
「バカな! その手錠は特注品で本物より頑丈なんだぞ!」
上倉は信じられないといった表情で声を荒げた。
「じゃあ、錆びてたのかしらね。どっちでも良いのよ、そんなことは。
あなた達がその手錠と同じ運命を辿るってことは間違いないんだから。」
そういって、ひしゃげた手錠の輪っかを手に取ると、両手の掌の間に手錠を挟み、拍手(かしわで)を打つように、
しかし勢いはつけずにそのままゆっくりと力を込める。再び手を離すと、厚さ数ミリもないぐらい極薄の鉄板が出来ていた。
何と、腕の筋力のみで鉄をプレスしてしまったのだ。
さすがにこれには3人とも言葉が出なかった。
「に・・・人間ワザじゃねぇ・・・・・」
須藤が溜息を漏らす。
「どこがどう『勘違い』なのかお聞かせ願いたいわね・・・ってあら?」
翔子は、ブラウスの袖の上腕の部分が裂けていることに気付いた。
「力を入れるとすぐこれなんだから・・・もうパンプアップしちゃってるのかしら。
丁度良いわ。ついでだからあなた達に面白いパフォーマンスを見せてあげる。」
翔子は、両腕を肩の高さまで上げるとゆっくりと力を込めながら腕を折り曲げる。いわゆる、ダブルバイセップスのポーズだ。
暴力的に盛り上がる力瘤。
どこにそれだけの筋肉が眠っていたのか、以前よりもさらに厚みを増した力瘤はあっという間に袖の生地を引き裂いた。
気付けば、上半身はブラウスがほとんど破けて所々に生地が残っているだけになっていた。
下半身もタイトスカートの両端がウェスト部分まで裂け、ただの2枚の布キレになって下に落ちた。
その下は、特注の伸縮性に優れたスポーツブラとショーツだけだ。
「き、筋肉で着ている服を破いて脱ぐ女なんて・・・・・見たことねぇよっ!!」
村木は、完全にビビっている。
「う、うろたえんな! こんなの、ただの『見せるだけ』の筋肉だろうが!」
上倉が動揺する2人の男を一喝する。
「で、でもよ。明らかに服着てたときと体型が違うじゃねぇかっ!」
「体型が違うなんて失礼ね。ただ、ちょっとさっきより筋肉が盛り上がってるだけじゃない。」
ちょっと、なんてレベルじゃないのは明らかだった。
極限まで盛り上がった筋肉に、それでいてキュッとくびれたウェストや関節の細さ、
そして適度な脂肪が女性らしさを失わせないアクセントを付けている。
トランジスタグラマーならぬ、トランジスタマッスルといったところか。


「何なら『見せるだけ』の筋肉かどうか試してみる? まあ、どっちにしたって元々逃がすつもりもないけど。」
翔子と村木の目線が合いそうになる。
「ひ・・・ひぃっ! や、やってられるか。」
村木は慌てて扉まで駆け出す。しかし、ドアノブを回すが扉は開かない。
あまりの動揺に自分が鍵を掛けたことも忘れているようだ。
「な、何で開かないんだよ・・・っ!!」
「気は済んだかしら?」
いつの間にか、翔子が村木のすぐ後ろまで距離を詰めていた。
少ししゃがんで村木の腕ごと、その腰辺りに背中から翔子が自慢の腕を巻き付ける。
「あら? さすがにウェスト太いわね。腕が回り切らないじゃない。もうっ・・・」
やれやれといった感じで、翔子はそのまま構わずに脇腹辺りを掴んで強引に持ち上げる。
腕をそのまま自分の胸の高さまで持ち上げると、村木は1メートルぐらい浮いた形になる。
「な、150kg近い村木と軽々と持ち上げやがった・・・・・」

「がぁぁぁぁぁ、は、離せ!い、 いや、離して・・・っ」
村木はもうすでに涙目になっている。
「確かに、ウチのジムに通ってるだけあって脂肪の下はそこそこ鍛えられてるじゃない。
でも、もっとウェストは絞らないと体型が締まらないわよ。」
そういって翔子は徐々に腕に力を込めていく。翔子の特大の上腕二頭筋に挟まれる形になった村木の前腕からは、
ミシミシと骨の軋む音が聞こえてくる。
「どうせ死ぬんだから、せめて理想的なウェストサイズにしてあげる・・・・・ふっ・・・」
呼吸音と共に、腕に込める力が強まる。村木のダブついた腰に翔子の極太の腕がめり込んでいく様は異様だった。

ボキッ ・・・グシャグシャ・・・・・ッッ

「ぎゃぁぁぁぁっっっ!!!」
ついに、圧力に耐え切れず村木の前腕の骨が粉砕されたようだ。
その分、隙間が生まれたのか程なく翔子の両手が届くようになり、そのまま両手をクラッチする。
「両手が届いたことだし、そろそろ本気で行くけど・・・覚悟は良い?」
「うぅ・・・ぁぁ・・・や、やめ・・・・・・・・」
「・・・フンッ」
という掛け声と共に翔子の腕が更に一段と太くなったかと思うと、あっという間に村木のウェストを狭めていく。
いつの間にか、翔子の左手は右肘辺りでクラッチされている。気付けば、村木のウェストは元の半分ぐらいになっていた。
そして、

ぐじゅぐじゅぐじゅ・・・・・ぶしゅっ・・・・・

聞き慣れない音が村木の体内から聞こえてきた。村木は口から大量の血を流している。
恐らく、内臓がことごとく潰されたのだろう。
「あれ、もう終わりなの?」
あっけないわね、といった感じで翔子は村木の身体をドサッと床に落とす。
村木は、翔子の変形ベアハッグという人間万力プレスホールドで腰を絞られ、砂時計のように腰が異様に細くなって死んだ。


「ひぃっっ!! ば、化け物・・・・・!」
須藤が来るな、といった感じで後ずさっている。
「化け物ですって・・・?」
翔子の表情が怒りに歪む。ふと、部屋の脇に置いてあったベンチプレス用のバーベルが目に留まる。
「ふふっ、良いことを思い付いたわ♪」
そのバーベルには、左右50kgずつ計100kgの重量が付けられていた。すぐ側には追加用の50kgプレートが4枚。
それを手馴れた手付きでバーベルのシャフトにはめていく。あまりの重量にシャフトがしなる。
「さぁ〜って、ここにシャフトの重さを除けば、300kgに設定されたバーベルがありま〜す。」
そういうと、何なく右手一本でそのバーベルを持ち上げると、スタスタと須藤の前まで近付く。
「ひぃぃっっっ!! な、何を・・・・・」
300kgを軽々と持ち上げる翔子の右腕。その暴力的な力瘤を前に須藤はすでに戦意喪失している。
「あなた、私より上背あってガタイもそこそこ良いのに情けないわね。良いわ、チャンスをあげる。」
「チャ、チャンス・・・・・?」
「3択よ。よく考えて選んでね。
1、このバーベルを10秒間リフトする。
2、私に前から抱き付かれてベアハッグで全身の骨を砕かれる。
3、私に後ろから抱き付かれて変形ベアハッグで内臓破裂で死ぬ。
さぁ、選びなさい。」
「な・・・1以外助からねぇじゃねぇか・・・っ!!」
「人のこと化け物呼ばわりしたのを不問にしてあげようっていうのよ? それとも、普通に私と力比べして死にたい?」
須藤に選択の余地はなかった。目の前の筋肉女にまともに勝負を挑めば、村木のような無残な死が待つだけだろう。
「たかだか、300kgぐらい何とかなるでしょ? 『見せかけ』の筋肉の私が余裕でリフトできてるんだもの。ねぇ・・・フフフ。」
もうやるしかない、須藤は腹を決める。
普段、ベンチプレスで200kg挙げてるんだ、自分にそう言い聞かせて翔子からバーベルを受け取る。
「ハイ、どうぞ。せいぜい頑張ってねぇ。」
須藤がシャフトを下から掴もうとした瞬間、翔子はバーベルを持つ手を離した。
「なっ・・・・・・・・!」
ただでさえ、持ち上げられる可能性が低いところに、無常にも落下エネルギーが加えられる。

・・・ドスッ。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっっ〜」
元々、須藤が300kgをリフトできるはずもなく。バーベルを受け取った須藤の両腕は一瞬にして折れ、両肩の関節が外れていた。
そのまま、床にバーベルごと両手を叩きつけられたのだ。
「あらあら〜、ダメじゃない。ちゃんと持ち上げないと。」
「う・・・ぁ・・・・・あ・・・・・・」
「仕方ないからラストチャンスをあげる。」
激痛でまともに言葉を発せない須藤を尻目に、翔子はバーベルを拾いなおす。
今度はバーベルを両手で持つと、須藤の首の高さまで持ち上げた。
「両腕が壊れちゃったんだから、もうここしか持つトコないわよね? ちゃんと持たせてあげるから・・・」
そういうと、まるで飴細工のようにいとも簡単にシャフトを須藤の首に沿って折り曲げて行く。
両サイドのプレートが須藤の首の後ろで交差するように折り曲げていくと自然に鉄製の巨大な首輪が出来上がる。
そして、翔子はそのバーベルの首輪を右手一本に持ち替えると須藤の腰を左手で固定した。
「さぁ、最後のチャンスよ。首の鍛え方次第ではも・し・か・し・た・ら、助かるかもね〜。じゃあ、覚悟は良い?」
ふるふるふる。もはや声にならない須藤は涙目で必死に首を振っている。
「そんなに首を動かしてちゃ力、入んないわよ? それっ」
掛け声と同時にやや押す形でバーベルの首輪を須藤の首に引っ掛けた。
翔子が固定した腰を支点として徐々に須藤の首が上半身ごと後ろに沿っていく。
「あ・・・が・・・が・・・が・・・が・・・・・」

・・・・・ゴキッ

顎にシャフトが引っ掛かって真下に荷重が掛かると同時に須藤の首の骨は努力空しく折れた。
首が折れて可動域の増した首からバーベルが床にドスッと落ちる。

・・・ヒュー、・・・ヒュー

だが、須藤はまだ辛うじて息があるようだ。もはや虫の息だが。

「まだ、息があるのね。苦しませるのも可哀相ね・・・・・それ」
翔子が、須藤の腰に添えた左手をそのままに右手を須藤の胸に当て、力を込めた。

ゴキゴキゴキッ

折れた首と同様、背骨が在り得ない角度に曲がったかと思うと、程なく人間の二つ折りが完成する。
首と背骨の計2箇所で頚椎を破壊され、須藤も絶命した。残るは上倉のみである。


「さぁ・・・やっと、この時が来たわ・・・。」
恍惚な笑みを浮かべながら、ゆっくりと上倉に近付いて行く。
「ひぃっ・・・。く、来るなっ! くそ、何でたかだかヤろうとしたぐらいでここまでされなきゃならないんだよ!」
「確かに、この二人はそうだったかもしれないわね。まあ、見られた以上生かしてもおけないけど。」
そういって、すでに物言わぬ亡骸に視線を落とす。
「でも、上倉。あなただけは違う・・・。・・・・・本当にまだ気付かない?」
「・・・・・?」
「あなたと私。ジムで会ったのが初対面じゃないのよ。」
「お、俺はお前みたいな筋肉女の知り合いなんか居ねぇぞ!」
「『人間の体重に戻ったら相手してやるかもよ?』だったかしら? あなたのセリフは。」
「・・・・・え? 確かそんなことをどこかで・・・・・・・・あっ!! ま、まさか・・・高校の時の・・・。」
「そう。そのまさかよ。やっと、気付いてくれたのね。」
かつての場面を思い出し、上倉の表情はみるみる青ざめていく。

「あ、あんなの冗談に決まってるじゃねぇか。・・・な、なぁ?」
あまりの恐怖にソファーにへたり込んでいる上倉は青ざめた表情のまま、苦笑いを浮かべて必死に言い繕うとしている。
「あの言葉が冗談だろうが、本気だろうが関係ないわよ。あなたはうら若き乙女の心を無残にも踏みにじった・・・。
それだけは確かよ。」
翔子は伏せ目がちに冷静にそう言い放つ。
「ひぃっ・・・・・・」
その威圧感に恐怖したのか、ついにはガチガチと震えだした。
「結局、あの時と比べて体重は増えちゃったけど、必死で余計な脂肪は落としたのよ?」
そういって、翔子は全身の筋肉を強調するように様々なポーズを取っていく。
女性らしいフォルムでありながらも爆発的に盛り上がる筋肉。服を引き裂いた時ですらまだ本調子ではなかったようだ。
先ほどよりも明らかにパンプアップしている。

「どう? 私の身体・・・綺麗だと思わない?」
「・・・・・・」
「あの頃からは見違えたでしょう?」
「い、・・・幾らなんでも違い過ぎだろう!」
「それだけ頑張ったのよ。」
「最初は、エラく良い身体してるなとは思ったが・・・。いくら巨乳でナイスバディだってそんなに筋肉隆々じゃ・・・」
「あら、昔から筋肉っていうのは”美”の象徴でもあるのよ。ギリシャ彫刻を一度ぐらいは見たことあるでしょう?
女性は痩せてれば良いなんて間違った美意識は、日本独自の悪習だわ。」
「そ、そんなこと言ってんじゃねぇ!
300Kgを軽々と持ち上げたり、大の男を抱き潰したりするような女がどこの世界に居るって言ってんだ!」
もう、命乞いは諦めたのか、上倉は半ば半狂乱になって捲くし立てた。
「フフフ、ここに居るじゃない。・・・女が男より腕力で劣るなんてのはただの幻想よ。女だって鍛えればここまで強くなれるの。
それを世の中に知らしめて行けば、あなたみたいな、女をおもちゃか何かと勘違いしてるような男も居なくなるでしょうね。」
「ひぃっ・・・!」

「さぁ、どうやって殺してあげようかしら・・・。」
翔子の表情は恍惚としている。待ちに待った瞬間を迎えようとして興奮しているのだ。
「抱き締めて全身の骨を粉々にするのも良いし、四肢を胴体から引き千切るってのも面白いわね。
・・・せっかくだから、あなたのリクエストも聞くだけ聞いてあげる。どうやって死にたい? フフフ」
上倉はその質問には答えず、ガクガクと首を振って震えている。

「人が折角、せめてもの情けで人生最期の希望をきいてあげようっていうのに・・・。」
翔子はやれやれ、といった表情だ。
「・・・お、・・・お願い・・・ですから、・・・い、命だけは・・・た、たす・・・」
「だぁ〜め。月並みなセリフだけど、あなたはそうやって許しを請う女の子を今まで許したことがあったのかしらね・・・?」
上倉の命乞いを間髪入れずに遮ると、逆に問い掛ける。

「・・・そ、そんなことなら幾らでも・・・」
ニヘラ、と締まりのない薄ら笑いを浮かべて上倉が答える。すると、一瞬で翔子の表情が曇る。
「・・・嘘も休み休み言いなさい。お金や権力を笠に、女を黙らせて来た男の言葉じゃないわね。」
上倉も、翔子が明らかに静かな怒りに震えているのを肌で感じた。だが、失言と気付いた時にはもう手遅れだった。


「・・・あなたの処刑方法を決めたわ。
『それ』が元々、人だったなんてわからないぐらいグチャグチャの、ただの肉塊にしてあげる。」
「ひぃっ・・・・・! ・・・・・・っ! ・・・そ、そうだ。」
「? ・・・・・いくら命乞いしたって無駄よ。」
何を思い付いたのか、上倉の顔に再び下卑た笑いが浮かび上がる。

「そ、そういや、こんな足の付く殺し方してどうするつもりだったんだ?
しかも、あんたがバーで俺と一緒に居たのはバーの店長が知ってるんだ。どうやっても逃げられないぜ?」
「・・・ふぅん。それで?」
「そこで、だ。俺を見逃せば親父に口利いてやるぜ? そうすりゃ捕まる心配もない。俺も助かる。それで手ぇ打たないか?
あんたも、20代で逃亡生活なんてしたくないだろ?」
いかにも、名案を思い付いたぜ、とでも言わんばかりに上倉は勝ち誇っている。今までビビっていたのが嘘のようだ。・・・だが。

「お生憎様。残念だけど、それに関しては最初から手を打ってあるのよね。」
「・・・・・へ?」
予想外の返答に上倉は呆然としている。

「まあ、ボンボンのお坊ちゃまじゃ、世の中の『裏』を知らないのも仕方ないかしらね。」
「・・・ウ・・・ラ?」
「裏の稼業ってことよ。殺し屋とかとは別に『掃除屋』っていう死体処理のプロが居るのよ。」
「・・・う・・・、嘘・・・・・」
「自分で直接手を下したいけど捕まりたくは無い、って輩は大勢居るのよ。
勿論、殺し屋よりもリスクが大きい分、遥かに依頼料は高額だけどね。」
殺人が行われた現場で仕事をするのだから当然だろう。下手をすれば、容疑者になりかねないのだ。
そういう意味では、自分で状況をある程度選べる「殺し屋」稼業の方がリスクは少ないといえる。

「前金に成功報酬も含めるととんだ散財だわ。でも、それもあなたに復讐するため・・・。そう考えれば安いものよ。」
翔子は徐々に上倉との距離を詰めて行く。すると、上倉は後ず去ろうとしてバランスを崩し、ソファーごと後ろに倒れた。

「・・・ひっ、ひぃっ・・・!」
往生際が悪いのか、今度はベッドの方に這い蹲って逃げようとしている。
「・・・ふぅ。こうなるともう憐れね・・・。」
翔子は溜め息をつくと、そのまま近付き、上倉の首を掴んでベッドに放り投げた。
「女誑しらしく、最期はベッドで迎えさせてあげる・・・。」
ベッドに仰向けに転がされた上倉に、翔子が徐々に覆い被さって行く。
翔子の方が上背があるために、上倉は完全に翔子に隠れる形になる。そして翔子は、おもむろに上倉の両脚を自分の脚で挟んだ。
上倉の上半身も、その極太の腕で抱き締める。そうすると、上倉は頭は丁度、翔子の爆乳に埋もれる形になった。

「今際の際の役得よ。人生最期の快楽を味あわせてあげる・・・。」

ベッドで、女に抱き締められる男。端から見れば恋人同士にも見えたかもしれない。
しかし、その抱擁は間違いなく「死への抱擁」だった。翔子は徐々に、その腕や脚に力を込めて行く。

ググッ・・・ミシッ ググッ・・・ミシッ

その度に、上倉の身体から骨の軋む音がした。爆乳に埋もれ、「落ちた」状態の上倉の反応はない。
しかし、翔子は更に力を込めて行く。骨の軋む音は大きくなり、ついに、あちこちの骨の折れる音が聞こえてくる。
上倉が居るはずの「空間」の体積が徐々に小さくなっていく。



何分経っただろうか。いつしか、骨の砕かれる音が聞こえなくなっていた。
既に、上倉の全身の骨は粉々に砕かれ、磨り潰されたのだ。
結局、上倉は翔子の宣言通り、全身の骨を砕かれ、肉を磨り潰され、人とわからないようなただの肉塊となって死んだ。


「これで、・・・終わり。案外、呆気なかったわね・・・。」
晴れて復讐を果たした割りには、その表情は優れない。
「さぁ、後は『掃除屋』に任せて、私は少しばかり海外旅行でもしようかしらね・・・。」





その後、その街で翔子の姿を見た者は居ない。


おわり





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