ドラゴンスレイヤー

中世のとある時代の事、その世界では
懸賞金のかかった魔物を倒す事で生計を立てている者たちがいた。
その中でも魔物の中の最上級『ドラゴン』を主に倒している者たちは
総称して『ドラゴンスレイヤー』と呼ばれ半ば神に近い存在として崇められていた
それはドラゴン自体が下級のものでも国家の一軍隊を滅ぼす力のあること。
そして何よりドラゴンを一体でも倒すとドラゴンの最高峰『皇龍』に目をつけられることだった。
今までこの皇龍と戦って生きて帰った者はおらず、それを含めて
ドラゴンに挑む物はこの現在まで崇められていたのである。
そんな時代にドラゴンスレイヤーを生業とするある女がいた。

「ウォッカ一つお願いね」
酒場で酒を頼む一人の女、すきとおるような白色の肌に、金色の腰まである髪。
体格はそこまで大きいわけではないが
しっかりと鍛えこまれたと一目で分かる肢体をしている。

「はいよ、それにしてもレイラはいつも入ってくるなりこんなキツイ酒を
 頼んでよくそんなに飲めるよな」
レイラ…それが女の名前のようだ、酒場のマスターがいつものように
ウォッカを差し出すとレイラはゆっくりと手に取り、一気に飲み干していく。

「まあね、それよりもっと強い龍はいないのかしら?
 この私を満足させてくれるくらいの」
レイラはここ最近身体を動かしていないらしく、少しイライラしているようだった 。

「何言ってんだい!?そこらの龍一匹倒すのだって国家が総力あげてくってのに
 そんな奴らを普通に倒してるアンタがおかしいんだよ、世間からしたらな。」
酒場のマスターも驚いている。
それもそうだ、この酒場・・・いや世界中どこをさがしても
ドラゴンスレイヤーを名乗って一年と生きていた者はいなかったのだから。

「そうでもないわよ、皆強くもないのにドラゴンスレイヤーなんて
 軽々しく名乗るからあっという間に殺されちゃうのよ。
 私なんかもう五年になるかしらね、この仕事を始めて」
マスターはもう声も出ない様子だった。

「そうね、そろそろこの仕事も飽きてきたし、さっさと皇龍でも
倒して別の仕事でもさがすかな」
あっさりとそう言ってのける姿にマスターはとうとう
呆れを覚えたようだがまだレイラは話し続ける。

「ねえ、マスター・・・てっとり早く皇龍に会う方法ってないかしら?」
レイラが質問するとマスターは

「あれだけ龍を殺し続けておいて、今まで皇龍に狙われなかったのがおかしいくらいなんだぞ?
アンタどういう倒し方してきたんだ?」
マスターが問いかけると

「それは企・業・秘・密よ♪」
これ以上聞いてはいけないような気がしたようだ。

「まあいい・・・そうだな、今まで倒してきた龍の角とかを
 鎧とかに装飾してそこらの荒野にでも行けば
 すぐに飛びついてくるんじゃねぇか?」

その話を聞いて目を輝かせたレイラは
「ありがとう、マスター!」

そう言い残して、レイラはその場を去った。


ある日の昼マスターに聞いた通りに
体中の到る所に龍の角や牙を装飾して荒野にあらわれた
レイラの姿があった

「こ〜うりゅ〜う出てきなさ〜い!!!」
恥ずかしげもなく大声を出すレイラ。
もちろん人気もないこんな場所で聞いている者は
誰もいないのだが、しばらくすると
地震でも起こったような地響きとともに、なにか巨体が姿をあらわす。

「ワザワザ コロサレニクルトハナ・・・!
 シカモ オナゴカ ブキモモタズ ワレモナメラレタモノダナ」

「龍もこのクラスになると大きいわね」
身の丈10メートルはあろうかという大きさに
さすがのレイラも少し驚いたようだ。

「それに喋るのね、龍って壊したりするばかりの
無能揃いって思ってたんだけど」

「ワレヲ ソンナカトウナモノタチト イッショニスルナ!!
クダランマエオキハ ココマデデヨカロウ サアカカッテクルガヨイ!」
皇龍がそう言い放つと

「嫌よ!」
レイラはそう切り返す。

「ナンダト!!ドウイウコトダ?」
「だって私から攻めたら一撃で終わっちゃうじゃない。
 手加減なんてあんまり得意じゃないし」

「ソコマデ ワレヲグロウ スルカ!!?
イイダロウ ニドトソノヨウナヘラズグチヲ タタケヌヨウニシテクレルワ!!!」
そう言うと皇龍は前足を高く上げレイラを踏みつぶしにかかった。

グォン!!
周囲を巻き込むような荒々しい衝撃が巻き起こる。
「フン ショセンはコノテイド カ・・・」
そんな皇龍の考えをよそに、

「何が『この程度』なのかしらね?」
踏みつぶしたと思ったレイラの声がする事に驚いたのだろう。
「ドコダ!!」
皇龍が声を荒げる。

「ここよあなたの足の下」
何とレイラは片手で皇龍の踏みつけを防いだのだ。
その皇龍の足を支えている右腕には先ほどまでは細く浮き上がっていた
筋肉が二倍にも三倍にも膨張し肌をピンと張らせている。

「皇龍なんて言ってもこんなものなのかしらね?
ヨイショっと!」軽く掛け声を入れると支えている右腕がさらに
膨張し、ゆっくりと皇龍の足が浮いていく。
「エイ!」
少し力を入れると皇龍はひっくりかえってしまった。

「ナン・・・ダト!!」
大きな音をたてて皇龍の体が横たわる

「ねぇえ、もっとすごい切り札とかないの?
こんなんじゃ私つまらないんだけど・・・」
レイラが挑発するように言うと

「ニンゲンノ・・・ニンゲンノオンナナドニコノワレガ
マケルハズガナイノダァァァ!!!」
レイラの発言に気が触れてしまったのか
レイラに向かって飛びかかっていく皇龍。
そして、レイラの腕に噛みついた
「フン コンドコソハ・・・」
と皇龍が安心したのもつかの間、

「そんなに噛みしめてくれちゃって・・・
そんなに私の腕っておいしいのかしら?」
レイラは苦しむ様子もなく平然とした態度で問いかける。

「ナニ!!!」
自慢の研ぎ澄まされた牙で噛みついているはずの
腕が血の一滴も垂らさずに牙を凌いでいる・・・信じられるというのが無理だろう。

「でも、乙女の肌に傷をつけようとするなんて仮にも
皇帝の紳士的な態度とは程遠いわね」
そういうと噛まれている腕に力を入れ、力瘤を作るように腕を折り曲げた。

ボキン!
綺麗な金属音のようなものとともに
龍の牙が折れてしまった。
「グォォオオォオ!!!!」
相当堪えたのだろう、皇龍がけたたましい声で泣き叫ぶ。

「ああ、もううるさいわね!
もっと、こう私を驚かせるような切り札とかもうないの?」

少しすると皇龍が飛び跳ね、レイラから少し距離をとる
「ユルサン・・・モウユルサンゾ ニンゲンメ!!!
モウ ハイヒトツスラ ノコサン」
上級なドラゴンだけが扱えるブレスを吐こうとしているようだ。

レイラはまるで新しい玩具を見つけたように、
「そうそう、そういうのを待ってたのよ!!
でも、そんな熱そうなの吐かれちゃったらいくら私が強いっていっても
本当に灰も残らないかもね・・・だから」

レイラは深呼吸を始めた
「モウナニヲシテモオソイワ!!!
シネエィィィイ!!!」
少しでも触れると火傷では済まないであろう
業火がレイラに向かい吹き荒れる。

フゥゥゥゥ
レイラはそれに合わせるように強く息を吹きかける
すると業火はレイラのの元から吹きかえり、
ドラゴンの横を軽くかすめた。

「グォオゥ!!!」
硬さが自慢の皇龍の鱗もさすがに
少し焼け焦げてしまったようだ。

「どうやらこれでもう、手を尽くしたって顔をしてるわね。
そろそろいいかしら?」
レイラが蔑んだ表情で皇龍を見上げる。

「グッッオゥオオオオオオ!!!!」
皇龍が叫ぶ、本当に手が尽きたようだ。
何の言葉を発することもなくただ叫びつづける。

「ああ、だからうるさいって言ってるでしょ!!」

ガッ!!
レイラは素早く皇龍の腹に潜り込みパンチを入れた。
「グォウ!! グゥゥゥゥゥ・・・」
皇龍はたった一発のパンチで気絶してしまったようだ。
腹といえば、龍の皮膚で一番固い鱗がある部位だが、
そんな鱗もレイラの圧倒的筋力の前では何の意味もなかったようだ。

「やっぱり呆気なかったわね。
 さてと、確か龍の角ってた高く売れるのよね♪
 それに皇龍のものとくればいくらの値段がつくことやら」

この世界最大の化け物を相手にしたすぐ後とは思えない
ような可愛らしい声で、レイラはお金の事を考えていた。

「さてと、別の大陸に行けばもっと強い化け物に会えるのかしらね」


おわり





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