ストリートの女王・絵里外伝
山田組史上最悪の一日

「本当にこいつか、仲間をやったのは」
「はい!間違いありません、この女です!」
 人通りのほとんどない路地を歩いていた一人の女性を、突如現れた十数名の男たちがぐるりと取り囲んだ。
この女のいつも通る道を下調べした上での、待ち伏せだった。

「何なの?あなたたちは」
 360度を強面の男たちに包囲されたその女だったが、特別怯む様子もなく問いかける。
目の前に広がるこんな光景が、特別珍しい状況ではないかのように。
「この間、俺の大事な舎弟の連れをやってくれたらしいじゃねえか、ノッポの姉ちゃん…」
「俺達ゃ山田組のもんだがよ…泣く子も黙る山田組の仲間に手ぇ出してタダで済ませてもらえるなんて
甘いこと考えちゃいねえだろ?ちょっとツラ貸せや、かわいがってやるからよ」
「しかしあいつも情けねえもんだな、ちょっとでかいとはいえこんな年端も行かないお嬢ちゃんにやられたって?
あとであいつにもちぃと気合入れてやっとかねえとな」

「山田組?あぁ、そういえばこの前あたしに言いがかりつけてきた人がそんな名前出してた気もするわね…
で?それが何?」
 取り囲まれながらもその女は、それがごくありふれたことであるかのように平然と男たちに返す。
「ぐっ……兄貴、この女俺たちをナメてますぜ!」
「でけえからっていい気になってんじゃねえか!?」
 そう、この近くにある高校の制服を着用した女、いや少女、絵里はこの場にいるどの男よりも背が高かった。
男たちが作った円の中心で、この少女の頭が飛びぬけて外部から見える形だ。
しかし、大きいからといってたった1人の少女が、こんなにも多人数の暴力団員を前にして
なぜこうも平常を保っているのか…まったく理解できない男たちの怒りが沸騰していく。
「このアマっ!!」
 先陣を切って、1人の若い男が少女に向かい殴りかかる。

 ズゴッッ!!

 一瞬、稲妻が走ったような錯覚をその場の男たちの誰もが覚えた。
次の瞬間には殴りかかった男の体が高々と宙を舞い、反転して顔面からアスファルトに着弾していた。
赤い花が開くように鮮血が飛び散り、仰向けに倒れた男の顔を見て他の男たちの血の気が引いた。
男の下顎が真っ二つに割れて、それぞれがまったく逆の方向を向いているのが皮膚の上から確認できたからだ。
「お、おい、しっかりしろ!!」
「何だ…一体何が起こったんだ!?」
「あらあら、もしかして今の動き、全然見えなかったのかしら…随分鈍いヤクザさんたちなのね」
「な、なんだと!?」
 男たちのうち、その中の誰も今起こった事態を飲み込めなかった。
飛び掛っていった男の顎を、瞬時に繰り出されたこの少女の鋭いアッパーが打ち砕いたことを。

「あ、兄貴、だから言ったんですよ!この女を甘く見ちゃいけないって!
この間のサブの野郎を見たでしょ、体中で無事なところが一箇所もないぐらいボコボコにされて、
未だに病院のベッドでうなってるのを」
「う、うるせえ、だからこれだけ人数集めたんじゃねえか!」
「…待てよ、ひょっとしてどこかで噂になってたストリートの王って、ま、まさかこのガキのことじゃ…」
「何ブツブツ言ってんだ!やれ、やっちまうんだよ!!」

 ズドドドドドォッ!!
 激しい複数の打撃音が瞬時に響き渡ったかと思うと、次に襲い掛かっていた体格のいい男がその場に崩れ落ちる。
ありとあらゆる方向から、顔全体が少女の拳の形に陥没させられてその凹みの全てに血の水溜りを形成していた。
その辺のチンピラがハッタリで口にするのとはレベルの違う、本当の意味でこの男はボコボコにされてしまった。
その動きもまた、男たちは誰一人として目で追うことはできなかった。


 彼らは悲運にも、知らなかったのだ。この街の秘密を。
なぜ広くて豊かなこの街に、数あるどの暴力団も手をつけず、裏社会の権力争いの空白地となっているのかを。
…それは、全てこの少女の存在にあったのだ。


「わあああーっ!!」
 背後からまた一人、男が襲撃する。絵里の後頭部めがけて、チェーンの巻かれた木刀を振り下ろす。
しかし、むなしくもその一撃は絵里に易々と食い止められてしまった。
「お・そ・い。それじゃ当たらないわよ、残念だけど♪」
 木刀の先の部分をつかんだ絵里の握力は男の想像をはるかに超えるほど強く、
男はショックで青ざめながら必死にそれを振りほどこうと両手に全力を込めるが、ビクともしない。
逆に、その状態から軽く手首をひねっただけの絵里に男は投げ飛ばされ、木刀を奪われてしまう。
並みのパワーではなかった。
「ふふ…」
 ベギャアアアアッッ!!
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
 狭い路地に、男の恥も外聞もない絶叫がこだまする。
地面に叩きつけられてよろよろと起き上がろうとしていた男の背中に、絵里の奪った木刀がうなりを上げて炸裂したのだ。
木刀は真っ二つに折れ、金属製のチェーンも一部が割れてジャラリと地面に這う。
「こんな簡単に折れちゃう棒で、あたしをどうにかするつもりだったの?笑っちゃうわね」
 冷たく見下ろす絵里の目線の下で、男は激痛に泣き叫びながら自由にのたうつことすらできない。
おそらく、先程の一撃で木刀だけでなく男の背骨も砕けてしまったのであろう。悲痛な叫びが、止まない。
「ちょっと、静かにしててくれない?」
 ボゴオォ!! ベキベキベキッ……
 涙を流して泣きわめいていた男の顔面に、絵里のローファーが無情に、力強く叩き込まれた。
バラバラと音を立てて男の赤く染まった前歯、奥歯があたりに降り注ぎ、男の泣き声は止んだ。
大きく窪んだ顔面から血を垂れ流し、充血した白目を剥いてピクピクとおとなしく震えている。


 …表向きは暴力のない街として平和を保っているこの街だが、
別に今までどの組織もここに手を出さなかったわけではなかった。
ただ、それをやってしまった組織はことごとく『消し去られて』しまったというだけのことだ。
『ストリートの王』の異名で恐れられる謎の人物の手によって。
その手にかかってこの世の地獄を見せられた者は大体、
死亡、発狂、自殺、植物人間のいずれかの悲惨な末路をたどったため、誰もその正体を正確に知るものはいない。
ただ噂話として流れる、鬼のような強さと悪魔のような残虐さを持つ『王』の存在だけが様々な組織をためらわせていた。

 …そしてまた今日、一つの組が触れてはならない伝説の暴君に触れてしまったのだ。
この街の裏側を駆ける悪魔について少しでも知っていれば、彼らは下記のような地獄絵図を彩る亡者にはならなくて済んだのに。
噂にだけは聞いていたという『王』の正体、いや『女王』の手で……


「あたし、時間がないんだけど。
もうこんなものでいいでしょ、早く行かないと学校に遅刻しちゃう」
 そう、軽い作業のごとく平然と男どもを血の海に沈めてしまう暴虐女王・絵里だが
表向きの姿は普通より背が高く力が強いだけの、ただの女子高生なのである。
変なチンピラより、学業のほうを優先したい気分だったのだ。その時点では。
「ま、待ちやがれ!!てめえだけは…殺す!!」
 男たちの集団の中で兄貴と呼ばれていた男が意を決して絵里の前に立ちはだかった。
懐から、拳銃を取り出して。

「それで、あたしを殺そうって言うの?」
 目の前で銃を見せ付けられても、まるで怯む様子を見せないどころか、少しずつ歩み寄ってくる絵里。
「てめぇ…これがオモチャだとでも思ってんのか!?

 シュッ!
「う!?」
 絵里の、制服のミニプリーツスカートが少しなびいたように見えた瞬間、男の手から拳銃が消え去っていた。
男の動体視力で捉えられない速さ、鋭さで繰り出された絵里の右脚が下から銃をすくい上げ、宙高く舞い上げていたのだ。
それに気付いたときにはもう遅かった。
その回転式の拳銃は絵里の手に渡り、慌てて逃げようとした兄貴分の男の口には、素早く銃口がねじ込まれた。
「ん、ふぐぅっ、んぅ……」
「こんなもので、本当に人って殺せるものなのかしらね…」
 拳銃を咥えさせられた男の顔からは、雑巾を絞ったかのように大量の脂汗がドッと溢れ出す。
「試してみよっか…」
 冷たい目で、しかしどこか楽しそうにそんな恐ろしい台詞を口にする絵里。
撃鉄を起こす音が、男の口腔内にカチャリと響いた。
「んーっ!!んぐぐ、ん゙ん゙ん゙――――っっ!!」
 硬く冷たい銃口をフェラチオさせられながら、男は恐怖のあまり錯乱状態となり
歯の根が合わず銃口を前歯でカチカチ鳴らしながら大粒の涙をとめどなく流し始めた。
今までに多くの相手を暴力で押さえつけ、従わせてきたヤクザの威厳などもはやどこにもない。
今あるのは女子高生にからかい半分で脅され泣かされる間抜けな中年男の姿だ。

「くそっ、いい加減にしろこのガキが!」
「兄貴を…兄貴を放せ!!」
 震えを隠しながら周りで見ていた男たちが絵里のもとに踏み込もうとする。
「なぁに?やるの?」
「くっ…」
「あなたたちの大事なお兄さんの、脳味噌がどんな色してるのかその目で見てみたいって言うんだったら…
かかってくればいいんじゃない?」
 そう言って絵里はさらに深く男の口に銃口を押し込みながら、取り囲む男たちにウインクしてみせた。
引き金にはしっかりと人差し指がかけられている。男たちがもし一歩でも前に出れば本当に発射してしまいかねなかった。
 じょぼぼぼぼぼぉ……
 ぶりっ、ぶりぶりぶりぶり……
 迫り来る恐怖が、ついに男の最後のプライドまでを崩壊せしめた。
兄貴と呼ばれていた男はついに絵里の前で失禁、前から後ろから何もかも漏らしてしまった…
湯気を放つ黄色い水溜りが股間から広がり、膨らんだズボンからは異臭が漂う。
「うわ〜最っ低。あれだけいばってたヤクザのおじさんが、女の子の前でお漏らししてる〜。
あなたみたいな人、もう生きててもしょうがないんじゃない?やっぱり射殺かな」
「ん―――!!ふぐっ、もごもご…」
「…冗談よ。あたしもこんなオモチャなんかより…
こっちのほうが、何倍も熱くなれちゃうんだから!」
 ズゴオォッ!!
 その言葉と同時に、お漏らし男は絵里に髪をつかみ上げられたかと思うと
顔面を正面から絵里のニーソックスに覆われた膝の直撃にさらされ、ブチブチとまとめて髪のちぎれる音とともに
数メートル吹き飛ばされた。
顔の中心がきれいに絵里の膝の形に陥没、前歯一本残らず失って血だるまの状態で完璧にKOされている。

 目の前の大女の圧倒的な力と冷酷さを目の当たりにし、包囲している男たちのほうが怯え、戦意を失っていた。
「さぁて、今度はあたしから行かせてもらうわね。だ・れ・に・し・よ・お・か・な♪」
 近くを流れる用水路に奪い取った拳銃を放り投げると、絵里は両手をボキボキと鳴らしながら
震えて後ずさる男たち一人一人に視線を送りながら処刑の品定めを始めた。
「ひっ、ひぃぃ…た、助けてください…」
「お、お嬢さん、学校があるんでしょ?もう僕たちはいいですから…早く学校行ってください」
 極道の誇りもどこへやら、男たちはたどたどしい小さな声で口々に許しを乞う。
「心配しなくても大丈夫よ。あなたたちのおかげで、もう今からならどれだけ急いだって遅刻は確定なんだから。
一時間目の途中から行っても遅刻、六時間目だけ顔を出しても遅刻、そう大差はないわ。
つまり時間はたっぷりあるってわけ。どう?うれしい?
ここにいるみんな公平に、絵里ちゃんが心を込めてお料理してあげるからお楽しみに、ね☆」

 ドムッ!!
「ぐ、ごぼぉっ…!!」
 彼女の冷徹な処刑宣告が終わると同時に、不運にも視線が合ってしまった一人の男が早くも犠牲となる。
みぞおちを、絵里の天を突くような膝蹴りに襲われた小さな男は数十cm空を舞い、身を丸めたまま墜落した。
悶絶の表情で滝のように流れ出す真っ赤な吐瀉物に溺れるようにして、その男は沈んだ。
 ガキィッ!
「ぎゃ…ぐえええええ」
 その惨劇を目で確認する間もなく、今度は隣にいた男が捕獲される。
両腕を相撲の閂のような状態で捕らえられ、さらにそこから余った絵里の長い両手に喉を締め上げられる。
腕関節までガッチリ極められた、地獄のネックハンギングツリーだった。
両足は地面から高々と離れ、腕の自由も奪われて、宙吊り。
骨がベキベキと軋み、窒息状態で紫色に変色した顔で絶命寸前の苦悶を見せる男を、楽しげに見上げる絵里。
「ダメ。もっと苦しそうな、かわいい顔してくれなくちゃ、や〜」
 泡にまみれた舌を出し、顔に斑点まで浮かんできた男の顔を覗き込みながらも
非常に女の子っぽい口調で語りかける、絵里。まさに悪魔の所業だった。
周囲の男たちは足がすくみ、血を凍らせながらそこから逃げ出すことすらできなくなっていた。

 ボキッ、バキゴギィィッ!! ブチッ…
傍観するしかない男たちにしてみれば、一生耳から離れない嫌な音が鳴り響いた。
笑顔を浮かべ嬉々として絵里がその両腕に力を込めた瞬間、宙吊り絞首刑で囚われの男の両腕は
大音響とともに複雑骨折、強烈な握力による圧迫で声帯も喉仏も頚椎もまとめて粉砕された。
無音の絶叫の後、男の頭部は信じられない角度で後ろにダランと垂れ下がり、動かなくなった。
かろうじて、本当に最低限の脈がある程度だった。
「ん〜〜〜、この音。やっぱり、たまんない。はぁっ…ぁん」
 腕と首の骨を砕かれた男を人形のようにぶら下げたまま、絵里は両の太腿を悩ましげに擦り合わせ、甘い喘ぎ声を立てた。
男を破壊して…その行為に興奮している!!
その長身美少女の残忍な、しかし色香を含んだ姿に、
まだ十名近く残る男たちはそろって石にでも変えられたかのように固まってしまっている。
棒立ちのままその場で泣き崩れている者、立ったままズボンを黄色く染めて湯気を立てている者もいる。
「ふふっ、まだまだこんなにいるんだぁ、いっぱい…
いい子にして待っててね、みぃんな順番に、一人ずつ念入りにたっっぷりかわいがってあげちゃうからぁ…」
 先程始末した男を放り投げると、暴虐の愉悦にほんのり赤く上気した顔でゆっくりと、また一人の男を選んで歩いていく。
「次は、あなた…いっぱいいっぱい苦しんで、あたしを悦ばせて…」
 人並みはずれた強靭な握力で、男の顔面を握りつぶさんばかりに掴み、吊るす。
その大きな手の裏から響く頭蓋骨の悲鳴と狂乱の絶叫を聞きながら、絵里はもう片方の手で拳を作り、
また悪戯っぽく少し舌を出して唇に這わせた…


 おわり





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