ファイル01.女子プロレス最強伝説

リングの中央で妖艶な狩りが行われている。

獲物は大柄な白人女性。
本場アメリカで、総合格闘技戦無敗という実績を持つ彼女。
ボディービルダーのような筋肉を誇る彼女の体が、今はサンドバックと化している。

「ボコッ、ボコッツ」
獲物の首根っこを押さえつけ、強烈な膝蹴りを叩き込む美しきハンター。
あまりに妖艶で残酷なその姿を見て、観客も思わず言葉を失ってしまう。

やがて蹴り飽きたかのように獲物を解放するハンター。
既に意識のない獲物の体は、ゆっくりとリングに倒れていく。

「カンカンカンカンカーン」
「1R32秒、秒殺KO!!勝者、日ノ本女子プロレス・・・藤堂麗子!!」
「うぉーーっ!!」

観客の大声援に、右手で軽く応える美しきハンター。
186センチという超長身のスーパーモデル体型。
洗練された褐色のボディを黒いスポーツビキニで包んでいる。

ドクターの応急処置を受けても、白人女性の意識は戻らない。
担架に乗せられ病院に搬送されていく彼女を、麗子は冷酷な視線で見つめている。
『弱すぎるアナタの責任よ・・・』。

麗子はトロフィーを受け取ると、美しく長い黒髪を靡かせながら颯爽とリングを降りていく。
試合を終えたばかりだと言うのに、何事もなかったような涼しい顔を見せている。

女子プロレスラー藤堂麗子。
モデルのような美しさと、圧倒的な強さを兼ね備えた人気女子プロレスラー。
空手をベースとした打撃は超一流で、中堅クラスまでのレスラーなら一撃で失神させてしまう。
得意の関節技は芸術と称される完成度で、一瞬で相手を破壊する。

そんな麗子だが、実はまだ一度もチャンピオンベルトを手にしたことがない。
2歳年下のヴィーナス詩織には、まだ一度も勝利したことがないのだ。

昨年大晦日に行われたタイトルマッチ。
序盤は得意の打撃で麗子が主導権を握った。
しかし勝負を決めにいった得意の関節技を耐え凌がれ、徐々に反撃を許す苦しい展開。
後半は詩織のスピードに圧倒され、美しい投げ技や空中技を決められる。
そして最後は豪快な力技、スーパーパワーボム・・・・・・
試合時間も残りわずかと言うところで、屈辱の失神KO負けを喫してしまった。

そんな鬱憤を晴らすべく、麗子は今日もリングに上がる。
総合格闘技、柔術、さてはボクシングに至るまで、あらゆるリングを選ばない。
行く先々でプロレスラーの強さを見せ付ける。
格闘技戦の戦跡は42戦42勝42KO。
まさに無敵。
今日もまた、海外からの刺客を返り討ちにしたところだ。

世の中は空前の女子プロレスブーム。
土曜日のゴールデンに放送される日ノ本女子プロレスの中継は、毎週視聴率が20%を超える。
ブームの火付け役になったのは超人気レスラー、現チャンピオンのヴィーナス詩織だ。

彼女は正真正銘のアイドルレスラー。
それでいて抜群の運動神経を誇るチャンピオン。
輝くばかりの笑顔。
176センチの長身グラマーな肢体は、世のオトコ達を虜にする。
週刊誌のグラビアでも彼女の姿を見ない日はないくらいだ。

最近はTVの仕事も積極的にこなしている。
番組で見せる明るいキャラクターも、高い好感度を誇るひとつの理由となっている。
頭の回転が速くトーク番組でも違和感なく使えるため、業界関係者からの評価も高い。

あまりの可愛らしさのため、女優やグラビアアイドルの多くが彼女との共演をNGしている。
本人はそのことに少し頭を悩ませているが、TVの仕事は増える一方だ。
先日はバラエティ番組の企画で、ひとりのお笑い芸人とプロレスで対決した。

女子レスラーと並の男とではどちらが強いのか?
詩織の戦いを見れば、そんな疑問を持つものは誰一人いなくなる。

バラエティとは思えないぐらいの真剣さで向かってくる男芸人。
そんな彼を軽く受け止め、一瞬の絞め技で簡単にギブアップを奪う詩織。
さらに何回も立ち向かってくる男を、甚振るように痛めつける。
最後はバテバテになった相手を恥ずかしい技で苦しめ、観客の笑いを誘う。
終始笑顔を絶やさず、汗ひとつ掻かないところが完璧な仕事を物語っている。

彼女がそんなアイドルの仕事を積極的に頑張る理由・・・・・・
それは大好きな女子プロレスのため。
チャンピオンとしての責任も多少感じている。
そんな努力の甲斐もあって、女子プロレスの人気は今絶頂を迎えていた。


そんな晩秋のある日・・・・・・
詩織と麗子の2人が、社長に呼ばれて事務所に現れた。

「あぁ良く来てくれた。実は、大晦日の女祭りの件なんだが・・・・・・」

プロレス女祭り。
ここ数年、大晦日に行われている女子プロレスの祭典。
毎年TVでも中継され、紅白歌合戦の裏番組として定着してきている。

「ことしのタイトルマッチは絶対勝ちますから。」
「私も絶対負けません・・・・・・」
お互いのプライドを軽くぶつけ合う。

「実はそのことなんだがね、悪いが今年は・・・タイトルマッチを春に延期してくれないかね・・・・・・」
「えっ??延期ですか?」
「大晦日の女祭りを、『プロレス祭り』に改めて、男子との共催にしたいと思ってるんだ。」
「・・・男子と一緒?ですか・・・・・・」
2人の表情が曇る。

「キミ達も知っているだろう。今男子プロレス界は散々たる状況で、TV中継もなければ客も集まらない。
 ここはひとつ人助けだど思って、男子との共催を受け入れてくれんかね・・・・・・」

沈黙がその場を包み込む。

しばらく考えて、詩織が答えた。
「分かりました。今回はそういうことで。」
「ちぇっ、仕方ないわねぇ。・・・・・・」
麗子もしぶしぶ同意する。

「だけど私達メインは譲れませんから。何でも構いませんのでリングに立たせて下さい。」
「おおっ分かっとる。最初からそのつもりだ。」

かくして大晦日、プロレス祭りが幕を開けた。
日ノ本女子プロレスに、老舗の王道プロレス、さらにはリアルファイトジャパンの3団体による共催。
オープニングファイトから、団体入り乱れての熱戦が繰り広げられた。

日頃は観客の少ないところで戦っている男子レスラーたちは、大声援を受けてテンションが上がる。
詩織、麗子に続く女子レスラー達も、負けずと頑張る。
初めて開催された『プロレス祭り』は予想以上の盛り上がりを見せていた。

そしていよいよメインイベント。
各団体のトップレスラーによる、夢のミックスタッグマッチ3番勝負。

「大変長らくお待たせしました・・・・・・
 青コーナーより、リアルファイトジャパン、ヘビー級チャンピオン、大川龍司・・・・・・
 日ノ本女子プロレス、女格闘王、藤堂麗子組の入場です・・・・・・」

荘厳な音楽にのって堂々と入場してくる2人。

リアルファイトジャパンのチャンピオン龍司は、若手の本格派レスラー。
192センチの完成された肉体を武器に相手をパワーで圧倒する。
数ヶ月前には、プロレスラーでありながらK−1の日本人トーナメントに参戦。
並居る強豪をなぎ倒し、見事優勝を飾ったばかりだ。

パートナーの麗子は、いつもの黒いスポーツビキニ姿。
龍司と並んでも全然迫力負けしていないところは流石だ。

「続きまして・・・・・・
 赤コーナーより、王道プロレスチャンピオン、ストロンゲスト後藤と・・・・・・
 日ノ本女子プロレスチャンピオン、我らがヒロイン、ヴィーナス詩織組の入場です・・・・・・」

派手な音楽にあわせて入場してくる2人。

ストロンゲスト後藤は、団体の社長も兼ねたベテランの人気レスラー。
トリッキーな動きと抜群の技のキレで、ここ10年近く団体トップに君臨してきた。
40台半ばを迎えてもその動きは衰えず、男子レスラー人気NO1の地位を保っている。

そしてヴィーナス詩織。
赤を基調としたプロレスコスチューム。
歴代レスラーの中でも最高と言われる露出度は、これから激しい戦いに望む姿とは思えない。

グラマーな肢体。
はちきれんばかりの胸元と腰についたフリルが、彼女らしさを演出している。


いよいよ試合が始まった。

最初は龍司と後藤による男同士の戦い。
それぞれの団体を背負うチャンピオン同士のプライドを掛けた争い。

龍司の迫力ある打撃。
巧みな動きで相手を翻弄するベテラン後藤。
持ち味を活かした戦いに、会場は大いに沸いた。

激しい動きから一転してリング中央で睨みあう2人。
観客はその洗練された動きに割れんばかりの声援を送る。

久々の大声援を受け、思わず笑みがこぼれる2人。
満足の表情を浮かべて、お互いのコーナーに戻る。

次は女子トップレスラー2人による戦いの番。

龍司はタッチを交わしてリングを降りる。
変わりに麗子がロープを跨いでリングインしてくる。

同じように後藤もタッチして詩織と交代するつもりだった・・・・・・

しかしコーナーに戻っても詩織の姿が見当たらない。
良く見ると詩織は、放送席の机に腰を掛け、マイクを手にしていた。

「麗子さん!やっぱり私、アナタと戦わないと年が越せないみたい。
 邪魔者には休んでもらいましょう!」
「うぉーーーっ!!」

詩織のアピールに、会場は大いに盛り上がる。
しかしまだこの時観客は、この言葉の真の意味を理解できないでいた。

詩織の言葉を受け、思わず笑みがこぼれる麗子。
余裕綽々の表情で、リング上に残るストロンゲスト後藤を見下した。

「かかってきなさいっ」
麗子は、リング上でしか聞こえない声で、そう言った。
左手を腰にあて、右手の指で偉そうに後藤を手招きする。

『女のクセに舐めやがって・・・』
怒りが頂点に達した後藤は、ここで決断を下した。
『殺ってやる!』

かくして王道プロレスチャンピオン後藤と女格闘王麗子との真剣勝負が幕を開けた。

リングの中央で静かに対峙する。
これまでとは全く違う緊張感がリングを包み込む。
奇しくも同じ身長の2人だが、さすがに体重は倍近く違う。
ガチで戦えば、さすがに後藤が負けるはずはない。
観客は皆そう思っていた・・・・・・

しかしリング上の後藤は違った。
麗子に睨まれ、身動きひとつ取れない自分がいた。
理解できない恐怖感で、自然と膝が震えていた。

格闘家としての強烈なオーラを放つ麗子。
これまで感じたことのない圧倒的な迫力に、後藤の魂は震え上がった。

美しい黒髪。
吸い込まれるような美しい顔。
褐色でやや筋肉質なスマートボディ。

その美貌とは裏腹に、サディスティックな趣向を持つ麗子が、今まさに狩りを始めようとしていた。

『このまま戦ったら負ける・・・』
後藤は直感でそう感じた。

これまでTVで見てきた麗子の秒殺KO劇。
自分を相手に、それがまた繰り返されるのではないかという恐怖を感じた。

後藤は冷や汗を掻きながらも冷静に考え、麗子の目前に右手を差し出した。

力勝負・・・・・・

プロレスでは良く見られる展開。
指を開いてがっちりと組み合う力勝負。
単純な力勝負なら絶対に負けない。
ベテランの後藤が土壇場でひねり出した、最高の答えだった。

真剣勝負から逃げた後藤を、麗子は軽く鼻で笑った。
しかしここはプロレスのリング上。
力勝負を挑まれて、逃げる訳にはいかない。
麗子は渋々左手を重ね合わせた。


「ぐぐぐっ・・・・・・」
組み合うと同時に力を込める後藤。
指の長さは同じぐらいだが、太さはかなり違う。
この力勝負で優位に立ち、一気に麗子を攻め立てるのが彼の作戦だった。

しかし・・・・・・!!・・・・・・

後藤の手に激痛が走った。
麗子の長くてきれいな指が、後藤の短くて太い指関節を的確に極めていたのだ。
痛みに耐え切れず力が抜けていく後藤。
力勝負で勝つという戦略が、音を立ててさらさらと崩れ去っていった。

「残念ね。」
リング上でしか聞こえない声で、そう呟く彼女。
サディスティックな表情は、力のない後藤を哀れんでいるようでもあった。

次の瞬間、後藤の目前には麗子の右膝があった。
左手を組み合ったままのハイキック。
体の柔らかい麗子ならではの攻撃だ。

後藤は避けようと思った。
コンマ何秒かの間に、右に、左に、後ろにと頭を動かす。
しかし麗子の右膝は後藤の目前から微動だにしない。

獲物は既に麗子によってロックオンされているのだ。

後藤は諦めた。
躱せない・・・・・・

眼からは一滴の涙が零れ落ちた。

やがてムチのようにしなりながら、麗子の膝下が後藤に襲い掛かる。

「ボコッ!」
麗子の芸術的なハイキックが、後藤の側頭部にヒットした。
脳が揺れ、後藤の体は一瞬硬直し、やがて全身から力が抜けていく。
後藤はリングにダウンして早く楽になろうと思った。

しかし麗子はそれを許さない・・・・・・
がっちりと組み合ったままの左手で、後藤の体を引き上げる。

後藤は麗子を見上げた。
『早く楽にしてくれ!』

必死の表情で懇願する。
屈辱と恐怖感とで、眼には涙がたまっていた。

一方の麗子は、この瞬間にエクスタシーを感じていた。

対戦相手に力の差を見せ付ける。
そしてその精神までをも完璧に支配する。
相手が初めての男子レスラーだけに、その興奮はひとしおだった。

しばしその快感を味わった後、麗子は狩りの仕上げに取り掛かる。

組み合ったままの左手を脚で跨ぐと、そのまま後手にとって、肩の関節を極める。
それと同時に左脚の太腿とふくらはぎとで後藤の頚動脈を締め上げる。

右脚1本で立ったままの芸術的な関節技。
麗子にしか真似出来ない、美しいながらも脱出不可能な殺人技。

バタバタともがき苦しむ後藤。
ギブアップしたくても、声も出せずタップもできない。
麗子は後藤の表情を確かめながら、極めと絞めの圧力を調節する。
男の苦しむ姿に、やや恍惚の表情を浮かべる麗子。
観客は割れんばかりの大声援。
やがて十分にその光景を脳裏に焼き付けたあと、彼女は静かに力を込めた。

「グキッ!」
肩の関節の外れる音。
それと同時に脚で絞め落としたのは、痛みを感じないようにという彼女の配慮だろうか。

「カンカンカンカンカ・・・・・・ン」
リング上にぐったりと倒れこむ後藤の姿。
王道プロレスチャンピオンの栄光は、もはや微塵も感じられなかった。

気を失ったまま担架に乗せられてリングを後にする後藤。
麗子はその姿を、いつものように冷酷な視線で見つめている。
『弱すぎるアナタの責任よ・・・』


男女の差を感じさせない麗子の強さを前に、観客は血の気の引いた思いがした。

「まだ1本取られただけよ、まだ私が残ってるわっ!!」
そんな会場の様子を察したのか、マイクアピールしてリングインする詩織。
詩織の声を聞いて、会場もまた正気を取り戻した。

「次はあなたの番よ。」
麗子はそう言い残してリングを降りる。
残されたのは、リアルファイトジャパンの若きチャンピオン大川龍司だった。

「怖いお姉ちゃん達だが、あいにく俺は後藤なんかとは違うんでねぇ。
 真剣勝負は一番の得意分野だぜ・・・・・・」

自信満々に詩織を睨みつける龍司。
192センチの逞しい体を持つ彼と、グラビアの表紙を飾るセクシーな彼女。
観客は次なる戦いの結末を全く想像できないでいた。

「カーーーン」
2本目のゴングが鳴った。

麗子とは違って、格闘家としてのオーラを持ち合わせていない詩織。
体つきも完全に女性的で、力強さよりも柔らかさが前面に押し出されている。
ちょっと太めのセクシーグラビアアイドルそのものだった。

端っから負けることなど考えていない龍司は、思い切って踏み込むと得意の左ミドルを放った。
そこには手加減など微塵もなかった。

「ボコッ」
ガードすることもできず、K−1仕込みの蹴りをまともに食らった詩織。
彼女の体は1発でロープ際まで飛ばされた。

さらに間合いを詰め、ロープを背にした詩織に2発目のミドルキックを放つ。
「ブゴッ・・・・・・」
今度も強烈にヒットする。
龍司の足には女性らしい柔らかい感触が残った。

麗子と違って、プロレス以外の場で戦った経験のない詩織。
真剣勝負には不慣れなように見える。

強烈な2発のキックを腹に受けた詩織。
それでも何とか踏ん張って、ロープに持たれながらもダウンはしない。
この打たれ強さは流石にプロレスのチャンピオンと言ったところだ。

会心の蹴りを受けてもまだ立ち続けている詩織を前に、龍司は少し安心した。
『女だが流石はレスラー。ちょっとやそっとのことでは死にはしねぇな・・・。』

龍司はこの不毛な戦いを終わらせることにした。

ダメージの残る詩織を軽いジャブで揺さぶると、一瞬の隙を突いてハイキック一閃。
「ズゴッ!」
龍司の太くて逞しい足が、詩織の頭を直撃した。

衝撃を受け、ゆっくりと前のめりに倒れていく詩織。

『終わった・・・・・・』
龍司はそう確信した。

「ワン・・・ツー・・・スリー・・・・・・」
レフリーのカウントが進んでいく。
ピクリとも動かない詩織を見て、龍司はコーナーへと戻っていった。

「エイト・・・ナイン・・・」
龍司はラストコールに合わせ、派手なガッツポーズを取るつもりでいた。
男の強さをアピールする力強いガッツポーズのはずだった。

しかし一向にそのラストコールが告げられない。

「うぉーーーっ!!」
気が付けば観客が、これまで見たこともないくらいに盛り上がっている。

龍司が恐る恐る振り返ると、そこにはファイティングポーズを取る詩織の姿があった。
レフリーにまだ戦えることをアピールしている彼女。
その瞳は、依然としてギラギラと輝いている。

『そんなバカなっ!!!』
龍司の計算が狂った瞬間だった。

「ファイト!」
レフリーから再開が告げられる。

「シ・オ・リ・・・・・・、シ・オ・リ・・・・・・」
会場は詩織コール一色で盛り上がる。

ほんの少しだけ恐怖を感じた龍司。
慎重に間合いを詰めると、再び渾身のミドルキックを放った。
K−1チャンプに輝いた力強い蹴りが、再び詩織を襲う。

しかし右足に残ったのは、先ほどの柔らかい感覚とは違った。
もっと固い感覚・・・・・・

龍司の蹴り足は、詩織の両腕にキャッチされていたのだ。

驚いた龍司。
目が合った詩織は、アイドルならではのとびっきりの笑顔を浮かべている。

『あなたの攻撃はもう終わりよっ』
詩織の声が心に伝わった。


ついに詩織のオーラが解き放たれた。
麗子をも圧倒する戦士のオーラ。
日ノ本女子プロレスの王者に君臨するチャンピオンのオーラだった。

これまでの流れがすべて詩織によってコントロールされていたことを悟った龍司。
驚き、パニック、恐怖を経由して、彼の精神は絶望で染め上げられた。

蹴り足を抱えたまま、強烈なスピンを加える詩織。
華麗なドラゴンスクリューで、龍司の体はマットに叩きつけられる。

ダメージはほとんどない。
慌てて立ち上がる龍司。
目の前では、腰に手を当て待っている詩織がいた。

「バッ」
龍司の目前でジャンプする。
驚異的な垂直飛び。
長身を誇る龍司の顔の高さまで、詩織の体が浮かび上がった。

あまりの美しさにしばし見とれてしまった龍司。
詩織はその最高点で一旦体を縮めると、その反動で一気に伸びる。
芸術的なドロップキックが龍司の胸板を直撃した。

体が小さいとはいえ、全身をバネにして放たれるドロップキックの威力は抜群。
龍司の体は、もんどり打って後方へと飛ばされた。

勢いを殺すことができず、2回3回と後転する龍司。
それでもダメージは受けていないため、次の攻撃に備えようと急いで立ち上がる。

しかし居ない・・・・・・
目の前にいるはずの詩織の姿が見つからない。

混乱した龍司の背後から、女性の手が伸びてくる。
詩織のスピードは、龍司の想像をはるかに超えているのだ。

背後から密着され、腰のあたりを両腕でロックされる。
龍司の巨体が、そのままゆっくりと持ち上げられていく。

「ドーーーン!!」

後頭部から激しくマットに叩きつけられる。
アイドルチックな容姿からは想像できないが、100キロを超える男を軽々と持ち上げる詩織。
女性特有の曲線が作り出すジャーマンスープレックスの軌跡は、芸術以外の何物でもなかった。

軽い脳震盪で一瞬の記憶を失った龍司。
やがてぼんやりと意識を取り戻していく彼の耳には、観客の大観衆が聞こえてきた。

「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイ・・・・・・」
リズミカルに手拍子を打つ観客。
横を見れば、トップロープに登り立って、観客を煽っている詩織の姿があった。

観客のボルテージが最高潮に達した瞬間、詩織が舞った・・・・・・

キラリと飛び散った汗がライトに反射して美しく輝く。
キリ揉みしながら落ちてくる詩織の体。
脳震盪のダメージで、逃げたくても動かない自分の体。

龍司が最後に目にしたものは、ムチムチに鍛え上げられた詩織のヒップだった。

トップロープからのスーパームーンサルトヒッププレス。
後方3回宙返り2回捻り降りという、体操選手でも困難と言われる大技。
それを見事に成功させ、龍司の顔面に自らのヒップで降り立った詩織。
全体重と遠心力が加わった衝撃は、龍司の意識を奪うのに余りある威力だった。

ほのかな女性の香りを感じつつ、龍司は深い眠りへと落ちていく。
彼が気絶していることを悟られないよう、彼女は彼の顔面をヒップで完全に覆った。
そのままレフリーのカウントが入る。
手を腰に当てて、はち切れんばかりのグラマーな胸を張る。

「ワン・・・ツー・・・・・・、スリー!!!」
「カンカンカンカンカーーーン」

勝利の瞬間、観客の大歓声。
しばらくの間、詩織は龍司の顔面に腰を下ろしたままだった。

そのままの状態で、両腕に力瘤を作り、強さをアピールする詩織。
少し汗ばんだ、赤くてセクシーなプロレスコスチューム。
そこからこぼれ出るグラマーな肢体。
日本一とも言われる飛びっきりの笑顔。
そんな可愛らしい女性にKOされ、尻圧で気絶させられた男子プロレスチャンピオン。
翌日のスポーツ紙がこの写真で飾られることを確信しての、彼女なりのファンサービスであった。

ドクターが慌ててリングに上がる。
後藤のときとは違ってすぐに意識を取り戻した龍司だが、やはり担架に乗せられて運ばれていく。

「2時間もすれば回復するから心配しないで。」
詩織は龍司にウインクしながら、そう声を掛けた。
相手のダメージまで完璧にコントロールする、詩織の底知れぬ強さがそこにあった。

「さぁウォーミングアップは終わったわ。麗子さん!!思い存分戦いましょう!!」

彼女たちの戦いは、これからが本番を迎える・・・・・・

おしまい





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