グラディエーター

「ディレクター、ホントに集まりますかね?」
「何とも言えねぇなぁ・・・・・」

ここは、某在京TV局の会議室。部屋の上座側に長机が一つ置いてあり、そこでパイプ椅子に二人の男が座っていた。
ひげ面の中年男がディレクター、隣の若い青年がADである。
今日はこれからここで面接が行われる。といっても、アイドル番組などではなく、CS放送用のちょっとした企画モノだった。
タイトルは、『レディグラディエーター』。

「タイトルがそもそも不味くないっすか? 『 アメリカングラ○ィエーター』ほとんどそのまんまだし。
それに内容もそのままパクリっていうか・・・」
「バカヤロー、インスパイアって言え。今の時代、上手く料理したモン勝ちなんだよ。
それに『アメリカングラ○ィエーター』だって元ネタは日本の某大御所のアレだろうが。
それに俺のは変にゲーム的にしないで、純粋な力と力のぶつかり合いがメインなんだよ。」
「それを女性限定で、ってアイディアは面白いと思いますけど・・・。」
「まあ、後はいい人材が見付かるか、だな。下手すりゃ三流エロ番組止まりだ。」
「やっぱ、その辺の人材は海外から呼んだ方が良かったんじゃ・・・」
「そんな予算があったら苦労しねぇよ。・・・・・さ、そろそろ時間だ。」

コンコン。ドアをノックする音がすると、案内係がオーディション候補者を連れて来た。

「ここで、審査を行います。後は、この番組スタッフのあちらの二人に従って下さい。」
そういうと、10人ほどの参加者を部屋に通した。
「まあ、人数的にはこんなもんですかね。」
「じゃあ、審査を始めるか。さて、1番の方。何か腕力を誇示できるような特技はありますか?」
まず、1番の女性が呼ばれた。体格は普通で背もそこそこ。典型的な一般女性だ。

「えーと、スチール缶を握り潰せます。」
というと、おもむろにスチールの空缶を取り出す。



〜数十分後〜



「はい、もういいですよ。結果は追って報告します。」
最後の候補者が部屋から出て行った。結果は言うまでも無く不合格。
「結局、ロクなのがいねぇなぁ・・・」
「そうですねぇ〜・・・」
計9人。とてもじゃないが腕力自慢というには程遠い者ばかりだった。すると、

「あの・・・・・」
よく見るとまだ一人残っている。一番隅っこの椅子に眼鏡をかけたロングヘアの女性が申し訳無さそうに座っていた。
「ん? ああ、あなたが最後の方でしたか。 すいません、てっきりさっきの人で最後だとばかり・・・」
(全然気付きませんでしたね・・・っていうか存在感ないですし。猫背でどことなく地味だし・・・)
ADが小声でディレクターに話し掛ける。
(ま、眼鏡ってのも地味な要因の1つだろう。
・・・でも、よくよく見ると顔のパーツは整ってるし服の上からでもわかるぐらい胸もデカい。
どうせ最後だし、審査するだけしてみるか・・・)

「取り敢えず、座っててもアレなんで立ってみて下さい。」
「は・・・はい。」
ディレクターがそう促すと、その女性が立ち上がる。猫背にしては意外と上背がある。
180cmあるかないかぐらだろうか。
しかし、ブカブカのかなり大きな上着にロングスカートの為、バスト以外の体型がわからない。
「えーと・・・仁科聖華さん? データは・・・っと、身長が182cm、3サイズがB150(I120)、W70、H105・・・!?」
(胸はデカいですけど、えらくぽっちゃり体型じゃないですか?)
(服の上からだとそんなに太ってるようには見えないんだがなぁ・・・)
その女性は、確かに細くはないが、そんなに太ってるようにも見えなかった。着痩せするタイプなのだろうか。


「実は、友達が申し込んじゃって・・・。でも、折角だし行って来いって言われて・・・。
それで、あの・・・何か、おかしなとこ・・・ありましたか?」
仁科聖華が恐る恐る尋ねてくる。どうも、引っ込み思案のようだ。言葉もどこかたどたどしい。
「いえ、大丈夫ですよ。それで、えーと、特技が怪力・・・・・って怪力?」
「は・・・はい、そうです・・・」
聖華は否定せずにそう答えた。確かに、これは腕力に自信のある女性を選ぶオーディションなのだが、
さすがに特技が『怪力』では漠然とし過ぎている。
「何か、今ここでその『怪力』を証明できますか?」
また、さっきのようにアルミ缶をスチール缶と勘違いして潰されても興醒めである。

「あ、あの・・・。今、お二人が座ってる長椅子をそのまま座ったままの状態で持ち上げたりとかなら出来ますけど・・・。」
相変わらず答える声からは覇気が感じられない。しかし、その内容は充分インパクトがあった。
「私たちが座ってる椅子をそのまま持ち上げる? またまた〜。もう他の候補者は居ないんですから、
そんな見栄を張らず出来る範囲のことで良いんですよ?」
ディレクターはさすがに信じられなかったようだ。
「いえ、お二人と椅子の重さを合わせても200Kgもないと思いますし、多分、簡単だと思います・・・。」
申し訳なさ気な声のトーンと、言ってる内容の落差が凄い。

「ほぉ・・・、そこまで言うのならやってもらいましょうか。」
ふふん、どうせ出来ないだろう、とディレクターが鼻で笑う。
(しかし、何でまたこんなすぐバレるような嘘吐くんですかね?)
(少しでも頑張ります、ってのをアピールしたいんだろ。)
「ちょっと、邪魔なんでテーブルどけますね・・・。」
ディレクターとADがコソコソ話してる側で聖華は軽々と長机を持ち上げてどかせてしまった。

「「なっ・・・・・」」
二人ともあっという間の出来事で呆気に取られる。
(ディ、ディレクター。あの机ってそんなに軽いもんでしたっけ・・・?)
(バカヤロー。オフィス用の業務用机だぞ。男でもそう簡単に運べるもんじゃないぞ・・・。)

「それじゃあ・・・。」
そういうと、聖華は長椅子の端を両手で掴んだ。
「ちゃんと、捕まってて下さいね。それ」
軽く掛け声がしたかと思うと、あっという間に長椅子が持ち上がる。
しかも、驚くことにほとんど『手持ち』である。
普通、大きな物や重い物を持つ時は抱え込むようにして身体全体でその物の重量を支えるようにして持つものだが、
聖華は手で座る部分の前と後ろを持っているに過ぎない。
そして、椅子が1メートルは浮いたとこでピタっと停止させた。
「うぉぉっ!」
「す、凄い・・・・・」
驚く二人を尻目に、聖華は涼しい顔をしている。
「も、もしかして・・・、まだ余裕あるの?」
「・・・はい。普段、扱っている重量に比べれば・・・」
相変わらず、自信なさげだ。しかし、やっていることは凄い。
大の大人が5人は座ることの出来る長椅子。その中央辺りにディレクターとADが座っている。
そして、それを「椅子の端」を持って、軽々と持ち上げているのである。
てこの原理で言えば、力点と支点が椅子の端で、作用点が二人の男が座っている辺り。
支点と作用点の距離が長いほど、必要とする力も大きくなる。


「普段・・・ってトレーニング? いつもどのぐらいを持ち上げてるの?」
ADが恐る恐る尋ねる。
「・・・ええと、片手カールで200Kgぐらいです・・・」
「・・・!? 片手で200Kg!?」
「両手でのリフトなら500Kgまでなら大丈夫です。・・・ベンチプレスならもっと行けますけど・・・」
「「・・・・・」」
二人とも、最早空いた口が塞がらない。
「・・・ちなみに、・・・あ、握力は・・・?」
「・・・そ、測定不能です。ジムの握力計を握り潰してから測ってません・・・。」
「・・・はは、そ、そう・・・。・・・じゃあ一応、志望動機みたいなものを聞かせて貰って良いかな? 他薦ってなってるけど・・・」
ディレクターも余りの驚きに声が上ずっている。

「友達が勝手に応募しちゃって・・・。・・・私、元々太ってたんですけど、その友達がジムに誘ってくれて、
鍛えてる内に鍛えること自体が面白くなっちゃって・・・。
・・・それで、それだけパワーあるんだから有効活用しないと勿体無いって・・・・・」
「・・・な、なるほど。じゃあ一応、腕力テストは合格なんで、後は水着審査の方を・・・」
「・・・水着は中に着込んで来てるので、すぐに着替えます。」
「・・・中に・・・。・・・! ちょっと待って。」
着替えに退室しようとした聖華をディレクターが呼び止めた。
(どうしたんです?)
(ちょっと、思い付いてな・・・)

「鍛えてるってことはそれなりに筋肉付いてるんだよね?」
「・・・はい。」
「・・・もしも、そう、もしもの話なんだけど、見た目と違って3サイズ見る限りボリュームはありそうだから、
筋肉を盛り上げて服を破く、なんて出来ないよね?
・・・いや、これが出来ないからって不合格とかそういうことじゃないんだけど・・・。」
(何そんな漫画みたいな話してるんです? 男でだってそうそう出来ることじゃないっすよ。)
(うるせー。ダメ元でも、一度で良いから言ってみたかったんだよ。)

「・・・フレアスカートなんで、下半身は無理ですけど、上半身だけなら多分・・・」
「ええっ!? 出来るの!?」
「・・・伸縮性のない服を着た時はよく破いちゃうので・・・肩とか上腕だけですけど・・・」
「そ、それだけでも良いからやってみせて! 洋服代ぐらい幾らでも弁償するから。」
ディレクターは子供の頃からの夢が叶うかのように興奮している。
「・・・それじゃ、やりますね。・・・ふんっ!」
そういうと、聖華は上半身に力を籠め始める。

期待と不安の入り混じった異様な空気が立ち込める。・・・すると、

・・・ピリッ ピリッピリッ

と、服の裂けるような音が聞こえ始める。
よく見ると、聖華の肩口から首に掛けての布地が避けて、僧房筋が露出し始めている。更に・・・

・・・ビリビリビリッ

裂け目が大きくなり、ついには首周りの布地が全て飛んでしまった。
首周りは布の張り合いが限界と感じたのか、聖華は、今度は両腕を肩の高さで折り曲げ、
力瘤を盛り上げるダブルバイセップスのポーズと取った。
ブカブカだったはずの袖の上腕部分が見る見るうちに張り詰めて行くのがわかる。
力瘤が、まるで別の生き物のように大きく盛り上がると・・・

・・・パンッ ・・・ビリビリ

上腕部の袖が裂けた、というよりは弾けて、その巨大な力瘤がその姿を現した。

「「・・・す、凄い・・・・・」」

聖華の言った通り上半身だけだが、何と、筋肉の隆起のみで着ていた服を引き裂いてしまった。
そのまま、服を脱ぐとビキニだけの状態になる。

(ぽっちゃりなんてとんでもない・・・! 何てカラダだ・・・)
鍛え上げられた大胸筋に聳え立つ2つの巨大な双丘、
綺麗に6分割された腹筋を持つウェストもサイズからは想像できなかったが、
バストとヒップに比べるとバランス良くくびれている。
そして、太腿は競輪選手ですら足元に及ばないような太さとしなやかさを備えていた。

(ディ、ディレクター、この娘、何気に凄いんじゃないっすか・・・?)
(バカヤロー、凄いなんてモンじゃねぇよ。ルックスが良いから、地味さはヘアメイクを付ければ充分化けるだろうし、
身体も申し分ないぐらいメリハリと迫力がある。
スタイリスト付けて、バッチリ決まる衣装作らせれば間違いなく画面映えするはずだ。この企画、行けるかもしれんぞ。)
(・・・じゃあ、いつかはゴールデンなんてことも・・・)
(ああ、夢じゃないかもな。)


おわり





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