ギガンティック・ビューティ

「赤コーナー、世界ヘビー級王者、双葉理保!」
 リングアナウンサーのコールに応え、赤いグローブを高々と掲げ双葉理保がコーナーから歩み出た。
そして、そのままリングの半分をゆっくりと回り観客へとアピールを続ける。
 トレードマークとも言うべき水色のビキニに白のリングシューズと言う出立ち。
惜しげも無く晒された肉体はかつてグラビアアイドルとして青年誌の巻頭
を艶やかに彩っていた頃から大きく変容していた。
 岩石を削りあげたような圧倒的な筋肉。成人男性の太腿以上の直径の上腕。
腹筋も堅く鍛えあげられ幾重もの段になり引き締まっている。
太腿もそれらの筋肉に鎧われた肉体を支え、更には素早いフットワークを実現させるために鍛えぬかれていた。
 だが、全体としてただゴツいだけと言う印象は与えていなかった。
95センチというグラビアアイドルとして最大クラスと称されたバストが
これほどに鍛え上げられたにもかかわらず現在だったからである。
 そのサイズは筋肉の厚みも加わり優に100を超え130とも140とも言われている。
しかも強靭な筋肉に支えられた双房は、女性なら誰もが羨むほどに形よく屹立していた。
 グラビアアイドル時代から全く変わっていない顔に重量級にまで鍛え抜かれた筋肉、
そして巨乳と美乳を併せもつ見事なバストのアンバランスな組み合わせはどういう訳か見る者を不思議と魅了する。
 その姿は何時からか「ギガンティック・ビューティ」と呼ばれていた。

 アピールを終えた理保は赤コーナーへと戻ると体の調子を確認するかの様にシャドウを開始した。
フットワークとともにパンチを打つ度に腕の筋肉、背筋、腹筋、太腿の筋肉が収縮し理保自慢のバストが躍動する。
 圧倒的とも言えるアスリートの肉体美に踊るバストが見事に融合していた。
更には理保のボクシングテクニックが加わり戦闘の為に生み出された兵器を思わせる機能美が加わる。
 その様子を対角線上のコーナーから挑戦者の白人ボクサーは憎々しげに眺めていた。
世界最強と言う称号と矜持をかけ闘う男の世界を踏み荒らす女。
理保は挑戦者にいや、ヘビー級ボクシングを始め格闘技のリングに立つ男達の目にはそう映っていた。
 だが、理保はグラビアアイドルとして活躍していた頃から重量級世界最強と言われる男達を手玉に取ってきた。
その理保が自分達と遜色のない肉体を手に入れ同じリングの上に立つ。
それが何を意味するかはかつて理保の手でリングに這い蹲らされた者以外は余り理解してなかった。
理解している者はいても認める事はできなかった。
 理保がヘビー級ボクシングで僅か10戦で王者へと上り詰め、幾度も幾度も防衛を続けている。
その戦績は全戦KO勝ち。理保は更にキックボクシング、総合格闘技でも暴君と評される圧倒的な強さで王者に君臨し続けている。
男達は理保の跳梁を許すなと言わんばかりに今まで以上に過酷なトレーニングに明け暮れた。
 無論、この日、理保に挑戦する男もそんな一人である。

 遂に理保と挑戦者がリングの中央で対峙する。筋肉の量、身長共に殆ど差はないが理保の爆乳が挑戦者より体躯に勝る様な印象を着けている。
 相変わらず憎々しげに理保の身体を切り刻むかの様な鋭い視線を投げつける挑戦者。
理保はその視線を平然と受け止めグラビア写真を取っていた頃から見せていた笑顔で応える。
 その様子に挑戦者は更に怒りといらだちを募らせた。そんな中、レフェリーが試合開始を告げると二人はファイティングポーズをとる。
 理保は挨拶のつもりで軽く挑戦者とグローブを合わせようとする。しかし、挑戦者はそれを無視しフットワークとともに間合いを測り続けた。
 理保はその様子にしょうがないなぁと言う笑顔を浮かべてから再び構えを取る。
 二人の構えは対照的だった。理保は左手を前に構えたオーソドックスなオープンスタイル。
挑戦者はサウスポーに構えインファイトを意識したピーカブースタイル。
 それは二人の試合に対する意気込みの違いを感じさせた。自然体で気負うことのない理保と相手を絶対に打ち倒すと言う意気込みの挑戦者。
 観客が固唾を飲んで試合を見守る中、挑戦者が動き始めた。

 右のジャブで理保を牽制しストレート、フック、アッパーと次々とパンチを繰り出していく挑戦者。
左右の拳を打ち分け、上下に散らしコンビネーションを繰り出す。
 対する理保はその攻撃をウィービング、ダッキング、フットワークを駆使しあっさりと外していく。
 グラビアアイドルとして活躍していた頃に比べれば圧倒的とも言える筋肉量の増加。
それに伴い多少なりともスピードが落ちていると思われた理保だがその動きは、以前と比べて遜色のないどころかよりキレを増していた。
 これまで相手にしてきた男達とは格段に速く動く理保に焦れる挑戦者。
今までの闘いで挑戦者はこうやって圧力をかけ対戦相手をコーナーへと追い込んできたが理保は一向に捕まる気配はない。
 それでも挑戦者は、理保へ向かい拳を振り続けた。
そこへ理保が合いの手を入れるように左のジャブを閃かせる。
挑戦者が理保へと向け全体重を載せた左フックを打ち込む途上でのことだった。
 カウンターでヒットしたそれは挑戦者をあっさりとぐらつかせた。
ジャブとはいえ、カウンターを取ればダウンすら奪うことが出来る。
無論、理保のジャブはそれを狙った上での反撃だった。
 たった一発のジャブで挑戦者の膝が落ちそうになる。
しかし、挑戦者は理保を倒すという執念に突き動かされ持ち直した。

 つい先程まで、一気に畳み掛けようとパンチを繰り出し続けていた挑戦者の動きが急に緩慢になる。
ダメージの回復を狙っての行動であると同時にパンチを振り回していては
理保のジャブだけで本当にKOされかねないと感じ取ったからだ。
 そこへ理保が再びジャブを繰り出す。挑戦者はそのジャブにガードを上げつつ後退した。
更に理保は幾度と無くジャブを繰り出す。
 時折、理保のジャブが乾いた破裂音が響かせる。
それは挑戦者のガードを捉えた証だった。
なんとかジャブの隙をつき反撃の糸口を見出そうとする挑戦者だが
理保のジャブはヘビー級とは思えない速さで繰り出されていた。
 徐々に後退を続け遂にはコーナーへと追い込まれる挑戦者。
だが、理保は挑戦者を追い詰めたにもかかわらず畳み掛けようともしなかった。
それどころか肩を竦めて両手を上げやれやれといった感じのジェスチャーをして挑戦者を挑発する。
 その様子に挑戦者の瞳に怒りの炎が灯る。
一撃で這いつくばらせてやる。そんな意気込みと共に低い姿勢で一気に理保へと向かい踏み込んでいく挑戦者。
 前進する勢いと低い姿勢から伸び上がる全身のバネを左の拳に集約し突き上げる挑戦者。
左ボディアッパーが理保の鍛えられ幾重にも段になった腹筋へと吸い込まれていく。
 鈍くそれでいて重量物が叩きつけられる様な打撃音が会場に響き渡った。
幾人もの男達をリングへと沈めてきた挑戦者の必殺ブロウが理保を完ぺきに捉える。

 挑戦者の拳へグローブ越しに伝わってきた感触は仕留めたと言う物はなかった。
採石場で使われる重ダンプのタイヤを殴ったと錯覚させる様な感触。
強靭で尚且つ弾力性を兼ね備えた理保の腹筋が挑戦者の拳を押し戻していた。
 更には徹底的に鍛え上げられ撚り合わされた理保の筋肉繊維が挑戦者のパンチの衝撃を吸収し拡散させ、
内臓には一切のダメージを通していない。
 微動だにしない理保に挑戦者は一瞬、我を忘れる。
しかし、挑戦者は諦めずに今度は右ボディアッパーを繰り出した。
 再び理保の腹筋に挑戦者の拳が押し戻される。またしても微動だにしない理保。そして呆然とする挑戦者。
 そこへ理保の左ボディアッパーが繰り出される。赤いグローブが挑戦者のそれをはるかに上回る勢いで突き進み彼の腹筋を捉えた。
 理保の拳に伝わる感触。それは鍛えられた腹筋ではなく素人の腹部を殴ったのではないかと錯覚させるほどの柔らかさだった。
 男の腹筋を掻き分け深々と突き刺さる理保の拳。
その一撃は内蔵を抉り押しつぶし背中を貫通するのではないかと挑戦者に錯覚させた。
挑戦者の身体から汗が一気に吹き出す。
 挑戦者の身体がくの字に曲がり顎が下がる。そこへ理保は再び左の拳を閃かせた。
 ボディフックを打つように相手の顔面を撃ち抜くスマッシュ。
大量の汗が飛び散り先のボディブロウで半分ほどはみ出ていたマウスピースが続く一撃で唾液とともに吹き飛んでいった。
 続いて重量物がリングへと落下する音が会場を支配する。

 レフェリーがカウントを始める。挑戦者は必死にロープを掴みながら立ち上がろうと試みた。
膝がガクガクと笑いロープに伸ばした手にも力が入らない。
 それでも挑戦者は下からロープを順次、掴み身体を預けながら徐々に立ち上がっていく。
 その間もレフェリーのカウントは無情に増えていく。
そんな中で第1ラウンド終了のゴングが鳴り響いた。そこで挑戦者はやっとの思いで立ち上がりファイティングポーズを取った。
 レフェリーが規定通りカウント8まで数えたところで挑戦者の戦意を確認する。
たったの2発で四肢に力が入らないほどのダメージを理保のパンチで負った挑戦者。
この先のことを考えれば試合を続けるべきではない。対戦相手が理保でなければ挑戦者はそう判断したはずだった。
 だが、挑戦者の目に焼き付いた理保がスマッシュを打った瞬間の表情に彼は戦い続けることを決意した。
不屈の精神力でリングドクターの診断も誤魔化す挑戦者。
 そこまでして、挑戦者に闘う意志を駆り立てた理保の表情。それは渾身の力で人を殴っているとは思えない笑顔だった。
 本気も出してない様な相手に、しかも鍛え抜かれたとはいえ、女にそんな顔で殴られて引き下がれない。
理保を倒しヘビー級王者を男の手に取り戻す。
 挑戦者の決意は肉体に与えられたダメージに反比例してより堅固なものと化していた。

 投げキッスをしながら赤コーナへと戻っていく理保。その様子を尻目に挑戦者は青コーナへと重い足取りで戻っていった。
 差し出された丸椅子へと腰掛けると新しいマウスピースを与えられ、セコンドからカウンターを狙えと支持される挑戦者。
 勿論、挑戦者もそのつもりだった。自分からパンチを振り回しても、理保のディフェンスは卓越しすぎて掠ることも出来ない。
その上、理保ののジャブはあっさりと流れを変えられる。
たった一発のジャブだが理保のそれは挑戦者に確信を持たせるには十分だった。
 カウンターこそが唯一、残された糸口といっても過言ではなかった。
 インターバルが終わり第2ラウンド開始のゴングが鳴らされる。
挑戦者は全くダメージが抜けないままリング中央へ、理保へと向かっていった。
 先のラウンドとは対照的に今度は理保が積極的に手を出していく。
ヘビー級とは思えないハンドスピードで閃光のようなジャブの連打を繰り返す理保。
その前に、挑戦者のカウンターを取ると言う選択肢はあっさりと潰された。
 理保のジャブは挑戦者の顔のみならず肩口や胸、腹部に散弾の様に散り、面白いように挑戦者を捉えていった。
その鋭さは体重の乗ったパンチとは違い挑戦者を切り刻むように徐々に体力を奪っていく。
 それは前ラウンドのダメージが全く抜けきってない挑戦者にとって深刻なものとなっていた。
ガードを上下させようにも構えた状態から微動だにせず、膝がガクガクと震え始める。
 そこで理保の左の拳が急に軌道を変えた。外から内側へ一気に理保の左フックが駆け抜け挑戦者の左頬を穿つ。
 挑戦者の顔が歪み、首がちぎれ飛ぶのではないかと見るものに錯覚させるような勢いでふられ、
新たに与えられたマウスピースが飛んでいく。更に理保は左のボディフックで挑戦者の脇腹を抉った。

 理保のボディフックの衝撃が右から左の脇腹へ走りぬけ、胴が切断されたかの様な感覚に襲われる挑戦者。
 世界最強を目指し鎬を削る男達を翻弄するほどのテクニックと
自分の倍以上の体重はある男をKOするような身体能力を持つ理保がヘビー級のパワーを手に入れたらどうなるか。
それを挑戦者はわずか数分の間に理解し、その身で認めさせられた瞬間だった。挑戦者の戦意は完全に打ち砕かれる。
 だが、理保の手は止まらない。左のトリプルコンビネーションから右のダブルを繰り出す。
 先ずはボディアッパーで挑戦者の身体を軽々と浮かせ、芋虫のようにダウンする前にアッパーで顎をかち上げる。
 挑戦者の身体が中空に舞ったまま伸び上がる。
そこへ理保は今まで数々の男をリングへと葬り去ってきた必殺コンビネーション、ラブアッパーを繰り出した。
 強靭かつ弾力性に富んだ理保の筋肉はヘビー級の男達の攻撃を素人のパンチの様に寄せ付けない防御力だけではなく、
その肉体に超人的な瞬発力を与えていた。
 理保の赤いグローブが大気との摩擦で赤色化した砲弾を思わせる想像を絶する速さを以って、
やはり砲弾を思わせる圧倒的な破壊力を挑戦者に叩きつける。
 目に残像としてしか残らない程の高速さと恐るべき破壊力を兼ね備えた理保のパンチが挑戦者を暴風雨のように襲い続ける。

 理保のジャブがストレートが、そしてフックが挑戦者の身体を見えない鎖で吊るされたサンドバックのようにつま先立ちのまま踊らせた。
 理保の拳が挑戦者の身体を捉える度に汗が血が折れた歯が飛び散り、
胃を肝臓を心臓を肺を押しつぶし抉り脳を盛大に揺さぶる。更には時折、薪をへし折る様な音が入り混じった。
 理保の徹底的に鍛え上げられた肉体と研ぎ澄まされたパンチテクニック、
その上に傑出した身体能力が加わった砲弾パンチにさらされる挑戦者。
肉体を蝕む激痛と共に挑戦者は自分達がいかに無謀で絶望的な闘いに挑んでいることを思い知らされていた。
 そして、止めに理保の腕がまっすぐ伸びるまで振りぬかれた左アッパーが挑戦者の顎を撃ち抜く。
顎の砕ける音とともに大量の血と唾液更には折れて口内に残っていた歯が挑戦者の口から噴水のように湧き出る。
 そして、挑戦者の身体が2メートルほど打ち上げられてからリングへと落下していった。
 頭から落ちリングに横たわる挑戦者。たった数秒の間、打ちのめされ続けたその姿はフルラウンドを闘い抜いたかの様に顔面が腫れ上がり、
顔と言わず身体と言わず爬虫類のまだら模様を痣に覆われている。
 それはKOと言うより心身共に粉砕されたと表現すべき様相だった。
そんな挑戦者を尻目に理保はその肉体を誇示するかの様なポーズで勝利アピールを行いながらリングを練り歩く。
 顔に浮かべているのはグラビア写真を取っていた頃から変わらぬ眩しい笑顔。
その様子からは全力など出していないと言う余裕が窺い知れた。
 会場に据え付けられた大型スクリーンにこの試合のハイライトが次々スローモーションでと流れていく。
ヘビー級を遥かに上回るパワーを生み出す肉体を完璧に操り、
見惚れる程の華麗なフォームでディフェンスとオフェンスを見せつける理保の姿は「ギガンティック・ビューティ」の名に相応しいものだった。


 おわり





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