世界一幸せな男・21世紀の男女関係2
第十章 妹との決別のとき

そして夏のある日、オレと愛との関係がついに妹の恵にバレた。母が口をすべらせてしまったのだ。

オレはあれほどまでに自分を溺愛してくれていた恵に、どう言い訳したものか迷いに迷った。恵の気持ちを踏みにじったばかりか、その相手が親友だと分かって、愛のほうに迷惑がかかることを心配した。
仕方なく、オレから恵に電話することにした。恵に、オレと愛との関係を認めてもらうために…。
恵はオレの報告をじっと黙って聞いていた。だが意外なことに、この年、ついに全米デビューも果たして1年間のツアー中、さらにCDセールスも好調の恵は、日々の忙しさもあってか、もはやサバサバしたものだった。
「別にいいんじゃない。そろそろお兄ちゃんを解放してあげることにするわ。あたしも日本のことばかり気にしていられないしね」

 その秋、メジャーリークのオフシーズンに、恵はあっさり超高給取りのアレックス選手と婚約して、合わせて年収100億の夫婦と書きたてられた。まるでオレに見せ付けるように。
オレは愛という恋人を得ながらも、恵にまた嫉妬心を燃やした。
ずっとオレが夢中になってきた妹の見事なあのカラダを、メジャーリーガーが逞しい肉体で抱いていると思うとたまらず、身をひきさかれるような苦痛にたえしのんだ。
やっぱりお前はオレのようなひ弱な男は嫌になって棄てたんだな。そんな悲しさをなぐさめてくれたのは愛だった。
愛の優しさに触れ、ますます彼女に夢中になるオレ。
水泳で鍛えた彼女は相変わらずパワフルセックスであったが、さらにオレを強気でリードするようになってきていた。
彼女はふだんは優しいが、ときおりSなのか、水泳で鍛えた自慢の筋肉を見せて力こぶを見せてみたり、逞しいふくらはぎを誇る美脚を目の前に差し出して、「ねえ、揉んでよ」とオレに命じてマッサージさせたりする。
だが、オレは反発するどころか、そう言われるとますます興奮した。なぜなら恵によってオレのそういう性癖が開発されてしまったからだった。
オレのMは妹に育てられたのだと今、悟った。

でも、もう恵を振り切るべき時だ。しかも運のいいことに、愛はオレに最適の彼女だと気がついた。
オレは年明けの春に愛にプロポーズし、順調に5月には結納を交わした。

だが、信じられないことに恵は、6月に全米ツアーを終えて1年ぶりに日本に帰ってくると、またオレを求めてきた。どうして?と問うオレに、恵はこう言うのだった。
「私にはアレックスがいるけど、お兄ちゃんも離さないわ。アレックスはあの鍛え上げられた体で強烈な快楽を与えてくれるの。私もセックスはものすごく強いほうだから、彼とのセックスは肉弾戦のようで、毎回スリル満点でやめられないけど、彼はそのあと毎回私に子犬のようになって甘えてもくる。私はそれを受け止めるのに精一杯でちょっと疲れてしまうの。その点、お兄ちゃんとの場合は私、自由に飛翔できるの。お兄ちゃんとのセックスは私にとってか弱い小動物をかわいがるようなものだけど、それもまた気持ちいいの。とことん私が主導だし(笑)。だから私が鍛えてあげる。一人前の男にしてあげる。私はそれに喜びを感じてるし、私としても母性本能を開放できるのよ」
「でも、オレは愛ちゃんと婚約したんだよ」
「ウフフ、まだ結婚してないんだから、別にいいじゃない」

だがオレは、苦しいときにオレを支えてくれた柴木愛のためにも、もう恵と離れなければいけない。そう決心していた。
愛のお腹にはすでに小さな命も宿っていた。これから愛とこの子と幸せに暮らすのだ。
それを恵に意思表示するためにも結婚式を早めた。入社から1年4ヶ月後の夏だった。


第十一章 愛との結婚式

いよいよ結婚式の当日がやってきた。
オレには不相応な都内の有名チャペルでの超豪華な挙式。ここで式を挙げたいというのは愛の希望だったが、オレはずっと無理だといっていた。ここは大金を積まないと挙式させてもらえないのだ。
それを可能にしたのは恵だった。恵がここの牧師にアメリカから1本の直通電話をかけただけで、教会はオレと愛のために日程をこじ空けた。
「大好きなお兄ちゃんのためなら、なんでもするわ」と、式に参列した恵は笑った。
愛のウエディングドレス姿は最高に美しかった。
だが、参列した恵の真紅のドレス姿はそれを超える見事なスタイルとセクシーさだった。
ふたりの女性の美しさに悩殺され、オレは混乱状態だ。
恵は表面上は祝福しながら、自分を裏切った兄に対し、思う存分自分の魅力を見せつけ、後悔させてやろうと思っているのかもしれない。
そう、オレは確かに、妹への思いを捨てきれなかった。
だがそれも今日までだ。目の前には恵に負けず魅力的な愛がいる。
これからは柴木愛を心の底から愛そうと思った。

おごそかなオルガンの調べとともに愛がヴァージンロードを歩いてきた。
そして父親から受け継いだオレと並んで歩いた。リハーサルではオレより背が高い愛は腕を組みづらそうにしていたが、オレがヒールのある靴を履いて、愛の高さに合わせた。
式の誓いの言葉、そして指輪の交換、ベールをあげると愛は泣いていた。
成就した結婚に感激したのだろう。
オレは涙をふいてやった。「ありがとう」愛は小声でいった。

「恵、いままでありがとう。もうお兄ちゃんは一人前になったから大丈夫。お前はアレックスに尽くせよ」
愛との式が終わると、列席してくれた妹にそう伝えた。だが意外な答えが返ってきた。
「お兄ちゃん、安心して。私とお兄ちゃんの間は別に今のままでいいのよ。もう愛には了解ずみだから。」
「どういうこと?」
そこへ入ってくるウエディング姿の愛。
了解ずみって、どういうことなんだ!とオレは愛に問いただす。
愛は答えた。
「だって私を剛に引き合わせてくれたのは、ほかならぬ恵だもの」
それはそうかもしれない。愛は妹の友達だったのだから。だが、それがどうして妹と今後も付き合っていいという解釈になるのか、オレは一瞬、ワケがわからなかった。
「もともと私、ちょっとか弱くて従順な男性がタイプだったの。それを知った恵が高校のとき、ウチのお兄ちゃんはピッタリだよって、それで一度、恵のうちにお兄ちゃんを見にいった。そしたら剛がまさに私の理想のタイプだとピンときたから、ふたりで取引したのよ。そのころ恵はアメリカに行くことが決まりそうだったけど、お兄ちゃんから目を離したくない。私はそういう理想の彼氏がほしい。それで剛の彼女になる代わりに、恵のお兄ちゃんの監視役になるわって申し出たっていうわけ」
「私はあのころもう仕事が忙しくて週に1回しかウチに帰れないから、気を許せる愛にお兄ちゃんを見守ってもらいたかったんだよ」
「私はいつも恵にその日のあなたとのことを逐一報告していたの。恵が海外に行ってる間もちゃ〜んとね」
つまり愛はオレとのすべてを恵に伝えていたのだ。いうなれば、妹と愛は一心同体。恵は愛を通じて、オレを監視していたのだ。まるで海外旅行に出かける前に、飼い犬を親友に預けるようにして。
オレは自分でもわからないうちに頭に血がのぼり、愛を怒鳴りつけた。
「愛っ、お前は、いままでそれでいいと思ってたのか?」
突然聞かされた状況に興奮して、つい、愛のことをはじめて「お前」と呼んでしまった。


(第十二章につづく)





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