世界一幸せな男・21世紀の男女関係2
第十二章 愛の実力

恵と愛はひそかに取り引きしていたのだ。
オレは興奮のあまり、愛のことを怒鳴った。
「お前は、いままでそれでいいと思ってたのか?」
すると次の瞬間、信じられないことが!!
ウエディングドレス姿のまま、愛の強烈な平手がオレの頬を貫いたのだ。
「剛、偉そうに何を言ってるの?」
 愛はスレンダーな見かけからは想像もできない腕力を示した。その威力は平手打ちというより、まるでボクサーのパンチを真正面から受けたような衝撃だった。オレは思わず1メートルぐらい後ずさったかもしれない。
その様子をみて、恵がクスクスと笑っている。
「無茶しないほうがいいわよ。お兄ちゃん程度の力じゃ、どうせ愛に勝てないんだから」
愛は、女のくせになんという力なのだろう。さっき愛ははっきりと言っていた。従順な男性が好きなのだと。そしてそう宣言したからには、自分は男に負けない力を秘めているのだということを、結婚初日に思い知らせたのだった。力もないのに生意気な男は許さない、とでも言うかのように、たった一撃でオレを黙らせた。
聞けば愛は、水泳が得意なだけではなく、幼いころから武道家の父親の影響でテコンドーを習い、また密かにいま流行のボクササイズにも通っているのだという。
この同じ姿でさっきまで泣いていた愛だが、いまは別人のように強気ににじり寄ってくると、上からオレを見下ろすように言い放った。
「恵の気持ちだって分かるでしょ。いつも剛のことを心配してるんだよ。それもこれも剛がダメ兄貴だからじゃない? 恵はいつも言ってたんだよ。『小さいとき、病弱だった私を大事にしてくれて、私に水泳を教えてくれたり、勉強を教えてくれたりして、私をここまで強く大きく育ててくれたのはお兄ちゃんの存在なしには考えられない。そんな大事なお兄ちゃんに何かあったらいけない。ずっと私が守ってあげなくちゃいけない』って。その気持ちがわからないの? ほんとにダメ兄貴ね」
オレは泣いた。その通りだ。オレはなんて情けないんだろう。
しかし、恵や愛にこの性癖を育てられてしまった今となっては、もう取り返しがつかないことも分かっていた。強い肉体を持つ彼女たちにかかっていっても力では敵わない。それどころか、いたぶるような愛の言葉が快感にすら聞こえてくる。おそらく愛はそれをもう十分わかっていて、わざときつい言葉を吐いているのだろう。そういう言葉を浴びせれば浴びせるほど、愛にとって理想のМ夫に育っていくことを知って。
「わかったわね、剛。私はあなたの弱さを受け入れているの。悪いようにはしないわ。あなたを恵に負けないほど愛しているし、心から守ってあげたいのよ。だから私を困らせないで。逆らったりしないで従順でいてちょうだい。仕事なんか大してできなくってもいい。私がいくらでも養ってあげるから…」
「そうはいっても、愛、君だって僕と同じまだ2年目のひよっこ社員じゃないか。果たして君ひとりの給料でやっていけるかどうか……」
すると、恵が言った。
「ウフフ、お兄ちゃんったら何も知らないのね。愛は今度有望新人を発掘して、その子が私のプロデュースでデビューすることになったから、一躍、この業界注目のプロデューサーになったのよ。だから先月からお兄ちゃんの5倍は稼いでいるの。知らなかったでしょ? しかも、その子は私の力で1年後には確実にトップ・アーチストになるから、そうなれば、さらにいまの10倍は稼ぐことになるわ。もうお兄ちゃんは遊んでも暮らせるのよ。これ以上の幸福ってないでしょ」
剛は、すでに愛と天地ほどの収入差があると知らされ、ショックを受けた。
「でも私は剛にウチのことをやってなんて言うつもりはないわ。今のまま仕事を続けたいのなら、営業で頑張ってもらってもいい。そのときはお手伝いさんぐらい私の収入でいくらでも雇えるんだし、私はあなたの仕事の自由を尊重するつもりよ。けれど、これから私と同じこの会社で働く限り、私との収入格差のことであなたの陰口を叩く人も沢山いると思うの。もし、あなたがそれに耐えられなくて、自分からすすんで仕事を辞め、家事をやりたいと思うなら、それもいいわ」
しかし、オレは自分の立場を受け入れつつも、今の仕事は続けさせてもらうことにした。
それが精一杯の男としての抵抗であり、たとえMの性癖を植えつけられても、そのぐらいの自尊心は残っていた。
そして愛もまた、それを妨害はしなかった。自分はオレよりも遥かに稼ぎつつ、オレを自由に働かせ、文句ひとつ言わずに養ってくれている。
愛は本当に包容力のある強い女だ。そんなところは恵に似ていた。


第十三章 佳代子の誕生

 結婚してまもなく娘が生まれた。娘にオレは佳代子と名づけた。父親が妹につけるつもりだった名前だ。
父は(男性をたて、かよわいながらも可憐で愛される女性になるように)という願いを込めて、この名前を考えていた。しかし前に書いたような理由で恵という名前になり、妹はその名前に込めた(この世のあらゆる恩恵を受けて健やかに育つように)願いのとおりに強く逞しく育った。
オレは恵がもし「佳代子」という名だったら、どう育ったのだろうと考えた。それで佳代子という名前をつけてみた。恵が生まれたときの父親の願いを込めて。もちろん、オレが佳代子と名づけた理由を、妻の愛には知らせていない。

結婚して1年目、娘を親に預けて、オレと愛は結婚記念日の食事に高級ホテルのレストランへ行くことにした。
記念日の数日前に、愛は免許をとったばかりだが、一括払いでポルシェを買った。記念日にそれを初運転してオレを乗せて首都高をぐるぐる回りたいというのだ。
オレは危険だと反対したが、愛は「試験場で教官に褒められたぐらいなんだから。私のドライビング・テクニックを見たら感動するわよ」といって聞かなかった。
愛のテクニックは確かにすごかった。冗談ではなく、そのうちA級ライセンスを獲りたいなどと言い出しそうなほどだ。
目的地に着くと、超人気ホテルだけに駐車スペースは大混雑。駐車待ちの車の列が乱れ、収拾がつかない様子。多くの車は動きがとれないでクラクションを鳴らしまくっている。
 だが愛は、その先に小さなスペースがあるのを発見すると、乱れている車と車の隙間にサッと分け入り、映画のカーアクションで見たような大胆なハンドルさばきで、一瞬のうちに車庫入れを済ませ、涼しい顔。
周りのドライバーたちは一瞬の出来事に呆気にとられ、愛に先を越されたことを悔しがる間もない。
そのうえ運転席から出てきたドライバーが藤原紀香似のスラリとしたクールな美女だから、プライドを大いに傷つけられたであろうことは想像に難くない。
駐車場を50mほど歩いていくと、また別のエリアでカップルが縦列駐車風の車庫入れがなかなかできずに困っていた。30歳ほどの男性が何度やってもうまくいかず、助手席の女性にあきれられている。
見かねた愛が助手席の女性に声をかけると、その女性に命じられ、運転席の男性は愛と交替した。
愛は一度車を出すと、片手で素早くS字ハンドルでバックし、寸分の狂いもなく、一発で縦列駐車を決めて降りてきた。
わずか20歳の免許取り立ての愛に、「ハイ! どうぞ」とキーを渡される30歳の彼氏を、助手席から降りてきた女性が明らかに見下しているのがわかった。
だが、肝心の男の視線は、さっそうとした愛の後姿、そのブラック・ストッキングに包まれた長い脚の魅力に釘付けになっている。

レストランはミシュラン三ツ星のレストラン。ワインも飲んで、ひとり15万円はくだらないが、愛の収入からすればどうということはない。
レストランで結婚式の思い出を語るオレたち。オレが愛にはじめて殴られたことも話題になった。
「あのときは本当に悪かったわ。結婚式の日にあんなことしちゃうなんて。でも本当に腹がたったんだもの。私、カッとなったらすぐに手が出ちゃうから…。でもあれでお互い、もっと分かり合えたよね、結果的に」
「そ、そうだね」
確かにあの一撃で、オレは愛に逆らえないことを思い知らされた。
「私、そのあとは1年間、剛のこと殴ってないし。あの日のことがあったから、あなたも私に無理を言わなくなったでしょう。だから良かったよね。あれがなかったら、私きっと、別のときに思いきり剛を殴ってたかもしれない」
 愛はそう言って、むしろあれで良かったのよ、と笑った。
「……でも、今もときどき恵はオレに甘えてくるけど、そのことは本当に愛は気にならないのかい?」
「アハハハ」
「だって一種の浮気だよ、これって」
「別にいいわよ。だって恵はあなたの妹でしょ。兄妹だったら浮気されたって気にならないし、私たちふたりの強い愛を受けとめれば、あなたが別の女に入れあげるような余裕もないでしょうしね」
「それでもオレは浮気するかもよ」
「ふ〜ん、別にいいけど……。でもそうしたら、私たちふたりとも黙っていないわよ。剛、私が本気で怒ったら耐えられるの? まあ、その前に私たち2人を相手にして、あなたがさらに他の女性を相手にできる体力があるはずもないけど…。ウフフ。それと剛はさっき恵が甘えてくるって言ったけど、私に言わせれば、恵が剛を見守りにくるようなものだわ。か弱いお兄ちゃんをね」
「……」

 その夜は記念日だからと、そのホテルで一泊した。
愛はブラック・ストッキングに包まれた魅惑的な脚を差し出し、「脱がせて」と要求する。
オレは愛の長い美脚に心を奪われつつ、味わうようにストッキングをゆっくりと下げた。
だがオレが脱がせ終わると、いきなり愛は逞しいその太腿でオレの上半身を蹴り、オレはベッドに仰向けに投げ出された。
オレのペニスはひときわ大きくなっていた。思いがけぬ渾身のまわし蹴りを浴びて、オレのМ性が一気に最頂点に達してしまったのだ。
「ウフフ、剛って、こういうの興奮するんでしょ」
愛はオレの性癖を見透かすように笑っている。
「あなた、さっき浮気をちらつかせたわよね(笑)」
「えっ、そうだっけ?」
「何をとぼけてるの? 今日は佳代子もいないしちょうどいいわ。そんなことしたら、どうなるか? どうやら剛には、もう少し女の怖さを身をもって教えてあげる必要がありそうね(笑)」
 そういうと愛は、仰向けになったオレの顔を筋肉質に盛り上がった90cmのヒップの下に敷いた。すさまじい重量感だった。オレが息も絶え絶えにあえぐのを、上から楽しそうに見ている愛。
「ほうら、男なら逃げてみなさいよ」
オレはなんとか上にいる愛をはねのけようとしたが、どうしようもなかった。バタバタさせた両腕も、愛の両手にしっかりと押さえつけられてしまう。水泳で鍛えた愛のリストの太さは、男のオレの倍ぐらいあるのだ。
「ウフフ、私の力にかなわないの? かわいい!」
 そういう言葉を浴びせて、ますます剛のペニスがパンパンになるのを、愛は楽しんだ。
 剛がへとへとになると、次に愛は「今度は私が下になってあげるね」といって、ベッドの上で大きく股を広げた。ようやくつらい苦行から解放された剛は犬のように、愛の股の間に身体をすべらせた。
だが愛は微笑を浮かべると、両手で剛の頭をつかんで、ぐいっと引っ張り、股の間に挟んだ。
「さあ、舐めて!」
愛が強い口調で要求する。剛がためらっていると、愛は剛の両脇にだらんとさせていた、長くて筋肉の発達した美脚を、剛の腰に密着させ、力を込めた。
「ウウーッ!」
一瞬、愛のパワーに縛られて、剛の腰に激痛が走った。言うことを聞かないと大変なことになりそうだった。剛は愛の要求通りに、愛の股間に奉仕しはじめた…。
「アハハハ、ちゃんとわかってるじゃない。愛し合ってるふたりには言葉なんて必要ないよね、剛」
 愛は満足げに快感に身を任せた。

 そしてこの日、オレは燃えさかるような愛のセックスに完敗した。愛の長い美脚が、剛の腰にねっとりとまとわりつく。
やがて挿入すると、徐々に水泳で鍛え抜かれた愛の筋肉質の肉体に力が込められ、それと同時に膣も強烈にオレのアレを締めあげる。いつもに増して強力な締めつけだ。
オレは完全に愛の思うがままだった。
「だめだよ〜〜ア〜〜〜ン!!!」
 大声でまるで女のようにもだえるオレ。まったくの男女逆転だった。
娘の世話から解放された今日の愛のセックスは、ふたりが付き合っていた独身時代のように、いや、その独身時代にも増して強烈かつ粘り強い、瞬発力と持続力の塊のようなパワフルなもの。
つきあいはじめた頃から、愛のセックスに付き合うには、その持てる体力をフルに使わなければならないと思い知らされていたが、いま、その独身時代のセックスですら、愛にとっては70%ぐらいにセーブしたものだったことを思い知らされた。
おそらく愛はオレの体力をはかりながら、慎重に、自分の水泳で鍛えた強靭な体力、筋力をあまり見せつけすぎないように、結婚までは我慢していたのだろう。
だが、ついに今日、愛はオレのまえで、自分の体力を解放しはじめた。
 いま、愛は野獣のような本性を、これでもかと見せつけていた。
 オレは生まれてはじめてといっていいほどのザーメンを噴出し、ベッドにぐったりと動けなくなった。
「まるで干しスルメのようね」と愛が、剛という獲物を睨み付けている。
 オレはベッドのうえで、女豹に睨まれた子犬のようなものだ。そして、恵からしっかりと情報を得ている愛は、長い年月のあいだ妹に育てられたオレのМ性をもっと育てようと、言葉をも巧みに操る。
「あらら、ようやく本気で楽しめると思ったのに……。剛、情けないもいいとこね。まあいいわ、ベッドではすべて私に身を預ければ、徐々に慣れて強くなってくるでしょうから…。慣れるまでしばらくは苦行でしょうけど、私を楽しませるために、体力の限界まで尽くして頑張ってね。手抜きは許さないわよ。私にはすべてお見通しなんだから」


(第十四章につづく)





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