世界一幸せな男・21世紀の男女関係2
第十四章 愛の料理の秘密
 
そうして結婚4年が経った。
今オレは27歳。妹と妻はまだたったの23歳だが、妹はあいかわらず年間売り上げ50億円のカリスマ。その後、音楽プロデューサーとして成功した愛の稼ぎはいまやオレの年収400万円の200倍の8億と、世界を手中に収めたかのような勢いである。
それを決定的にしたのは、アメリカに暮らす恵の娘・沙耶を、愛が独占プロデュースすることになったからだった。
愛はレコード会社を辞め、独立してプロダクションを経営し、アメリカでの事業も日本にいながらにして指揮している。
トップメジャーリーガーとカリスマ歌手の娘・沙耶はいまハリウッド期待の子役として頭角を現し、将来の歌手デビューを狙っている。
恵と愛はいっそう信頼が強くなり、ビジネスでも稼ぎ、ふたりでオレという男を支配している。ちなみに肉食系の愛は最近、オレ以外にもひとり、若い従順な男を飼い始めたようだ。自分のプロダクションの新入社員のイケメンに、事務所近くのマンションの部屋を買い与え、面倒をみているらしいのだ。
剛は会社で若い男子社員同士が、そんな噂をしているのを耳にした。
「おいおい、うちの部の剛先輩って、あのカリスマ・プロデューサーの柴木愛のダンナらしいじゃん。羨ましいよなあ、逆タマってやつ?」
「だけど、超格差婚だからツライんじゃねえか? だいたい柴木愛って、アタマは切れるし、あのスーパーモデルのような美貌だから、あちこちに男がいるらしいぜ。自分の事務所の新入社員に5000万円のマンションを一括で買って住まわせてるらしいし…」
「それって、その新入社員を飼いならしてるってことかな? すげえ〜」
しかし愛は、もちろんそんなそぶりを全く見せない。本当のところはわからない。オレは尻尾をつかんでやろうと、ある日、愛をホテルの夕食に誘った。
「剛からディナーに誘うなんて、珍しいじゃない? お財布は大丈夫なの?」
「オレだって、もう5年以上勤めてるんだから、並の給料は貰ってる。大丈夫だよ」
「ウフフ、無理しちゃって。じゃあ今日はゴチになろうかな」
 そういうと、愛はその中華の名店で、メニューから超高級食材の料理を次々にオーダーする。オレが顔面蒼白になると、
「ほらほら、やっぱり無理でしょ。いいのよ、私がぜ〜んぶ払うから(笑)」と高らかに笑った。だがレストランのオーナーがすぐに飛んできて、愛に挨拶する。
「愛さま、いつもご贔屓にしていただいて。こちらは御主人でいらっしゃいますか?」
「そうなの、今日はご馳走してもらおうと思って…」
そう言ってオーナーにウインクすると、彼は事情をすべて察したかのように、
「いやいや、でしたら今日は当店よりフルコースをご招待させていただきますよ。せっかくのご夫婦のお食事ですから。心置きなく楽しまれてください」
そういって給仕に合図すると、料理ばかりでなく、頼んでもいない超高級ワインまでが続々とテーブルに並べられた。
剛は愛の社会的地位をいまさらながら思い知らされた。
剛は食事しながら、愛を問い詰めるつもりだった。早いペースでワインをどんどん飲ませたのだ。
だが愛は余裕でワインをどんどん消化していった。この女にはアルコールの限界というものがないのか? 
「剛、私を酔わせようったってムダよ。私、大学時代から、体育会系の飲み会でも徹底的に男子部員をつぶしてきたんだから(笑)。
だいたい見え透いたセッティングしたって貴方の狙いはわかってるわ。
何が知りたいの? 私の男関係? ウフフ、教えてあげない(笑)。
そんなのどうだっていいじゃないの。
貴方は私の夫の位置にいるだけで不満はないでしょ? 
私に浮気されたくないのなら、せいぜいベッドで私の期待に応えてみなさい」
その夜のベッドで、またもあの美脚による締め上げ攻撃を仕掛けられた。
オレはずるいと思った。オレが浮気をちらつかせた時はただそれだけで攻撃をしかけ、逆にオレが浮気を追求したら、今度は何もまともに答えようとせずに逆攻撃してくるなんて。
妻の思い通りにされてたまるもんか! 男の意地を見せてやる!とオレは最後まで妻の締め上げに耐えた。だが、その結果は無残だった。
オレが耐えるものだから、愛は「まだ大丈夫ね。あなた、なかなか辛抱強くなってきたじゃない?」と徐々に締め上げる脚力を強めた。
その刹那、ついにオレの腰には激痛が走り、緊急入院・手術するはめに陥った。妻の脚力により、肋骨がゆがんでヘルニアになってしまったのだと診断された。
オレは妻の強靭な体力を思い知った。もう問い詰めるのはやめた。命がいくつあっても持たないからだ。

今日は、テレビの料理番組に愛がスペシャルゲストで出ている。
最近のカリスマらしく、愛も音楽プロデューサーながら、時折、テレビ番組に出演し、その方面でも稼ぐようになっていた。
特に、趣味として野菜ソムリエの資格を取っている愛は料理にも精通したカリスマ業界人として、多くの番組から声がかかる。
しかし妻はそれらのなかから自分のステイタスになるものだけを慎重に選んで番組に出演している。1本あたりのテレビ出演料で、オレの月給の倍は稼いでしまうので、本当に出たい番組にしか出ないのだ。 
今日も妻は、野菜ソムリエらしく独自のレシピを披露して、他の出演者を圧倒している。
だがオレだけは気がついている。愛はいつも、味付けだけしかしないことを。

愛は優しいが、さりげなく家庭の主導権を握っている。
たとえば夜7時半、オレはいつも家で妻の帰宅を待つ。

妻がただいまと帰ってくる。
「遅くなってごめん、お夕飯つくるわね」
ここまで聞けば、普通の家庭よりも出来すぎた妻と思うだろう。
だが、ここからオレは妻の指示通りに動かされるのである。
妻は料理が好きだ。だが本当は料理の盛付けや味付けが好きだ、といったほうが正確だ。
野菜を切ったり、後片付けの一切はオレの役割となっている。
毎日、妻が夕食を作る夜8時前には、台所を整えて、待つ。
そのためにオレは会社を夜6時半には退社しなければならない。普通の会社ならしにくいことだが、そこは愛が巣立ったレコード会社である。
会社の上司も、それが愛の希望とあれば文句はいわない。なにより、カリスマプロデューサー愛のプロデュースしたアーティストと契約したいのだから。
オレの上司は、「理由は分からないが、ラブラブでいいじゃないか。いまどき、理想の夫婦だな」と送り出してくれる。
そうしてオレが先に家で待っていると、そこに愛が入ってきて、今日はこれを切りなさい、あれを切りなさい、と指示するのである。
ただし、味付けだけは愛の独壇場だ。愛はその点においては天才的なセンスを持っている。
愛はオレが切った野菜を手早く鍋に入れ、見事な手つきで調理する。
男が持っても疲れるような巨大な店舗用の中華なべを、このぐらい大きいほうが火力が伝わっておいしく出来るのよ、と見事に使いこなす。
いちどオレもやってみたが、重くて1分ほどで手首が痛くなったのに、愛は3分も振り回して平然としている。水泳で鍛えた腕力がここでもものを言うのである。
 いちどオレは「いつも、素材を切るのは僕の仕事だね」と嫌味を言ったことがある。だが愛は平然といった。
「ええ、そうよ。だけど調理でいちばん力のいる仕事は、女の私がやっているのを忘れないでね(笑)」と。
 確かにそうだった。愛は笑ってそう言っただけだったが、オレはそれ以上文句を言えなくなった。その言葉の持つ意味が身にしみてわかったから…。
調理好きな愛は「いちばんの力仕事をやっているのに」と不満を漏らしたわけではないのだ。不満を漏らすとき、愛は決して笑わない。だから、この場合はむしろ逆で「私に逆らえると思っているの?」と、力を背景に余裕でオレを威圧したのであった。
不敵な笑みを浮かべながら…。
こういうさりげない夫の威圧方法を、愛は天才的なまでに心得ている。

週に一度、愛は夕方に突然連絡してくる。
「今日は夕飯、外で食べるから」
そういうとき、オレはひとりさびしくカップラーメンなどをすすることになる。愛がそういうときは100%、高級店で1食10万はくだらない超高級メニューを食べてくる。
「今日は白金のオーベルジュ・マリアで、こんなものを食べてきたのよ」と愛は悪びれずに言う。
「いいなあ」
「しょうがないじゃないの、これもつきあいよ。だってミシュランに載ったあそこのシェフが新しいメニューを開発すると、『まず、あなたに食べてほしいんです』って私の携帯にメールしてくるんだもの」
「一度、オレも一緒に行きたいな」というと、「ダメよ、そういうときは、私のところの人気アーチストと行ってあげるの。そうするとアーチストも喜ぶし、店もアーチストのサインとかあげると鼻高々だから…。あなたといってもしょうがないわ」
だが愛はなんと、それらの高級メニューのレシピをこっそり聞き出して、翌週には家で再現してくれるのである。
「よくそんな新しいレシピを教えてくれるね」
「だって、どこの店のシェフも私の魅力に参ってるんだもの。ちょっとセクシーなドレスを着ていって、目の前でこの脚を組めば、みんなイチコロよ。
どこにもバラさないからっていう約束で教えてもらっちゃうの。あなたは家にいながらにして、私がお店で食べてきた最新の高級メニューを食べているのよ。
あなたは私の夫になって、世界一の幸せ者よね」
 確かに、褐色に日焼けしたセクシーな魅力をふりまくモデル並みの長身美女の愛に迫られたら、誰でもつい言うことを聞いてしまいそうだ。
 今日は、先週食べたフレンチを再現するという。
そのために妻は5万円相当の食材をいつも贔屓にしてもらっている各地の生産者から取り寄せた。この生産者たちも愛のシンパなのだ。
彼らから届いた食材を洗っていくのも、オレの仕事。
そして妻・愛の指示に従い、オレは働く。いまさっき会社で酷使された身体にムチ打って。
でも、そのあとには愛の天才的味付けで、新作フレンチの再現料理が待っている。
食べると本当においしい愛の料理。ほとんどの作業はオレがしているが。
でも愛は「お店で食べたのと、ちょっと違うわ」と笑っている。
「もっとおいしかったのよ。あのシェフ、大事な隠し味を教えてくれてないわね。今度、吐かせてやるわ」
オレは、そんなこと吐かせなくてもいいから、一度、一緒に店で食べたいと思う。オレはオリジナルを食べたことがないから、これで十分に美味しすぎるのだ。
「ああ、おいしかった」満足のオレ。
「本当においしかったわね。私に感謝の『ごちそうさま』は?」
「ごちそうさまでした」
オレは娘の佳代子と声をそろえて感謝の言葉をいう。
「じゃあアナタ、そろそろ片付けのほうをよろしく頼むわね。いつもありがとう」
 そういって、愛はリビングのパソコンに向かってメールを始めた。


第十五章 スポーツジムの彼女

娘の佳代子は今4歳だが、オレの願いに反して、逞しく育っている。なにしろ母親譲りの運動神経を発揮して、スケートや水泳で早くも才能を開花させている。
ちなみに佳代子の命名の理由については、早くからバレていて、愛にからかわれてしまった。
「そんなこと私、最初っから知ってたわよ(笑)。恵が昔そのことをお父さんから聞いていたんですって。
(男性をたてながら、かよわいながらも可憐で愛される女性になるように)でしょ? 
いまどき笑っちゃうわ。まさか、剛もそんなこと信じてつけたわけじゃないわよね。
まあ、あてが外れて残念だったわね。
私の予想じゃ、佳代子はスポーツ万能だし、なかなか凄いアスリートになれると思うの。
剛の遺伝子を私の遺伝子が駆逐したのね。良かったわ。あの子、私より背が伸びそうだし、180cmは越えそうよ。
剛、小6で恵に身長抜かれたんだってね。佳代子はいま4歳だけど、おそらく10歳ぐらいであなたより大きくなるかもよ。
今の女の子は力も結構あるから、大きくなったら、あなたもうかうかしてられないわね。
小学生の娘に腕力でねじ伏せられるなんて、だらしない父親にならないでね(笑)」

日曜日の昼下がり。家族3人でジムに行った。親子水泳教室はたいてい母親と子で受ける家族が多いが、うちの場合は、愛のほうが忙しいので、いつもオレと佳代子で受けている。
だが今日は、親子3人で受けてもいい親子水泳大会の日。愛も多忙な仕事をあえて休んで初参加した。
各家庭とも、親子単位で水と遊ぼう、という日だ。
そこでは父親同士の25m競泳。母親同士の25m競泳。そして父親か母親と子供がペアで泳ぐ50mの親子リレーがある。
親子リレーを父親と泳ぐか、母親と泳ぐかは、父親同士、母親同士の競泳を泳いでから、自由に決めていいことになっていた。
オレも競泳はまあまあ得意だった。親たちの間ではかなり早いと評判で、佳代子もオレと組んでのリレーを楽しみにしていた。オレは稼ぎは少ないが、毎週この水泳教室で活躍することで、佳代子から父親として尊敬されていた。
だがオレは、父親同士の競泳で8人中3位に終わってしまった。ふだんはこの教室にやってこない隆くんと誠くんのお父さんが、もと水泳部出身でダントツに早かったのだ。
しかも驚いたことに個人差はあるものの、全体平均では父親たちのレースより母親たちのレースの方がタイムがいいという結果が出た。
スクールの先生は父親たちを慰めるように言った。「この教室はいつもはほとんどお母さんたちが一緒ですからね。お父さんたちは日ごろ、泳ぐ機会がないからしょうがないですよ」。
だが元水泳部の実力者、愛は、その母親同士の競泳でも1位、タイムでもオレを上回り、僅差で父兄の総合3位と実力を示した。
この瞬間、オレに対する佳代子の見方が変わった。
「水泳でもお母さんに負けてしまうなんて…。お父さん、だらしない!」
佳代子はスイミングクラスでは男の子にも負けないぶっちぎりの優等生なのだ。親子リレーも絶対に負けたくない。オレは佳代子と泳ぐ晴れの舞台を楽しみにしていたが、佳代子は非情にも言い放った。
「私はお母さんと一緒に泳ぎたい! お父さんとじゃ嫌!」
この瞬間、オレの父親としてのプライドが砕け散った。

いよいよリレー、だが愛は、父親同士の競泳での隆と誠の父親のタイムを知って、密かにほくそえんでいた。実のところ、さっきは全体のレベルをうかがうために軽く流したのだと言う。
そしてついに号砲が鳴った。
まずは子供たちの25m一騎打ち。隆も誠もかなわないトップの佳代子!!
オレはいつも娘の泳ぎを見てきたが、今日はいつもとぜんぜん違った。いざ晴れの舞台になると、娘はこんなに凄まじい闘争心を発揮するのか! 
まだたった4歳なのに……。佳代子はやっぱりオレよりも愛の遺伝子を受け継いでいるのだ。
2位を5m近く引き離した佳代子。そのタッチで今度は愛が飛び込む。子供たちとは勢いがちがう豪快な水しぶきがあがる。
はじめて間近で見せつけられる愛のその迫力の飛び込み! オレは身震いした。
飛び込みの差だけでもさらに1mは差をつけただろう。他の親が飛び込むときには愛はもう25mの半分を泳ぎきっており、隆と誠の父親をまったく寄せ付けないばかりか、彼らが5mも泳がぬうちに、ゆうゆうとゴールしていた。
母と娘の女2人で他の親子を圧倒したふたりは、大拍手の渦のなかにあった。
隆と誠の父親は、愛の力強い泳ぎにまったく歯が立たず、まさかの敗退に真っ青。
意気揚々とこの親子水泳大会に参加したはずだったのに、息子になじられ、合わせる顔がなく、呆然とうなだれている。
その気持ちがオレも痛いほど判った。
「さすがお母さん!」
親子で優勝を果たした佳代子は得意満面だ。

 そのあと、帰ろうとしたオレをさえぎって、愛が言った。
「あなたがいつも帰りに立ち寄るという、マシンルームのほうも見てみたいわ」
水泳大会の今日は、引率の親にかぎって特別にこのジムのマシンの体験が無料でできる日だったのだ。
マシンルームに入ると、ひとりの男性がレッグブレスのトレーニングを終えたところだった。
愛は慣れた様子でマシンに近づくと、ウエイトをさらに大きいものに変えてマシンに腰掛けた。そして楽々と脚を上下に動かし始めた。
ふと見ると、愛の前にそのマシンを使っていた男性が、まったく信じられない!という表情で愛を見ている。オレも同感だった!
愛の掛けたウエイトは、オレがいつもつけるウエイトの1,5倍もあったのだ。
愛は引き続き、大胸筋を鍛えるバタフライマシンも軽々とこなし、腹筋のシットアップベンチ、背筋のバックエクステンションマシンではオレの3倍近い回数をこなした。
「ふーっ、気持ちよかったわ」
といってオレと佳代子の待つベンチに戻ってきたとき、愛のタンクトップは流れ落ちるスポーツウーマンの汗でびっしょりと濡れ、その匂いと、愛の逞しい幅広の背中に、オレはクラクラしていた。
「あなたはバック、どのくらいできるの?」と愛に聞かれる。
「まあ、同じぐらいかな?」
と口ごもっていると、いつの間にか、いつも面倒を見てくれているインストラクターのナナちゃんが横にいて、黙って苦笑していた。彼女は愛にオレの記録を明かすのをためらっている。
高橋というネームプレートをつけたナナちゃんは、まだ18歳。本名は分からないのだが、榮倉奈々によく似ているねと言ったら彼女が喜んだので、オレは彼女を「ナナちゃん」と呼ぶようになった。
実は、童顔美人の彼女のレオタード姿に惹かれて、いつもここに来ているのだ。
「奥さん、さすがの体力ですね。御主人よりパワーありますよ」
「それほどでもないわ。あなたがただって、ウチの主人よりは強いでしょ」と愛。
「そんな〜、まさか」と笑うナナちゃん。
「お前が強すぎるんだよ」とオレがいうと、愛は「インストラクターの方々は、あなたたちがやる気をなくさないように普段は力を見せないようにしているだけよ」と笑う。
いつも優しく柔らかな性格のナナちゃんは、オレたち夫婦のそんなやりとりを見て、穏やかに微笑んでいたが、愛にうながされると、一瞬、これまでオレには見せたことのない鋭い顔つきを見せて、レッグブレスのマシンに向かった。
すると……彼女はほんのウォーミングアップといった感じで、愛の掛けた重いウエイトを変えようともせず、楽々と脚を上げ下げしていく。
オレがいつも苦悶しながらやっている1.5倍のウエイトを、いつも横についてくれている彼女はあっけなくこなし、回数でも超えていく。
その後、彼女はバタフライマシンも愛と同じウエイトで簡単にこなし、愛に対して「これでどう?」という顔をした。
思い知らされた。
いつも優しく手取り足取り指導してくれるインストラクターの彼女は、その笑顔の裏に、オレなど軽くねじ伏せられるパワーを隠していたのだと…。
そして「ウフフ、わたしはこんな感じです。このぐらいないと、この仕事は務まらないんですよ」とはにかんだ。インストラクターの彼女のいつもの優しさは、こうした自信に裏打ちされたものだったのだ。
「あなたったら、毎週、ちゃんと鍛えてるの? インストラクターのお尻ばかり追いかけてるんじゃないでしょうね!」
「アハハハ、そんなことありませんよね、剛さん。いつも真面目にやってますよね」
ナナちゃんは明るく弁護してくれる。
しかし、「本当に男って、木を見て森を見ずよね」愛が言うと、「そうですね」と彼女も笑った。


(第十六章につづく)





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