世界一幸せな男・21世紀の男女関係2
第十六章 21世紀の正しい男子の生き方

翌週の日曜日、そのジムにまた3人で行くことにした。なぜなら佳代子がママと行きたいと言い出したからだ。
「今日は私も時間があるし、佳代子のために一緒に行くわ。アナタは今日はゆっくりマシンをやって鍛えたらいいじゃない? 
先週までは若いレオタードの女の子にアナタが浮気してるんじゃないかと心配だったけど、あのインストラクターの子を見たら安心したわ。アナタよりずっと上手だもの。
アナタを手のひらで転がしてる感じだったわ」
「そんなことないよ、いつもとても優しいし…」
「バカね、それは自分を慕ってもらうために、そういうフリをしてるのよ。
見た? あの子がマシンをやってる時の、私に対する自信に満ちた表情。自分の実力を見せつけてる感じだったわ。
アナタだって彼女のあのパワーを見せつけられたら、迂闊に浮気しようなんて思わなくなったでしょ(笑)。へたに手を出したら痛い目に遭うものね」
愛と佳代子を水泳教室に行かせ、オレは一人マシンルームに向かう。
だが先週、マシンでいつもの女性インストラクターにちょっとした屈辱感を感じたオレは、今日はつい、マシンルームを避けてしまい、その代わりにはじめてマッサージルームで休んでみることにした。
ところが、そこにいたのは、いつもマシンで担当してくれるナナちゃんだった。
「あら珍しいですね、剛さん、今日はマッサージ? こっちははじめてでしょ?」
オレは避けたはずの彼女に会ってしまい、狼狽を隠せなかった
彼女はいつものレオタード姿ではなく、ピンク色のおしゃれな白衣を着ていた。
思わず白衣姿の彼女もかわいいと思ってしまう。いや、愛くるしいぐらいだった。
「どうして君がここに?」
「実は私、マッサージ師の免許も持ってるんです。で、今日は、いつもの子が風邪で休んじゃったので急にこっちに回されてしまって(笑)。マシンのほうはいつも人が十分いますから。いやだわ、慣れない白衣姿を見られちゃった」
そういって、恥ずかしそうに笑う。
「そんなことないさ」と助け舟を出したつもりが、「ところで今日はなぜマシンでなく、こっちにきたんですか?」と逆に突っ込まれてしまった。
「まさか先週のことで、私を避けたんじゃないでしょうね(笑)。嫌ですよ、あのぐらいで嫌わないでくださいね。私、自分より男性が弱くたって、ぜんぜん軽蔑なんてしませんから。
だいいち、この間も言ったけど、インストラクターの女性はみんな男性顔負けの体力があるんですよ。私だけじゃないんですから……」
「しかし、ナナちゃんがあんなに強いなんて、びっくりだな」
 ナナちゃんは、愛にも負けないほどの筋力があることを、先週オレに示したのだ。
「いつもオレがマシンで苦労してるのを横で見ててくれるでしょ。あの時、どんな気持ちで見てたの?」
「ウフフ、年上の男の人が頑張ってるのって、かわいいなって!」
 さっき軽蔑なんてしません、と言われたが、オレは、やはり18歳の女の子に見下ろされている感じがした。
「私に限らずみんなあのぐらいのパワーはありますよ。あの子も、あの子も…」
そういって、回りにいるインストラクターたちを指差した。
このジムは女性インストラクターが美人なことで有名だ。どの子もモデルやアイドルのような子にしか見えないのだが、彼女たちがみな凄いパワーを秘めているとは、にわかには信じられなかった。
「ウフフ、言いにくいことだけど、こういう職場ってある意味セクハラの温床みたいなところがあるんです。男性のそういう視線が強いですから。
だからインストラクターの採用基準も厳しいんですよ(笑)。だから、私から逃げたところでムダですよ(笑)。どの子だって、ここに通ってくる一般男性をねじ伏せるぐらいは朝飯前なんですからね」
そういっていつものように明るく笑った。
「じゃあ、今日はマシンをお休みしてマッサージにいらっしゃったんだから、しっかりと身体を見てあげますね」
オレはバスローブのようなものを着せられ、彼女のマッサージがはじまった。

はじまると、彼女の的確な技術に舌を巻いた。全身を軽く、もみほぐすと、すかさず凝った部位を見つけ、やわらかい手つきで心地よくしてくれる。
「あ、ここ凝ってますね。よく頭痛がするでしょう?」
「ここが痛いでしょう?」
「はい」
「すぐ息切れするようですね」
ナナちゃんの診断はほとんど図星だった。
「ここはどうですか?」
「痛っ!」
「ここをよく痛めるでしょ?」
「はい」
「剛さんの弱点はここですね。首周りをもっと鍛えないと腕力がつきませんよ。頑張って!」……
 そんなことを耳元で囁かれながら、オレはいつしか深い眠りに入っていた。
そして気がついたときは、すべてが終わり、私服に戻って奥のリクライニング・チェアに休まされていたのだった。
いつの間に私服に着替えたのかも覚えていない。
オレが起きたことに気づくと、ナナちゃんが優しく声をかけてくれた。
「気がつきました?」
「もう終わったんですか」
「ええ、しっかり全身を見て診断したから大丈夫よ。でも身体中のあちこちが悪いから、もっと鍛えたほうがいいし、それと……」
「どうしました?」
「剛さん、ヘルニアをやってらっしゃいますね、ここ数年のうちに…。セックスのときですか?」
「そんなことまで判るんですか?」
「ええ、腰を触われば大体はね。私、マッサージ師の勉強をしてから興味を持って、男女の骨の違いや筋肉の作用などをずっと研究してきたんです。
そっちの方面はめちゃ詳しいんですよ。だから、こうやって触れば、どんな方の身体の弱点もすべてお見通しです」
 剛はそういって笑う彼女を見て、首筋に脂汗をかいた。
可愛いこの子は、愛の言うように、とてつもなくしたたかで、手ごわい女性なのかもしれない。
すると彼女は間髪を入れず、こう言った。
「ともかく……今後はマッサージも毎月しにきたほうがいいですね。今回せっかく私が全部見てあげられたから、月一でマッサージしたい日を決めてくれたら、次回からも私がシフトを組んで見てあげるわ」
「えっ、でもそれじゃあ申し訳ないし…診断書さえあれば他の方でも…」
「残念ながら、診断書はないの。みんな私の頭の中…。だから剛さんさえ良かったら、ずっと私が……。そのほうがいいと思うわ。今の90分で、貴方の身体の状態のほぼすべてを丸裸にしてしまったし(笑)」
「えっ、まさか」
「ウフフ、まあ遠慮しなくっていいですよ。マッサージとマシンで両面からあなたの身体づくりを全面的にサポートしてあげます。まずは筋肉をもっと鍛えていきましょうね」
 そういってナナちゃんは天使のように微笑みかけてくれた。

愛と佳代子とは、ジムの出口のロビーで待ち合わせしていた。
マッサージを終えて出て行くと、すでにふたりは待っていた。
「あっ、パパ〜」
 佳代子が駆け寄ってくる。でも子供は正直だ。この子は水泳教室のパートナーにはママを選んだのだ。愛が仕事で行けなくてパパがついていってやるとき、佳代子は何と言うのだろう?
「ママって凄いんだよ〜。今日だけで軽く4キロも泳いだんだから」
「ウフフ、別にたいしたことないわよぉ」
 だが水泳教室の時間のなかでも、自由遊泳できる時間は限られている。オレはどんなに頑張っても2キロが限界だろう。いまさらながら愛の実力には舌を巻かざるを得ない。
「ところで……アナタはマシンじゃなくて、マッサージルームにいたんですって?」
 何でバレているのだろう?
「私にはすべて筒抜けよ。剛のやることは」
「…」
「な〜んてね、さっき女性の更衣室で、あのインストラクターの子に会ったの。それで御挨拶したら、話の流れで全部聞いちゃったわ。まあパパのことだから、さしずめ、先週あの可愛いインストラクターの子の意外な実力を見せつけられて、カッコがつかなくて、マッサージにしようとしたんじゃない? 図星でしょ?」
オレは黙ってうなずくしかなかった。
「まあ気持ちはわかるわよ。あんな可愛い子に力で負かされちゃ、悔しいものね。でもだからこそ、もっとマシンを頑張ってよ。
あの子も『来週からは私がちゃんとマシンで鍛えますから』って約束してくれたから、『スパルタでお願いね』って頼んでおいたわ」

3人は自宅に帰ってきた……。

「剛、紅茶飲む?」
まったりと愛がそう尋ねる。
「つよし、こうちゃ、のむ?」
そう愛の口調を真似て言うのは、4歳になったばかりの娘、佳代子だ。プールで泳ぐのが好きな佳代子は真っ黒に日焼けしている。
「うん、ダージリンがいいな」
オレがそう応えると、愛はまもなく紅茶を入れてキッチンから出てきた。オレはリビングでスポーツ新聞を読んでいた。
「この子、ものすごく早いのね。水泳の才能があると思うわ」
いま2人はスポーツジムのスイミングスクールから帰ってきたところだ。愛は満足そうにニコニコしている。オレは「そうか」とこわばった顔で答えた。
「娘の成長が嬉しくないの?」
「い、いや嬉しいよ、もちろん」
そういってオレは寄ってきた佳代子の頭を撫でてやる。娘は褒められたことを嬉しそうにオレの足元にゴロリと寝転がったかと思うと、あざやかにでんぐり返りした。
「そんなことしたら、パパが紅茶こぼしちゃうでしょ。ほら、プールで泳いできたんだから、そろそろお昼寝しなさい」
愛がそういうと、佳代子は自分の部屋に戻っていった。

オレがゆっくりとマグカップの紅茶を飲み干すと、それを見計らったように愛がつぶやく。
「ね〜え、疲れてる?」
オレはスポーツ新聞を読んでいるふりをした。するとその新聞を奪って、放り投げた愛は、黙って寝室のほうに行った。
愛がこうしたときは、従ったほうがいい。以前に無視して、ひどく機嫌を損ねられたことがある。そうすると後が大変なのだ。
それにしても、なんというスタミナなんだ。愛はいましがた、スイミングスクールで娘と一緒にたっぷりと泳いできたばかりなのに…。4キロも泳いでいたのに…。
そう思いながら、ゆっくりと薄暗い奥のベッドルームに行くと、ベッドのうえから、「早く!」とせかす愛の腕が伸びてきて、グイッとオレを引っ張る。
オレは引っ張られるままに、ダブルベッドの愛の隣に横たわらされた。
そして愛が上にのりかかってくる。モデルのような長身の愛のスラリと長く、引き締まった魅惑的な脚が、オレの身体にまとわりつきはじめた。
だが、そのスレンダーに見える脚が、近くで見るといかに筋肉を蓄えて逞しく、パワーがあり、重量感があるかは実際にセックスをしているオレしかわからないだろう。
その脚がオレの胴にしっかりとからまると、愛は今日もまた、獲物を捕らえるがごとく、その秘めた筋肉を表出しはじめた。
オレの腰のあたりに食い込む、愛のふくらはぎの筋肉。
ギリギリ、ギリギリとオレの身体は愛の強い肉体に締めあげられていく。
強い締めあげと一瞬の解放、それを数回繰り返し、まずは自分の圧倒的な力の優位を示すと、愛はゆっくりと立ち上がり、自分の下半身を堂々と示してオレに奉仕させはじめ、オレの優しい愛撫を品定めしながら、今度はすばやくペニスを支配して翻弄する。
だが、そこまでは愛にとっては、まだまだ前菜。ようやくメインディッシュに取り掛かるのは、いつも、とことん自分のパワーを剛の肉体に刷り込んでからなのだ。

きょうもまた、オレは愛のパワフルさの餌食となって、精魂尽き果てさせられ、廃人のように夢のなかにいた。

オレにはいつも見る夢がある。

夢に出てくるのは今日もまた、17年前のあの日、オレにじゃれついて泣いていたかわいい小学2年生の妹、恵の姿だ。
「お兄ちゃんと結婚する」。
あのとき交わした約束。そして今の自分の境遇。
改めて振り返って、剛は思う。その約束を妹は忠実に守ってくれているのだ、と。
だからオレは愛と出会い、結婚した。そして、ふたりの強大すぎる財力に守られている。
そして今後の佳代子や、あのインストラクターや、今後もいろいろと関わってくるであろう強い女性たちにも監視され、守られていくのだろう。
男が威張る時代は20世紀に終わった。そしていま、男が女に張り合っていける時代も終わろうとしている。
女の能力は確実に男を凌駕しつつある。そうなれば、女に尽くし、守られて生きること……それが21世紀の正しい男の生き方なのだ。
もう一度言おう。僕は世界一の幸せ者だと。なんたって世界最高級の美女がふたりも僕の将来を守ってくれているのだから。


(完)





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