世界一幸せな男・21世紀の男女関係2
第八章 妹から離れなければ…

大学2年になったオレは、ある日、テレビで全日本高校水泳選手権を見ていた。
なんと恵が選抜されたのだ。
タレント活動をこなしながら、こんな大会にも出るなんて、まさに前代未聞の高校1年生・恵。カリスマゆえライヴ中心とはいえ、芸能人をやりながらスポーツでも全国大会にまで出るほどの活躍に、男女問わず人気はますます上がった。
いま人気の頂点にある某男性アイドルグループのリーダーが、恵を口説いているという噂もまことしやかに流れた。そのことを問いただすと、恵は
「ウフフッ、気になる? それだけは、いくらお兄ちゃんだって教えられないわ。まあ、私としてはお兄ちゃんが嫉妬心を燃やしてくれたほうが嬉しいけど(笑)」と笑う。
だが忙しくなって、その後とうとう部活は辞めたようだ。
バンドのメンバーに
「なんであんなにかっこいい妹からこんなだらしない兄が慕われるのかな?」
といわれるオレ。
ある日、メンバーに頼まれて、バンドの飲み会に恵を呼ぶことになった。
はじめての酒のはずなのにめちゃ強い妹。
「実はテレビに出たころから、ライヴのあとにこっそり飲んでたのよ。だって周りのみんなが飲むのに、我慢できないんだもん」。
いっぽう酒にからきし弱いオレはテンションあがってべろべろ。
バンドのメンバーの前で、酒に強い妹に「ウチの兄貴ってかわいいでしょ」と頭をなでられ、いい子いい子されてしまう。
オレはその場で酔いつぶれてしまったが、そのあと気がつくとタクシーを下りたところで、妹におぶわれていた。自宅までのほんの数メートルだったが、恵の背中は温もりが感じられ、気持ちよかった。
「お兄ちゃんって、ほんとうに可愛いね」
そうつぶやく恵の肩越しの匂いは、ほのかな香水と女のスポーティな汗が混ざりあい、強烈にオレの心を奪っていった。
恵の広い背中の逞しさに安心感をおぼえながら、「むにゃむにゃ、オレのこと好きか? 恵」というオレに「ウフフ、あたしも好きよ。だけど、あんまりだらしないと捨てちゃうぞ」という恵。その言葉にオレは軽くショックを受けた。
オレはいままで、兄としての自分が妹に捨てられることなんて考えもしなかった。だが、いまはじめて、妹に捨てられてしまう自分をイメージした。
もし恵がオレから離れていったら、「オレは精神的にボロボロになる」と思った。
このままではオレの未来はない。
自分で恵から離れなければ、と思い、ほどなく大学に彼女を作った。
だが恵は平然という。
「離れられるものなら私から離れていけばいいじゃない。でも絶対無理だから」
その言葉の意味を、彼女とセックスをしたとき思い知らされた。妹のパワフルセックスに慣れた身には、彼女の優しいセックスではもはやほとんど満足できないのだった。

翌年、高校2年でもはやトップスターの恵はピアノの腕を買われ、有名な外国の音楽家に留学を勧められた。その音楽家と肉体関係のウワサもあったが、もちろん恵は否定した。
だがある日、オレが大学の英語のレポートに四苦八苦していると、サッと奪い取り、アッという間に済ませ、「こんなの出来ないの? 簡単じゃないの」と笑っている。オレはやっぱりその外国の音楽家との仲を疑った。そのことを問い詰めると、
「さ〜て、どうでしょう?」と煙に巻く恵。
「お兄ちゃん、また嫉妬してる? ウフフ、うれしいな。まあ心配しなくていいわよ。あたしお兄ちゃんを捨てたりしないと決めたから(笑)」

一方、デビューに向けて頑張っていたオレのバンドはオーディション参加のために集めた、メンバー各100万×5人=計500万円のプロモーションCDの制作費用をだましとられてしまった。メンバーの金ほしさの裏切りだった。最初からオーディションの話なんてウソだったのだ。
このとき、オレは恵との経済格差を見せ付けられた。恵は、援助してくれないと事務所をやめるといって、プロモーションCDの制作資金、スタジオ使用料、その他を全部所属事務所に負担させたのだ。
いまや年間に30億も稼ぐ、稼ぎ頭の妹に事務所は逆らえないのだった。はじめて経済的権力をふるった恵に、オレは「あまりそういうことすると、あとで恨まれるからやめろよ」と忠告した。
だが恵は「あたし、お兄ちゃんを守るためならこのぐらいやるわよ。お兄ちゃんこそ、もっと自分に自信を持ちなさい。いつもいい人でいたって足元を見られるわよ。時には回りに言うことを聞かせることも必要なのよ。幸い今の私にはそれができるもの。女はいざとなったら強いのよ」と自信たっぷりに言い返した。

ちょうどそのころ、恵は高校の水泳部のときの親友、柴木愛をよく家に連れてくるようになっていた。
恵はますます忙しくなってきたので、帰宅が週末の深夜だけになった。
週末になると、愛は先にウチに来て、恵の帰りを待っていた。愛は恵とはまったく違うタイプの女の子。
身長は173cmとやや大柄だが、よく日焼けした身体はスレンダーで表情も大人びており、一見したところ水泳部には見えなかった。(そう、あのころの彼女をタレントでいうなら、藤原紀香に似ているだろうか。クールで落ち着いた感じだった)。
そんな彼女が恵の部屋で黙って読書などをして待っているのがオレは気になりはじめていた。
愛の魅力にひきつけられ、オレは愛とよく話をするようになった。愛は水泳部だが、音楽にも詳しく、そんなところで恵と親しくなったようだ。


第九章 新しい彼女との出会い

恵は高校3年の1年間、結局、例の音楽家の勧めどおりにアメリカに留学した。
恵は留学を決める前は「絶対にお兄ちゃんから離れないから」と言っていたが、半年の間に心変わりしたのか、あっさりオレを裏切って、アメリカへ行くことを決めてしまった。
アメリカに発つ日、オレにひとりで成田まで見送りにくるように命じた。
見送りに行くと、大きな身体でオレを力強く抱きしめ、舌をからめたキスをし、
「あたしが海外に行ってる間もいい子にしてるのよ、お兄ちゃん。もし裏切ったら、一生後悔させてやるからね」と笑った。

それから恵は、ロサンゼルスで、某メジャー音楽レーベルの庇護を受け、さらに音楽の才能を磨いていた。
デビューはまだだったが、ピアニストとして、また作曲家として、ロスの有名歌手のバックをつとめながら、また編曲をも担当し、どんどん音楽的地位を高めていた。

一方、恵が遠くなったオレは、自然と愛ちゃんと付き合うようになっていた。もちろん恵には絶対内緒にしてくれ、と頼んだうえでのことだ。愛ちゃんも、妹がオレを溺愛しているのはわかっていたので、事情を理解して協力してくれた。
恵のパワフルセックスを知るオレは、並みのセックスでは満足できないが、愛ちゃんは素晴しかった。スレンダーに見えたのは、見事に引き締まった身体が着やせして見えるせいで、愛はそのクールな外見からは想像できないほど中身は凄かった。
173cmの水泳で鍛えられた肉体はスタミナ、体格ともに妹を思わせ、理想的だった。

愛とそんな関係になっているとは知らず、妹の恵は1ヶ月に1回はしっかり帰国し、オレに迫り、また虜にした。
あまり頻繁に帰国するので、「無駄遣いするなよ」というと、「あら、私に何か隠し事でもしてるの?」とオレを焦らせ、「無駄遣いもなにも、毎回プライベートジェットで来てるのよ」と笑う恵。
その姿は余裕しゃくしゃくで、オレは妹に完全に見下されているようで悔しかった。
「ところでおにいちゃん、就職はどうするの?」
バンドのCDは作ったものの、まったくものにならず、オレはコンビニのバイトにいそしんでいた。大学も有名ではないために就職は厳しい。
そう言うと、なんと恵が就職先に自分のレコード会社を紹介してくれた。
浪人を決め込んでいたオレは、恵の肝いりで就職が決まった。
オレは、これから長い人生の食いぶちとなる就職先まで、まだ高校生の妹に面倒を見てもらったのだ。
だがそれは、あまりに過酷で給料も低い営業職だった……。
ところが同期に高校卒で入ったのは、なんと柴木愛ちゃん。彼女も妹の紹介だそうだが、音楽に詳しい彼女は、音楽プロデューサー職で入社したようだ。
オレは愛ちゃんと付き合い続けた。
それがどんなに危ない橋をわたっていることかは知りつつも……。


(第十章につづく)





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