ヘルシー少女 第1話

今日の体育の授業は1人が50メートル走破のリレー式で、男子と女子のガチンコ勝負。白熱した戦いはハンデ100メートルが効いて、
見事に女子の勝利だった。

敗者の罰ゲームは勝った相手を各々がおんぶしてグランド1周だ。賢い奴は体の小さい女の子を真っ先に指名してどんどん飛び出していく。
もたもたしてると自分より体の大きい子をおぶることになるから、こういう時は要領のいい子から有利だった。

クラスでもおっとり系の健太は、なかなか指名のひとことが言えず、同じような性格の子2人と
残ったクラスでも背の高い女の子3人ともじもじしてた。

「ほら、早く決めんか」先生の促す声が聞こえる。

「よろしく」

健太の他の二人も指名してコースによろよろしながら
飛び出して行った。とうとう残ったのは健太とクラス1大きい女の子
小織だけになってしまった。

小織も成長期にクラスの誰よりも大きい自分にコンプレックスが
あるのか、もじもじしたおとなしい子だった。だが、体の成熟は
冗談抜きで本物である。

大人の女の先生より背が高く、また健康的な肉付きも女の先生に
負けず劣らずの迫力だ。

仲間が次々とゴールして、状況はどんどんまずい事になってきて、健太も
さすがに焦ってきた。そしてついに覚悟を決めたのか、

「ど、どうぞ。さ、背中に乗って」
健太は目線を合わせず小織に声をかけた。

恥ずかしそうに顔を赤面してる小織が近付いてくると、健太は
自分の母親よりはるかに太くて迫力のある小織の太腿に生つばを飲みこんだ。

その太腿で健太の顔がすっぽり隠れそうな体格差だ。

小学生サイズでは限界なのか、ブルマーも横に大きく拡がっており、
健太の倍はありそなお尻のすそに肉の線ができており、とても小学生とは
思えない色気が溢れている。

「ごめんね。重いわよ、私。だいじょーぶ?健太くん」

小織が申し訳無さそうに健太に小さな声でささやいた。
ここで初めて健太は自分が恥をかく事だけに頭がいっぱいだったが、

途中で潰れることは小織ちゃんにも恥をかかせることに気がついた。

「まかせてよ、俺は男だぜ」
健太の小さな男のプライドが虚勢をはらせてしまった。

「さぁ」

健太は中腰になって手を後ろに伸ばし、いつでもどうぞという体勢を取って
小織の騎乗を待った。

「ごめんね」
再度謝ると、小織はゆっくりと健太の背中に自分の体重を委ねた。

(ズ、ズッシ・・)
小織がその長く逞しい足をまだ地から全部外す前の時点なのだが、
健太は一気に全身が地面に沈められる感覚に襲われた。
脚がすでに震えを始めた。

(うちの兄きより重いかも・・)
健太の兄貴は6つ上の高校3年生だ。

だが、小織の体はそれよりも激しい負荷を健太の背中と脚に与えているらしい。

「やっぱり無理よ、先生に頼んで止めましょ。」小織が脚を伸ばして
健太の背から降りようとした。

「大丈夫だよ、さぁ!」健太は両手で小織のお尻を抑えた。

手が回らない!どころか、小織の大人並の大きなお尻の大きさと
重量感に驚きというか、恐怖を感じた。健太の手は小織のお尻の
側面までしか回せなかったのだ。

無理に抑えようと指を立てた為、
小織の柔らかくて温かい、それでいて締った感じのボリュームたっぷりの
肉に包み込まれる感触を感じた。

「キャ」小織もくすぐったいかったのか、勢いで健太の背中の上に
体を乗せてしまった。

小学生とは思えない豊かな胸の膨らみが健太の後頭部を包んだ。
と、同時に健太の腰を砕くような、とてつもない重量が一気に
襲った。

まるでオリンピックの重量挙げの選手がリフトアップした時の
ように、健太は必死で脚を震わせながらも重心を低くして、
右足を少し前に出してなんとかこらえた。顔はタコのように
真っ赤で息をこらえている。

「い・・い・くよ、力を抜いてもっと・・背中にゆだねて・・」
健太は上で不安そうにしている小織に肩ごしに注文した。

(ズズン)一歩足を動かすだけで健太は潰れる恐怖と戦いながらも
健太と小織のおんぶ走行がスタートした。

いつしか他のカップルは全てゴールし終わっており、
健太と小織の注目度は倍増していた。

先生もホイッスルを口にくわえたまま、後ろから見ると
健太の体は隠れ、小織の大きなブルマーのお尻の迫力に
見とれてしまっていた。


教員室に戻った大沼圭吾は仲間の先生に話し掛けた。

「いやー先生。うちのクラスの松本小織って知ってます?」

「こんなこと言ったら誤解を招くけど凄いんです。お尻が。
 なんかもうボリュームが凄くて真近で見たらコロンバスの大陸地図みたいな。

 太腿もたくましいし、女子大生か社会人のブルマー姿
 見てるみたいで。ありゃ犯罪ですよ。」

「そうよねー、彼女。胸も立派で脚も長いものねー。」半分ひがみも込められた口調で、
隣にいた古川先生が答えてきた。

古川まりこ先生は教員の女教師の中でも最も若く、また学生時分から
スタイルに自信があるのか必要以上にバストを強調したシャツなど着込んで
出勤してくるいわゆる我が校のマドンナ教師だ。

「この前、彼女が帰りに雨でズブ濡れになって困ってたから私、
 着替えを貸してあげたのよ。そしたら、」

大沼はなんか話の先が見えるが、まりこ先生と小織両方の
着替えシーンを想像してしまい、思わずゴクリと息を飲んだ。

「悔しいけどあの娘、人がいいから黙って私の下着をつけてたけど、
 明らかに無理してるのがわかる程きつそうだったのよ。
 
 しかもパンツもウエストのボタンはゆとりがあるのに
 お尻と太腿がはちきれそうだったわ。小学生に負けるなんて
 本当しばらくショックで立ち直れなかったもの。」

「へぇぇ〜」
大沼は生々しいまりこ先生の告白と小織の小学生にしては
おませすぎる体のサイズに口が開きっぱなしになり、あやうくヨダレを垂らすところだった。

独身教師みんなの憧れで、校内でも刺激的すぎる
まりこ先生の挑戦的な体のラインよりも小織の方が優ってたのかと。

先程の授業の時もおんぶしていた健太があまりにも辛そうで
また、上にいる小織の申し訳なさそうに紅潮した顔が
痛まれなくなって途中でおんぶを免除させたほどの健康ボディだ。

(そうだ、4月に行なった健康測定のデータがあるはず。)

大沼は突然思いたったのか、保健室の真知子先生の元に向かった。


「失礼します」

保健室のドアを開けるとそこには保健室担当の真知子先生が帰りの支度をしていたところだった。
艶やかな黒髪に細めの黒メガネをした先生は化粧品ポーチを開けながら

「あら、大沼先生。ケガですか?」と聞いてきた。
「いや、うちのクラスの健康測定のデータを閲覧しようと思って・・」

普段は自分のクラスの子供達の調べものでは感じない後ろめたさを伴い、
声が少し上ずってしまった。

「あら、どうぞ。そちらのキャビネットですわ。」真知子は気付かなかったようだ。

学校によっては職員室で保管する所もあるが大空南小学校では保健室の大きなキャビネットで
全校生徒のこうした身体測定のデータは一括して保管していた。ただし、プライバシーの保護の
重要性もあるので、生徒はもちろん、職員でも勝手に閲覧出来ないように全権を保健室担当の
木ノ下真知子が授かっていた。

大沼は6年1組のキャビンを引出し、分厚いファイルを取出した。焦る気持ちを抑え、冷静に努め
ようと心がけているが少々息が荒いのが自分でも分かった。

「あ、か、さ、た、な、ま・・ま・・まつ・・。」ファイリングされてる用紙を乱雑にめくっていく。

”松 本 小 織 ”

(あった!)大沼は声を出さずに心の中で拳を上げた。

「何調べてるんですか?先生。だめですよー、女の子たちのバストをチエックするのはー。」

いつのまにか背後から真知子先生が覗き込んでいた。魚を盗んだ猫じゃないが大沼は心臓が
飛び出そうなほど驚いた。かといって、慌てる方が不自然なので冷静さをこらえた。

「いや、ちょっちゅね・・」よく分からない応対をしてしまったが、先にさすが女性と言うべきか
真知子先生の方が大沼先生の目的を察しったのか、イジワルな笑みを浮かべてこう言った。

「あー、松本さんのファイルですねそれ。大沼先生、いけませんわよー。」
「いや、なんっすか先生。そういう訳じゃ・・」良い言い訳が思い付かず大沼は言葉が止まった。

「彼女、羨ましいというか、物凄い体してますものね。もう先生、特別ですよ。」
真知子の方は既に決めつけにかかっているようだ。反論したいところだが大かれ少なかれ
目的は合ってるので大沼は開き直った。

「そうそう、見てください。先生。これ私が測ったから覚えていますけど、彼女のバストサイズどう?
 もう、日本どころかマライア・キャリーだって真っ青よ。」

真知子先生の指差す所に松本小織の胸囲が記されていた。


(113センチ!)なんだこれは。

いくらフェロモン系の古川先生がバストに自信があったと言ってもこれでは収まるわけがないよ。
大沼は大体予測はついてたがこうしてはっきり記録されてるとその数字の大きさに声が出なかった。

「この時アンダーもこっそり測ったの覚えてるけど、90ぐらいだからFはあるのよ。肥満ってわけでは
 ないのよねー。ホント、最近の子供は恐ろしいわ。」真知子先生もあきれたようにつぶやいていた。

なるほど、同じ女性として松本は大人の女性からも一目置かれているわけで有名人なんだ。
むしろ大沼が担任になって1ヶ月経過するのに彼女の体に気付くのが遅いぐらいだった。

そして真知子先生はあまり関心が無いみたいだが大沼は他の数値にも目を奪われていた。というより、
大沼の当初の知りたい数値はそっちだったのだ。

(身長178センチ)(体重 92キロ!)

身長も大きいが、それより体重が凄い。92キロ。外見的には小学生らしからぬ凸凹ラインと長い脚が
目立った大人でもクラクラくる体は今日確認したが、それでもこの体重はこの身長にしては多い。
よっぽど中身が詰まった筋肉をしているのだろう。

(これじゃ、いくら男の子とは言え、普通の小学生の健太じゃおんぶして歩けないわ。
 自重の2倍以上あったんじゃないか?)大沼はようやく疑問が晴れて納得した。

学生時代ラグビーをしていた大沼ですら身長183センチあるが体重が90キロ超えたのは運動量が
教師になって運動が減った最近だ。


小織は大人の格闘家やプロレスラー並みの高密度な体をしていたのだ。しかも大人の女性たちをも
羨むバストやヒップと脚をも兼ね備てもいた。
まだランドセルを背負って学校に来る年頃の女の子の時点で。

大沼は裏面をめくってみた。そこからは身体測定と同時に行なわれた体力測定のデータが記載されていた。
さすがに大人の男性顔負けのボディをしててもそこは女の子。
握力や背筋、ボール投げの数値は他の小学生の女の子と変わらない平凡な数値が並んでいた。

「おや」

大沼はファイルを閉じようとしたが、何を思ったか再びそのページを見返した。
「どうしたんです?」真知子先生はキャビネットの鍵をカバンから取出し、
大沼が片付けるのを待っている。約束でもあるようだ。

「これ、握力も背筋もボール投げも全部2回ずつ試技してるんですが、どの種目も数値が同じだ。」

「別におかしくないんじゃありません?」真知子先生は急がせたいのか、つれなく答えた。

「しかも、きれいにゼロ並びで。握力は左右とも1,2回とも20キロ。背筋も70キロ。
ボール投げも5メートル。むしろ、あの男勝りの体からしたら少なすぎる。」

「女の子ですもの、体力測定は本気出さなかったのよ。きっと。私も子供の頃は男の子に
 からかわれるのが恥ずかしくて、全力ではやらなかったわ。」

真知子先生はそう言って大沼の手からファイルを掴み取り、
キャビネットを閉じ鍵を閉めてしまった。

「さっ、先生。もうこういう覗き行為は今回だけですよ、こんどは校長に報告しますから。」

真知子先生が後ろに束ねていた髪をほどき、アフター5モードにチェンジし始めた。
大沼はまだ何か調べたそうにふんぎりのつかない顔をしていた。

「さっさっ、帰りましょ。今日はここまで。」同時に閉門を伝えるチャイムが校内に大きく鳴り響いた。


あの保健室で松本の個人データを見てから3日間、大沼はいつしか授業中もクラスの一番奥に座る小織に特別な視点で注意を抱いていた。
クラスの男女の長身組が奥の席に陣取っているあの場所。これまでは気にならなかったがこうしてよく観察してみると
小織は他の長身組とは違った。

たいてい、5、6年生の時期の成長早い子は人によって1年で10センチ以上も身長が伸びる為体がついていかず細身な子が多い。
だが松本は全ての部分がよく実っていた。女の子の方が成長が早いこの時期とはいえ、クラスの男子で体が大きい、
いわゆる3羽カラスの山岡、森下、上月たちも165センチ近くあるが松本は彼らよりも大きい。

背を丸めて常に目立たないように振る舞っているがバランスよく大きい。胸や太腿の迫力は小学生の域を越えている。
でもけっして太ってない。一見はスラッとしてるので質量がしっかりした感じ、
オリンピックなどで見かける一流の女性アスリートタイプの体なのだろう。

だからクラスのボス的存在で、県の小学生相撲チャンプに君臨している山岡宙太。
彼にももひけをとらない体重を持ってるなんてほとんどの人が想像できないのではないか。大沼は考えた。

「次、松本。88ページの2段落から。」

そして、こちらの方も気付かなかったが小織を指名して読ませていると、隣に座っているスポーツ万能で
野球チームの主将をしてる森下や陸上部の上月らは顔を真っ赤にしながら、小織の見事に発達した胸の膨らみを
横目でチラチラと教科書ごしに覗いてる事も分かった。

そのオドオドした行動がやっぱり子供だなという感じで可笑しかった。

初夏のこの時期、児童も薄着になりつつあるが小織も季節に合わせ体の線が分かる服を着はじめていた。
街で見かける自分の体の線に自信のある見せつけ女性たちと違い、本人はおそらく意識はしてないのだろう。
がフッとした仕草で体を屈めたり、反ったりした時にそれは現れる。

正直、これはキツい。大人でも正視するのにドキドキするほどなのだから、これから思春期を迎える同級生の
男の子たちにはかなり刺激すぎるはずだ。

「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの3日間たったいちどだけ・・」

小織はそんな男子の好奇な視線に敏感なのか、背筋をシャンとすると胸がシャツを押し上げ目立ってしまうので、
だんだんと教科書で胸を隠すようにして猫背っぽい不自然な姿勢になって読んでいった。少しかわいそうだった。

チャイムが鳴り、それまで静かだった教室が一斉ににぎやかになった。

「よし、続きは宿題にする。みんな105ページまで読んでおくように。わかったな?」

チョークを箱にしまい、黒板を消すのは日直の子に任せて教室を出ると、大沼は後ろのドアから出てきた小織と
出会った。白い無地の長袖シャツは大きい大人用なのか、小織の大きな体もゆとりを持って包んでいた。ただし胸の
部分だけは余裕はなく布地がピーンと引っ張られていた。

「おーい、松本。」
大沼は無意識に呼んでいた。休み時間にトイレに行こうとしていた小織は突然、先生に呼び止められ驚いて立ち止まった。

「は、はい?」
目と目が合い大沼は心臓が高鳴るのを感じた。彼女の癖となっている困った表情が奥まった気質をあらわしていた。
が近くで見ると、子供とは思えない大人びた綺麗な顔をしている。将来は間違いなく男性から引く手あまただろう。いや、
このスタイルと顔だ。年齢さえ詐れば今現在でも若い男たちから声をかけられまくるはず。


大沼は松本が異性からの視線に敏感な事を承知だ。それなのに松本の澄んだ瞳を見続けていると
危うく吸込まれそうになり、思わず視線を松本の子供らしからぬ体の方にそらしてしまった。

身長のせいでほとんどミニと化しているスカートがぱんぱんに膨らんでる腰と太腿、
たっぷり目のブラウスのしわでカモフラージュされてるがその下にはっきりと存在感のある腕と肩の厚み。
どれもその控えめな行動や表情とはミスマッチな代物だ。

なにより違和感を感じたのは180センチを越える大沼なのに目線をほとんど下げなくても
大丈夫な高さに肩や首、そして顔があることだ。
学生時代から体が大きかった大沼は付き合ってきた女性に思いっきりハグをしたことが無かった。
一度強く抱き締めかけた時に相手の女性にひどく怒られたことがあったからだ。

だが今、目の前にいる松本小織の体だったら思いっきり抱き締められる。いや、
逆にその身体のサイズに見合った力を持っていてくれれば、大沼が経験したことのない全身が
ミシリミシリッときしむほどの強烈なハグを返してくれるかもしれない。
大沼はゴクリッとノドを鳴らした。

(いかん、変態教師だ。これじゃ)

ここで大沼はひとつの賭けに出ることにした。ここまで固執する理由は自分でもよく分からないが
学生時代に己も肉体を武器に闘った経験があるがゆえ、とにかく運動をするうえで恵まれた体格を
持った者にはとことん興味を抱いた。

アスリートがアスリートを意識するという本能だろうか。それが年端もいかないまだ12才足らずの
小学生でも。そう、それが大人の男も顔負けの体をした女の子ならなおさらだ。

「ちょうどいい。次の授業で使うプリントを取りにきてくれないか。」
大沼は顔を水平にしたままでお願いが話せる背の高い女の子に言った。

「は、はい。」小織はトイレに行きたかったが断れずにそのまま先生についていった。

職員室に入ると休憩時間の先生たちがたくさんいた。何人かの児童も担任の先生にお手伝いを
頼まれたのか部屋の中にいたが、小織は慣れない大人の空間の雰囲気に緊張して、
そそくさと部屋の左奥にある大沼の机に後をついていった。

端から見たら大きな大人のカップルのようだ。
そこは幸いなことに隣の席の古川先生も不在で丁度、他の人の群れから孤立した感じでひっそりしていた。
大沼は足元の右にある引出しを開け、算数の問題が埋まったプリントを取出した。

「よし、じゃぁこいつを頼む。」

「はい。」小織はプリントを受け取るとすぐにその場を立ち去ろうとした。

「そうだ、ちょっと待ってくれ松本。」

自分の席に座った大沼が左の引き出しを開け、椅子を回転させ小織の方に向くと、
「ちょっとこれを握ってみてくれ。」ゴトリと机に小さな器具をのせた。

握力計だ。


小織は驚いた。「え?」

なぜこの先生はこんなところでこんなものを?
小織は自分の最も嫌いなものを見せられたような気がして
大沼の顔を怪訝そうな顔で見据えてしまった。だが、すぐに表情を緩めて
窓の方向を見てごまかした。

大沼の背中で揺れる白いカーテンの向こうからはわずか10分の休み時間なのに、
ボール遊びをしている男の子たちの楽しそうな声が柔らかい風と一緒にかすかに聴こえる。

小織は先生の無理なお願いを断る勇気もなく困った表情で立ち尽くしたまま動けなかった。

「このまえな、偶然クラスの記録整理をしてたらな、松本おまえの記録だけ抜けてるんだ。」
大沼はとってつけたようなウソに心臓が破裂しそうだったが冷静に
むずかしそうな顔を保ちながら説明した。

「ついでだ。今計ってしまおう。そいつを思いっきり握ってくれ。」
大沼は申し訳無さそうに手のひらを顔の前で立てた。

「は、はぁ」

小織は気乗りしないが記録ミスという大沼のウソを半分疑いながらも従った。
そういうことでは仕方ないなと、しかたなく握力計に手を伸ばした。

小織が親からいつも注意されてるクセ、人の言うことをなんでも
すぐに信用しすぎるのもよくない。もう6年生なんだから自分で物事の良し悪しを判断しなさい。
そんな親にも危惧される素直さが大沼の駆け引きにはまってしまったのだ。

職員室で一人だけ握力測定、そんな不自然な光景はとっても注目をあびる。
ただでさえ、大人のように発達した体を持っている為注目を浴びまくっている小織は
見られるのが苦手だ。

奥のほうにいる他のクラスの児童や先生の集団のほうをチラッと見た。
幸いなことに奥の方では皆それぞれの用事で忙しいのか、誰もこちらを見てなかった。
小織は少し安心した表情になった。

大沼の方をもういちど確認して(このお願いはどうしてもやらなければいけないのかな)
という顔でのぞいてみたが、既に先生はデスクに記録票のような紙を拡げ、ボールペンの
キャップを外そうとしていた。

気のすすまない態度で小織は腰の横に握力計をたらした。手のひらにグリップを合わせる。
もう一度大沼の視線を確認した。

大沼は机に体を向け、記帳するためペンを持ち小織の方を見てない。
それを確認すると、今度はチャンスとばかりに小織は動いた。デジタルで表示される
液晶が自分に見えるように、こっそり握力計を外に浮かせながら右手にすばやく力を加えた。

(ぎゅぅ)

液晶表示の黒く大きな数字が0からゆっくりと増えはじめる。

「う・・ん・ん・・・」小織はわざと歯を食い縛ったような声を出しながらも
パネルの数値を横目で追いつづけた。


10・・15・・18・
小織は微妙に人差し指と薬指をグリップから浮かした。途端に数字は減速し始めた。

「ふー。」
デジタル数字が20に達したところで小織は大袈裟な息をこぼしてそこで力を加えるのを止めた。
これが限界という意思表示だ。

「・・。」
大沼は握力計を預かりその数値を真剣な表情で机の紙に書き写すとまたリセットして小織に渡した。

「同じように左も頼む。」大沼は再び机に体を向け小織が握力計を握る動きを見なかった。

「う・・ん・・」小織は左手の計測も同様に声だけは苦しそうに吐いた。

やっぱり声を出しながらも視線は握力計の数字を確認しつつ力を加えた。まるで瀬戸物を
扱うように丁寧に。一方、大沼は顔は机に向けているが体の右部分でしっかりと小織の
動きを観察していた。

たいていの男の子なら、いや、大人でも歯を食いしばり、体を沈ませてから一気に背筋を
伸ばしながら腕が震えるまで力一杯握るもの。

まっ、女の子はたいていは必死にはやらずこれを上品に処理しようとする。
それでも松本の力の加わえ方は上品すぎる。声は出してるが、白いシャツに包まれた腕は
ゆるく伸びた状態で足も全く力の入りにくいスタンス。背筋だって気合いが入ってないためか、
小織の豊かな胸が上下にも横にもほとんど動いてない。
これでは正確な数値など出るものか!やはり想像してたとおりだ。

「先生、これで大丈夫ですよね?」
小織は恥ずかしげにしながら大沼に握力計をもういちど返した。

「お?おお、OKだ。悪かったな。」

大沼は ”20.0 ”と綺麗に体力測定の時と同じ数値を記録した握力計のパネルを確認すると、
少し間を置いて声を上ずらせぎみに答えた。

小織は急いでプリントを胸にかかえ、「それでは失礼します。」と言って大沼から次の注文を
言われないうちに逃げるように職員室を出ていった。大沼は渡された握力計を机の上に置き、
その数字をじっと見たまましばらく動けなかった。

握力計には ”20.0 ”という数字がキッチリ表示されている。

小織も体力測定の数値をしっかりと覚えていたようで巧妙な計算がうかがえる。
やはり小織に限ったことではないが、恥ずかしがり屋の女の子に本気でやってもらうには
もっと厳しい態度も必要か。しかし、

今回だけはしたたかだったのは大沼の方だった。

大沼は自分の賭けが本当に成立したかどうか不安になり引き出しから
プラスドライバーを取出し、機械の握り手の根元にあるネジのロックを確認した。
興奮で手が少し震えてるのが分かった。

「間違いない。たしかに絞ってある。」
そしてネジ本来の位置にロックをカチッとゆるめ始めた。
開けたままの引き出しには握力計の仕様書が開いたままで、なにかの説明のページが
のぞいていた。

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オプション
「グリップ強化の方法」

図1の通り、握り手横のネジを所定の位置まで絞めることによって
握力計の強度を調整可能

・S位置 ×3倍 ・M位置 ×4倍 ・L位置 ×5倍


(注)※パネルの数値の表示は標準のままなので実際の数値は
各々の倍数を掛け合わせて下さい。
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「とんでもないことになってきたぞ。」

握力計を引出しに戻した大沼がつぶやくと、次の授業の開始を伝えるチャイムがちょうど鳴った。


つづく





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