ブラザー・プリンセス その2

花穂の場合

 そこ、もうちょっと脚を高く上げるの。
そうそう、その調子。やればできるじゃない。お兄ちゃま。
……え?二人で今何をしてるのかって?
花穂からお兄ちゃまに、レッスンをしてあげてるの。
いつも花穂がやってるレッスンを、ね。ふふっ。

 花穂のお兄ちゃまは、とってもちっちゃくてキュートなの。
クラスの中でもそんなに大きいほうじゃない172cmの花穂の、
肩よりちょっと上にくるくらいかな。お兄ちゃまは。
腕とか脚も、木の枝みたいに細くて…
 ギュッ。
「い、いだだだっっ!!」
 あ、痛かった?ごめんね、お兄ちゃま。
チアリーディングクラブに入ってて、いつもちょっぴり重たいバトンを扱ったりして
知らない間に筋肉が付いて少し太く堅くなっちゃった花穂の腕や脚の力でお兄ちゃまと
普通どおりに接しちゃいけないのを忘れてた。
少し手加減をしてあげなくちゃいけないの。お兄ちゃまって、ひ弱だから。

 で、なんでそのお兄ちゃまがチアの練習なんかしてるのかって?
実はね、これ、罰ゲームなの。
さっきお兄ちゃまと花穂とで、オセロをして遊んだの。
お兄ちゃまは黒いほう、花穂は白いほうね。
そしたら…花穂、びっくりしちゃった。
だって、終わってみたら…真っ白になっちゃったんだもん。
まさかこんなに差がつくなんて思わなかったわ。お兄ちゃま、真っ赤になってうつむいちゃって。
それで、始める前に約束してた通り、『負けたほうは勝ったほうの言うことを何でも聞く』っていうルールに従って
お兄ちゃまには今、花穂のいるクラブのユニフォームも着てもらってバトンの練習をしてみてもらってるの。
…花穂ね、実は前から、お兄ちゃまに一度この格好してみてもらいたかったの。
クラブにいるどの女の子よりもちっちゃくて、細くって、
抱きしめたら折れちゃいそうなくらいか弱いお兄ちゃま。
クラブでも力は弱いほうの花穂でも簡単に抱っこできちゃう、軽いお兄ちゃま。
女の子の目から見てもうらやましいって思うくらいかわいいお兄ちゃまだから、
きっとこのノースリーブのウェアとミニスカート、絶対決まるはずって。
……やっぱり思ったとおりだったわ。お兄ちゃま、すっごくかわいい。
でもお兄ちゃま、やっぱり男の子だから女の子の着る服は恥ずかしい?もじもじしちゃって。
でも照れることなんて全然ないと思うよ。だって、とってもお似合いだもん。

 ほら見てお兄ちゃま。お兄ちゃまがそれを着てる間、花穂、お兄ちゃまのおズボンはいてみちゃった。
確か、お兄ちゃまがはいてるときは裾が少し地面に付くくらいだったよね?
でもほら、花穂にはちょっと似合わないみたい。すねが半分か、それ以上出ちゃうんだもん。
脚にもピチピチに張り付いちゃって、なんだかスパッツはいてるみたい。
ごめんね、お兄ちゃま。勝手にはいちゃったりして。やだ、そんなショック受けたみたいな顔しなくても…

 ピンポーン。
 あっ、今来たみたい。
誰がって?あのね、花穂のお友達。同じチアリーディングクラブに入ってる仲間なの。
実は今から練習に行く時間で、一緒に行こうって言ってたの。
は〜い、今行きま〜す…って、どうしたのお兄ちゃま?
え?花穂のお友達にこんな格好してるのを見られたら恥ずかしいって?
大丈夫、お兄ちゃまはそんなにかわいいんだもん。
きっとチアのユニフォームだってすっごく似合ってるってほめてくれるよ、絶対。
それに、お兄ちゃまは花穂のお友達と会うの初めてでしょ?一緒に行ってあいさつしようよ。
何だか恥ずかしがってるお兄ちゃまの腕を組んで、少し引っ張るようにして花穂はお友達を出迎えました。
「こんにちは〜」
「あれ?花穂ちゃん、そこにいる人は…?花穂ちゃんの妹さん?」
「何だか男の子みたいだよ…なんで花穂ちゃん、弟にチアガールのユニフォームなんか着せてるの?変だよ」
「ううん、違うの。この人はね、花穂のお兄ちゃま」
「えっ……」

 花穂とお兄ちゃま、それと2人のお友達の間に、少しの間だけ静まり返って…

「きゃははははははは!!」
 そのあと、2人は笑い転げ始めちゃった。
「うっそー!うそでしょ、こんな小さい子がお兄ちゃんって!」
「あたしたちのクラスの男子とほとんど変わらないじゃない!ありえないでしょそんなの〜!」
「それに妹の服なんか着て何してるわけ!?あははははははは!!」
 そんなに笑うなんてひどいわ。花穂のお兄ちゃまなのに…
それによく見てよ、このユニフォームだってバッチリ似合ってるんだから。
普通の女の子よりも、かわいく着こなせてると思うよ。
そう言って花穂は。完全に下を向いちゃってたお兄ちゃまの顎をすっと持ち上げて、お友達と目線が合うようにしました。

「へぇ〜、よく見たらすっごいかわいいじゃん」
「ほんとだ。こんな服着てるとまるで女の子みたいだね」
「このちっちゃくてなよなよした感じ、たまんないよね」
「ねー。うちのクラスの、ただチビなだけでかわいげのない男子たちよりずっといい!」
「なぁに僕、そんな赤くなって恥ずかしがることないじゃない」
 今日やってきた花穂のお友達2人は花穂より大きいから、ますますお兄ちゃまがちっちゃく見えちゃうみたい。
体を折り曲げて顔を近づけて、2人でまじまじとお兄ちゃまの目を覗き込んでニコニコしてる。
お兄ちゃま、花穂のお友達にも気に入ってもらえたみたいよ。よかったね。

「ところで花穂ちゃん、このオセロは?」
 あ、それ?それはさっき、花穂がお兄ちゃまと罰ゲームを賭けてね……
「きゃははははははは!!」
 また、2人の大きな笑い声が響きました。
「ねえボク、弱すぎよ!!普通ないよ、一つ残らずひっくり返されちゃうなんて!!」
「せめて何個かは残るでしょ、黒いのが!小学生の妹相手にこれなんて、笑っちゃう!!」
 そんな大笑いを横で聞いてるお兄ちゃま、何だか肩を震わせてうつむいちゃった。

「…あっ、ごめんね。やぁん、そんな泣きそうな顔しないでよぉ」
「泣いちゃダメだよ…お兄ちゃんでしょ?」
 2人は急に、小さな子をあやすお姉さんみたいにお兄ちゃまを扱い始めたの。
もうっ、花穂の大事なお兄ちゃまを泣かしちゃうなんてひどいわ。
花穂は優しくお兄ちゃまを抱きしめて、慰めてあげました。
お兄ちゃまは花穂たちのクラスの男の子たちよりもナイーブで傷つきやすいんだから、気をつけてよね。

「ねぇ、花穂ちゃんのお兄ちゃん。これから、あたしたちとも仲良くしようよ。
本当の弟とか妹みたいに、かわいがってあげちゃうからさ」
「そうだよ。もしよかったら、あたしたちのチアリーディングクラブにも連れてってあげる。
その格好で来ていいよ。きっとみんなのアイドルになれると思うんだ、ボクって超かわいいから」
「ね、おもしろいと思わない?花穂ちゃん」
 うーん…どうしよっかな…
さっきからお兄ちゃま、そんな恥ずかしいの絶対ヤダって感じで花穂にしがみついてブルブル震えてるんだけど…
でも花穂としては、そういうのって断然ありだと思うの!
今から一緒に行ってみようよ、お兄ちゃま!みんないい人ばっかりだから、お兄ちゃまにも優しくしてくれるよ!
「い……いやだあああああぁっ!!」


おわり




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