負けるな!プロレス研究会 第1話

毅と久美子

 僕は新東都大学3年生、野沢毅。
こう見えても、プロレス研究会の部長をしている。
ん?何だ、その顔は?僕が学生プロレスをしているのがそんなにおかしいのか?
この話をするとみんなそういうんだ。僕みたいなひ弱な男が…って。
確かに僕は背も低いし、肉付きも悪ければ体重も軽い。160cm、46kgという体型。
普通の女の子並みに軽い体で務まるわけがないって誰もが口をそろえて僕をバカにする。
・・・でもそれは違うんだ!プロレスは体の大きさだけでやるものじゃない!
確かに僕は、体の大きい相手と戦うのは苦手だ。軽々投げ飛ばされるし、押さえ込んでも弾き飛ばされる。
でも、体が大きければそれだけで強いわけじゃない。大事なのはガッツ、折れない心だ!
残念ながら体では劣るけど、向かっていく気持ちだけはどこの誰にも負けたくない。
僕には大きな夢があるんだ。こんなところであきらめてるわけにはいかないから。

 夢というのは、本物のプロレスラーになることだ。
…あっ、笑ったな。何、寝言は寝てから言えって?
いいさ、言いたい奴には好きなように言わせておけばいい。僕は本気なんだ。
学生プロレスから本当のプロの世界に羽ばたいたレスラーは、実は結構いるんだ。
それからメキシコなんかでは、150cm台の体でも素早い動きで大きな相手と対等に渡り合う
素晴らしいレスラーたちが大勢いる。僕は、彼らのようなレスラーが目標なんだ。

 とはいえそれにはまず、この学生プロレスの世界で名を上げなければならないんだけど
今僕たちを取り巻く環境は実に厳しい。
僕たち新東都大学プロレス研究会が所属している関東学生プロレス連合の中では、僕たちはダントツの最下位レベル。
シングル、タッグマッチ含めてここ2年間まったく勝ち星なしの、目下40連敗中。
まったくいいところが見せられないから新戦力の獲得も難しい。今年はついに1人の新入部員もなかったし。
サークルの費用も下りないから満足にトレーニングも積めない。
僕たちは、典型的な弱体化の悪循環にどっぷりと浸かってしまっている現状だ。

 現在、部員数は5人。学生プロレスのサークルとして連合に加入していられる最低限の人数だ。
もしこの人数を1人でも割ってしまえば、連合の規定により脱退、廃部を余儀なくされてしまう。
先輩方から受け継がれたこのプロレス研究会を、潰すなんてことはできない。
プロレスラーを目指す僕の意地にかけても。
とは言っても具体的に解決策は何も見当たらず、僕は日々の大学の授業などそっちのけで
必死に生き残りへの道を模索し続けていた…。

「ただいまー」
 大学から帰ってきて居間でテレビを見ていた僕の耳に、明るい声が響いてきた。妹の久美子が帰ってきたんだ。
ダメ学生の僕よりも、高校でテニス部に入っていていつも日暮れまで練習に励んでいる久美子のほうが大抵帰宅は遅い。
チャックの部分からテニスラケットのグリップの部分がのぞいているサブバッグを手に持った、ブレザー姿の久美子が
ニコニコしながら僕を見下ろしてくる。
「それにしてもお兄ちゃんって、ちっちゃいねー」
「う、うるさい!いちいちこうやって向き合うたびにちっちゃいちっちゃいって言うのやめろ!」
「だって、ちっちゃいもん」
 兄である僕をまるで弟のようにからかいながら、僕の頭の上に手を乗せようとする久美子。
情けないことに、僕は体の大きさで妹の久美子に大差で負けてしまっているのだ。
…正直に言うと、実は力の強さでも僕は久美子にかなわない。
その手を何度も払いのけようと抵抗した僕だったけど、ついに両手を久美子に片手で押さえつけられて
もう片方の手で上から頭をなでさすられた。
「逆らったってそんな力じゃどうにもならないってわかってるはずなのに、おかしなお兄ちゃん。
どう?少しは大きくなったのかな?くすくす」

 僕の両手を捕獲したまま、いい子いい子するかのように頭をなでては子ども扱いの口調で問いかけてくる久美子。
この間、自分で172cmだといっていた。4歳下の妹に12cmもの差をつけられてしまった僕…
そして、プロレスラー目指していつもトレーニングに汗を流しているにもかかわらずなぜか全く肉がついてくれない
僕をあざ笑うかのように、久美子は日を追うごとにどんどんその逞しさを増していく。
テニス部で毎日コートを駆け回って鍛えられたその体は健康的に日焼けして、さらに引き締まった筋肉に覆われている。
スリムさと力強さが同居した無駄のない長身のボディが、僕の心に劣等感を刻み込む。
なぜ、どうして同じ兄妹でこんなに違うんだ、どうして…

「や、やめろっ!お前はお兄ちゃんを何だと思って…」
「あら、いやなの?いやなら力づくで振りほどけばいいじゃん。別に無理にあたしに付き合わなくてもいいんだよ?
…あ、お兄ちゃんは弱っちいからそんなことできないんだった。ごめんね、忘れてた。きゃははは」
 意地の悪い憎まれ口を叩きながら久美子は、乳幼児で遊ぶかのようにして人差し指で僕の頬や額を
つんつん、ぷにぷにと突っついては10cm以上高い場所から笑い声を浴びせてくる。
女子高生の妹にいいようにもてあそばれる屈辱…悔しい、悔しすぎる、殴り倒してやりたい!
でも、僕は力で久美子には絶対にかなわない…

 夕食の後、僕は自室にこもりきっていた。
ゼミのレポートとかそういうのじゃない。
来週行われる予定の、極東大学との対抗戦に備えてのシミュレーションをしていたんだ。
スポーツ経験も豊富でしかも大柄なメンバーがそろう極東大学プロレス研究会に対して
僕たちは格闘技経験も決して多いとはいえず、1人1人の体も小さくて能力では明らかに劣る。
戦う前からこんなことを言うのは少々情けないが、まともにぶつかって勝てる相手じゃない。
ここは事前に入手したデータを研究した上で、チームワークを駆使していくしかない…

「お兄ちゃん!」
 極東大学の選手たちの戦いぶりを収めたビデオで相手のファイトスタイルを研究していた最中の僕の部屋に、
久美子が突然入り込んできた。
「く、久美子!ノックぐらいするようにいつも言ってるだろう!」
「あー、お兄ちゃんったらまたそんなビデオ見てるー。ほんっとに好きなんだね。
もしかして…まだあきらめてないのぉ?」
「うるさい!お前には関係ないだろ!僕はそう簡単にあきらめるような男じゃないんだ!」
「ふーん…あたしには絶対無理だと思うんだけどなあ」

 久美子の奴はこうして、暇を持て余すと僕の部屋に勝手に入り込んでは僕をからかいに来る。
今のように、本気でプロレスラーを目指している僕のことをバカにしながら。

 ピッチリとしたミニTシャツと、丈のすごく短いショートパンツ姿で僕の部屋に乱入してきた久美子。
へそ出しのミニTからはうっすらと割れ目の溝が刻まれた腹筋が顔を出し、
袖の布地がきつく引っ張られてノースリーブになってしまいそうな広い肩と太い腕。
太腿のわずか付け根のあたりだけを隠す超ショートパンツからは逞しい太腿がむき出しとなっている。
部活のときはいつもテニスウェアを着用していることによる日焼け跡がくっきりと残り
太い太腿と二の腕に、白い部分と小麦色のエロチックな境界線をさらけ出して僕の目の前に現れた久美子。
いくら実の兄である僕以外の男の目がない自宅でリラックスしているからといっても、
そんな危うい格好で男の部屋に入ってくるなんて。僕のほうが目のやり場に困ってしまう。

「お兄ちゃんってさあ、いっつもジムに行って鍛えてるって割にはちっとも肉付かないよね。
ただ行くだけじゃダメなんだよ、ちゃんとトレーニングしなきゃ。月謝とか払ってるんでしょ?」
「うるさいっ!僕はいつもマシンとか使っていつもハードなトレーニングを積んでるんだぞ!
見たこともないくせにいい加減なことを言うんじゃない!!」
「ハードねえ・・・でも実際ぜんぜん腕とか太くならないじゃん。
ね、ちょっと力こぶ作ってみて?ほら、腕曲げてみてさあ」
 仕方なく、僕は久美子に言われるまま袖をまくって腕を曲げて力を込めた。汗がにじむほどに精一杯力んで。
久美子は中腰になると僕のその腕をしげしげと覗き込んで、ときに見る角度を変えながらきょとんとした顔をして
「どこ?どこに力こぶがあるの?ぺったんこじゃん。ほんとに力入れてるの、お兄ちゃん…」
 僕と視線を合わせると、くすっと笑いを見せた。
「どうせ幼稚園の子でも上げられるみたいな軽いおもちゃみたいなのでトレーニングしてるんでしょ。
力こぶってのはね、こういうのだよ?よく見てね」
 ぐりぐりぃぃっ!!

 …僕は背筋が冷たくなった。久美子のそのままでも太く逞しかった腕は一瞬にしてさらに隆起し
僕の太腿並かそれ以上の太さにまで膨れ上がって僕の前に晒されたんだ。
久美子が自分の逞しさと比較して僕の貧弱さを笑いものにするのはいつものことなので初めて見る光景じゃないけど
今こうして目にする久美子の力こぶの巨大さに僕は圧倒された。
前に見せつけられたときよりも、確実に大きく盛り上がっている上腕筋…

「高校生の妹の筋肉でびっくりしてるぐらいじゃダメなんじゃない?プロレスラーになろうって人が。
っていうか、お兄ちゃんみたいにひ弱な人がプロテストなんて絶対受からないと思うんだけどなー。
考え直したほうがいいよ、マジで。普通に就職活動しなよ」
「く、久美子、お前どうしてそんなに…どこでそんな筋肉つけてるんだ…」
「え?部活に決まってんじゃん。うちのテニス部、練習がきついので有名なんだよ。
言っとくけど、別にあたしが一番パワーあるわけじゃないからね、うちの女子テニス部で。上にはもう2人ぐらいいるかな。
せめてそれぐらい筋肉つけてから言ってほしいんだけどね。プロレスやるとかなんとかはさ」
 そ、そんな…基本的にラケット以外は握らないはずのテニスの練習だけでこんな逞しくなるなんて…
それにひきかえ僕はどうだ。ほぼ毎日ジム通いをしてウェイトトレーニングをしているのは本当なのに…
なぜ僕にはまったく筋肉が付かなくて、こうして妹に差をつけられ続けなくてはならないんだ…

「お兄ちゃん、本当に強くなってるのか試してあげる。あたしのおなか、殴ってごらん」
「え?」
「ジムで体鍛えてるんでしょ?だったら、パワーアップしてるのは間違いないはずだよね。
パンチしてきてごらん。プロレスラー目指すほどの人なら、妹をボディブローで泣かすなんて楽勝でしょ」
 久美子はミニTからのぞく腹筋を突き出して悠然と僕を見下ろしてくる。
僕をバカにしまくった態度が口ぶりと表情からあからさまに見て取れた。
「・・・いいんだな?あとで本当に泣いてもお前が悪いんだからな。お望みどおり練習台にしてやる」
僕はとにかく久美子の奴に一泡吹かせたい一心で拳に力を込めた。
日々バーベルを上げサンドバッグを叩いて練習に励んでいる成果を見せてやる。本当に泣かせてやる!
心の中でそう叫ぶと僕は思い切り振りかぶって久美子の腹に全力でパンチを打ち込んだ。
 パシン。
「それだけ?」
「なっ…」

 僕の渾身の力を込めて放ったパンチを受けた久美子は平然として首をかしげていた。
「ねえ、それだけなの本当に?それで精一杯?手抜いてるんじゃないの?」
「そ、そんな…くっ…」
「もっと気合入れて打ってきなさい!」
 久美子に一喝されて、僕はつい情けなくも一瞬縮み上がりながら、再び気合を入れなおして
久美子の腹めがけてワンツーを叩き込んだ。
 ポスッ、パン。
「…」
 久美子は両手を腰に当てたまま無言で、僕を蔑むような目で見下ろし続けていた。まったく効いていない…
部屋にいやな空気が流れているのを僕は感じた。
僕はいたたまれなくなり、とにかく久美子に通用するまでありったけの力でパンチを繰り出し続けた。
 ピシッ、パスッ、ペチッ、パン、パシ、パシッ…

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁぁ…」
 何十発も何十発もボディブローを叩き込み続けた僕はついに息が上がり、腕は上がらなくなってしまった。
手は久美子の硬い腹筋を繰り返し繰り返し殴り続けたせいで拳も作れないほどズキンズキン痛みが走っている。
なんて強さなんだ…僕は汗だくになりながら恐る恐る久美子を見上げた。
何事もなかったように、いやさっきまでの蔑みの表情からむしろ哀れむような目で僕を見続けていた。
こ、これ以上バカにされてたまるか!倒さなきゃ・・・倒さなきゃ!
僕は意地で最後の力を振り絞り、一旦距離をとると久美子めがけてダッシュした。
パンチがダメなら…全体重をかけたショルダータックルで吹っ飛ばしてやる!
僕は体ごと久美子にぶつかっていった。

 ドンッ!!ドサァン、ゴロゴロ…
吹き飛ばされて部屋の絨毯に転がったのは、僕のほうだった。
軽い僕とはいえ大の大人の男が100%の体重をかけてぶつかっていったというのにビクともしないなんて!
そればかりか、僕は突進したときと全く同じ勢いで正反対にはじき返され、床に背中を叩きつけられてしまった。
なんてことだ…僕は考えたくなかったことだが、このとき確信した。
こいつは、久美子の奴は…日々着実に間違いなく強くなっている!

 ただの女子高生にしか過ぎないはずの、実の妹の恐るべき強靭さに背筋を冷たくした瞬間、
僕の体はふわりと宙に浮かされた。
部屋の蛍光灯が突然視界に迫り、僕はわが身に起こっている事態が飲み込めないまま恐怖に思考回路を凍りつかされた。
「うわーマジ?かっるーい。お兄ちゃんって栄養失調じゃないの?ちゃんとゴハン食べなきゃダメだよ」
 下から久美子の声が聞こえた。僕は、状況が把握できたらできたでまた怯えなければならなかった。
僕の体は、久美子に高々と抱えあげられていたんだ。
情けない話だけど、久美子に投げ飛ばされたのは一度や二度じゃないからそれ自体はそんなに驚くようなことじゃない。
しかし、このときはこれまでとは違った。
久美子は腕の力だけで、46kgの僕を天井にぶつかりそうな高さにまでリフトアップしていたのだから。
「女子高生の妹に高い高いされちゃったね。それでもプロレスラー候補なわけ?ほらっ、ほらぁ」
「ぅわっ…ひぃぃぃ」
 久美子は楽しそうに僕をからかいながら両腕を曲げ伸ばしして、僕を天井近くで空中を何度も上下させた。
余裕たっぷりに、僕を宙に舞わせることなど小荷物を扱うような軽い作業でしかないとでも言いたげに。
全身の力を使わずとも腕の力のみで僕はこうしておもちゃにされている…
やはり久美子は毎日確実にパワーアップしているんだ…日々ジムで必死に汗を流しているはずの僕を置き去りにして。
その圧倒的な差を目の当たりにさせられて、僕はだらしなく空中でその高さに小さな悲鳴を漏らしていた。

 ドッサアアアアアン!!
「あひいいいっ!!」
 久美子が勢いよく腕を伸ばした瞬間、僕は一瞬天井に頭をかすりながら空を飛び
部屋にある僕のベッドへと重力に従って落下した。
あまりの落差に、ベッドのスプリングで僕の体はトランポリンのように高々と弾んだ。
その様子がおかしかったのか、情けなくバウンドする僕を指差しながら久美子が笑い転げる。
久美子はいつも、ケンカになって僕を投げ飛ばすときはベッドの上めがけて投げ落とす。
床に直接叩きつけると、あまりに力が違いすぎるからおにいちゃんがケガしてかわいそうだからと久美子はいつも言う。
こうして妹に手加減されている時点で十分惨めな話なのだが、しかし今までにした久美子とのケンカで
もし手加減をされていなければ僕は今頃プロレスなどできない体にされていたかもしれないんだ…

 久美子は日々強力になっていく。プロレスラーを目指す僕としてはこんなことではダメなのはわかっているが、
そのパワーの前に僕はベッドの上で早くも逃げ腰となっていた。這いずって逃げようとした…が、
「ほら、かかっておいで。勝負は始まったばっかだよ?根性見せなさい」
 シャツの襟首をすごい力で引っ張られ、僕はうめき声を上げながら強引に立ち上がらされた。
「さっきはお兄ちゃんのパンチ力を見てあげたけど、今度はディフェンスのほうをチェックしてあげるね」
 ドムゥッ!!
「ふぐぅうえっっっっ!!」
 クレーンで吊るされた鉄球のような衝撃に腹をえぐられ、僕は一瞬宙に浮きながらくの字に大きく折れ曲がった。
久美子の強烈すぎるボディパンチが、僕の胃袋を口から吐き出させてしまわんばかりにみぞおちへとめり込んだのだ。
体内で爆発が起こったかのような重く鈍い激痛と、吸うことも吐くことも封じられた呼吸困難。
その地獄のような悶絶に、僕は大粒の涙をこぼしながらへたり込んでしまった。
「うっそ、お兄ちゃんの腹筋ってなんでこんなに手ごたえないのぉ?あたし、超手加減したのに」
(ち、違う!お前が強くなりすぎたんだ…)
 僕はそう言おうと口をパクパクさせたが、息の根を止められたような状態でまるで言葉にはならない。

「お兄ちゃん、いくらなんでも弱すぎだよ。ジムで鍛えてるなんて絶対ウソだよね?
これは、かなり力抜いてあげないと死んじゃうかもね」
 そう言いながら久美子は、立ち上がれずに苦悶し続ける僕をまた軽々と持ち上げると
僕をうつぶせにして自分の両肩の上に渡した。僕は久美子の重いボディブローにまだ嗚咽しながら、
その広い肩の上に乗せられて奥歯をガタガタと震わせた。
「ねえお兄ちゃん、こないだケンカになったときはどうだったっけ?失神しちゃったよね。
その前も、そのもうひとつ前だってそうだった!お兄ちゃんって、自分からかかってくるくせに、
あたしがその気になったときにはもう気絶してるんだもん。なんかバカにされてるみたいでムカつくんだけど」
 久美子は僕を捕獲したまま勝手なことを言う。自分からかかってきたって、
それは久美子が僕のことをいつも貧弱だとかチビだとかただのオタクだとか憎まれ口ばかり叩くから
僕は我慢し切れなくて黙らせようと向かっていっているだけで、明らかにケンカを売っているのは久美子のほうなのに…
そしてそのたびに、僕は久美子の強大なパワーの前にあえなく蹂躙され、気絶するまでいたぶられる。
この前は久美子の太い腕が首に巻きつくスリーパーホールドの前に絞め落とされ、
その前はコブラツイストで全身を軋まされて泡を吹きながら失神KO、
さらにその前はベッドの上に高角度のパワーボムで投げ落とされて意識を失った。
「お兄ちゃん、今日は簡単には落とさせてあげないから覚悟しといたほうがいいよ。
思いっきり手加減して、ジワジワ遊んじゃうんだから。…いくよ。そぉ〜れっっ!」
「ひっ…ぅぎゃあああああああ!!」
 ようやく呼吸機能が回復したばかりの僕の口からは、すぐさま悲鳴が放たれた。
僕は、久美子の肩の上に担ぎ上げられたままプロペラのように超高速で旋回させられた。
笑い声を上げながら、大人の僕をエアプレーンスピンでもてあそぶ久美子。
部屋が目にも止まらない速度で360度回転し続け、僕は恐怖のあまり何も考えられなかった。

「えいっ☆」
「ぅ…うゎあああああああっ!!」
 ドオンッッ!!
 散々僕を振り回して悲鳴を搾り出させた久美子は、突然僕を宙高く放り投げた。
僕はまるで竹とんぼみたいに回りながら空中に放たれて、そしてまたベッドの上に墜落。
叩きつけられて、まだ旋回しながらベッドのスプリングで何度もバウンドする僕に、また久美子の笑い声が降りかかる。
「お兄ちゃん、マジでお人形みたいに軽いね〜。素朴な疑問だけど、どうやって戦ってるの?
この程度だったらうちの部の1年生の女の子にも絶対勝てないね。片手で投げ飛ばされちゃうよ?」
 全身を駆け巡る苦痛にうめきながら這いずって逃げようとする僕の両腕を、久美子は片手でまとめて
僕の背中の上でひねりあげて僕の口から悲鳴を搾り出しながら、再生されっぱなしだったビデオに目をやった。
「へぇー、今まで知らなかったけどプロレスっていろんな技があっておもしろいね。
あっ、この技かっこいい!ちょっと試させてね、お兄ちゃん」
「ひぃっ、やっやめ…ぅぐ、あ、あ、ぁ…」
「ええっと、ここはこうして…こうかな?え〜〜〜いっ!」
「あがあああああああああっ!!」

 久美子がビデオの見よう見まねで繰り出したチキンウイングフェイスロックが僕に炸裂。
久美子の太く逞しい腕に、僕の腕、肩、首、顔面が、それぞれねじ切られそうな激痛に絶え間なく軋む。
僕を1羽の小さくてか弱いウサギだとするなら、
久美子の日焼けした逞しい腕はそれを食べる前に絞め殺さんとする巨大で獰猛なキングコブラだった。
僕はあれだけからかわれた怒りも消え去り、戦意は完全に喪失していた。
ただ逃げたい、とにかくもう許して欲しい…その一心で言葉にならない懇願の悲鳴をあげ続けていた。
しかしそんな僕の叫びに久美子は耳を貸してはくれない。
楽しげに笑いながら、地獄の苦痛に悶える僕の目を覗き込んでくるだけだ。

 やがてその太い腕は、僕に息つく暇さえ与えず顔から首へとスライドして、またも強烈に絡み付いてくる。
「ふぅん、ただ絞めるだけじゃなくって脚で体もする技があるんだぁ。よっ…と」
「ぐ、ぐぇぇぇぇ…」
 テレビに映し出される映像を手本に、今度は久美子の胴絞めスリーパーホールドの餌食になる僕。
僕の細い首にガッチリと巻きついた強靭な腕に加えて、さらに逞しく鍛えられた太腿が僕の胴体を封じる。
ジタバタともがくことすらできないように、僕は2匹の大蛇に襲われて死の恐怖さえ感じ取っていた。
さらに恐るべきは、この蛇たちは僕を一思いに仕留めてしまわないことだった。
「お兄ちゃんって超弱いから、手加減しながら様子見ないとね。すぐにオチられちゃつまんないしー。
あたし、まだまだ試してみたい技いっぱいあるんだから」
 頭部、上半身、下半身で3つに分断されてしまいそうな苦悶を味わわせながら、久美子は力を微妙に調節して
僕に必要最低限の酸素だけ供給しつつ、僕の体をいいように左右にねじりまくって玩具にする。

「あはっ、この技かわい〜。
…こうやってするのかな?えぇ〜〜〜いっ☆」
「あ…ぁだだだだだ!!ぎぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 続いて僕の身に襲い掛かった拷問は、ロメロスペシャル。…いわゆる、吊り天井だ。
久美子に比べて細くて貧弱な僕の脚は簡単に折りたたまれて久美子の足に絡まされ、
両腕はまっすぐに極められて、その惨めな体勢のまま真上に高々と掲げられた。
「きゃははは、高い高〜い☆」
「あぐぐ…がががが!…ゅるじで…」
僕の胸は屈辱で張り裂けそうだった。プロレスラー志望の男が女子高生に宙吊りにされて泣き叫ばされるなんて。
逆向きにアーチを描かされた背骨がメキメキと音を立て、全身をバラバラに分解されてしまいそうな激痛が貫く。
「ほらぁ、やられっぱなしでいいわけぇ?少しは反撃してこなきゃ〜」
 力の入れ具合で僕の悲鳴のトーンが変わるのを面白がるように久美子は僕の体を揺さぶって遊ぶ。
僕は全身を駆け抜ける痛み以上に、この久美子のパワーに対する恐怖心で混乱をきたし始めていた。
この技は、相当な脚の力がなければ絶対にかからないはずなのだ。
それなのに、軽いとはいえ大の男の僕をこんな簡単に高々と…ただのテニス部所属の女子高生が!
しかも久美子はさっき、自分はまだその部の中で一番ではないと言っていた…
何者なんだ!?この女たちは!

 ようやく開放され、僕はうつ伏せに力なくシーツの上に伸びた。
プロレスラーを志しているはずの僕が、女子高生の妹にベッドの上でいいように技の実験台にされ、
涙で顔をグシャグシャにして身動き取れずに沈んでいるのだ。男としてこんなに情けない話があるだろうか…
…と、耐え難い屈辱に泣き続けていた僕の背中になおも久美子の巨大なヒップがのしかかってきた。
「ぐえぇ!!」
 ショートパンツに包まれた久美子のお尻が僕の体をベッドに杭で打ったかのごとく固定してしまう。
いくら脚をバタつかせようが久美子の巨体はビクともしなかった。平然と僕に座って笑いかける久美子。
「ねぇお兄ちゃん、今まで見てたビデオの人たちと今度試合するんでしょ?
…じゃあさ、今度あたし見に行っちゃうからね」
「え…ええぇ!?」
「今までこんなプロレスごっこなんか別になんとも思ってなかったんだけどさぁ。
貧弱で超激弱のお兄ちゃんが普段どんな戦いぶりしてるか興味あるじゃん。妹として」
「な…」
 僕は焦った。いつも僕のことをバカにする久美子が、さらにこんなことを言い出すなんて。
今までは直接見られなかったからまだよかったものの、もしいつもの僕たちの惨敗ぶりを見られた日には…
「チビでガリガリの軟弱お兄ちゃんは学生プロレスの世界でどれだけ実力があるのか見てみたくなっちゃった。
もしかしてお兄ちゃんみたいな人でも十分通用しちゃう弱い男の集まりだったりするんじゃないの?」
「久美子!お前…ぅぐ、ぎゃおぉぉぉ!!」
 口の減らない妹を怒鳴りつけようとした僕の口からは、またも情けない悲鳴が漏れてしまった。
僕の体の上に座り込んでいた久美子の脚が、僕の顔を挟み込んで力を込めだしたからだ。
柔らかくむちむちとした久美子の太腿は、力を込められると同時に金属のような硬さに変わり、
さながら巨大なペンチとなって、僕の頭蓋骨を粉砕しかねない力強さの圧迫を加えてきた。
僕の頭の内部にはベキベキという音が響き渡り、激痛と恐怖にまたも大粒の涙がほとばしる。
「試合、来週っていってたっけ。応援しに行ってあげるよ。うれしい?
だからそれまでには、妹のあたしに半分ぐらいは力入れて技かけさせる程度には強くならなくちゃダメだよ。
必死にトレーニングして、がんばらなきゃ。…妹に、恥かかせないでね」
 …久美子は鼻歌交じりに言いながら僕の頭を絞め潰すかのような太腿ヘッドロックでいたぶる。
久美子の口調からして、この拷問も50%未満の力しか入れていないのだ…
僕と比べ物にならないパワー…
久美子の奴、強い、強すぎる………

 絶望に涙が止まらない。僕はただただ妹の太腿に顔を挟まれたまま錯乱状態で泣きじゃくり続けていた。
「泣いてたって強くなれないよ。男の子でしょ? お・に・い・ちゃん♪」
 ギリギリィ!メキ、バキゴキッッ!!
「ふぎゃあああ!!」
 そのまま久美子の太腿は折りたたまれ、僕の上で体育座りのような大勢となっていく。
僕の頭はキャメルクラッチの要領で上に引っ張りあげられ、首が根こそぎ引き抜かれんばかりの衝撃に
急速に意識が遠くなっていって……そこからその日のことは記憶にない。


つづく




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