勝手に「小さすぎる僕」2

ある朝、いつもの通り通学の為に駅に向かった。晴れた青空を見ながら歩いていると、
突然横の路地から出てきた大きな物体が僕に衝突した。僕の体が宙を舞い、
道の端に有ったゴミ収集所のゴミの山にたたきつけられた。
いたたた…何が起こったのだ・・
「ああ、ボク、ゴメーン…、あれ?君は??」
声のする方を見上げると、なんと昨日僕を電車から引きずり降ろした有香という小学生ではないか。
「昨日のちっちゃな高校生のボク、ごめん!君がちっちゃすぎて目に入らなかったんで、ぶつかっちゃった!
ケガ無い?大丈夫だよね!」
と言ったかと思うと、僕の腕をつかみ、ゴミの山から引っ張り出すと、そのまま走り出した。
「あ、ちょっ…ちょっと待って…」
「ごめん。ボク。今日ちょっと急いでるの。走らないと電車に間に合わない!」
僕の腕をがっしりと掴んだまま走る有香のスピードに、僕の足が間に合わない。
ほとんど引きずられながら改札を通り、電車に駆け込んだ。
僕がラッシュ時の電車に一人で乗るときは、人の波に揉みくちゃにされ、はじき飛ばされたり蹴り飛ばされたりしながら、
他の人に押しこまれてやっと乗る事ができるのに、彼女は小学生ながら、人の流れをリードし、時には逆らって、
そして、今日は僕の様な「お荷物」を引きずりながらも、全く涼しい顔で電車にのりこんだ。
僕は、電車に乗る事すら、彼女にかなわないのかと、一瞬落ち込んでしまった。
プシュー、ガタン…
「よかったぁ間に合ったぁ!」
目の前で締まった電車の扉を背にして、彼女と向き合った。目の前には彼女の名札が下がっている。
そのまま上を見上げると、ニコニコ笑いながら僕を見下ろす可愛い顔が有った。
僕は恥ずかしくてすぐにうつむいてしまったが、すぐに彼女が僕のあごを持ち上げて、再び見上げさせられた。
「今日はゴメンね。大丈夫だった?痛くない?」
「…。」
ガタン、「キャッ」ゴンっ「痛っ」
電車の揺れと供にバランスを崩した彼女に押されて、後ろのドアに頭をぶつけてしまった。
「ああ、ゴメン!」
というや、突然僕の後ろに手を回し、ぶつかった後頭部をさすり始めた。
「痛かった?男の子だから平気だよね?」
ガタン、
また大きな揺れが来た。今度は僕をぎゅっと抱きしめた。
制服のブラウス越しに、彼女の体温や香り、息づかい、大きくなり始めた胸が感じられる。
ビンっ うう、やばい。僕は何を考えているんだ。あそこが大きくなり、心臓がバクバクと大きく鼓動し始めた。
彼女にそれを気づかれない様に小さな体をより小さくしたのだが、
それが結果的に彼女の胸に顔を埋める様な格好になってしまった様だ。
僕の背中をさする様にしていた彼女の片手が、僕の頭をなで始めた。
「お兄ちゃん、熱があるの?気分悪いの?」
僕の額に手を置き、驚いた様な声を出した。
え?お兄ちゃん??今までそう呼ばれた事ないのに、突然… あっけに取られて彼女の顔を見上げると、
彼女は心配そうに僕をのぞき込んでいた。
電車は満員だが、誰もしゃべる人は居ない。移動する箱の中に詰められた無言の集団だ。
その中で、女の子の声は良く通る。「お兄ちゃん」に反応した視線が僕達に投げられた。
視線の先には、大きな小学生の女の子に抱かれた、とても小さな高校生だ。
僕達をみて、コソコソと話をしたり、兄妹?という声も聞こえてきて、益々恥ずかしくなり、目の前が真っ白になってきた。
プシューっ
「お兄ちゃん、降りるよ。大丈夫?私に捕まって、気を付けてね。」
緊張と恥ずかしさから足下もふらつき気味だったので、彼女に捕まりながら電車を降りたが、よろけて倒れそうになってしまう。
「ホントに大丈夫?もしかして貧血?」
と言うや、いきなり僕を抱き上げた・
「わ、わ! な、何をするんですかぁぁ!」
情けない裏返った声で、しかも小学生に向かって敬語で叫んでしまった。
「わぁ、こんなに軽いんだ。これじゃ体力無いよね。ちゃんと御飯食べないから、貧血になるのよ。」
違う!有香の勘違いした行動が、僕をフラフラにしてしまってるんだよ! 
そう心で叫んだのだが、口には出てこない。
「有香、おはよー! ん?誰?その子?」
「うん、貧血で倒れたひ弱なお兄ちゃん!」
「おにいちゃん??!!」
有香の腕に抱かれている僕を見て、驚いた様に叫んだ。僕も一緒に叫びたかった。お兄ちゃんって??止めてー!
「この制服、あの高校のだよね? この子高校生なのぉ?」
「うん。でも体力無いから倒れちゃったの。もう、今日は急いで学校に行かなきゃいけないのに、手間がかかるわ」
もう勘弁して! 恥ずかしくて顔を隠そうとするが、右を向くと有香の胸、左を向くと有香の友達の珍しい物を見る様な顔…
どうする事もできない。
「ねぇ、この子ここで休ませるから、ポカリか何か買ってきて」
「OK!」
しばらくして有香の友達がスポーツ飲料を買ってきて、有香が僕を抱いたままベンチに座り、
まるで赤ちゃんにミルクを飲ませる様にそれを飲ませた。それを、通り過ぎる人々が見ていく。
もう恥ずかしさも極度に達している。
「顔真っ赤よ。貧血って、真っ白になると思うけど…」
「ボク、本当に大丈夫?今日私たち、そのまま学校にいかなきゃいけないからずっと付いていてあげられないの。
ここで暫く休んでから高校行くのよ?判った?」
「…はい。」
そう言うと、やっと僕を、膝上からベンチに降ろした。
「それとも、学校に連れっていって、保健室で休ませようか?」
「いや、イイです。それだけは…」
高校生の僕が小学生の彼女に抱かれて、彼女の通う女子小学校に連れて行かれ、
これ以上の笑い者にされるるのを想像して必死で拒否した。
「じゃぁ、私たち行くから、気を付けてね! バイバイ」
彼女が振り向きながら改札を通るのを何とか見送ったあと、僕はそのまま意識が遠くなっていった。

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