最強!レベル1勇者パーティ

【嗚呼レベル1】
「いいかいソラ、僕らが危なくなったら助ける。それまでは隠れていてね」
「うん。分かった。」
この世界では討ち取った者が経験値を得る。
未だモンスターを倒していないケルト、ベルはレベル1。
一刻も早くそれを脱したかった。ちなみに先日登録したばかりのソラもレベル1だ。
さて、ギルドの情報通り、とある洞穴の近くまで来た一行。
「見張りは・・・2人だな。ソラ、ココからは伏せててくれ。」ソラへ指示するベル。
夜行性のゴブリンは昼は眠いらしくアクビなどしている。
「どうするケルト?2人なら正面突破できるか。」
ベルは大剣を抜きながら聞く。その表情からは自信が伺える。
「うん、それで行こう。」
レイピアを抜き合図する。できるだけ気付かれないように接近し、奇襲をかけるのだ。
ふとケルトは思う。このパーティは飛び道具を扱えるものがいない・・・と。
飛び道具が使えれば見張りを倒し後はモグラ叩きの要領で楽勝だ。

「どりゃああああ!」
ベルが絶叫しながら大剣を振り下ろす!
「ハッ!!」
ケルトも気合の声と共にレイピアを繰り出す。
2対2である。相手はゴブリン。

ベルの一撃はあっさりかわされ、ケルトも攻撃を当てたが傷は浅い。
ゴブリン達も錆びた小剣という粗末な武器で応戦する。
どれくらい時が経ったんだろう?
長く感じた。
ベルの攻撃はなかなか当たらず仕留めることができない。
ケルトはたまに攻撃を当てるのだが、致命傷には全く至らない。
そして違和感。それは見張りの行動だ。
洞穴の中には仲間がいるんじゃないのか?それならば何故仲間を呼ばない?
何合か打ち合い、次に後ろを見たとき、大ピンチになったことを悟る。
そう、仲間は洞穴の中にいなかったのだ。今は早朝。
夜行性のゴブリンが活動し、その団体が帰還してきた。
ケルト達は見張りと戦闘していたが、いつの間にか何重にも囲まれていたのである。
イカン・・・これじゃ「僕達が危なくなったか」をソラから見えなくなる・・・
ケルト達は結局1匹もまだ倒していない。

【レベルアップおめでとう】
「ソラ〜〜〜〜〜!!!!たーすーけーてーーーーー!!」
恥も外聞もない。情けなくもあるが大ピンチ。幾重にも囲われている。
ケルトは全般的に3流以下の能力なのだが、勘と一瞬の判断力だけは優れていた。
そこが生死の境目だった。
あとは10秒間だけ逃げ回った。ベルも幾つかの傷を受けつつも何とか凌ぐ。
怒涛のように押し寄せるゴブリン・・・・

だが、囲いの後方でそれは起きた。
5,6匹分のゴブリンが吹っ飛んでいた。何匹かは原型を留めていない。
ゴブリンたちは混乱していた。雑魚冒険者2人を始末しようとしただけなのに何故仲間が吹っ飛んでいく?
魔法?魔術師がいるのか!?
囲いの前列のゴブリン、つまりケルトに近い位置のゴブリンは振り返ると悪夢のような映像を見てしまう。
パンチ一発で一気にまとめて葬りさっていく大女。
直撃を受けたゴブリンは一瞬でバラバラとなり、その拳圧で近くにいたゴブリンも死んでいく。
ソラの筋肉が躍動する。あっという間に死体の方が多くなっていく。
不意を打たれたゴブリンたちは冒険者2人になどかまってる場合ではなくなった。
隊列を組みなおし、ソラへ抵抗を試みる。
が、その1分後には全滅していた。蹴りが拳が振るわれる毎に死がプレゼントされていく。
「大丈夫?ごめんね、気がつかなくて。」無表情で屠殺を終了させたソラはすまなそうな顔でペコリと謝る。
「・・・。」
「・・・。」
壮絶な戦いが終わった。2人とも声が出なかった。
このパターンはオーガーと同じであった。
特にベルの方は信じられないといった様子。
1パンチで1匹を葬るなら分かる。
だが、1パンチでまとめてゴブリンを粉砕していったのだ。
こんなイカサマ風な力があるんだろうか?
そんな事を考えてるうちにケルトが歌いだす。
「レーベルアップおめでと〜♪
レーベルアップおめでと〜♪
レーベルアップデイアソーラー♪
レーベルアップおめでと〜♪」
冒険者ギルドに登録してから、敵を倒し、経験値を積むとレベルが上がり、能力が上がる。
この世界の住人の掟だ。
ソラは大量のゴブリンを倒し、レベル3になった。
ベルは納得がいかないものの、後半から歌に参加した。

【疑惑】
戦士ソラ
性別:女性
レベル:1→3
力:7986235948726345(約8000兆)
素早さ:3
器用さ:2
耐久力:4931289457259(約5兆)
魔法力:0
知恵:2
特殊:オイル風コーティング

戦後処理は実に不甲斐なかった。
ゴブリンを全滅させた一行は洞穴に入り、彼らの所有物を物色する。
すると宝箱がある。しかし鍵がかかっていた。
「あかないなぁ・・・・」つぶやくケルト。
「開けようか?」後ろでその様子を見ていたソラが言う。
その瞬間「逃げろ!ベル」と言い放ち洞窟を駆けて脱出する!
静寂の2秒後、ドカーン!と爆発音が。ケルトとベルは逃げ切れた。
事実はこうだ。
宝箱を鍵のかかったままソラが怪力で開けてしまった。
そして爆発の罠が作動し、宝箱・中身もろとも爆発した。
ふとケルトは思う。このパーティは開錠・罠解除を扱えるものがいない・・・と。
ついでに先ほどの戦闘で小さい怪我を負ったベルだが、治す者がいない・・・と。
ちなみにケルトはソラの安否には全く気を止めなかった。
「なんかびっくりした〜!なんなの〜〜〜〜」頬を膨らませて不満顔。
傷一つなく洞穴から出てくるソラ。ソラの強靭な筋肉に傷をつけられるものがあったら見てみたい。
せっかく街で買った服が1斤も残さずなくなって全裸になっている。
服選びは正解だった。
ソラには綺麗な服を一式新調したかったのだが、所持金がなくわずかに胸と股間を覆うビキニを買っていた。
このペースだと毎回服がなくなりそうだ・・・しばらくはビキニだな。でもソラの体が丸見えなのは嬉しい。
そんな下世話なことをケルトが考えているなか、ベルは別の事を考え込んでいた。
どう考えても信じられない。
爆発を受けて無傷?パンチ1発で複数人を粉砕?この前はオーガーの棍棒の一撃を軽く受け止める?
魔法としか思えなかった。

【死闘!ベル対ソラ】
「なぁソラ、俺と腕相撲しないか?」宿屋に帰り、部屋でそう言ってみた。
ケルトは冒険者ギルドへ結果報告に行っており、今はベルとソラが2人きりだった。
「腕相撲?」首を傾げるソラ。
「良いから良いから。」
宿屋の部屋のテーブルを部屋の中心に置き、ソラに腕を組むように指示。
ソラの肉体が凄まじいので全く目立たないが、ベルもかなりのマッチョマン。
少なくともこの街で見渡した限り、ソラを除けばベルが一番いい体をしていた。
「レディーゴー!!」
「?」
本当にサッサと勝負を始めるベル。
ベルは思った。今のこの勝負では魔法を使うまい。真の力がどうなのか、体を鍛えるものとして興味も沸く。
「ぬ・・・・ぬおおおおおお!!」
渾身の力で押す。ベルの筋肉が躍動する。
どれくらい経ったのだろうか?
全く動かない腕、ベルは必死に力を入れる。背中と腕がすっかりパンプアップしてきた。
すると・・・・ついにゆっくりと腕が動く!
「ただいま〜」ケルトが帰ってくると同時に、ソラの手の甲がゆっくりとテーブルにつく!
ベル・・・腕相撲に勝利!まさかの下馬評?を覆す。賭けだったら億万長者が現れたことだろう。
ケルトも何をやっていたか悟ると驚きの声を上げる。
「凄い!・・・ソラに勝つなんて凄いじゃないか!」
「やった!やったぜ俺は・・・・!!」
嬉しさのあまり涙ぐむベル。それくらいソラは強敵だった。
「?」一方のソラはニコニコしている。はしゃいでいる2人を微笑ましく思ったのだ。
なぜ歓喜の上げてるのかさえ、分からない。
「今のは『おまじない』とかいうやつなの?」疑問を口にするソラ。
「「え・・・??」」声が揃ってしまうケルトとベル。
ということは・・・・・
そう。ソラは腕相撲のルールを理解していなかった。
そして恐ろしいことにベルが渾身の力を入れてることすら気付かなかったのだ。
なんとなく自分の手の甲をテーブルに着けたいんだ・・・・そう理解し終わったとき、ソラはゆっくりと自分の方向へ腕を倒した。
「・・・・ちきしょう・・・・」天国から地獄へ突き落とされるベル。
勝った・・・勝ったと思ったのに・・・悔しさのあまり涙ぐむ。
「もう一勝負!」とは決して言えなくなってしまったベルなのであった。


 つづく





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