無敵!レベル1勇者パーティ

【まえがき】
ファンタジーRPGを体現したような、ベルンダ王国を舞台とした物語である。
詳しくは「最強!レベル1勇者パーティ」を参照のこと。

ヴァンパイアロードを倒した勇者一向は国王から表彰を受け、王宮お抱えパーティとなった。
ゴージャスな王宮の中で優雅に暮らすケルト一行。
部屋は1人に1部屋、3食昼寝付という待遇であった。
冒険者ギルドの仕事は来なくなり、全冒険者の手に負えないミッションのみが回ってくるというもの。
しかし、首都の冒険者はそれなりにレベルが高く、ケルト達の出番は全くやってこない。
そんな平和な暮らしが8ヶ月ほど続く・・・
物語はここから始まる。

【ベルの災難】
「うは・・・」ベルがスペルマを吐き出して力尽きる。
「なんじゃ、もうギブアップか?」武道家になってパワーアップしたシルフィーが勝ち誇る。
力100倍の指輪を壊されたほんの一瞬だけ、ベルが優勢であった。
だが、ヴァンパイアロードを倒し、大幅にレベルが上がった後は指輪を使っていた時以上に体力も精力も上がっていた。
「お前がバケモノなんだよ・・・オッパイ共々。」
シルフィーの胸はぺったんこと評された程であったが、豊胸の成長促進剤により大幅にパワーアップしていた。
ホルスタイン以上かも知れない・・・
「わらわにそんな口きいても良いのかの?ではさらばじゃ!」
「さ・・・さらばじゃって待てコラ!俺の精を回復させてから行け!この後レッカが来るんだよ!」
「ほうほう・・・それは災難じゃの。」意地悪く言うシルフィー。
「くっそーてめぇメシ抜きに・・・・」
「ハッハッハ!この中では食事には苦労せんでな。」
そう、宮廷に入り生活は一気に楽になった。
だが約一名、一気に立場を悪くした者がここにいる。
「おい待て!」
「待って下さい・・・じゃろ?」
「・・・待って下さい。」屈辱だ。ちなみに最近はライラもこんな調子だ。
「まぁ、ちょっとだけ回復させてやろうではないか。」
そういうとヒーリングし、ベルの体力を申し訳程度に回復させる。
「いや・・・これじゃレッカの相手は・・・」
「じゃあ頑張るが良い。」
ササっといなくなるシルフィー。最悪だ・・・
打ちひしがれるベルは両膝をついて、両手も床についている。
「グッドイーブニンッ!ベル!」入れ替わりで勢い良く入ってくるのはレッカ。
「ちょ・・・あのなレッカ。今日は調子が・・・」立ち上がり、両手をレッカに向けてマテマテというジェスチャー。
筋肉隆々のベルの肉体も、シルフィーに搾り取られて張りが失われている。
「ノーノー!ミーの食事、雪か男の子ネ!この周りは雪が無いヨ。食事抜き、ヒドイネ!」
唯一の食事係としての機能を果たしているのは対レッカ。
レッカ曰く、ベルのほうがケルトより美味しいらしい。
「いや・・・先にシルフィーのアホにごっそり持っていかれてな・・・」
「じゃあキスでもイイネ!」大きな瞳をキラキラ輝かせながら白い髪を掻きあげる。
これが絶好調時なら何の問題もなく、頂くところだが・・・
爆乳を密着させるレッカ。ギュウッと抱きしめ柔らかな唇が迫りキス。ただしそこから根こそぎ体力を奪われていく・・・
「うわあああ!・・・くっそー!シルフィー!覚えてやがれ!!・・・・グムム・・・・」

【お国の代表】
「よぉ・・・元気ねぇじゃん。」ライラがニヤニヤしながら言ってくる。
「くそ、てめぇも分かってんだろ?」
「またシルフィーか。」
「止めろっつーの。ソラみたいに。」
正確に言えば、シルフィーがベルに襲い掛かると、なぜかそこの中に混ざり、シルフィーに対して性技の奥義を尽くしてイかせてしまう。
しかもベルの不調を知ってか知らずかソラは彼を押し倒さずに去っていく。
ベルにとってはピンチ時に訪れて名を告げず去っていくヒーローのような存在だった。
去り際の鬼の形相と言われる背筋群がカッコイイ。
だが、ソラがケルトの部屋にいるときはベルが無防備となってしまう。
「止めろ?フン・・・人にモノを頼む態度じゃないねぇ。」
「ちっきしょー!冒険始めたらてめえらみんなメシ抜き!」
そんな折、6人全員が揃ったところに城の召使いが来る。
「勇者ケルト様、およびご一行様にお仕事でございます。」

テーブルに6名が座り、召使いが立って一礼する。
「ん・・・?何をやりゃ良いんだ?」ライラがさっそくの質問。
「秋の収穫祭、この催し物の一環で武道大会がございます。それに参加して頂きますようお願い致します。」
「ぶどー大会ってあの甘くて美味しいやつ?」大ボケのソラ。
「それは果物の葡萄だよ。そうじゃなくて、戦いの大会ってこと。」丁寧にソラに教えるケルト。
コクコクと黒い瞳を輝かせながら頷く。
「へー!ひっさびさだねっ!どうやって戦おっかなぁ・・・」嗜虐の色が見えるソラ。
彼女の頭の中には早くも凄惨な殺し方がグルグル回り始めている。
目が飛び始めたソラは放っておき、召使いは説明を続ける。
「今回は殺し合いではございません。
トーナメントを行い、その優勝者とエキシビジョンマッチを行います。
ルールとしては戦闘不能もございますが、相手の両肩をつけて3秒。こちらの方で勝敗をつけて頂きます。
今回はこのスリーカウントでも経験値が入ります。
また、10分で勝負がつかない場合は引き分け。
万が一負傷した場合は、王宮の神官達が回復させますのでご安心を。
ケルト様は6人ですが、5人選抜して頂き1対1での戦いが5戦。先に3勝した方の勝ちです。
ただし、国王たってのご希望で勇者ケルト様は大将で出て欲しいとのことです。
詳しくはこちらのルールブックに・・・」と言うなり分厚い資料を渡す。
「分かりました。謹んでお受けします。」ケルトは承諾した。
「国王は大変期待しておられます。国の代表として恥ずかしくない試合をお願い致します。
では、ケルト様達のご武運をお祈りしております」頭を深々と下げて部屋を出る従者。
王国の国威発揚。
これも救国の勇者の務めというものか・・・そんな大役を仰せつかったことでケルトの心は高揚していた。

【選抜】
「ホレ!久々の全快じゃ。しなびてては考えられんじゃろう。」言うなりシルフィーは元気の無いベルにヒーリング。
ギンっと目が鋭くなるベル。久々に絶好調の彼を見る気がする。
「あはは・・・さぁ・・・どうしよう?」ケルトは皆を見渡しながら意見を聞く。
「本気の戦いじゃないなら、ミーは遠慮するネ!趣味で戦うの好きじゃないヨ。」
いきなり辞退するレッカ。これで早くも5人ちょうど。
彼女の信条としては、仲間のためだけ戦うというものらしい。
確かに好戦的な性格ならば、長年雪山の遭難者を助けるなどというボランティアがつとまる筈がなかった。
「まぁ、わらわとソラ、ライラがおれば3勝は堅かろう。」余裕のシルフィー。
以前は戦闘がからきしダメという状況だったが、もう完全に戦闘要員という気になっている。
実戦経験が乏しいのが気になる・・・ちょっとだけケルトはそう思ったが、力で言えば普通の人間の30倍ほどあるので心配無用か。
「あとよ、ベル。先鋒で出なよ。」
「俺が?」
「万が一スリーカウント取りゃ、レベルが上がるかも知れないぜ?負けてもアタイらで3連勝すりゃ勝ちだ。」
何だかんだ言っても、ベルのレベルのことは気にかけるライラ。
ちなみにケルトにも、レベルアップのチャンスがやってくるたびに提案してくれる。
「おうよ、いっちょやってやんよ!」急にパワー全開となったベルは強気だ。
「うーん・・・じゃあこんなメンバーで。」とケルトが紙に書く。
先鋒:ベル
次鋒:ソラ
中堅:シルフィー
副将:ライラ
大将:ケルト
ベルには失礼だが、3勝1敗で勝ち抜く作戦だ。もちろん大将戦までは回さないという想定。
いい加減リーダーとしてしっかりしなければならない。いつもケルトは思っているのだが、なかなか結果が出ない。
そんな自分をいつまでも仲間は待っていてくれる。いつもながら心苦しい。
ただ、今回に限って言えば、2戦目でソラの戦いぶりを見せ付ければ、ひょっとしたら戦意喪失して無駄な戦いをしなくて良いかもしれない。
ちょっとだけ、楽することを考えてしまうケルトなのであった。

【対戦相手】
収穫祭当日。
秋晴れである。さすがに殺し合い無しの戦いで、フェザーブレッドまで使うことはないだろうが、天気はライラに味方する。
コロシアムでは熱戦が繰り広げられていた。
各地方からも腕に覚えのある冒険者達がやってきて腕を競う。
会場は興奮の坩堝と化していた。

そして、決勝戦での決着が着く。
「優勝はー・・・・勇者ノクレモ率いる『スニッカーズ』だーー!!」
音声拡散の魔法がかかっているマイクを持って司会兼レフリーが絶叫。
「ノクレモ・・・・ノクレモ先輩か・・・」複雑な表情のケルト。
「げぇ・・・あいつかよ。」嫌な顔のベル。
「ねーねー・・・知ってるの?」大抵の事に興味津々とばかりにツッコんでくるソラは今回も聞いてくる。
「ああ・・・ちょっとね。」歯切れの悪い返事のケルト。
「ちょっとどこじゃねぇよ。勇者学校でケルトの1コ上の学年なんだけどよ、散々いびられたんだよ。」吐き捨てるように言うベル。
それを聞くとライラは黙っていたが、目が猛禽類のように輝きを放つ。
「む・・・むむむ。じゃあちょっとお仕置きしなきゃダメ?」こちらは頬を膨らませて言うソラ。
ケルトを苛めるやつは絶対に許さないといった様子。グッと力が入ったのか首の周りの僧帽筋が盛り上がる。
「あ、ダメダメ。せっかくの収穫祭なんだから、相手を潰したりしちゃダメだよ。穏便にね。
王宮の神官は優秀だけど、殺しちゃったらさすがに復活できないからさ。」釘をさすケルト。
「ぶぅー・・・遊びじゃなかったらグッチャグチャにしてやるのに〜・・・」物騒なことを言う。
そういうところは姉のようだ。普段の従順な妹から過剰な愛情を持つ姉の顔になる。
過去の話を聞き、にわかにソラやライラが殺気立つのを抑えながら選手控え室へ。

「せ・・・先輩。今日はよろしくお願いします。」控え室で先に待っていた『スニッカーズ』の面々に頭を下げるケルト。
「フン・・・貴様が伝説の勇者とは笑わせるぜ。使いっ走りケルトがよ。何かの間違いなんだよ。それを大勢の観客の前で証明してやるぜ。」
「Oh!ソラ・・・・試合前に手を出す、良くないネ!」レッカが今にも殴りかかりそうなソラを抑える。
気の合うレッカでなければ、止めた者が吹っ飛ばされていたかも知れない。
「まぁ仲間がなかなかやるみてぇだが、俺の仲間も強えぜ。」といって、戦士、魔術師、神官、吟遊詩人のメンバーを誇らしげに見やる。
「僕の仲間も強いですから、信じてます。」
理不尽に殴られたこと、カツアゲされたこと、その他の昔の嫌なことを思い出す。
でも、今は耐え忍ぶんだ。きっと皆が完膚なきまでに叩きのめしてくれるハズ。
相手は確かにバランスが良いが、ソラのパワーはハンパではないし、
ライラやシルフィーだって普通の冒険者相手なら指一本でノックアウトできるだろう。
アトで先輩の泣きっ面を拝んでやる・・・自分で成し遂げられないのが情けないがそう考えていた。

「さぁ・・・・今からエキシビジョンマーッチ!!あのヴァンパイアロードを退治した、勇者ケルト様がご登場だよ〜!!
本日の優勝者達とのスペシャルな戦いを見届けよう!・・・・Fu〜〜〜〜!」司会が紹介。
大観衆がドッと沸いている。ケルトの勇名は首都で知らぬもの無しというほど轟いている。
いよいよ戦いが始まった。

【先鋒戦、ベルvsノクレモ】
「ち・・・いきなりのおでましかい!」ベルは困惑していた。
先鋒ベルの相手は、相手のチームリーダーノクレモだったのだ。
ノクレモは確かに最低の人格だが、勇者としての腕は立つ。
勇者学校時代は素行が悪く良い成績をつけてもらえなかっただけで、実力で言えば学年で5本の指に入った。
しかし、ケルトが苛められる様子をずっと見てきたベルとしては、これくらいで怖気づいてはいられない。
「始め!!」司会が開始を宣言する。
「ドリャアアア!」気合とともにベルが大剣を振るう。
が・・・かすりもしない。不器用なのは激戦を重ねても変わっていない。
「フン、相変わらずパワーだけのようだな!」ノクレモは余裕だ。
ブンブン振り回す大剣を華麗に裁く。
観衆は華麗に回避するノクレモに声援を送り始める。
「ち・・・ならば。」とベルは魔法を詠唱する。
バリアーMk2 TypeHだ。とにかく10分粘れば良いのだ。
攻撃が当たらない以上、相手が強敵ということもあって引き分けに持ち込む算段だ。
ちょっと情けない展開に会場からは容赦ないブーイングも飛ぶ。
だが・・・
「くっだらねぇな!」ノクレモはそう言い放つと魔法解除の「ディススペルマジック」を唱える。
「な・・・・!!」
するとバリアがスッと消え・・・
「死ね!!!」ノクレモの剣はベルの右肩からざっくりと入っていき・・・・
「ぐああああああ!!」断末魔の悲鳴を上げるベル。ナナメにばっさりと切断される。
「ベ・・・ベル〜〜〜〜〜〜!!!」ケルトが叫ぶ。
ドッと倒れるベル。床にはおびただしい血液が流れる。
「し・・・勝者ノクレモ!」まさかの惨劇に戸惑いながらも勝者の名を呼ぶ司会。
ベルは事切れていた。
「ベル!しっかりせい!!ヒーリング!!」シルフィーが慌ててヒーリングをかける。
大会が用意した神官ごときでは、絶命したベルは治せまい。
「う・・・くそ・・・すまねぇケルト・・・」力なく詫びを入れるベル。
実力差は承知の上だ。
その中で自分にできる最高の戦い方をした。自分のためにベルは戦ってくれた。
そう思うとケルトの目頭が熱くなる。
「あの野郎・・・・やりやがったな!!」ライラが激昂する。
「遊びだって言ってたのに!!」ソラも同じく激怒。シルフィーが不在ならばベルは完全に帰らぬ人となっていたのだ。
「オーノー!ミーも戦いたい!メンバーチェンジ・・・ダメ?」
レッカも一気にやる気になったようだが、分厚いルールブックを読んでみるとメンバー発表後の入れ替えは認められないことになっていた。
「次ワタシだよね?もー怒ったモン!」一気に筋肉を隆起させるソラ。
握り拳に力が入ると上腕筋が様々な形を作り出す。野太い血管がうねる。
久々にソラ演出の惨劇が見られそうだった。

【次鋒戦、ソラvs魔術師】
もう誰にも止められない。ソラに火をつけてしまった。
ケルトの忠告なんて全く耳に入っていなかった。
「うふふふ・・・もう泣いて謝ったって許してあげないから!爪や髪の毛も残らないと思ってね。」
モンスターバルク、ソラが残虐な笑みを浮かべながら威嚇する。
いっぽうの魔術師はジリジリと後退する。超肉体の迫力に押されながらもソラを見る。
「どうやって料理しよっかな・・・右腕と右足は折っちゃうでしょ?それから左腕は引っこ抜いて、左足は潰しちゃうの・・・」
恐ろしい事を口走りながらゆっくりと獲物に近付くソラ。
着実に魔術師との距離を詰めていく。死刑執行開始間近。
ああ・・・肉片確定だ。これから起きるショーに血沸き肉踊るケルト。
「ソラ!ボーっとすんな!」突然ライラの叱責が飛ぶ!
だが遅かった。
ソラの周りには雲がモクモクと・・・・
「お腹は足でペチャ・・・・ン・・・・・・」
バタッと仰向けに倒れて眠るソラ。
「無駄口叩く大アホで助かったぜ。」魔術師はゆっくりと近付く。
雄大に盛り上がる大胸筋。そこに乗っかる。
「ワン・・・・ツー・・・・スリー!!」
寝ているソラが返せるはずもなかった。
カンカンカン!ゴングが鳴って、試合終了を伝える司会者。

ソラが・・・負けた?
っていうか、2敗目?
ちょっと現実が受け入れられないケルト。
「うーん・・・ムニャムニャ・・・・やったよベル。」夢の中で、ベルの仇を取っていたソラなのであった。

【中堅戦、シルフィーvs戦士】
「全く。油断してるからそうなるのじゃ。わらわに任せておけ。」ソラに呆れながらもシルフィーが次戦に備える。
「あ・・・あの・・・」
おずおずと話しかけるケルトに、超乳を揺らしながらシルフィーが目を合わせる。
「分かっておる。ケルトまで回さなければ良いのじゃろう?ソラほどとはいかんが、
今のわらわならば戦意喪失させるくらいはできる。」ヴァンパイアロードを倒し大幅レベルアップ、
さらに成長促進剤を使って磨き上げた力はオーガーの5倍ほどとなっている。
一旦捕まえてしまえば、手足を引きちぎるくらいは造作もない事だ。
それに加えてソラと違い、魔法抵抗は万全で実に穴のない武道家になっている。
あとはどれくらい相手の戦意を無くさせるかだ。

「始め!!」司会が開始を宣言する。
相手の槍使いは長いリーチを生かして牽制する。
「ぬお!?イタタタ・・・ヒーリング!」
槍の技術は相当なものだった。さらにシルフィーは大きな風船2つを抱えている。
体は華麗にかわしているつもりだったが、的が大きいオッパイに槍が刺さる。
シュシュシュ!
心臓を一突きにされればシルフィーといえど致命傷になる。
「おのれ、下郎が・・・!」シルフィーのイライラは募るばかりだが、なにせ素手と槍では分が悪いと言えた。
チクチクと素早い突きがいくつもの怪我を負わせる。
ベルとのセックスでは強力な武器だったが、こうして普通に戦うと胸が足を引っ張っていた。
捕まえればこっちのものだが、なかなか捕まえさせてくれない。
そうこうしているうちに・・・
「10分!試合終了〜〜〜〜〜!」なんとまさかの時間切れ引き分け。
帰ってきたシルフィーは苦笑い。
「良く考えるとリーチの長い相手とは対戦したことがなかったわ。戦いづらいものじゃのう・・・」
確かに相手はかなりの手練れであった。
あれだけリーチの差があるとシルフィーの技術と経験ではカバーしきれなかった。
ソラとカマイタチの戦いを思い出す。一旦捕まえれば・・・それがうまくいかないと泥沼だ。
これで0勝2敗1引き分け。
この時点でケルト達の勝ちは無くなった。
これに憤慨しているのは国王である。
「ざ・・・・惨敗ですな。」お抱えの宮廷魔術師が気まずそうに呟く。
「いや、残り2戦。これを勝てば引き分けだ。」国王も顔が引きつっている。

【副将戦、ライラvs神官】
「ライラ・・・マジで頼むぜ。ここでビシッとしとかないと。」ベルが声をかける。
「ん・・・?アタイは誰かさんみたいに一刀両断にはされないって。
ケルトには期待できないから今度こそギッタギタにしてやんよ。」
筋肉盛り上がる腕を組むライラが実に頼もしく見える。
「相手は神官。多少の魔法は使ってくるかも知れねぇ。速攻だ。速攻で沈めろ。」
「フン、言われなくたって瞬殺してやる。」
とにかく勝つ。ライラはなりふりかまわずフェザーブレッドを使う気でいた。

そして・・・試合が始まった。
「ライラ瞬殺隊、出る!」
ライラは高く飛び上がり、羽の弾丸で相手を貫く算段だ。
「さて・・・会場をふっ飛ばさないように加減しねぇとな・・・・」舌なめずりしながらライラが残虐な笑みを浮かべる。
ところが。
「勝負アリ!!勝者スニッカーズ!」
「な・・・・」慌てて司会の方に飛び降りるライラ。
「オイ!なんだよ!まだ何もやってねーぞ!」司会の襟をグイッと掴みながら抗議する。
上背のある彼女がつかむと司会の足は宙に浮く。
「貴女は失格です。ということで、大将戦の準備をお願いします。」
しかし司会兼レフリーもプロフェッショナル。冷静に彼女を裁いていた。

「『飛行禁止』・・・・じゃと!?」シルフィーが驚きの声を上げる。
「ふざけやがって・・・備考欄の注13なんか見ねえっつーの!」ライラもご立腹だ。
「ど・・・どうしよう?」ソラが不安げにケルトを見る。
「このルールブックによると棄権は認められてるけど・・・・」

「どうしたんですか?国王がお待ちかねですよ。」従者がやってくる。
「国王が先ほどアナウンスをしましてね、エキシビジョンマッチは大将戦で勝った方の団体を勝ちとする・・・とのことです。」
「職権の乱用じゃな。」シルフィーは苦笑い。
何がなんでも国王は勇者達を勝たせたいようだ。未だに0勝3敗1引分。
良いところを見せなくてはいけない。なにせ王宮お抱えパーティなのだ。
血税を使って優雅な暮らしをさせている。その価値があることを伝える義務が国王にはあった。
そして手放しに褒め称えた以上、メンツというものもある。

「とてもじゃないけど・・・・棄権できないね。」ケルトはため息をつく。

【大将戦、ケルトvs吟遊詩人】
ともかく相手は援護系。ベルみたいにいきなり殺されることはないだろう。
しかも女の子だ。武器は横笛でこちらはレイピア。武器では殺傷力もリーチもこちらに分がある。
引き分けくらいにはできるはず。
「試合開始!」
試合が始まるとレイピアを繰り出す。
それをよける吟遊詩人。たまに攻撃が当たってかすり傷を負う。
「いやああああ!!」相手の女の子は体が傷物になるのが嫌らしく、ブンブンと笛をやたらめったらに振り回す。
ガキ!
するとケルトの手首に笛がヒット。レイピアが叩き落とされる。
咄嗟に間合いを詰め、体当たりするケルト。相手も笛を弾かれつつ倒れる。
チャンスだ。ケルトは一気に馬乗りになって、スリーカウントを狙う。
良いぞ・・・これで勝てばパーティのヒーロー。
だがバタバタと暴れ、体重の軽いケルトはカウントが取れずに弾かれ、さらに上下逆転を許してしまう。
あまりのレベルの低い戦いに会場からはブーイングが始まってしまった。
吟遊詩人はケルトに馬乗りになっている。しかも両腕を足で押さえられてしまった。
「このこのこの!!」
パッシーン!ビシビシビシ!
吟遊詩人のビンタが炸裂する。
ライラがよくやってくるのとは桁違いの痛さだ。彼女は相当手加減をしている。今の相手は全力のフルスイングだ。
あまりの痛さに意識が遠のいていく・・・これが負けか・・・
ところが地獄はまだ終わらない。
襟を掴まれ、無理やり立たされるケルト。ああ・・・今の体勢のまま3カウント入れてくれれば良かったのに。
「よくもあたしの体にキズをつけてくれたわね!」
しまった。レイピアの攻撃は相手を激怒させるのに十分だったようだ。
スパパパパパン!
強烈な往復ビンタ。ケルトの顔が腫れていく。別人のようになって唇からは血が流れる
「ちょ・・・シルフィー!これって止められねぇのか!?」ライラが見てられないといった様子で聞く。
「えーっと・・・他のチームメンバーによるギブアップは認めない・・・だそうじゃ。」
「マジかよ・・・。」がっくりと下を向くライラ。
「が・・・頑張って。」手をキュッと握り締めたまま。祈るような目で戦況を見るソラ。
「ネバーギブアップ!ケルト、しっかりするネ!」
だが、レッカの応援もむなしく、ぐったりとしたケルトは女の子の立て膝の上にうつ伏せの体勢になってしまう。
「今から悪い子のお尻をペンペンするから!」高らかに勝ち誇る吟遊詩人。
ズボンを無理やり下げると、バシバシお尻を叩く。
余りの痛さに涙が出る。声を上げないことが救国の勇者ケルトの最後の意地だった。
自分について来てくれたメンバーに恥をかかせるワケにもいかない。必死に絶える。
「えいえいえい!」だが、容赦なく叩き続ける女の子。ケルトのお尻は真っ赤になる。

【女神達】
8分が経過した。
5分間は延々とお尻を叩かれた気がする。感覚が無くなり、血が滲んでるようにも思えた。
大の字になるケルト。会場は大爆笑するものと失笑で2分割されている。
最後は腫れた顔面を足で踏みつけられる。
「ワン・・・ツー・・・」ゲシ!
スリーカウントが入る前に蹴飛ばされる。
「ワン・・・ツー・・・」ゲシ!
またしても。どこまで嬲るつもりなんだろう。
「ワン・・・ツー・・・スリー!!」3度目にしてようやく3カウントを許された。
王様は特別席で顔を真っ赤にしていた。その光景だけ憶えている。

控え室に戻ると、シルフィーが即刻回復してくれた。
「王宮の神官などにはこの姿を見せられぬ。」
「ケルト・・・・かわいそうに・・・・」ヒシっとケルトを筋肉爆乳で包み込むソラ。
ソラの目から涙が滝のように流れている。
ケルトの方は恥ずかしくて何も言えなかった。
大観衆の前で顔が変わるまで平手打ちされた上に、延々とお尻ペンペンの刑を受刑してしまったのだ。
「Oh!ケルトは強い子ネ!声を上げなかった。ナイスファイトヨ!」
今度はレッカが爆乳で頭を覆う。ムギューっとハグしてくれるが、そこには優しさがいっぱいだ。
「あー・・・なんだ・・・アタイらが悪かったよ。不甲斐ないばっかりにケルトを出させることになっちまって・・・」
なんとライラまでケルトの頬を撫でながら謝る。
こんな情けない試合したのに・・・自分の不甲斐なさと皆の励ましに涙が止まらない。

【追放】
その数分後、王様からの使者が来る。
「『勇者ケルトは本日を持って王宮から追放。二度と顔も見たくない』だそうです。」
確かに王の面目も丸つぶれ。こんなのを延々8ヶ月も養っていたのかと思うとさぞ腹が立っただろう。
だが、従者は続ける。
「一応・・・手切れ金だそうです。『ヴァンパイアロードの件では世話になった。それは感謝する』とのこと。」
そこにはなんと1万ゴールドほど入っていた。
あれだけ恥をかかせたのに、死刑も覚悟したのに、最後に王はここまでしてくれた。
ヴァンパイアロードという相手の大きさをあらためて知る。
そして、このお金でスッキリと別れたいという事だろう。
王の器も大したものだが、これで二度と首都にはいけなくなった気がする。

がっかりの一行だったが、1人だけ良いことが起きていた。
「あの・・・なんじゃ・・・今まで正直すまなかった。これからも仲良く・・・」作り笑いをするシルフィー。
「アタイも謝る。この通り!今までの事は水に流して・・・・だからメシは・・・」手を合わせるライラ。
「じゃっかーしい!急に手の平返しやがって!」
形勢逆転である。ベルはちょっとだけ嬉しかった。


 つづく





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