マテリアル・ガール

「ふっ、はっ・・・っと」
カシャン
「今日は結構調子がいいな。もうちょっと重量増やすかな」
「この分なら80キロもいけそうだ」

僕は最近頭打ちだったベンチプレスの重量を上げてみることにした。
近くのラックから10キロプレートを一つずつ運び、両外の5キロプレートの代わりにシャフトに追加した。

ここは郊外のスポーツジム。
いささか設備は古びているが、かなり広いフロアにさまざまなトレーニング施設がある。
お客の数はそんなに多くないが、かえって集中できるので気に入っている。
壮年のオーナーはがっちりとした体格で一種近寄りがたい雰囲気があったが、話してみると
強面の顔にそぐわない気さくな人だった。
昔は傭兵だったと嘯いているが、僕は話半分に聞いていた。

そういえば、このジムには他にあまり無い設備があった。
ロッククライミング用の人工壁があるのだ。

あまり利用者のいない奥に一段低くなったフロアがあり、その上は高い天井までの吹き抜けになっている。
人工壁面はその一番奥の壁に設置されており、大小さまざまな突起がランダムに埋め込まれ、
天井近くはオーバーハングになっており、天井部分にまで伸びていた。

いままで使用されているところは見たことが無いけれど、オーナーいわく「物好き」が時折使用しているらしい。
ガシャン
「ふー・・・今日はこんなとこかな」

僕は久々に記録更新できたので、すっきりした気分で一息ついた。
ベンチで汗を拭きつつ休んでいると、ジャージ姿の女性が更衣室に入っていくのが目に入った。
「おや、あんまり見ない人だな」
僕が利用する時間帯は利用者はあまり多くなく、大概同じような顔ぶれだったので、見たこと無いその女性が妙に気にかかった。

僕がぼけッと突っ立っていると、
「おう、なんだ、あいつが気になるか」
オーナーが声をかけてきた。

「見たこと無い方ですね」
「まあ色々忙しいやつだからな。あいつが例の物好きだよ」
「じゃあクライミングの練習に来たんですかね」
「・・・まあ、そんなとこじゃないかな」
どうやらあの壁を使う例の客のようだ。

「ロッククライミングって実際には見たこと無いんですよ。見学してもいいですかね」
「好きにすればいいさ」
「じゃあ、そうさせてもらいます」
いそいそと僕はマシンを片付けにむかった。
オーナーはその様子をちらりと見てから人工壁のほうを眺め、苦笑いした。
「・・・まあ、あいつのは参考にならんと思うがな」
僕はプレートを元に戻し、人工壁に向かう。
吹き抜けに面する手すりから、一段低い地下部分を覗き込むようにすると先ほどの女性がストレッチしているのがみえた。
「ええっ?」
僕は思わず驚きの声を上げそうになった。
それはゆっくりと身体ををほぐしている彼女の格好のせいもあった。

鮮やかな青い上着は赤いたすきでとめられ、その下には黒いレオタードのようなボディースーツを身に着けている。
両足には太腿の半ばまである、濃紺色の皮のレガースとおぼしきものを履いていた。
両手には指抜きされた皮のグローブを付けているようだ。

「しかし・・・凄いな・・・」
だが一番僕が驚いたのは彼女の肉体そのものだった。
胸や腰は大きく張り出し、腰がグッとくびれたセクシーなボディだった。
そしてそこには無駄な脂肪など存在せず、鍛え抜かれた筋肉が漲っていたのだ。
半ばまで覆われた太腿はそのくびれたウェスト以上に太く、太腿筋がスピードスケートの選手のように(いやそれ以上)
大きく張り出していた。
その力強いアウトラインは膝のあたりで一旦絞り込まれ、その下に続くふくらはぎで再び大きく盛り上がり、
足首で一点に収束している。
脹脛は丈夫そうな素材に覆われているにもかかわらず逞しく盛り上がり、それでいてやけに女性らしい曲線を描いていた。
上半身も負けてはいない。
大きく前が開いた上着の間には、その女性にしては広い肩幅にふさわしいバストの谷間が自己主張している。
ボディースーツはピッチリと張り詰めていたが、その丸みはいささかも隠されることは無く、
むしろその大きさを際立たせていた。
その土台となる大胸筋も相当鍛えられているのだろう、胸板も厚く、広背筋も相当なもののようだ。
両腕は筋肉が大きく盛り上がる肩から露になっており、そこから伸びる二の腕や前腕には太いワイヤーを束ねたように、
力強い筋肉の隆起が伺えた。
そしてこれらをつなぐウェストはギュッとくびれていたが、ただ細いのではなく鍛え抜かれた腹筋で覆われているようだ。
そして分厚く盛り上がる僧帽筋の頂には、プラチナブロンドを白い鉢巻でまとめた、意志の強そうな若々しい美貌があった。
「なんて逞しくて・・・きれいなんだ・・・」

逞しくも女性美あふれる彼女のストレッチに、僕はすっかり見入ってしまった。
入念なストレッチを終えると、彼女は壁面に向き直り、上る準備をはじめた。
「はじまるぞ。まあ滅多に見れないかもしれんからじっくりみとけ」
「っ・・・・は、はい」
いつの間にか隣に来ていたオーナーにびっくりしつつも、僕は彼女から目が離せなかった。
何も道具を使わないところを見ると、どうやら素手で上っていくフリークライミングのようだ。
彼女はまず手近な突起に手をかけると、登りはじめた。
「は、速いっ」
TVなどでたまにみるフリークライミングでは、手足を確実な突起を確保してから移動させていた。
なので一歩一歩着実に上っていくわけだが、目の前の彼女はグイグイと無造作に上っていく。
量感あふれるグラマラスな体が、軽々と垂直に近い壁を登ってゆく。
ハイレグのボディスーツに包まれただけの大きなヒップが、深いえくぼを見せつつ悩ましく揺れていた。
壁面がオーバーハングになり、 ついに足が付かなくなっても、彼女は登るのをやめない。
ごく小さな突起をつかむ腕の力だけで登っていくのだ。
余程の握力と腕力、そしてバランス感覚が無ければできない芸当である。
彼女の肢体はすでに天井近くまで登っていた。
そしてついに壁が天井と平行になるところまで来ると、彼女は雲梯のように突起を渡りつつ
下から唖然と見上げる僕たちの上までやってきた。

「ちょっとオーナー、上のほうちょっと汚れてるわよー」
彼女は右手で突起につかまりつつ、まるで天井にしゃがむような姿勢でこちらに手を振っている。
全体重を片手の握力だけで支えているはずなのに、その表情に力むような様子は伺えなかった。
「そんなところまでいけるのはお前さんくらいしかおらんからな」
「まあ、そうでしょうけど、ちゃんと掃除しないと会員増えないわよ?」
「ほっとけ」
「そういえば、その子は?」
オーナーと軽口を交わしていた彼女がこちらに顔を向けた。

「お前さんがこなかった最近会員になってくれた奴だ。生真面目に頑張ってるよ」
「ふうん・・・」
彼女はしばらくこちらも見つめた後、あろうことか手を離して空中に身を躍らせた。
「うわぁ・・・あ?」
僕は目を見開き硬直してしまったが、落下を始めた彼女からは眼をそらさなかった。
「よっ・・と」
スタッ
落下を始めた彼女は猫のように柔軟に身をひねると、10メートル以上の高度さなど
感じさせないようにふわりと着地した。
「新人君だったのか。道理で見たこと無い顔だと思った」
彼女は疲れた様子も見せずに1階の手すりから様子を見ていた僕とオーナーのほうに歩いてきた。

近くに来てわかったのだが、彼女は女性としてはかなり背が高かった。
僕は175cmなのでそれなりの背の高さだったけれど、彼女は僕よりも若干背が高く180cm近いようだ。
それにすぐ近くで見ると、そのボディの凄さがより実感できた。
運動した直後なので、露出した肌にはよりメリハリを増した筋肉が、うっすらとかいた汗をまとって艶かしい光沢を放っている。
逞しく鍛えられた筋肉とと女性らしさを同時に併せ持つその体は、文字通り雌豹のようだった。
そしてその気の強そうな顔に悪戯っぽい表情を浮かべ話しかけてきた。

「ここの建物はちょっと古くさいけど、おいてあるマシンのメンテナンスはしっかりしてるし、なかなかいいでしょ?」
「は、はい」
「古くさいは余計だ」
「いーじゃない、褒めてるのよ?・・・わたしはレイチェル、オーナーとは色々あって古い付き合いなのよ」
「いわゆる腐れ縁てやつだ。」
「あーそりゃないわよー」
そんな会話をしつつも、僕は彼女に見入ってしまっていたのだ。

「じゃあ今日はあそこに泊まるんだな」
「ええ、そのつもりよ。ここぐらいしかアレはないからね」
「まあ、な」 
「ふふっ・・・それじゃあね、新人君」
「・・・あっ・・・」
レイチェルは軽く汗を拭きながら歩み去った。
僕はしばらくその後姿を見つめていたが、いつもよりかなり遅くなっているのに気が付いた。
すでに日沈み、外は真っ暗になっていた。
このジムは昼間の利用客がほとんどなので、すでに他のお客の姿はみえなくなっていた。
僕はバタバタと帰り支度をはじめたが、どうも彼女姿が頭に焼き付いていて、やけに手間取ってしまった。

「じゃあ、オーナー、失礼します」
「おう、気をつけて帰れよ」
僕は正面ドアからでると、ジムの裏手にある駐車場にへ歩きだした。
ふと振り返るとすでにジムの照明は落とされ、見通しのいいフロア内は、非常灯の明かりだけが照らしていた。
「しかし、凄い人だったな・・・」
今改めて考えると、とても信じられないような光景が頭の中で浮かび上がり、
逞しさと色っぽさを兼ね備えた肉体が躍動するさまが鮮明に思い出された。
「レイチェルさんて、いったいどんな人なんだろう」
ぼんやりと考えつつ建物を回りこみ、駐輪場の近くに出た時、建物の反対奥にある裏口が開くのが見えた。
中からオーナーとジャージ姿のレイチェルがでてきたのだ。
二、三言葉を交わした後、オーナーはそのまま戻り、レイチェルは裏手にもう一棟立っている建物に入っていった。

「おや?あそこは確か・・・」
以前オーナーに聞いたときは機材倉庫だといっていた建物だ。
規模はさほどでもなく、特に何かあるわけでもなかったので気にかけていなかった。
「泊まるってあそこに泊まるのかな?倉庫じゃなかったっけ?」
ちょっとした冒険心と、何よりレイチェルへの強い興味に僕は逆らえなかった・・・。
建物の前まで来ると、正面のシャッターは閉ざされたままだったが、脇の通用口は開けたままになっていた。
そっと中をうかがうと、常夜灯がわずかに照らす通路が奥に延びていた。
脇にはいくつかドアがあった。一番手前のドアはおそらくシャッターの閉まっている倉庫部屋とつながっていた。
奥にあるもう一つのドアからは明かりが漏れていた。
僕が今更ながら中に入って確認しようか躊躇していると、不意にそのドアが開いた。
あわてて陰に隠れてからそっと覗き見ると、レイチェルが廊下の奥を曲がるところだった。
どうやら通路を折れた先に何かあるようだ。
「どうしようか・・・いや、行くんだ・・・」
僕はそっと建物に入ると忍び足で進んだ。
突き当りを曲がった先は、階段になっていた。
階段の下はうっすらと明かりが照らしていた。

彼女の姿が無いのを確認すると、慎重に階下へと降りていった。
地下には一階と同じような通路があったが、一階と違い奥に開け放たれたドアが一つだけあった。
どうやらドアの向こうにはかなり大きなフロアがあるようだった。
もしかすると上の建物より広いかもしれない。
ドアの向こうからは室内のBGMが流れてきていた。
(後で知ったのだが、EARTH, WIND & FIREの曲だった)
「この奥にレイチェルさんが・・・」
僕はフロアから見えないように気をつけながらそっと中の様子を様子を伺った。
結構な広さの室内は、トレーニング機器がいくつもおかれていた。
「・・あれ?」
それ自体は普段見慣れているのだが、僕はなんだか妙な違和感を覚えた。
だがその違和感の正体に思いをめぐらす前に、彼女の姿を見つけた。
レイチェルは部屋のちょっと奥にあるダンベルラックの前で両手をほぐしていた。
彼女は先ほどとほぼ同じような格好だったが、上着は脱いでおり、レオタードのようなボディースーツがむき出しになっていた。
ちょうど背中を向ける格好になっているので、先ほどは隠されていた背中の様子がはっきり見えた。
ボディースーツの背中はざっくりと開いていて、鍛え抜かれた背筋群が、大きく動く腕の動きにあわせて艶かしく動く様子が
良く見えた。

「さてと、はじめますか」
ストレッチを終えた彼女はラックからダンベルを取り出し、ダンベルカールを始めた。
(ええ!まだ最初なのに!)
僕は驚いた。ウェイトトレーニングは軽い重量から順に負荷を強くしていくのが常識だ。
しかし彼女が手にしているダンベルの重量はそんな常識では考えられなかった。
シャフトの両側には5キロプレートが4枚ずつはまっている。つまり一つで40キロだ。
大の男でも鍛えてなければ両手でも持て余す重量なのだが、彼女はやすやすとカールしている。
呼吸も荒らげずに行うその様子は、まるで一般の男性がごく軽いダンベルでウォーミングアップするかのようだった。
リズミカルに腕が上下するたびに、上腕二頭筋や上腕三頭筋が逞しく盛り上がった。

レイチェルは数セットこなすたびに更に高重量のダンベルへと取り替えていく。
100キロ超のダンベルですら、変わらず確実にカールを行っている彼女を見ているうちに、僕は不意に先ほどの違和感に気が付いた。
(そうか、マシンのウェイトが尋常じゃないんだ・・・)
改めて室内のマシンを見回すと、その装着されたウェイト量のすさまじさに身震いした。
通常よりも高重量用にカスタムされてるのか、マシン自体が通常のものより若干大きく、フレームも強化されているので
ぱっと目ではわかりにくかったのだ。

ズシャン!
重々しい音にハッと振り向くと、巨大なダンベルをラックに戻したレイチェルがタオルで汗を拭きつつ微笑みかけてきた。
「驚かせちゃったかな?まあ自分で覗いたんだから仕方ないわよね。」

「あ、あのっ・・・ごめんなさい」

僕は恥ずかしさから思わず身を引きかけたけども、彼女にとがめる様子が無いのでその場であやまることにした。
「ここの扉開いてたでしょ。普段はちゃんと鍵を閉めてあるんだけど・・・ワザと開けといたのよ」
「・・・」
「やっぱり見に来たね。」
僕はちょっと視線を下げた。
「私って、こういうところ人に見られるのも嫌いじゃないんだ」

そういうとレイチェルは、僕の目の前で腰に手を当てて胸をグッと張ってみせる。
豊満なバストは強靭な大胸筋に支えられ、ボディスーツをはちきれんばかりに押し上げる。
逞しくも艶かしい曲線を描く広背筋が更に広がり、逆三角形のシルエットをあらわにした。
さらに、昼間は上着で見えなかった見事に割れた腹直筋や、ナイフで刻んだような斜腹筋が
ボディスーツ越しにはっきりと浮かび上がっていた。
ボーっとして見つめるぼくに、彼女は悪戯っぽい表情で語りかける。
「この肉体、見せ掛けだけじゃないわ・・・上じゃ目立ちすぎちゃうから本気でトレーニングできないのよ」
「あたしの力・・・もっと見てみたい?」
力強さと色っぽさを兼ね備えた身体を見せ付ける彼女に、僕はかくかくとうなずいていた・・・。

「じゃあ次はベンチプレスにするわ。そこのプレートを4枚足してくれる?」
ベンチはかなり太いフレームのガッシリとしたつくりで、シャフトも通常より若干太いようだ。
すでにシャフトにはプレートが左右4枚ずつ取り付けされていた。
プレートは通常より重い1枚30kgのもので、シャフトは20kgは下らないはずなので、すでにこのバーベルの
総重量は260kgにもなっている。
僕は重い30kgプレートを左右に2枚ずつ装着した。
運ぶだけでも結構な労働で、さきほどまでのトレーニングの疲れもあって装着した後座り込んでしまった。
「ありがと。じゃあ、はじめるわね」

レイチェルはバーの両端の巨大なウェイトが信じられないほど軽快に、バーベルを上げ始めた。
380キロという途方も無い重量を、まるでウォーミングアップのようにグイグイと持ち上げている。
額からは汗が流れているものの、呼吸は乱れることもなく一定のリズムをきざんでいた。
「ようやく調子が出てきたわ。さ、どんどんいくわよ」
彼女は更にウェイトを増やしていき、860kgにも達した金属塊を、安定したペースで5セットほどこなして
ルーチンを終わらせた。
「今日は調子がいいわ。キミのおかげかもね?」
笑いかけてくれる彼女に、ぼくは更に引き込まれていた。
その後、バタフライマシンやケーブルマシンなどで超重量級のトレーニングを順当にこなしていき、
最後のレッブプレスマシンの出番となった。
「これって・・・」

いい加減慣れてきたと思っていたけども、それには更に驚かされた。
レッグプレスマシンは、ウェイトを装着する部分が斜めになったスライドレール上を上下するのだが、
そのマシンのウェイト取り付け部には、片側につき4本のシャフトがある。
省スペース向けにこういうデザインのマシンがあるのは知っていたけども、それらすべてに
巨大なプレートが複数装着されていた。
通常の倍近い幅のスライドレールと相まって、異様な迫力をかもし出している。
シャフト一本につき50kgの特大プレートが2枚、合計800kgにもなるウェイトだが、彼女はそれをウォームアップ、
しかも片足でやすやすと動かしてみせたのだった。

「もうこのマシンの限界まで装着しても大丈夫な位なんだけどね」
「・・・限界って、どの位なんですか?」
「んふふ、秘密」
自慢の美脚に巨大な大腿筋を盛り上げながら、彼女は最終的に片足で2000kg、両足では4600kgものウェイト
を用いてトレーニングを行った。

「んーーーーーっと、今回はおしまいっ」
目の前で見ていても信じがたい、圧倒的な重量でのトレーニングを終えて体を伸ばすレイチェルは、
パンプアップして更に隆起した筋肉が、流れ出た汗で艶かしく光沢を放ち、まさに鋼鉄の女神のようだった。
「キミのおかげで楽しくトレーニングできたわ。ありがとね」
「・・・レイチェルさん!」
「おっとっと」
延々とその肉体美を見せ付けられ続け、もはやその虜となっていた僕は、思わず彼女に抱きついてしまう。
長身の彼女に両手をまわそうとするが、その強靭な筋肉で覆われた上半身はとても僕の手が回りきらない。
柔らかな双丘の感触と鍛え抜かれた筋肉の手ごたえに、僕はもうどうなってもよかった。
このまま彼女の強靭な体に抱かれていたかった。

延々とその肉体美を見せ付けられ続け、もはやその虜となっていた僕は、思わず彼女に抱きついてしまう。
長身の彼女に両手をまわそうとするが、その強靭な筋肉で覆われた上半身はとても僕の手が回りきらない。
柔らかな双丘の感触と鍛え抜かれた筋肉の手ごたえに、僕はもうどうなってもよかった。
このまま彼女の強靭な体に抱かれていたかった。
レイチェルはその逞しい両腕で軽く抱擁してくれた後、ゆっくりと身体を離した。
「正直、あなたみたいにこの身体を好いてくれるコはあんまりいないの。」
彼女は右腕を折り曲げ、丸々と盛り上がる力瘤を軽くなでさすりつつ目を伏せる。
「だけどね・・・私は興奮したら力の加減が出来なくなっちゃうのよ・・・」
レイチェルは近くにおいてあったバーベルシャフトを持ち上げる。
そして軽く息を吐くと、1トン以上のウェイトに耐えうるそれを、ゆっくりと二つ折りにしてしまった。
目を見張る僕を見ながら彼女は更にそれを半分にしてしまう。

「キミみたいなコは好きだから、自分でこんな風にしちゃうのはいやなのよ」
そういいながら彼女は豊かな胸の深い谷間にそれを挟み込み、両手をその下で組むと、ググッと上体に力を込る。
こすり合わせるような鈍い金属音が聞こえ、強力なプレス機にはさまれたようにシャフトだった物は更に押しつぶされていった。

ガランガラン・・・
彼女が両腕を開くと、いびつに押しつぶされた金属の塊が床に落ちた。
さすがに血の気が引いたものの、それでも僕は彼女に対する想いが抑え切れなかった。
「だけど、僕はそれでも・・・」
「・・・」
彼女はふっと表情を和らげると、スッと僕に歩み寄り、僕を抱きしめた。
「ほんのすこしだけ・・・ね」

逞しくも曲線美あふれる両腕でがっちりと抱きすくめられ、僕は身動き一つできなくなった。
それなりに鍛えている僕の胸板に、圧倒的な質量を誇る胸が強烈な力で押し付けられ、
土台となる鍛え上げられた大胸筋、そしてその下に続く僕の拳くらいもある厚い腹筋の凹凸が感じられた。
さらに僕の胴体よりも太い、迫力の脚線美が僕の下半身を挟みこんでいた。
「どお・・・?私のこの身体を感じられる・・・?」
「・・・はい・・・」
レイチェルは密着したまま腹筋や大胸筋、大腿筋にリズミカルに力を加え、強靭な筋肉の躍動を僕に伝えてきた。
僕はその未知の快感にあっという間に飲み込まれ脱力してしまったが、彼女の強い抱擁でまったく姿勢は
かわらず、筋肉マッサージは続いた。
レイチェル自身も次第に頬が上気し、快感に酔ってきたようだった。
その抱擁は徐々にその圧力を増していたが、僕は夢心地で彼女に抱かれていた。
「・・・あっ・・・ん・・・はぁん・・・」
全身を締め付ける万力のような力に苦痛を覚えることも無く、彼女の甘い吐息を聞きながら僕は次第に朦朧とし、
枯れ木が割れるような音と共についに気を失ってしまった・・・。

「・・・?」
気がつくと、僕はジムの更衣室に寝かされていた。
室内は照明はついていなかったが、窓の外は薄明るく、どうやら夜明けを迎えているようだった。
しばらくボンヤリと天井を眺めていたが、ハッとして身をおこした。
ズキン!
「痛っ!?」
予期しない痛みに若干悶絶していると、オーナーが室内に入ってきた。
「無理するな。肋骨が3本ほどやられてるんだ」
言われて自分の身体を見下ろすとがっちりと包帯が巻かれていた。
どうやらレイチェルとの抱擁で折られてしまったらしい。
さらに小さな紙片がお腹に乗せてあるのに気がついた。

「あ、これは」
それはレイチェルからのメッセージカードだった。
内容は今回のお詫びと骨折治療のアドバイスがかかれていた。
オーナーが良い医者を紹介してくれるらしい。
「自業自得みたいなものだぞ」
「そう・・・ですね」
「お前さん結構気に入られたんだな。その程度で済んだのは奇跡的だよ」
今となっては信じがたいあの超重量トレーニングを見ていたので、その通りだろうな、と妙に納得してしまった。

「彼女って次はいつ来るんでしょうか」
「さあなぁ、風来坊みたいなもんだからな」
「オーナー、僕もっと身体を鍛えとかないとダメですね」
「鍛えるに越したことはないな・・・まあアイツ相手じゃ万全とはいかないかもなぁ」
「・・・それでも頑張ってみますよ・・・」
僕はカードを見下ろし、気を失う前のあの時を思い出しながら決意を新たにした。








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