モニター

『貴女は、我が社の新製品のモニターに選ばれました』



同封されていた手紙にはそんな言葉が印刷されていた。
テレビサイズのダンボールには、試供品らしき固形食品のようなものといくつかのトレーニング器具。

「新手の詐欺かしら・・・」

確かに私は肥満体型だ。バストは自他共に認めるぐらいの爆乳なんだけど、
如何せん胸以外の部位にも多量に脂肪が付いてしまっている。
同じ大学の彼氏にも、「健康の為にも少しは痩せた方が良い」とは言われてるんだけど・・・

『女性の為の、男を見返す理想的な"美しい身体"を作る美容食品。2ヶ月で貴女も素晴らしく生まれ変わります』

そんな如何にも怪しい謳い文句が書かれている。
どうやら、2週間に1回ごとの試用レポートをメールで2ヶ月間提出すれば無料モニターになれるらしい。
怪しいとは思いつつも、タダだし物は試し、と試供品モニターを引き受けることにした。

『我が社特製の食品&ドリンクを3食、欠かさず採って下さい』
『一日最低3時間、我が社特製の器具で運動をして下さい』

注意事項はこれだけだった。試供品や器具の追加分は随時、送って来るらしい。
大学の試験も終わって長期休みということもあって時間もたっぷりあったので、一心不乱に取り組んだ。



・・・1週間。



・・・2週間。


時間が経つたびに自分の身体の脂肪が燃焼していくのがわかるようだった。


そして1ヶ月。


二の腕や太腿がまだ太い気がするが、腰回りは見違えるように脂肪が落ちて行った。
しかも、驚くことに自慢のバストの脂肪はほとんど落ちていない。

「ホントに凄いのね、これ・・・」

1ヶ月以上、定期的に送られて来る食品&ドリンクしか口にしていなかったけど、不思議と飽きは来なかった。
それ以上に、自分の身体の変化が楽しくて仕方なかったのだ。


しかし。

目標の2ヶ月目まで後残り1週間というところで私は熱を出した。
最初は微熱程度だったのが、日が経つにつれ徐々に熱が酷くなっていった。

「これって、もしかして副作用なんじゃ・・・」

そう問い合わせてみると、意外にも返答は『大丈夫』とのことだった。

『身体がこれまでの急激な変化にビックリしているだけで、発熱は直に収まる』と・・・。

しかし、結局1週間熱は下がらず、ちょうど予定では最終日に当たる日に
彼氏に部屋まで看病に来て貰うことになった。

「おい、ホントに大丈夫か?」
「・・・元気になったら、・・・絶対に訴えてやるんだから・・・!」
意識朦朧としながら、私はそんなことを考えていた。
結局、身体中から発せられているかのような高熱に、一晩中うなされ続けた。


そして、次の日。


「おい、大丈夫か?」
「・・・う、ん・・・・・」
彼氏の声で目が覚めた。気分もスッキリとしている。
昨日までの高熱が嘘のように引いていた。

「・・・・・ん?」
「? どうしたの?」

「お前のパジャマ、そんなに小さかったか・・・?」
元々、肥満体型に合わせて買ったパジャマだから、痩せた今ならブカブカのはずなんだけど・・・
確かに、身体全体に窮屈さを感じる。

「それに、肩や腕が何だか腫れてないか?」
ブカブカのはずのパジャマなのに、袖や肩回りがピチピチになっている。
取り敢えず、起き上がろうとベッドから降りて立ち上がった。

「・・・あれ?」
何だか、視線が高くなった?

「・・・げ、何だその腹・・・」
「ん? 私のお腹がどうかしたの?」
脂肪は落ちたが、爆乳はそのままなので鏡が無いと自分ではバストから下が全く見えない。

「・・・お腹、触ってみればわかるよ・・・・・」
彼氏は、何だか信じられないものを見たような目で私を見ている。
それが気になって、自分の手でお腹をさすってみた。

「何これ」
・・・固い。
それに、今まではそこになかったはずの6つのブロックが盛り上がっている。


全身用の姿見の鏡を見て、私は唖然とした。
丈に余裕があるはずのパジャマの上着は、爆乳に押し上げられお腹が丸出しになっていた。
そして、そのお腹には綺麗に分かれた、ギリシャ彫刻のような腹筋がそこにあった。

「何よ、これ!」

ビリビリッ!!

あまりの事態に身悶えしていると、パジャマのあちこちから布の裂けるような音が聞こえた。
袖の裂け目から見えたもの・・・それは紛れも無く、暴力的に盛り上がった上腕二頭筋だった。
腕や肩の「腫れ」だと思っていた部分は全て、在り得ないまでの筋肉の隆起だったのだ。

「・・・お前、ダイエットするにしたってやり過ぎだろ・・・」
「・・・そんな、私だって普通にダイエットのつもりだったのに・・・」

「私は、ブロックタイプの健康食品食べて、ダンベル運動しただけだよ?」
「・・・ダンベル運動って・・・・・」
彼氏は、私が使ってたダンベルを見つけた。重量は書いてないが、女の私でも挙げられるぐらい軽い。
彼氏は、試しにそのダンベルを挙げようとしてみた。

・・・が、一向に持ち上がらない。

「おい、これ何Kgあるんだ!?」
私が片手で使っていたダンベル。
しかし、私の彼氏はそれを『両手』を使っても持ち上げることが出来なかった。

試しに、私がそのダンベルを片手で持ち上げてみる。
やっぱり、軽い。

ヒョイッと、難なく持ち上がる。

「じゃあさ、俺を抱き上げてみてよ」
「・・・そんな、無理だよ」
私の彼氏も実は肥満体型で、体重は100kgを超えている。

「良いからやってみろって」
「・・・・・わかった」
渋々、彼氏の腰に手を回す。
どうせ持ち上がらないと思いつつ、腕に力を入れようとしたその矢先。

ヒョイッ

「うぉっ!!」
一瞬で、彼氏の身体は高々と差し上げられていた。
まるで空のダンボール箱でも持ち上げたかのような軽さ。
しかし、確かに彼氏の足は私の膝あたりにある。

「・・・嘘・・・・・」
自分で自分の腕力が信じられなかった。
正直なところ、まだ力を篭めていない。

「それに・・・お前ってさ、俺より背が低くなかったっけ?」
「そうだよ? ・・・でも、あれ・・・?」

今まで、抱き合った時とは明らかに違和感があった。
よく見ると、全身を映せていた姿身の鏡に自分の首から上が映っていないことに気付いた。
身長も頭一つ分、大きくなっていたのだ。


冷蔵庫。

30型ワイド『ブラウン管』テレビ。

本がギッシリ詰まった本棚。

洋服箪笥。


引越しの時、どれも大の男が2人掛かりで持ち上げた重量級の家具たち。
そのどれもが、軽々と持ち上がる。

私の脳の神経のどこかがおかしくなっていて、重さを感じなくなっただけなんじゃないかという気さえしてくる。



居ても経っても居られなくなり、慌ててサポートに電話を掛けた。

「一体どういうことなんですか!? このモニターってダイエットだったんじゃ・・・」
「お客様、私共が提供いたしますのは『女性の為の、男を見返す理想的な"美しい身体"』でございます」

「・・・・・え?」
「説明書をよくお読みになればおわかりかと思いますが、『ダイエット』とは一切申しておりません」

「・・・・・あっ!」
確かに、どこにも『ダイエット』の文字は無い。

「少子化が声高に叫ばれる昨今、女性の地位はいつまでも男性の下ではいけません。
 元々、遺伝子的にも女性の方が男性よりも優れているのです。
 我が社の製品は、それをただ引き出すお手伝いをしているに過ぎません。
 つまり、今の貴女さまの身体こそが、女性本来が持つ身体なのです」



「でも、いくら"美しい身体"って言っても、こんな服を破いちゃうぐらい筋肉モリモリじゃ・・・」
電話の受話器を持っていない方の腕を軽く曲げてみる。
力を篭めていないのに、山のような力瘤が盛り上がる。

「我が社の開発したサンプルの効果は、余分な脂肪を落とし適度に筋肉が付く程度です。
 ですから、貴女さまのケースは少々特殊かもしれません」
山盛りの力瘤。どうみても、適度ってレベルじゃない。

「これは相談なのですが・・・もし、お客様さえよろしければ我が社の方にお越し頂けませんか?
 勿論、迎えはこちらでお出しします。幸い、地理的にもそれほど離れていませんし」
試供品の送付元の住所は、ここからなら車で1時間ぐらいの距離だ。

「・・・え、でも・・・・・」
「それに、今のままでは日常生活にも支障を来たすのではありませんか?
 お召し物も、今の貴女さまのお身体では合うサイズは中々無いと思われますが・・・」
確かに、かなり大きめのサイズのはずのパジャマなのに、今では丈が全く合っていない。
丈どころか、上腕や太腿の部分が筋肉の隆起に耐え切れずあちこち破けている。

「お迎えに上がった際に、お召し物もこちらでご用意させて頂きます」
さすがに、これには承諾せざるを得なかった。現に今の状態では外出すら儘ならないのだ。


「何だ、結局向こうに行くことになったのか?」
「仕方ないじゃない。このままじゃ外にも出られないし・・・」
改めて、鏡で自分の身体を見てみる。・・・ホントに、ため息が出るぐらい凄い身体。

大きく広がった背筋。堀の深い腹筋。それでいて括れた腰。そこから伸びる逞しい太腿。
まるで、砂時計を思わせるようなバランスで成り立った逆三角形。

さっきと同じように力を入れずに軽く腕を曲げてみる。盛り上がった力瘤をもう片方の手で触ってみた。

グニグニ。

かなり強い弾力の、上質のゴムを触ったかのような感触。そこから、更に力を篭めると・・・

ボコッ! ビリビリビリビリッ!!

初めて力を篭められた上腕二頭筋は、一周りどころか二周りは大きくなり
爆発的に巨大な塊の力瘤となって、パジャマの袖を完全に引き裂いてしまった。

「・・・うそ」
「すげぇ・・・それに岩みたいに硬いぞ、この力瘤」
彼氏が私の力瘤を両手で包み込もうとしていた。
しかし、大の男の両手を持ってしても、上腕を全て覆うには足りなかった。
それを見て、私はふと思い付いた。

「そのまま、私の力瘤にぶら下がってみて」
「ええ!? マジかよ」
テレビCMとかで、お父さんが腕に子供をぶら下げたりする『アレ』だ。
今なら、それが出来そうな気がした。

「・・・ホントに、やるぞ? 良いな? 行くぞ」
「大丈夫。さぁ、ぶら下がってみて」

・・・・・。

「・・・ん、どうしたの? 大丈夫だから早く・・・」
「・・・もう、ぶら下がってるんだけど・・・」
「え? うそ・・・気付かなかった・・・・・」
確かに、既に彼氏の足は地面を離れて宙に浮いている。
さすがにこれには、私も寒気がした。

さっき、彼氏を抱き上げた時は両腕だった。だけど、今は片腕。
確認するまでも無く、私の彼氏は100kg超の巨漢。

「・・・・・」
「・・・・・」

お互い、言葉にならない。
盛り上がる凶悪なまでの力瘤。その、見た目通りの筋力とはいえ・・・

「・・・はは、こういうのを『怪力』っていうんだろうな・・・・・」
その『怪力』の持ち主の、当の本人でさえ自分のパワーに引き気味なのだ。
私の彼氏の顔からは血の気が引いていた。


『ある日突然、彼女が筋肉モリモリになって常人離れした怪力の持ち主になった』


なんて状況になった彼氏としては、至極当然の反応かもしれない。

「・・・こ、今度また連絡するわ」
「・・・・・えっ?」
そう言うや否や、私の彼氏は一目散に部屋を出て行ってしまった。


あまりの展開の早さに私は呆気に取られた。
人間、事態に付いて行けないと何の感情も湧かないってことを今、身をもって知った。

しかし徐々に、沸々と怒りが込み上げて来る。

試供品でこんな身体になって、それが原因で彼氏に逃げられた、という怒りよりも、
ほんのちょっと筋肉付いて力が強くなったぐらいで逃げ出した彼氏が許せなかったのだ。

お互い、肥満体型のカップル。
日ごろ、『人は見た目じゃない』って言ってたのは嘘だったのか。

気付いたら、いつの間にか右手で握りこぶしを作っていた。
怒りのままに振り上げた右手のやり場に困り、私はそれをそのままベッドに振り下ろした。

ドゴォォォッッ!!!

凄まじい轟音と共に、ベッドが真っ二つに折れていた。
だが、まだ怒りは収まらない。
頑強なベッドを破壊したにも関わらず、手応えが無さ過ぎたのだ。
このまま彼氏の後を追い掛けて、一思いに縊り殺してやろうかしら。
今なら抱き締めるだけで、彼の身体をただの肉塊に変えることも簡単だろう。

そんな怖い考えが頭を過ぎった丁度その時、部屋のインターホンが鳴った。
彼氏が戻って来た・・・なら、そのまま入って来るだろう。迎えが来たのだ。


迎えに現れたのは、秘書風の女性だった。

「間に合わせですが、お召し物をこちらにご用意致しました」
そういって手渡されたのは特大のスウェットの上下とスポーツ用の下着だった。
スウェットは特注なのか、市販のものよりかなり大きい。
しかし、それでも胸回りや上腕、太腿回りはキツキツだった。

「今はそれで我慢下さい。社に戻り次第、採寸して新たに作らせますので」

道は空いていて、車に1時間ほど揺られたぐらいですぐに着いた。
都心から少し離れたところに、そのビルは建っていた。
かなり大きなビルだ。敷地も広い。
隣には、何かの研究施設らしきものもある。

そのまま応接室に通された。

「ようこそ、おいで下さいました」
スーツ姿のかなり綺麗な女性だ。

「先ずは2ヶ月間、どうもご苦労様でした。貴女さまが持っている疑問についてもお答えしましょう」

その女性の説明によれば、ここは併設されている国営の遺伝子工学研究所に付随する会社らしい。
つまり、民間企業の体裁は取っているがその実、トップは国だという。
研究所のデータを基に、健康食品を作っているらしい。
この女性は、その研究所の所長だと名乗った。
見た目は20代後半だが、かなりの才媛なのだろう。

国からの要請は、『少子化を憂慮し、女性の出生率及び生存率を上げ、身体的な地位向上』。
ヒトゲノム解析計画で、遺伝子の中に潜在因子というものがいくつか発見された。
その中の『強い母体を作る』という因子を目覚めさせる。
私が2ヶ月採っていたのは、そのための食品だったのだ。

「・・・でも、それでこんなに筋肉モリモリになるなんて・・・・・」
「私どもが開発した食品は、いわゆる筋肉増強剤とは違います。
 今説明しました潜在因子、私どもは『体幹強化因子』と呼んでいますが、
 筋肉増強剤のように『筋肉を増やす』のではなく、あくまで『身体を強くする』ものなのです」
私がこんなに筋肉隆々になったのは、あくまで個人差ということらしい。
身長が伸びたのも、『体幹』から強くなった結果でこれ以上は伸びないみたい。
そういった、個人差の調査もモニターの一環なのだそうだ。


「しかし、貴女のように顕著に因子が発現した例は初めてです。
 もし宜しければ、継続してモニターを続けて頂きたいのですが・・・」
「・・・え? もっと、筋肉付いちゃうってことですか?」
「その可能性はゼロではありませんが、出来る限りのサポートはさせて頂きます」
国からの報奨金も出る、と女所長は言った。

「謳い文句の"美しい身体"は、決して嘘ではありません。
 生物的に女性が男性より優れていることの証明、その為の美なのです」
私は、次世代の女性の希望の光だ、とまで言われてしまった。
それはさすがに大袈裟な気はしたが確かに、逃げ出した彼氏を見返したいという思いはある。


「・・・わかりました。続けます。いえ、続けさせて下さい」
「ありがとうございます! では、早速ですが・・・」

結局、私は数週間の合宿という形でこの研究所の宿泊施設に泊り込むことになった。
健康診断、体力測定等の諸々の検査がある上に、身体測定が服の採寸も兼ねる為、
結果、特注の服が仕立て上がるまでは外を出歩けない。


しかし、それからは驚きの連続だった。



先ずは身体測定。

元は、身長171cm、体重105kg、トップバスト120cm(アンダー90cmのIカップ)、ウェスト90cm、ヒップ100cmだった。
いわゆる、典型的なドラム缶体型の肥満だったのが、

今は、身長183cm、体重147kg、トップバスト178cm(アンダー143cmのKカップ)、ウェスト72cm、ヒップ107cm、
上腕囲61cm、 太腿囲88cm、体脂肪率12%という超逆三角形になっていたのだ。

「凄いわね・・・。今まで数多くのアスリートを見て来たけど、ここまで凄い肉体は初めて・・・。
 女性で、これだけの筋量を搭載した身体を見たのは初めてよ。しかも、それでいてボディビルダーの体型とも違う」
測定してくれたスポーツドクターの女先生が気になることを言った。

「どこか違うんですか?」
「先ず、これだけの筋量にも関わらずウェストが細い。アンダーバスト、つまり胸囲がウェストの約二倍なのは
 ダブルサイズって言われてて、ボディビルではある種の指標となる理想的な体型なの。
 でも、それを本当に体現出来ているのはトップビルダーの中でもほんの一握りなのよ。
 そもそも、これだけ筋肉を付けたらバストの脂肪なんて落ちちゃうはずなんだけど・・・。
 ボディビルだと、ここまで胸や腰に女性らしさを残すのは無理なのよ」
我ながら自己主張の激しいバストは、カップサイズが2つも上がってしまっていた。

「体脂肪率は、そのバストを考慮すればまずまず理想的な数値ね。でも、一番凄いのはその筋肉そのもの。
 あなたの筋肉は、その元になる筋繊維の数が常人の倍以上に増えてるみたい」
「どういうことですか?」

「順を追って説明するわね。筋肥大、つまり筋肉が大きくなるメカニズムは
 トレーニングによる過負荷によって筋肉を構成する筋繊維が一度破壊され、それが再生することによって大きくなるの。
 でも、筋繊維そのものの数が増えることは無い。
 これは、健康診断を兼ねた精密検査からわかったことなんだけど、あなたの場合
 身体の基礎、『体幹』が強化されたことに伴って身長が伸びたのと同じくして、筋繊維が増加しているわ。
 更に、骨密度も上がって腱も凄く強くなってる」
先生が言うには、身長と筋繊維の増加は本来想定してなかった効果だという。

「『体幹強化因子』は筋肉増強剤とは違って、主に心肺機能や代謝機能が強化されるはずだったんだけど・・・
 無駄な脂肪が燃焼し、筋肉に置き換わるのはあくまで副次的効果。
 ただ、あなたの場合は心肺機能や代謝機能も常人を遥かに凌駕するレベルにまで達しているから
 その効果も凄くなっちゃったのかもしれないわね」

「同じ筋肉の太さでも筋密度は半端じゃないから、見た目の筋量以上に筋力も凄いはずよ」
「先生、それなんですけど・・・。物を持っても重さを感じなくなってしまって・・・」

「ふふ、それは簡単よ。単純に力が強くなったから抵抗を感じにくくなってるだけよ。
 綿菓子を持っても、重さなんて感じないでしょ?」
「でも、最初は重かったダンベルもいつの間にか、片手で持っても何も抵抗を感じなくて」

「うそ。あのダンベル、特注品で送られて来るウェイト全部付けたら100kgになるのよ?
 しかも、あれって両手用なのに・・・・・ふふふ、益々この後の体力測定が楽しみになってきたわね」


そして、体力測定。

「最初は握力ね。ゆっくりで良いから力を篭めてみて。
 MAXは150kgだから多分、目一杯力入れても大丈夫だと思うけど・・・」
一般的な市販されてるアナログタイプの握力計。
グリップを右手で掴み、徐々に力を入れていく。

グググ・・・

一気に針が進む。あっという間に針は100の表示を通過した。

「どう? 『抵抗』は感じる?」
「・・・はい、でも・・・・・」
そう答えているうちに、針は限界の150の表示のところで止まった。

「・・・う〜ん。見た感じ、まだ余裕そうね・・・」
「はい」
正直、自分の感覚ではまだ七分程度にしか力を入れていない。
でもこれ以上、力入れちゃったら握力計を壊しちゃいそうだし・・・

「もしや、とは思ったけどこれを用意していて正解ね」
そういって先生が持って来たのは、ハンドグリップのようなものだった。
グリップの片側にかなり太いバネが2本付いているが、数値を計測するような装置は付いていない。

「これは、グリップを握ってどこまで閉じることが出来るかで握力を測るものなの。
 まあ、本当は握力鍛錬用の器具なんだけどね。これを思いっ切り握ってみて。壊しちゃっても良いから」
「・・・でも」
私は、初めて具体的な数値を目にしたこともあってちょっと怖くなっていた。
握力計の針は、確かに150kgを指していた。余力を残して。
高校時代、全力を出してもせいぜい30kg程度だったのに・・・。
感覚的には、自転車からいきなりF1カーに乗り換えた気分。

「この体力測定は、あなたが自分のパワーを知る上でも大事なことなの。
 合宿でここに泊り込んでもらったのは、何も服のことだけじゃない。
 今のその身体の感覚に慣れてもらう為でもあるのよ」
「・・・わかりました」
確かに、このまま外に出て、あり余るパワーで『何か』をやってしまう前に
出来るだけここで自分のパワーを把握しておきたい。
そう思って、渾身の力を篭めてハンドグリップを握る。

ググッ・・・グググッッ!! ・・・・・メキャッ!!!

私はこの身体になってから初めて、全力で物を握った。
そして、その結果は・・・・・。


案の定、グリップの部分の鉄を完全に握り潰してしまった。
グリップはひしゃげ、私の手の跡が付いている。

「〜〜凄いっ!!!」
「・・・えっ?」
先生が、驚嘆の叫びをあげている。

「言ってなかったけどこのハンドグリップ、閉じることが出来るのは世界でも片手で数えるぐらいしか居ないの。
 勿論、これを握り潰したのはあなたが初めてよ」
そういって、先生は私にウィンクをした。
実はこのグリップ、力自慢の世界では有名で先生が用意したのはその中でも最強のもので
これを閉じることの出来る推定握力は、166kgらしい。


「次は背筋力ね」
握力計と同じく、アナログタイプの背筋力計。MAXは300kg。

「物足りないかもしれないけど・・・まあ、これも全力を出しちゃって良いから」
そういって、先生はまたウィンクをした。

私は覚悟を決め、ハンドルを握り一気に引いた。数値を示す針が物凄い速さで回る。

ブチィッッ!!!

針がMAXの300を指したのと同時に、ハンドルを繋いでいた鎖が弾けとんだ。
ハンドルを引いてから、鎖が千切れるまで2秒も掛からなかった。

「・・・ん、まあ結果は予想通りだけど、どう?」
「まだまだ余裕ある感じです」
さすがに先生もちょっと苦笑いしている。
鉄製の鎖を引き千切ったのに、ほとんどその『抵抗』を感じなかったのだ。

「ここに、肩腕力計もあるんだけど・・・・・。これはさすがにやるだけ無駄かしらね」
円形の目盛り盤の両側にグリップが付いていて、それを両手で外側に引っ張ることで『引き』の腕力を計測する装置だ。
目盛りの最大は100kg。
数秒後に真っ二つになった様子が、容易に思い浮かんだ。

「計測器具は、次までに特注しておくわ。腕力は、トレーニングルームで測りましょう」


そこはかなり広い部屋だった。
いろいろなトレーニングマシンが置いてある。

「ここは、所員やあなたみたいなモニターの為に作ったトレーニングルームなの。
 でも、モニター試験はまだ始まったばかりだから人は全然居ないけどね」
「それで、私たちしか居ないんですね」
「そうよ。でも、これから増えるわ。あなたの頑張り次第でね」
そういって先生はふふ、と微笑した。

「私がサポートするから、適当な重量のバーベルから挙げてもらおうかしら・・・」
先生は、慣れた手付きでバーベルをセットし始める。
ベンチプレスの台に、20kgのプレートが片側に5枚ずつ計10枚の200kgのバーベルが用意された。

「あの100kgのダンベルが片手で余裕だから大丈夫だとは思うけど、先ずはこれを両手で持ち上げてみて」
私は言われるままに、バーベルのシャフトを下から両手で支えるように持つ。
いわゆる、バーベルカールの形だ。そのまま、両腕を手前に曲げていく。

ミチミチミチッ

袖が、盛り上がる力瘤で悲鳴をあげている。
『重さ』は感じたが、大して力を篭めるまでもなく楽に持ち上がった。

「どう、片腕でもいけそう?」
「はい、このぐらいなら・・・」
一度戻したバーベルを再度、片手で持ち直す。
力を篭め、腕を曲げると簡単に持ち上がった。
それを何度か繰り返してみる。まだまだ、いけそうだ。
と思った矢先。

ビリビリッ!

気が付いたら、私の力瘤はまたしても袖を引き裂いていた。

「・・・す、すみません!」
「ふふっ、良いのよ。替えはまだあるから気にしないで。
 でも、あなたのそのパンプアップした上腕を通せるような袖のウェアは無いかも・・・」
今ある備え付けの一番大きなサイズのウェアですら、私の上腕二頭筋の隆起には耐えられなかった。


結局、腕力測定はバーベルカールで片腕350kg、両腕は500kgを持ち挙げて終了となった。


「八分の力でバーベルカール500kg・・・か。本当に凄いわね」
今あるバーベルの限界重量が500kgなので、それ以上やりようがないのだ。
片腕の350kgも、事故の可能性を考えて余力を残した上での記録だ。


そして最後に、簡単な運動能力検査を行った。

「50m走が5秒57、垂直跳びが110cmオーバー、片手懸垂が100回、両手懸垂が300回・・・」
垂直跳びは、板が100cmまでだったのでおおよその数値。
懸垂も疲れる気配が無かったので、余力を残して切り上げた。

「瞬発力だけじゃなく、筋持久力まで凄いなんて・・・」
先生はしきりに関心している。

「そんなに凄いんですか?」
「あなたの記録、そのどれもが世界記録レベルよ。凄いのは、あなたのその身体でこの記録を出したということ」
「・・・・・?」
「スポーツドクターの観点からいえば、あなたは筋肉の過積載状態なの。
 少なくとも現在のスポーツ科学では、あなた身体は運動向きではないはずなのよ」
力を生むには筋力は必要だが、速さを生むには筋量は邪魔なのだ。
体重は、軽ければ軽いほど速く動くことが可能になる。
更に、ウェイトトレーニングで鍛えられる筋肉は速筋と呼ばれる
無酸素運動向きの筋肉で持久力に欠けると言われている。

「あなたの筋肉は、瞬発力と持久力を兼ね備えた夢のような筋肉ってわけ。そして、筋肉に柔軟性もある。
 単純なパワー系の競技はもちろん、トラック競技をやってもおそらくすぐに世界記録よ。
 ここでは測定出来ないけど、パンチ力やキック力も半端じゃないはずだから、格闘技でも良い線行くと思うわ」
未だに、この身体がそんなに凄いなんて実感が湧いてこない。

「でも、あなたが望まないならここでモニターを辞めることも可能よ。
 食事制限で筋肉を落とせば、一般女性のサイズに戻せると思うわ。
 ただし、仮に元の体型に戻ったとしても筋力はそれほど落とせないとは思うけど・・・」
先生は、私のこの身体は元々眠っていたものが目覚めただけだと言った。
つまり、一度目覚めてしまった以上はそれに付き合っていくしかない。
今後どうするにしろ、全力でサポートするとまで言ってくれた。

「・・・私、モニター続けたいです」
先生も、ここに来た時に会った所長さんと同じように、私のことをこれからの女性の希望の光だと言った。
しかし私自身、未だに実感が湧かない。
現実離れした3サイズ。成人男性のウェストより太い太腿。そして、成人女性のウェストより太い上腕。
でも、最初は筋肉オバケだと思ったけど、慣れてくると個々の部位のプロポーションが良いことに気付いた。
少なくとも爆乳を除いて、無駄な脂肪はほとんど落ちている。
肥満体だった頃に比べたら格段に良いプロポーションだと思う。

だからこそ、逃げ出した彼氏が許せない。見返したい。

「体脂肪率の話をした時に『まずまず』って言いましたけど、まだ絞れるってことですか?」
「理論値ではね。でも、それはボディビル的な見地からよ。
 だから、ここから更に体脂肪率を落とすのは至難の技になるわ。
 あの食品も、『体幹強化因子』が発現したあなたにとっては、
 もうただの高タンパク高カロリー低脂肪の健康食品でしかない。
 どうしても、高負荷トレーニングによる筋肉の上乗せが必要になるわよ?」
「彼氏を見返したいんです」
私は先生に、あの日あったことをそのまま話した。

「やっと、自分の身体の良さがわかって来たんです。だから、それを彼氏にもわかって欲しくて・・・」
「・・・なるほど、事情はわかったわ。じゃあ、こうしましょう」
先生は何かを思い付いたようだ。

「合宿期間を1ヶ月延ばしましょう。1ヶ月間、私がトレーニングを基礎からみっちりコーチしてあげる。
 そうやって鍛えて、1ヵ月後にここに彼氏を呼ぶの」
「・・・ええっ、ここに呼ぶんですか?」
「そうよ。ここであなたの彼氏に生まれ変わったあなたのボディの素晴らしさを見せ付けてあげるのよ。
 ここならいろいろな機材もあるから、デモンストレーションも出来る。彼氏さんもわかってくれるはずよ」

それからの私は先生の指導の下、一心不乱にトレーニングに取り組んだ。
徐々に、超重量に耐えられる特注のトレーニングマシンも揃い
限界まで負荷を掛けることが可能になって、私はギリギリまで身体を追い込んだ。



そして、1ヵ月後。


「ここ、ですか?」
「はい、こちらの部屋でお待ちです」
ガチャ、と扉が開く。受付の女性が私の彼氏を連れて来たのだ。

「・・・久し振り、だな」
「うん」
部屋には、特大サイズのスウェットを着た私だけ。1ヶ月ぶりの再会というのもあって微妙な空気が流れる。

「・・・また、ちょっと大きくなったか?」
「身長は変わんないけど、他の部分は少し・・・ね」
私の場合、胸回りと上腕に合わせてスウェットを特注したため、
他の部分の生地が余ってしまい、どうしても着太りして見える。

「今日は、私の身体をちゃんと見て欲しくて来てもらったの」
そういって、私はスウェットの上下をおもむろに脱いだ。

「・・・・・っ!?」
彼氏は目を見張った。

「この胸、Kカップなのよ」
動くたびにタプンと揺れる爆乳バスト。身に着けているのは特注のビキニだけ。
彼氏が生唾を飲むのが手に取るようにわかる。
しかし実際、体脂肪率は8%まで落ちていた。
私の身体の爆乳以外の部分は、この1ヶ月で更に極限まで研ぎ澄まされていたのだ。

67cmにまで太くなった上腕。その両腕を肩の高さで折り曲げ、力を篭めて行く。

モリモリモリッ

あっという間に盛り上がる力瘤が上腕を埋め尽くす。
腕は倍近くにまで太くなり、筋肉同士が窮屈そうに擦れ合っている。

そして、今度は腰に手を置き腹筋を強調するポーズを取る。
高密度の筋肉が凝縮され、極限まで絞り込まれたキュッと括れたウェスト。
更に厚みを増した腹筋のお陰で可細さは感じない。

一般男性のウェストより太い太腿も、一段と大きさを増した。
大きく発達した広背筋からウェスト、ヒップ、太腿のメリハリの効いたボディラインは
常軌を逸した圧倒的な筋量にも関わらず、何ともいえない艶めかしさを醸し出している。

「ねぇ、太ってた頃と今の私、どっちが綺麗・・・?」
「・・・それは・・・・・」
女は見た目じゃない、と付き合った頃の彼氏は言ってたけど
やっぱり、女としては磨いた身体で勝負したい。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・もう!」
「・・・え? ・・・・・うわっ」
無言の空気に耐え切れず、業を煮やした私は無理矢理彼氏を抱き寄せた。
私は手加減したつもりだったけど、彼の身体は片手を引っ張っただけで簡単に宙に浮いた。
彼氏が身体ごと私の爆乳にダイブした形になり、彼の頭部は私の爆乳に埋もれた。

「どう? 私のおっぱい、凄く柔らかいでしょ?
 さすがにここで『する』わけにはいかないけど、感触を確かめるぐらいなら良いよ」
「・・・凄ぇ、ホントに柔らかい・・・。しかも、前より弾力があって張りが強くなった気がする」
発達した大胸筋が土台となって、Kカップという特大サイズにも関わらず全く垂れていない。

「1ヶ月・・・いえ、3ヶ月間頑張ったんだから・・・」
堪らなくなって、彼をギュッと抱き締める。

ミシミシ・・・

「〜〜〜〜〜っ! 痛てててて!!」
気が付いたら、腕の中で彼がもがいている。慌てて解放した。
つい、力が入っちゃってたみたい。危うく彼氏を抱き潰すところだった。

「ふぅ・・・死ぬかと思った・・・・・」
「・・・ごめん」
「もしかして、前より力も強くなった・・・か?」
「うん・・・まあ、少しは・・・ね。それをこれから見せてあげる・・・ふふっ」

私は奥から、大き目のバスケットを持って来た。
中には、リンゴ・カボチャと統一性のない種類の果物や野菜がいくつか入っている。

「こんなリンゴとかカボチャなんてどうするんだ?」
彼がリンゴを手にとって見ている。何の変哲もない普通のリンゴだ。

「先ずは、軽く小手調べね」
両手で1つずつリンゴを手に取り、彼にニコリと微笑みかけた。
「まさか、そのリン・・・」

グシャッ!!

彼が話し終わる前に、2個のリンゴは私の手の中でジュースになっていた。
更にもう1つリンゴを手に取り、右腕を肩の高さに曲げ、前腕と力瘤の間に挟み込む。

グググ・・・・・グシャッ。

力瘤の圧力に耐え切れず、1秒も持たずにリンゴは潰れた。

「・・・凄ぇ・・・・・」
「まあ、リンゴは80kgの負荷で潰れるっていうし、ちょっと鍛えた人なら誰でも出来るのよ。
 だから、これはホンのウォーミングアップ。次は・・・」
そういって私は、次にカボチャを取り出した。人の頭ぐらいの大きさの西洋カボチャ。
それを万力のように両手で挟み込む。

グググッ・・・ミシ・・・ミシミシッ! グシャッッ!!

リンゴ同様、カボチャもあっという間に砕け散った。

「・・・確か、カボチャって人の頭と同じぐらいの硬さってどこかで聞いたことが・・・」
「・・・えーっと、そうだったかな・・・・・あはは・・・」
実は知ってたけど、私は何とか誤魔化した。
例え彼に引かれても、私はこの怪力パフォーマンスは続けるつもりだった。
今後も彼と付き合って行くなら、今の私のパワーを受け入れてもらうしかない。

次に私は鎖を引き千切り、ワイヤーロープを引き裂いて見せた。

「そして、次はこれ」
私は部屋の隅に歩いていくと、大きなブロックのようなものの前で立ち止まる。
それは、70cm四方の立方体の大きなコンクリートブロックだった。

「それ、てっきり台座か何かだと思ってた・・・」
「これは、今日のために特注して作ってもらったの」
しゃがみ込み、抱えこむようにして一気にそれを持ち上げる。

「・・・ふんっ!」
巨大なコンクリートの塊は、あっという間に宙に浮き上がる。
そのままコンクリをもったまま、私は彼の前まで戻った。
そして、ワザと彼の前にドスンと置いた。

ズシィィィン・・・

比喩ではなく、部屋全体が大きく振動した。
私は敢えて言わなかったけど、実はコンクリートってかなり重い。
この70cm四方のものでさえ、下手な軽自動車の倍の重量はある。

「この上に乗ってみてくれない?」
「えっ、俺が乗るの? ・・・大丈夫か?」
さすがに楽勝ってわけにはいかないけど、たぶん大丈夫。彼にもっと私の力を知って欲しい。

彼がコンクリの上に乗った。純粋に100kg超の上乗せ。恐らく、半端じゃない重さになってるはず。
さっきと同じようにコンクリに両腕を回し、抱え込む。

「・・・ふんっっ!!」
両腕に、ありったけの力を篭める。モコッと力瘤が盛り上がり、コンクリを挟みこむ力が一層強くなる。
そして、腹筋、背筋、太腿と一気に全身のありとあらゆる筋肉に力を漲らせる。

「お、お、お・・・凄ぇ・・・しかも、高い!」
程なくして、彼を乗せたコンクリの立方体は1m近く持ち上がった。彼の目線は2m近いことになる。

ミシッ・・・ミシッ・・・

「驚くのはまだ・・・よ。・・・本番は・・・これから・・・・・」
私はコンクリの塊を持ち上げたまま、更に腕に力を篭める。

ミシッ・・・ミシッ・・・

「・・・え?」

ミシッ・・・ミシッ・・・

上方向へ意識していた力を、今度は『内側』へと意識を向ける。

ミシッ・・・ミシミシッ・・・

「・・・ま、まさか・・・・・」

ミシミシッ・・・ミシミシミシッ!

内側に向いた力瘤とコンクリの設置面から徐々に『悲鳴』が聞こえて来る。

ミシミシッ・・・パキ・・・ミシッ・・・・・バキッ!!

何かのひび割れる音。それが次第に大きくなっていく。

「・・・う、うそ・・・・・」
彼がそう呟いたのと同時。

バキバキバキッッッ!!! ・・・ボガァァッッッ!!!!!

彼氏を乗せる台座となっていたコンクリートの塊。
その巨大な立方体が一気に粉砕されたのだ。

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

ガシッ!

「・・・・・・・・・あれ?」
彼は体重を預けていた土台を失い、床に自由落下したはずだった。しかし、あるはずの衝撃がない。

「驚かせてごめんなさい。・・・大丈夫だった?」
私が落ちるより速く、彼を抱き止めていたのだ。
お姫様抱っこの形で、私は彼を優しく抱き上げた。

「・・・はは、凄いな。・・・・・まいったよ」
そういって彼は笑い、私の爆乳に身体を預けてきた。

「・・・俺も、鍛えたらそんなふうに格好良くなれるかな?」
「きっかけは突然だったけど・・・私、この経験を活かして将来はジムのトレーナーになろうと思うの。
 この健康食品が製品化されれば、私みたいな女性もまた出て来ると思うから
 そういうときに力になれる人が居たら良いと思うし。勿論、あなたのこともみっちり鍛えてあげる」


まだまだ、私の彼氏みたいに理解は必要だけど、
これからの時代、女が男より強くなるのはそう遠くないことだ
と、100kgの彼を悠然と抱き抱えながら、私は思った。


 おわり





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