筋肉王女

そこは、中世のとある王国。

その王国のお城には、隣国まで轟くほどに美しい王女さまが居ました。名前はヘラクレアといいます。
生まれたばかりの頃は病弱で3歳まで生きられないと言われたのですが、
それを慮った王様が神話の力の神に肖ってそう名付けました。
すると、どうでしょう。病弱だったのが嘘のようにすくすくと育ち、王様も神に肖った名前のお陰だと喜びました。

しかし、物心が付こうかという頃、王女は突然こう言い出しました。

「この神様に貰った名前に相応しい自分になりたい」

そういうと家臣に、大きな石や岩を自分の部屋に運ばせて、それを使ってトレーニングを始めたのです。
最初は、王様もかつての病弱さからか、身体を鍛えることによって健康になるなら、と咎めなかったのですが・・・。


そして数年が経ち、王女は見目麗しく成長しました。
誰もが羨む美貌、スイカほどの大きさもある乳房、括れた艶かしい腰・・・
それだけを見れば、これ以上ないと言わんばかりの完璧な絶世の美女。
ですが、鍛えに鍛えぬいた日々が与えた変化はそれだけではありませんでした。

括れた腰に似つかわしくない綺麗に6個に分割された彫刻のような腹筋。
大きな乳房よりも更に巨大な力瘤。
丸太を思わせる極太の太腿。

その国だけでなく近隣諸国全てを含めても、その王女には、美しさでは勝てる女はなく、力強さでも勝てる男は居ませんでした。

そしていつしか、王女はその力を誇示したいと思うようになって行ったのです。


それはまだ、王女の「力」が噂でしか広まっていない頃のことです。

その王国では年に一度、国一番の力自慢を決める大会がありました。
当然、その王女がそれに目を付けないわけがありません。家臣に命じ、その年の優勝者を城に招いたのです。

城に招かれて来たのは、髭面の大男でした。

「あなたが今年のこの国一番の優勝者ですか?」
「ああ、そうだぜ。アンタが巷で有名な力自慢の王女様かい。」

王女を見るや否や、その男はフンと鼻で笑いました。

「俺から言わせりゃ、”力自慢”って称号は男同士、本気でカチ合って初めて得られるもんだ。」
「では、あなたに勝てばその”称号”とやらを得られるわけですね?」

平然とそう言い放つ年端も行かない王女に、男の表情が変わります。

「その言葉、後悔させてやるぜ。」


男はとある広間に招かれました。中心には、大理石で出来た円形の台のようなものがあります。その傍には椅子が2つ。

「勝負は、力自慢大会と同じ腕相撲で良いでしょう。もし、この私に勝てたなら何でも望みの物を。」
「へへ、じゃあ俺が負けたら家来でも奴隷でも何にでもなってやるぜ。」
男は、さも勝利を確信したようにそう言いました。しかし・・・

「いえ、その必要はありません。・・・さぁ、始めましょう」
「まあ、俺が勝つのは間違いないだろうからな。・・・じゃあ、行くぜ!」
男はそういうと、腕に力を籠めます。しかし、岩の壁か何かを相手にしているのか王女の腕は全く動く気配がありません。

「どうしました? もう、力を入れても良いんですよ?」
皮肉でも何でもなく、王女はそう言いました。本当に男の渾身の力を意に介していないのです。
それほどに王女と男の間には腕力に差がありました。

男は一瞬にして力の差を理解しました。あまりの恐怖に身体中に冷や汗が溢れ出ます。
王女の方も、男が既に渾身の力を籠めていることにやっと気が付きました。

「やはり、その程度ですか・・・。」
王女は心底、落胆しました。

「あなたが負けたときの条件を言わなかったのは、その必要がなかったからです。
どのみち、私に負けて五体満足では済みませんから・・・」
王女が腕に力を籠めたのが男にもわかりました。王女のただでさえ大きな力瘤が、更に盛り上がったからです。

ドコォォォン!!! グシャッ!! ボキボキボキ・・・

轟音が鳴ったかと思うと、男は地面に大の字に伸びていました。
男の右手は、大理石にヒビを入れるほどの凄まじい威力で叩き付けられグシャグシャに潰れていました。
しかも、それだけで勢いは収まらず、男は一回転して地面に叩き付けられたのです。
当然、右手が固定されたままだったので、男は右肩が外れ、その腕は引き千切られる寸前まで捩れていました。
肩が外れたお陰で腕が千切れずに済んだものの、骨が無事あるはずがなく、もうその右腕は使い物にならないでしょう。


王女の逸話はそれだけではありません。

戦争状態の敵国の兵士を捕虜で捕らえた時のこと。
何と、王女自ら捕虜の尋問を買って出たのです。拷問が当たり前の時代。
しかし、王女は一切道具を使いませんでした。そう、その腕力があれば道具など必要なかったのです。

捕虜の手や足をその握力で磨り潰し、捩じり切る。そしてただ、ただ、抱き締める。
それは、鋼鉄の処女(アイアンメイデン)を思わせる死の抱擁でした。
王女がその気になれば、無事に済む人間は居ません。最期まで黙秘を貫いた勇敢な敵兵は、見るも無残な肉塊に変わりました。



その後、王女は自らに懸賞金を掛け挑戦者を募りましたが、
無知な旅のならず者でもない限り、その王女に挑戦するような命知らずが現れることはありませんでした・・・。


おわり





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