プリズン筋肉 シーズン2

 「あの、服・・・僕のでよかったら。」
 濡れた体をタオルで拭き終えると彼は何事もなかったように一組の囚人服を差し出した。
 彼の名前は山下大輔というらしい。
 罪状は教えてくれなかったが、ここに来て1年が経つようだ。
 歳が近いこともあったし、私達はすぐに打ち解けることが出来た。
 「うん。ありがとう」
 しかし、私の豊満なボディを覆うのに、この服はいささか小さすぎる。
 下はどうにか履くことが出来たがピチピチのローライズになってしまった。
 だが問題は上だ。私のほうが身長が高い上に平常時でさえ120センチの爆乳。
 腕周りも落ち着いてきたが、それでも向かいに座る少年の胴回りぐらいはある。
 無理やり着れば、無残に破れてしまうのは明らかだ。
 私の様子に彼も気がついたようで、今度はベットの上段から
 ブランケットを一枚取ってくれた。
 「ありがとう、山下・・・くん」
 「ダイスケでいいよ。気にしないで。だけど、すごいね守山・・・さん」
 「キミコでいいわ」
 彼は私の奇行には一切触れなかった。
 しかも、あれだけの筋肉を見せ付けた後にもかかわらず、臆することなく話しかけてくる。
 どちらも、私には都合の良いことだった。
 「ゴンザよりもすごいかも」
 「ゴンザって?」
 「地下特別房にいるゴンザレスっていう大男さ。実際に見たのは一回だけだけど
 元はアメリカの格闘家で数々のタイトルを総なめした後、ボディービルに転進。
 ここまでは良かったんだけど、内に秘めた破壊衝動を抑えることができずに
 力任せに荒唐無稽な破壊活動を立て続けに起こして捕まったんだ。」
 「荒唐無稽?」
 「うん。高層ビル群から重要文化財、果ては山間部の原生林まで破壊の限りを
 尽くしたんだ。己の肉体だけでね。だけど、殺人はしていない」
 殺人という言葉に私の鼓動が一瞬だけ早くなる。
 「だけど、僕がここに入る少し前にここの囚人が一度、全員脱獄したんだ。
 ゴンザ一人の手によってね。」
 「どうやって?」
 「彼はその鍛え上げた腕力だけで、この牢獄の扉を全部引き千切ったのさ」
 ダイスケは廊下との間を隔てている鉄格子の前に立つと、その棒のひとつを掴んで
 横になぎ払う仕草をして見せた。もちろん、ピクリとも動かない。
 「それって、こんな感じかしら?」
 私は、彼の背後に立つと利き腕ではない左腕を伸ばして、
 彼が動かそうとした反対側に引いてみた。
 すると鉄格子の棒はぐにゃりと曲がり、彼は左の端の壁に吹っ飛ばされた。
 少し悪戯するだけのつもりが、少しやり過ぎてしまったようだ。
 「あら、ごめんなさい」
 Mカップ爆乳を揺らしながら彼に駆け寄って、ブランケット越しに
 その辺のグラビアとは比較にならない爆乳を押し付けて彼に手を差し伸べた。
 大概の男は、これでぐうの音も出ない事を私は知っている。
 「す、すげーや」
 ダイスケは予想通り言葉を失っていたが、次の瞬間、
 一斉点呼を告げるベルが獄内に鳴り響いた。

 ジリリリリリ・・・

 「あ、おい、その鉄格子やべーよ。遠藤に見つかったらタダじゃすまねーぞ」
 遠藤とは、私をここに連れてきたイケメン看守のことだろうか。
 「大丈夫、あんな優男に何もさせやしないわ。」
 「ば、バカ!そうじゃねぇよ。同房者の連帯責任で僕も連れてかれるんだよ!」
 「嘘っ、仕方ないわねぇ」
 私はそう言うと、再び片手で鉄格子を元に戻した。
 「やっぱり、すげー怪力だな。ゴンザの一件以来、格子の強度は以前の
 3倍になったって聞いたぜ?」
 鋼鉄の格子が真っ直ぐになるよう私は指先で微調整していく。
 鋼鉄だろうが3倍だろうが私にとっては飴細工でしかなかった。

 「囚人ナンバー1192山下大輔。同じく1333守山希美子。
 大人しくしてるみたいだな。これは今日の夕食だ。あと・・・
 これはゴンザが去年まで着ていた服だ。いくら貴様が筋肉自慢とはいえ、
 まさか、この牢獄を腕力だけで破壊はするまい。」
 遠藤は格子のすき間から巨大な服を投げ入れると、隣りの房へと歩いていった。
 「ちぇ、嫌な奴」
 ダイスケは放り込まれたパンをかじった。しかし、私には不満がこみ上げてくる。
 「これだけ?」
 「あぁ。一般房はな。例外として地下特別房にいる一部のわがままな囚人は
 希望が通ると聞いたことがある。当方も手に負えないんだろうさ。
 それから、模範囚棟の人間も月一回好きなものが食べられるって聞いたな。
 あと、ちなみにキミコは勘違いしてるみたいだから、言っておくけど、
 遠藤は看守じゃないぜ。模範囚棟の中でも一番のキレ者で一般房の管理も任されてるんだ。
 囚人の間でもカリスマ的な存在で看守達の信頼も厚い。
 でも、僕はなんか気に食わないんだよね〜、いくらイケメンだからって
 キミコも妙な気なんか起こすんじゃないぞ、何しろ彼の罪状は・・・」
 「誰が? 妙な気を起こすですって? 私は今、物っ凄く機嫌が悪いの。」
 うす汚い囚人服だけならともかく、食事という唯一の楽しみを奪われた私は
 やり場のない怒りがこみ上げてくる。自己紹介が遅れたけど
 元々、この怪力豊満ボディーは有り余る食欲によって過剰摂取となった
 カロリーを消費するために毎日行っていたトレーニングの結果なのだ。
 食べたら食べた分のカロリーを消費しなければならない。
 激太りした中学時代にそのことに気がついた私は、
 食欲を惜しみなく満たし、なおかつ健康体を維持するために
 仕方なくハードなトレーニングを続けてきたのだ。

 横にいる軟弱な「もや下くん」の体を玩んだ所で、私の破壊衝動は収まらないだろう。
 一歩間違えれば「あの時」やここに来た時のように殺してしまうかもしれない。
 そして今、この部屋にあるもので破壊できるものは1つしかなかった。

 私は、おもむろにゴンザが着ていたという囚人服を着た。
 伸縮性のある何層にも重なったボディースーツを着た私は、目いっぱいに力を解放していく。
 「おいおいおい、何するんだ」
 慌てるダイスケを横目に、大きく深呼吸をして、今度は大胸筋や広背筋にも力を込める。
 「ダイスケ、ちょっと下がってて、早く!」
 早くも海外トップクラスの男性ボディビルダーのような体付きに変容している私を見て
 ダイスケは腰を抜かしてしまっている。
 「おい、まさか・・・その服はあのゴンザも破けないようにって作った特注だぞ?」
 ダイスケの忠告を無視して、私はそっと彼を2段ベットの上段へと移動させてあげた。
 折角だから彼にこの姿を見て欲しかった。
 たとえ、彼が恐れのあまりこの後、口を聞いてくれなくても構わない。
 それからの私の肉体は、もう人間の限界を超えていた!
 筋肉の肥大のあまり、行き場を失った左右の大腿筋はギチギチと音を立てて
 外へ外へと大きく広がっていき、砲弾のようなビッグバストと
 それを支える大胸筋が盛り上がりすぎて顔の正面を覆い隠そうとしている。
 ダイスケをベッドの上段に移したのはそのためだ。
 恐れおののく彼の表情を見て、私はまた更に燃えあがるのだ。
 しかし、彼はなめ回すようにこちらを見つめて興奮を隠し切れないようだ、
 あろうことか股間は勃起しているようだ。こんな趣味があるなんて・・・
 嘘でしょ?私は、ダイスケの反応が信じられなかった。
 一方、90%近い力を解放し筋肉達磨のようになってしまったにもかかわらず、
 この囚人スーツの生地にはまだ余裕があった。
 ならば愛すべきダイスケ君のお望みを叶えてあげましょう!
 今度は上腕を、すでに巨大な岩石のようになっている上腕を更に盛り上げて、
 パンプアップさせる。彼の胴体ほどもある大きい力瘤が三等筋や僧帽筋などの周囲の
 筋肉を巻き込んで、文字どうりムキムキと音を立ててさらに2周りほど肥大していく。
 ダイスケの上腕ほどはありそうな血管が浮き出てきて、圧倒的な存在感を示した。
 腕を折り曲げて、上腕二等筋を更に強調ポーズをとっただけで、
 今度は、私の頭の上で左右双方の二等筋がぶつかる。我ながら恐ろしい肉体だ。
 ここに来てようやく囚人スーツが悲鳴を上げてきた。
 「あら?ゴンザさん。もう終わりなの?」
 そう言うと、私は満面の笑みを浮かべながらマスキュラーポーズで止めをさす。
 腹筋にはまだ力を込めていないから、私の65センチのくびれたウエストは健在だ。
 推定200センチにまで発達した大胸囲のコントラストが凄いことになっているはず。
 でも、発達しすぎてしまったバストのせいでこれをダイスケ君に見せてあげることはできない。
 そして、丸太のような太ももは前に後ろに張り出して膝が隠れてしまいそうだ。
 もちろん、この両足とウェストを繋ぐ大臀筋とヒップの豊満さも尋常ではない。
 この異常なまでに発達した胸と、圧倒的な存在感を示すヒップとの「すき間」に、
 あらゆる方向に巨大な力瘤が乱立して
 限界にまで盛り上がった上腕を無理やり押し込んでいく。

 ムチムチムチッ・・・

 すると、今度は唯一彼女が女性であることを思い出させるMカップが
 筋肉の隙間からあふれ出してきた。
 荘厳な筋肉美の中にあって、逆になまめかしさを強調する女性美。

 何を食べれば、どんな鍛え方をすればこんな肉体になれるのだろう。
 我ながら、完璧。
 すべての巨乳アイドルの自信を喪失させる程に成長したバスト。 
 超重量級レスラーですら相手にならない巨大な筋肉の塊をまとった守山希美子がそこにいた。

 恍惚とした表情で、更に筋肉を膨らませていく。
 行き場を失った筋肉自身がギュッギュッと聞いたこともないような音を立てて圧縮されて、
 今度はまた有り得ない方向に向かって膨張を始める。
 こんな物理的法則を無視した筋肉があるだろうか。
 「ふふふ。ここにあるのよ。
 この程度じゃ、ゴンザさんもまだまだね♪」
 私は一気に支給されたばかりの特注囚人スーツを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 バチバチッ バチン!!

 特別に強化された繊維で出来ている囚人服の破片が部屋中に散らかった。

 「嘘だろ・・・」
 これ程の肉体ショーを披露してもダイスケはまだ正気を保っていた。
 もちろん、驚いていはたみたいだけど・・・
 まだ収まりのきかない私は、今度は2段ベットを持ち上げる。
 すると今度はばらばらと数冊の雑誌が落ちてきた。
 ベットにしがみついたままのダイスケのばつの悪そうな表情から推して、
 それは彼の「コレクション」のようだ。
 「こういうのが好きだったのね〜。なになに、
 宮崎はるか・・・握力200キロ、背筋力1000キロかーなかなかやるね〜」
 そこには、私ほどではないが一般的に考えれば物凄い筋肉を惜しげもなく
 披露している女の子の絵が並べられて、それにまつわるショートストーリーが書いてある。
 「ふ〜ん。このくらいならいつだって生で見せてあげるわ」
 顔を真っ赤にしているダイスケを尻目に、私は手探りで2冊目を探したが
 これがいけなかった。床面のコンクリートを粉々に粉砕していたのだ。
 「嘘!!」
 この雑誌に載っている常軌を逸した女の子達ですら、コンクリートの塊を
 必至で破壊していたにもかかわらずだ。
 今の私にかかればコンクリートなんてプリンか豆腐のようなものだったのだ。
 バラバラと分厚い床の一部が抜け落ちて階下の部屋まで貫通してしまったらしい。
 「まずいって。ゴンザの部屋だったらどうするんだよ」
 「へ、平気よ。私の実力、見たでしょ?」
 いくら怪力自慢の私でも床が粉々に砕けるとは思わなかった。
 私は、彼の目の前で二段ベッドを持っていないほうの腕を盛り上げて見せた。
 大胸筋と大腿筋の抑制を逃れた左腕は、
 また更に一回り大きくなって、彼の目の前まで迫る。
 そして、深さ数センチはあるだろう幾筋ものカットが現れる。
 「これでどうかしら?」
 「・・・・」
 私の100%の上腕の迫力には、さすがの彼も引いてしまったらしい・・・
 とうとう筋肉少女フェチの彼を私は屈服させる事に成功した。
 腕力を使わないで、自分の身体を見せるだけで男を屈服させたときが何より気持ちいい。
 ようやく気を紛らわすことが出来た私は、上から崩れてしまった深い穴を覗く。

 しかし、そこにあったのは、破壊の限りを尽くしたという大男の姿ではなく。
 一人の可憐な女性の姿だった・・・
 「ねぇ、この人も囚人なの?」
 私はダイスケをゆすってみたけど、彼は完全に気を失ってしまったみたいだ。


つづく





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