プリズン筋肉 〜シーズン3

「次の点呼は朝6時で、それまでは誰も来ないんでしょ?」
「だけど、何かあったときの連帯責任は勘弁だからな。僕も一応ついていく」
階下にいるのがゴンザでなく可憐な女性だとわかると、ダイスケは態度を翻した。
ちょっと小突いただけで反対側の壁まで吹っ飛んでしまうような
「もや下くん」なんかに嫉妬している自分が許せなかったが、
不器用な私はそれを悟られないように振舞うだけで精一杯だった。
「上、何か着ないの?」
「うるさい!ダイスケのが着れればとっくにそうしてるのにね?文句ある?」
「・・・・」
あろうことか上半身は裸だ。下もボロボロだが辛うじて生地が残っていた。
「下の女にもらうわよ。いつまでもそんな目で見てると、跡形もなく葬るわよ?」
私は冗談で言ったつもりだったが、彼はの表情は一瞬にして凍りついた。
「う、嘘に決まってるじゃない・・・・」

遠くからではわかりにくかったが、近づくにつれて彼女も大柄であることがわかった。
私とは違って、華奢で女性らしい豊満さはなかったが、
それでも、女の私ですら見惚れてしまうほど妖艶な大人の色気がある。

先に私が下に降りて、後から降りてくるダイスケを受け止める。
図らずも、お姫様抱っこ。
地下特別房の獄内はロウソクの明かりだけで薄暗く、考え方次第ではいいムードだ。
この状況で求めてくる彼の変態ぶりに驚いたが、私もそれ以上に変態だ。
120センチの爆乳をまさぐる彼の頭を反対側の乳房で覆い、
胸の筋力だけで押さえつける・・・
「・・・うふぅ〜ん♪」
つい、私も感嘆の声を上げてしまった。

「誰なの?」
読書に興じていたらしいこの部屋の住人が振り向いた。
「名前を知りたければ先に名乗るのが筋じゃなくて?」
私は彼女の方に歩み寄った。
「名前? たくさんありすぎて忘れたわ。そうねぇ・・・浜野ケージなんてどう?」
奇しくも浜野慶次は・・・私の初恋の人で、紛れもなく私が手をかけた男の名だ。
私の表情が歪んだことを確認すると、彼女はクスクスと笑いはじめた。
「冗談よ。そんなヘンテコな名前なわけないでしょ?
 みんな私をケーコって呼ぶわ。浜野ケーコ。よろしくね」
浜野慶次について聞きたかったが、彼女は更に驚くべき事を続けた。
「だけど、近いうちに村田ケーコになるの。それよりあなたの相棒、
 さっきからタップしてるけど大丈夫なの?」
痩せ型とはいえ50キロはあるであろうダイスケを、
大胸筋だけで支えていたことを私はすっかり忘れていた。
彼は窒息しかけて真っ青な表情のままその場にへたり込んだ。
「もう、情けないんだから」
だけど、彼は嬉しそうだったので放っておくことにした。
それよりも、ケーコさんに聞きたいことが山程ある。
先述の浜野慶次もだが、村田という名前には聞き覚えがあった。
「まさか結婚・・・するんですか?」
「そうよ。話せば長いけどね。ある条件を飲んで恩赦をもらうことしたの。
その時お世話になったのが、当時ここの看守だった村田さん。
今は転属になって護送とか雑用やってるみたいなんだけど・・・あれ?
どうしたの?顔色悪いわよ?」
「いえ、全然。続けてください」
「村田さんが前任の所長の諏訪さんに掛け合ってくれたの。
諏訪さんは去年のゴンザの脱獄騒動の責任を取ってどっかに飛ばされたみたいなんだけど、
その時に、村田さんが私にプロポーズしてくれたのよ。彼、なんて言ったと思う?」
私はケーコさんが気の毒でならなかったが、のろけ話に興味はなかった。
「それより、恩赦の条件って何なんですか?」
話の腰を折られて、ケーコさんは不愉快そうな表情を浮かべたが、
すぐにパッと明るい笑顔に戻ると、こう言った。
「ゴンザを殺すこと。・・・彼、ゴンザを殺したら一緒に暮らそうって。キャー!!」
ケーコさんは年齢不詳な感じだが、顔を赤くして照れるような年齢でないことは確かだ。
「ケーコさん・・・いくつですか?」
「21。キャハ!!」
って、私と大差ないのか・・・

「お・・・思い出した。橘香28歳。罪状は・・・確か、銀行強盗」
私とケーコさんは驚いて振り向いた。
「お黙りなさい。橘香は偽名よ!・・・28歳は、本当だけど。」
「不思議だったんです。銀行強盗ぐらいの罪状で、しかも前科もない人間が
 どうして、この凶悪な危険人物の巣窟、それも地下特別房にいるのかって?」
「まだわからないの?それ以上喋ると、舌を引き抜くわよ・・・」

コン コン コン ・・・

遠くで誰かの足音が聞こえた。
「静かに!」
誰かがこちらに近づいてくるようだ。
「隠れてて! 天井の穴のことは何とか誤魔化すから」
ケーコさんは奥の本棚の方を指差した。天井まで届きそうな大きな本棚だ。
「私に、いい考えがあります」
怪力自慢は私の十八番だ。本棚の前に腰を落とすと、
私はそれを持ち上げて天井の穴が看守から死角になる場所へと移動させた。
「なかなかやるじゃない!」
「朝飯前です」
私とダイスケは本棚の陰に隠れた。
「騒がしかったが、何かあったのか?」
そこに現れたのは入所したときに講釈を垂れていたリーダー格の男だ。
ケーコさんとは対照的に黒く盛り上がった鋼の肉体がどこか威圧的だった。
「あれは、35の若さで所長にまで上り詰めた大崎だ。
ゴンザ騒動は影で彼が糸引いてたんじゃないかって噂もあるけど、
ここでその話はタブーだ。今は現場の実務の一切を仕切ってる」
ダイスケの為になる解説に感心していると、本棚の向こうではケーコさんが泣き崩れた。
きっと村田の死が告げられたのだろう。
私は心が痛かった。護送中の軽率な行動を深く後悔した。

大崎はしばらくケーコさんの様子を伺っていたが、
やがて大崎は去り。ケーコさんは鉄格子にしがみついたまま動かなかった。
「行きましょ」
事の真相を知っている私も黙ってここを去ることにした。
状況を把握できていないダイスケも抱きかかえる。
「どいういうことだ?」
「いいから戻りましょ。あと、これを・・・と」
近くに吊るしてあった、囚人服を図々しくも一枚拝借する。
そして私は飛び上がった。


  ★ ★ ★


舞台は変わって所長室。

「急に呼びたてた上に、待たせて悪かったな、遠藤」
「いいんです大崎所長。今の私があるのも所長のお陰ですから」
「そう言うな。今の地位はお前自身が勝ち取ったものだ。」
「お心遣い感謝します」
「早速本題だが、どうも事が複雑になってしまってな」
「あの、守山とかいう娘ですか?」
「察しがいいな。それだ。あの娘と、地下特別房にいる橘香を接触させたくない」
「だけど、明日は一斉朝礼があります」
「左様。そこでだ。例の娘を今晩中に黙らせることはできないか?」
「そのお言葉。待っておりました」
「久々の上玉だ。お前も疼いていただろう」
「滅相もありません。私はム所の円滑な運営を望んでいるだけです」
「できるか?失敗は許されんぞ」
「直ちに準備にかかります。」
「うむ。後は任せる。済んだら報告してくれ」
「かしこまりました。では、失礼致します」

遠藤は静かに所長室の扉を閉めた。


  ★ ★ ★


ゴン! ゴンゴン!

慣れないベットでようやく寝付いた頃、
地面から突き上げられるような振動で私は目を覚ました。

ズズズズズ・・・

起き上がるとベットが横にスライドしていく。
「きゃっ!な、何!?」
「ん〜よいしょっと」
ベットの下の穴から現れたのはケーコさんだった。
ケーコさんは私と本体、それにダイスケを合わせれば500キロは超えているだろう
ベットを、あの細腕で動かしていたことになる。凄い!
「やっぱり貴方だったのね、そのスーツ」
「あ、ごめんなさい、後でちゃんと・・・」
「ううん。いいのよ。だけどそれは私の外出用の一張羅だから返してもらうわ」
「でも、着る服が・・・」
「そんなことだろうと思ったわ。これ、部屋着用だけど結構頑丈だから、
 あなたが着ても大丈夫だと思う」
「ありがとうございます」
しかし、どう見てもまったく同じ色と形の囚人服だ。
「しかし、あなた凄いわね〜、そのスーツは特殊合金の繊維で出来てて
 200キロ近くあるのよ? 良くそんな物着たまま寝られるわね」
そう言えば、房に戻ってベッドを元の位置に戻した後、
ダイスケに落ちてる服を取ってもらうよう頼んだが、やんわりと断られてしまった。
当のダイスケはすやすやと寝息を立てて寝ているようだけど。
「私はね、地下特別房の囚人で唯一外に出ることが認められているの。
そのスーツを着るのが条件でね。だから、これがないと明日の朝礼に出られないのよ」
「朝礼?」
「知らないの?毎週月曜にやってるじゃない」
「あー、朝礼のことですね。知ってます。知ってます」
どうして嘘をついてしまったのか、自分でもわからない。
「さっきは、取り乱してごめんなさいね。
 実は村田が今日、囚人の護送中に死んだみたいなの。」
「それは、お気の毒に」
これは本心だ。
「だけど、大崎は死んだ彼に会わせてくれないのよ?酷いと思わない?」
そりゃそうだ。彼は今頃、後ろの排水管の中だ。
「きっと、何か裏があるんだわ。聞いた話だと、今日護送されて
 ここに来た囚人は一人だけって言うじゃない。
 しかも、年端も行かない女の子。ねぇ、そんな娘に何が出来るって言うの?」
パンチ一発で顔面を粉砕した後、死体を粉々にして爆乳の間に隠すことが可能です。
「絶対何かある!だって、村田は所長とうまく行ってないっていつも言ってたし」
ケーコさんが顔を上げると、目にいっぱいの涙を浮かべていた。
これが、もし演技だとすれば明日からハリウッド女優になれる。
私の顔を見つめていた彼女は、何かに思い当たったらしい。
「まさか・・・、あなた・・・!!」
気付かれてしまっては仕方がない、全てを告白する覚悟を私は決めた。
「あなた・・・何か事情を知ってるんじゃない? 昨日来た囚人ってあなたなんでしょ?」
ケーコさんの鈍さにズッコケそうになったが、
私は、あらいざらいを話すことにした。
長い目で見たら、それがケーコさんのためになると思ったからだ。

コツン コツン コツン ・・・

しかし、私たちの会話は、またも近づいてくる足音に遮られる。
「こんな夜中に巡回? 一般房は忙しいのね。まあいいわ。
 明日の朝礼で会いましょ。おやすみ」
そう言い残すとケーコさんは穴へと飛び込んだ。
ご丁寧にベットも元の位置まで戻してくれた。
私は急いで着替えると、体全体に力を込める。
ケーコさんの囚人服は見かけによらず丈夫に出来ていた。
「ゴンザの服って、このくらいだったかな・・・」
廊下の裸電球に照らされて、ピチピチの囚人服を突き破らんばかりに膨らんだのは
あまり筋肉の目立たない爆乳のシルエット。
このボディーラインは中学時代の私を思い出させた。


つづく





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