プリズン筋肉 〜シーズン5

「ナンバー1333守山希美子。出ろ。」
遠藤だった。
「夜中に何かしら? この私を襲おうって言うの?」
私は、もう一度彼の前で巨大な力瘤を披露する。
しかし、驚いたことにケーコさんからもらった囚人服はゴムのように伸びて破けない。
「いいから来るんだ」
有無を言わせぬイケメン模範囚人は再び私に手錠をかける。今度は1本だけ。
見た目は、前に引き裂いたものと大差はない。
「こんなお飾りじゃ、私を拘束できなくてよ?」
「口の減らない女だ。まあ、丁度いい。説明してやろう。
 脳みそまで筋肉で出来てるアマゾネスにはいい教訓になるだろうからな。
 世の中には、腕力だけではどうにも出来ないものがあるんだよ。」
「それは、是非お目にかかりたいわ。」
コンクリートの床をぶち抜いた私には、己の肉体で大概のことは出来るような気がしていた。

私は立ち止まると、両腕に少し強めに力を込めてみた。
それだけで、両腕は今までの倍近い太さまで膨れ上がる。
サッカーボール大にまで膨らんだ力瘤に、私は改めて自分の肉体に秘められている
常軌を逸した恐ろしいパワーを実感せざるを得ない。
私は、服が破れてしまうのではないかと不安になり力を緩めたが
不思議なことに、この服はまだ破けそうにない。
「不思議そうな顔をしているな。これは、お前みたいな常軌を逸している
怪力の囚人たちを拘束するために開発された、新型の手錠だ。まだ試作段階だが、
このつまみを捻ると電圧が上がって中の電磁石が強くなる、これにより・・・」
「能書きはいいから、結論を言いなさいよ」
話を遮られた遠藤は、一瞬ムッとしたようだが、
すぐに私をあざ笑うかのような笑みを浮かべてこう言った。
「お前は、俺に逆らうことができない」
「面白いわね」
私は、遠藤に付いて行くことにした。
電磁石だかなんだか知らないけど、この自意識過剰男には歴然としている
力の差を見せ付けておく必要があるだろう。ならば、今はいい機会だ。

通されたのは隔離されている小さい作業小屋だった。
小さなテーブルと、拘束具のついた椅子がある。
「ここは・・・?」
「拷問部屋だ。二人で愛を育むためのスウィートルームと言い換えてもいいがね」
「男ってみんな変態なのね」
私は心底あきれてしまった。
「キミコもトレーニングの名を借りた自虐行為大好きドM女なんだろ?」
「気安くキミコなんて呼ばないで。でもMなのは認めるわ」
私は自慢のバストを抱え込んで強調した。
遠藤の目の色が変わった。ホント男って単純。
「まあ立ち話も難だ。座りたまえ」
ご丁寧に、彼は椅子まで引いてくれた。完全に勝ち誇った表情だった。
ここで抵抗してもよかったが、中途半端に抵抗すれば、
逆上した遠藤が同房のダイスケに何をするかわからない。
ここまで来たら、圧倒的な力の差を見せ付けて、
完膚なきまでに打ちのめす必要があるだろう。

私は、彼をもう少し泳がせることにした。
椅子に座ると、予想通り手枷と足枷が私の体をきつく拘束した。

「紹介しよう。模範囚の西秀彦君だ」
現れたのは白衣姿の背の低い男だった。
禿げ散らかった白髪混じりの醜い男。
長髪で整った顔立ちの遠藤とは対照的だった。
「お初にかかります、西秀彦と申します。ヒヒヒ」
西と名乗った男は、見た目どうりの奇妙な笑い声を上げた。
「その椅子はねぇ、ヒヒヒ、守山君といったかね。今、君がつけている手錠と
同じ原理を拘束具に応用したものなんだよ。ヒヒヒ」
「西さん。時間がないんだ」
「ヒヒヒ。そう急かしなさんな。単刀直入に言うとだねぇ。
金属の周りに強力な電磁場が発生してですねぇ、化け物みたいな、ヒヒヒ
化け物みたいな、君でも抜け出すことは理論上不可能なんだよ。ヒヒ
何しろ、電圧を上げていけばその強度は無限大まで増幅していくんだからねぇ。
ウヒヒヒッ、ウヒッ、ウヒヒヒヒ。では遠藤君、後は頼みましたよ〜」
一通りの説明を終えると、彼は満足げに部屋を去っていった。
彼は差し詰め、自分の研究のためならどんな犠牲も厭わないマッドサイエンティスト。
このム所に来た理由も何となく想像がついた。

「二人で愛を育むとか言ってた割には、邪魔が入るのね」
余裕の笑みで私は切り返す。
「心配するな、彼には別室でサポートしてもらう」
「あら?一人じゃ恐いのかしら?まあ、2対1でも私は結構よ」
「自分の状況、わかって言ってるのか?」
まったく物怖じしない私に、遠藤は苛立っているようだ。
「さあ、どうかしら?」
「ふん。お遊びもここまでだ。西!電圧を上げてくれ!耐加重5トンからだ!」
「い、いきなりですかぁ!?」
スピーカーで別室の西の声も聞こえるようだ。
「あぁ、この女は1トンの手錠を軽々引きちぎった」
「やっぱり、化け物だ・・・くわばらくわばら」
「その、化け物って言う呼び方やめて下さらないかしら?
私まだ18歳のか弱い女の子なんだから・・・!!」

キュオーン!

部屋中に何かの機械が作動する音が響く。
私は余裕の笑みを浮かべて両手に力を込めた。

私の両手はムキムキと盛り上がり、至るところで血管が浮き上がる。
幾重にも重なった筋肉が複雑に絡み合って膨張していく。
サッカーボールサイズだった力瘤の面影はなくなり、
腕に棲み付いた別の生物が腕の中で、今なお成長しているかのようだ。
私の心臓の鼓動とともに、私のカラダは巨大化していく。
そして、全身からは心地よい汗が噴き出してきた。
私を苦しめるはずの桁外れな強度は、私にとって心地のよい負荷でしかなかった。
薄く引き延ばされた囚人服の生地が全身に張り付いて、
人間の限界を遥かに超えている肉体が、逆に艶かしいシルエットとなって浮かび上がる。

ミシミシミシッ!

椅子が軋んで、遠藤の表情が青冷める。一方、私は平静だ。
「最新技術だか電磁波だか知らないけど、大したことなさそうね・・・」
「6トンだ!」

バチンッ!

どこかで何かがショートする音がして火花が飛び散った。
すると、私の体は一気に2回り近く膨らんで、
圧倒的なボリュームのお尻と太ももが椅子の縁を乗り越えて溢れ出してきた。
「キャ!」
腕の太さも半端じゃない。
発達しすぎた左右の腕が胸の前でせめぎあって、私の爆乳を飲み込んでいく。
これ程の力を全身に込めるのは初めてのことだ。
日常生活で、6トンの加重などまず有り得ない。
「遠藤さん、これ以上は危険です。今日のところはこの位で・・・」
「駄目だ。続けろ7トンだ」

この調子なら、7〜8トンくらいの加重も耐えられると思うが・・・
しかし、西の話が本当ならば、このままではまずい!
これだけの力を見せ付ければ十分だろう。
私は早めに抵抗することにした。ダイスケの情報によると、遠藤は連続強姦殺人鬼!!
こんな下衆な男に犯されるなんて御免だ。

バチバチバチッ!

部屋の至るところから、無数の火花が飛び散る!
「うっっ!」
全身の筋肉がパンプアップして更に膨らんでいく。
ケーコさんの囚人服は限界まで伸びきって、裾の部分が破れてスリットが入っていく。
しかし、こんな下衆男2人の前で裸になるのも御免だ。
「遠藤さん!もう限界です! これ以上電圧を上げれば館内はおろか
近隣区域の電圧も低下して、重大な被害が出てしまいます!
そんな事になったら所長が黙っちゃいませんよ!」
「くっ・・・」
遠藤は何かを思案しているようだ。
「お困りのようね。なんか私、全然余裕なんですけど・・・」
隣室があると思われるマジックミラーに向かって私は微笑みかけた。
正直、私も自分の肉体が未知の領域に到達して戸惑っているが、
何も出来ずにうろたえる遠藤ほどではない。
刺激に久しかった私は、この状況をむしろ楽しんでいた。
「ば、化け物だ!正真正銘の化け物だあぁ〜!ヒヒィ〜」
スピーカー越しに西が逃げ出す足音が聞こえた。

「これから、お前を襲ってやりたい所だったが、女には見境のない俺も
 残念ながら化け物には興味ないんでね。お前にはここで死んでもらう」
「何ですって?」
彼は腰元から銃を取り出すと私に向けて構えた。

パンッ! パンッ! パンッ!

3発の銃声が響いたが、それらは私まで届かなかった。
銃弾は強烈な磁場に吸い寄せられて、私を拘束していた金具を打ち砕いたのだ。
右足、左足、左腕の順に破壊されて、残るは右腕のみ。
ならばと力づくで引き剥がそうと試みるが、
今度は4か所に分散していた電力が1か所に集中しているらしい。
都合28トンの重量はさすがの私が、どんなに力を込めても外れる気配がない・・・
もはや巨大な大木のようになってしまった両手両足が互いにひしめき合って
それぞれが別の意思を持った生き物のように蠢いている様に見える。
ガシャンガシャン・・・椅子ごと運ぼうと試みたが、
この椅子も同等の力で床面に張り付いているようだ。

「そうか、この手があったのか」
油断した遠藤が近づいて、背後から私を押し倒そうとしたが、
28トンと戦っている私には蚊が止まったようなものだ。
「邪魔!」
極太の左腕で軽くなぎ払っただけで、彼は奥の壁に叩きつけられて気絶してしまった。
右腕を椅子から引き剥がすべく力を込めていると、
あろうことか見る見るうちに私の右腕が、さらに巨大化していく。
電磁波の影響か、この刹那にもパワーアップしているらしい・・・
私の力が既に人間の限界を超えている自覚はあったけど、
ここまで桁外れに強大なチカラを込めることが出来るとは思いも寄らなかった。
身震いするほど鮮やかな感覚が全身に漲っていく・・・

やがて、ギチギチと右腕の金具が剥がれる頃には、
私の右腕は、上腕の力瘤だけで大柄な男性一人分のサイズにまで膨れ上がっていた。
「何なのよ・・・これ・・・」
余力の残っている右腕に更に力を込める。
私の右腕と比べたら工事現場にある重機すら問題にならないであろう。

ブチブチブチィ!!

この隆起には、ケーコさんの囚人服も耐えられなかったらしい。
隣室を隔てるマジックミラー越しに写るその右腕は、
7トンの加重を寄せ付けなかった自分のカラダ全体と比較しても遜色なかった。
右腕から私がもう一人生えてきているような光景に私自身鳥肌が立った。

「・・・遠藤!・・・西!何の騒ぎだ!いるなら返事しろ!」
そして、この男が現れる。

「!!」
「あら。言葉も出ないようね。所長さん」
私は誇らしげに右腕を折り曲げて見せた。
所長の全身の筋肉を全てかき集めても到底及びそうにない程の力瘤が隆起する。
極太の筋肉繊維が絡み合って、筋と筋の間にいくつものカットが現れる。
20歳に満たない女の子の右腕がこれ程まで逞しくなるというのだろうか。
自らの膨張によって行き場を失った筋肉が上へ上へと無造作に盛り上がり、
異様な迫力で所長を圧倒する。
28トン、つまり28,000kgのダンベルがあれば片手で持ち上げる右腕だ。
さすがの所長も言葉を失って、慌てて部屋を飛び出す。
「逃げたって無駄よ。もう、誰も私を止められないわ・・・」
私はうっとりしながら、所長を歩いて追いかけた。
しかし、全力で逃げる所長と速さはそれほど変わらない。
私はその差を詰めるでもなく、彼の後についていく。

模範囚棟の入口の分厚い扉をカードキーで開けると、
所長は中へと逃げ込む。
「無駄よ・・・」
閉まりかけた分厚い鉄の扉を、暖簾を分けるように私はくぐった。
20センチ近い厚さの鉄の扉に、私の手形がはっきりと残った。
模範囚棟の中は、小さなワンルームマンションのような作りだった。
一般房とは違い、それぞれのプライベートが確保されているようだ。
「西ィ!西ィィ!いないのか!!」
所長さんはワンルームマンションの一室の扉をしきりに叩く。
彼の怪力に、厚い扉が少し凹んでいた。
いっそ、腕づくで開けてあげようかと思ったが、まもなく西が顔を出した。

「しょ、所長・・・」
「あれを・・・あれを出してくれ」
「・・・あれって、まさか!」
「い、いいから早く! 時間がない!」
所長さんは歩み寄る私を指差す。恐怖のあまり声が震えている。
「あれは、対ゴンザ用の秘薬で、まだ研究中・・・」
「何でもいい!構わん!所長命令だ!!」
「は、はい!」
「今度はクスリ? 笑えるわね。己自身で鍛えた肉体をあなたは信用してないの?」
今度は左腕を盛り上げる。右手には遠く及ばないが、
所長の腕とは天と地ほどの差があった。我ながら抜群の破壊力!
「早くしてくれない? 私、眠いんだけど。ふわ〜」

ドドン! ゴロゴロ!

軽く伸びをしただけで、右腕は天井を突き破る。
「もーでか過ぎ・・・」
私は、腕を縮めようと、いつもとは「反対方向」に力を込める。
・・・反対方向?あれ?

今までにない感覚だった。力を込めればこめるほど、腕が縮んでいく。
・・・何?これ?
一方の所長さんといえば、さっきまでとは段違いの筋量で私を見据えている。
とはいっても、ようやく両の足が私の左手サイズに追いついたくらいだったが、
その筋量は一流のボディービルダーのそれを遥かに凌ぐ物だった。

「ふはははは!」
バキバキッ!
瓦礫の1つを手にとって握りつぶす。何という握力!
無数の破片が、周囲に飛び散った。
「私だって・・・」
普段とそれほど変わらないサイズに戻った右腕は使いたくなかった。
何というか、使うのが恐かった。
私は、左手で更に大きな瓦礫をつかんで握りつぶす。そして、すり潰す。
サラサラと細かい砂が指の隙間からこぼれ落ちていく。
「ぶわあああ!」
歴然とした力の差を見せ付けられた所長は、我を失って飛び掛ってきた。
飛び掛ってくる所長を、左手一本で受け止める。
「クスクスッ。何をムキになってるのかしら?」
ボコボコっと私の左腕が一段と太くなって、おびただしい量の血管が浮き上がる。
私は、下半身で踏ん張って、どうにか堪えるが、床面が耐えられないらしい。
ずぶずぶと、足が沈んでいく・・・
「ぐおおおぉ!」
もはや獣のような咆哮をあげながら、所長が全身の力を私の左腕にぶつけてくる。
足場も良くないので、私はそれを受け流す。
「パワーだけで私に勝てると思ってるの? まだ左手一本しか使ってないんだけど?」
逆上して飛び掛ってくる所長を再び左手一本で受け止める。
「腕力で勝負を挑んできてくれたことは褒めてあげるわ。
でも、あなたじゃ役不足みたいね。
最後に教えてくれないかしら? ゴンザの騒動はあなたが起こしたの?」
私は左手一本で所長の両手を握りつぶす。
「ぎゃあああ!」
「うふふ」
ゴンザの脱獄騒動なんて私には興味なかったが、顔を真っ赤にして
絶叫とも悲鳴ともつかない声をあげる所長の姿を私は堪能する。
そして、私は一気に、細い普通の女の子サイズの右腕を振り上げた。

ズドン!

一撃。彼の分厚く発達した腹筋を造作なく打ち破ったその拳は、
勢い余って腹部を貫通した。何とあっけない幕切れだろうか。
「もっと見せ場、作ってあげたかったな。
そうだ、死に際ぐらい花を咲かせてあげましょう♪」
「や、め・・・」

ドバシャーン!!

私は容赦なく右腕に力を込めました。盛り上げる方向に♪
模範囚棟の廊下に真っ赤な花火が上がった。

・・・・。

その後、西さんに案内してもらって模範囚棟の大浴場に
連れて行ってもらったんだけど、この時の話はまた今度ということで☆


つづく





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