プリズン筋肉 〜シーズン7

「そんなに見たければ、もっと近くに来て見れば」
入口で群がる人影に私がそう言うと、堰を切ったかのように裸の男達が溢れ出てきた。
「ついでに、洗ってくれると嬉しいんだけど。ちょっと大きすぎちゃって・・・」
ウィンクをしながら、私は男達に微笑んだ。
模範囚棟の男達が、それぞれにタオルを泡立てて私の右腕に群がる。
出遅れた数人が、なす術もなく溢れてしまった。
「仲間はずれを作っちゃかわいそうだからね♪」
私が力を込めると右腕が更に巨大化していく。
「はい、どうぞ。」
溢れてしまった何人かを、出来た隙間に招き入れる。まるで壁の清掃作業だ。

「いやだ、もうくすぐったい!」
上から下からの心地よい刺激に耐えられなくなった私は、無意識のうちに
彼らを振り払ってしまったようだ。
気がついたときには、もう遅かった。

バンッ!
ダンッ!

うぎゃ〜!

浴場のあちこちで悲鳴が響き渡って、壁や床に男達が叩きつけられる。
打ち所の悪かった者は気絶している。
「あらやだ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったのに・・・」
悲鳴を聞きつけた他の囚人が、様子を伺いに来る。
「た、た、大変だ〜!!」
さすが、模範囚。すぐさま看守に報告するらしい。
「待って!」
彼を引きとめようと、私は立ち上がったが、自分も裸な事に気がつくと、
追いかけるのも躊躇われた。
本当は規則違反なんだからな・・・と、案内してくれた西さんの言葉を思い出す。
所長の件は、まだ表沙汰にはなっていないだろうけど、このままではまずい。

タオルを体に巻きつけて浴場を出ようとしたところに、
拳銃を持った一人の看守が到着した。
「お前は、確か・・・」
膨れ上がった私の右腕を見た重装備の看守が絶句する。
巨大な岩石のように盛り上がる肩から胸にかけての筋肉も異様に盛り上がっていて、
バスタオルで隠された豊満なバストとのギャップが放つ妖艶さは計り知れない。
数々の凶悪犯を見てきた看守さえ、この迫力には驚き圧倒されてしまう。
そして、彼の手から銃が滑り落ちる。

カタン!

私は、その隙を見逃さなかった。
すっと右腕を伸ばして、拾い直そうとする彼を押しのけると、
私は拳銃を横取りする。
「こんなもの持ってたら、危ないでしょ?」

バリッ!

握力のみで拳銃を握りつぶすと、ただの金属の塊となってしまったそれを、彼に返す。
「ちょっと、着替えるから出てってもらえるかしら」
容易く拳銃を握りつぶした私に恐怖した看守は、ワナワナと更衣室を後にしようとした。
しかし、腰が抜けてしまって、思うように動けないようだ。
「早くしてよ」
前屈みになった私のバストがこぼれ落ちそうになるが、私は構わず着替え始めた。
自分で言うのもなんだが、一糸纏わぬ私の姿の前では、
きっとどんな褒め言葉も陳腐なものになってしまう程に、私の体は美しかったはずだ。
私は、横でフリーズしている看守の立場に立ってみるべきだった。
「この、どスケベが!!」
私はロッカーの扉を剥ぎ取って、紙のように丸めると、彼に向かって投げつけた。
人間の体と、私の握力で圧縮された金属とどちらが硬いかは一目瞭然だ。
彼の胸部に直撃した金属片は、彼の胸部を防弾チョッキごと破壊して、
彼のもたれかかる壁に深くめり込んでようやく動きを止めた。

「あ、嫌だ、私ったら!」
最後に、私の裸が見れたことが、彼にとってせめてもの救いのはずだと
自分に言い聞かせながら、私は下着をつける。
しかし、入所時よりも明らかに巨大化した大胸筋のせいで、
キツキツになったバストが、もりもりとブラの縁から溢れ出て、
普通では考えられないようなラインが胸元に現れる。
そして、浴場の入口の大きな鏡に自分の姿を映し出して、私は様々なポーズをとる。
前に屈んだ扇情的なポーズも、少し力を込めれば威圧的な肉体美へと変わる。
ナルシストにはなりたくないが、このカラダなら誰も文句は言わないし、誰にも言わせない。

そんなことを考え、自分の体に酔いしれているうちに、応援部隊が駆けつけた。
彼らも、例に違わずの重装備で、肩にはライフル銃を担いでいる。
小隊長は入口付近で息絶えている看守に目をやった。
「貴様・・・一般房からの無断外出だけならともかく、看守殺しは重罪だぞ!」
「無断?誤解よ。模範囚の遠藤に連れ出されたのよ?聞いてないの?
 それに、そこの看守は私に銃を向けてきた。だから正当防衛よ」
「何を戯けた事を言っている! まあいい、事の真偽は遠藤を呼べばわかることだ。
 おい、坂本!遠藤を呼んで来い!」
坂本と呼ばれた隊員は、遠藤を呼びに行った。
「それより、銃を降ろしてくださらない?私、恐くって・・・」
「何をバカなことを、それが目的だ。妙なことをしたら、容赦しないからな」
「違うの。さっきみたいに、殺しちゃうかも。こうやって・・・」

ギギッ!ガシャーン!

もはや、ロッカーを引き裂くことぐらい雑作もないことだ。
扉の断片を再び丸めて、握り固める。雪合戦で雪だまを丸めるように。

バーン!!

銃声が響いた。
私は、動きを止める。小隊長が上方に向かって一発威嚇したようだ。
「ナメた真似を・・・お前の投げるモーションと、私が引き金を引くのと
 どっちが速いか、よく考えるんだな」
そう言いながら、彼は再び私に狙いを定める。
防弾チョッキを突き破った私は、にわかに銃弾を受け止めることができるかも知れない
という途方もない考えに至っていたが、常識的に考えれば
いくら鍛え上げようとも、水分とたんぱく質といくらかのミネラルの塊である生身の肉体に
無機質の銃弾を弾き返せるわけがない。
間もなくして、遠藤が現れた。全身の痣が痛々しい。
「守山を連れ出したのはお前か?」小隊長が遠藤に尋ねた。
「いいえ、何の事だかさっぱり・・・」
「それより、お前はだいぶ弱っているようだが、何かあったのか?」
「西と・・・いや、西さんの研究を手伝ってたら、この女が急に現れて・・・」
遠藤は薄ら笑いを浮かべて、私の方を指差した。
「嘘よ!」
「わかった遠藤。充分だ。後は医務室で診てもらってくれ。」
どうやら聞く耳を持たないようだ。昨日来たばかりの新人囚人の言うことと
信頼の厚い模範囚のどちらの言うことを信じるかは考えるまでもない。
坂本の肩を借りて、足を引きずりながら遠藤は去っていった。
「ちょっと、待ちなさ・・・・!!」
「撃てぇ!!」

バババババババ・・・・

さながら銃撃戦だ。私がロッカーの影に隠れる間もなく無数の銃弾が私を襲う・・・
痛い!!

・・・痛い?・・・だけ?

ふと見ると、体中の至るところに赤い痣が出来ている。
場所によっては、内出血を起こして腫れ始めているが、それだけだ。
自分の肉体の凄まじさに、私は笑いを抑えることができない。
「はは、ふはははは・・・」
銃声が止んで、静まり返った室内に私の笑い声が響く。
「くすくすっ♪うふふふ・・・♪」
私が隠れていたロッカーを持ち上げると、再び銃声が響き渡る。
石を投げつけられたかのような激痛が足元を襲うが、私は銃を持つ彼らの元に歩み寄る。
「えいやっ!」
そして、巨大なロッカーを彼らに投げつける。

ガシャーン!

「撤収ー!!」
小隊長の掛け声とともに、彼らは逃げて行く。
「あー、面白かった!もっと遊ぼうよ〜♪」
私は、ぐしゃぐしゃになったロッカーを踏みつけると、
一目散に逃げて行く彼らを歩いて追いかける。
銃弾が効かないとわかれば、もはや怖いものなどない。
せいぜい筋肉がほとんどない顔面と、脂肪の塊である豊満なバストさえ
気をつけさえすれば、私は無敵だろう。

私に及ぶものなどないのだ!
そんな陶酔感が、私の常識的な感覚と判断力を麻痺させていく。
全身にいきわたるアドレナリンに、私の興奮は収まらず
一歩歩みを進めるたびに、私自身が巨大化していく。
この刹那にも身長が伸びていく、体重が増加していく。
それ以上の速度で筋肉は太く、硬く、より高密度に進化していき
幾重にも重なる巨大な鎧となって私を覆う。

バコバコバコッ!

模範囚棟の入口の分厚い扉を引き剥がして、手のひらで適当な厚さに引き延ばし、
それをサラシのようにして胸元に巻きつけていく。
自身の体の膨張によってプレスされ、型取られたそれは、最高のフィット感で
私の暴力的に巨大化した肉体を覆い隠す。
残った断片で、下腹部から恥部にかけても覆い隠すが、
太くなり続ける臀部と大腿部に引き伸ばされて、
極小のセクシーなTバックのようになってしまった。

建物を出てスポットライトに照らされた私の姿は、
さながら前衛的なファッションショーのモデルの姿のそれに近かっただろう。
美しさと、その魅力の点において。
しかし、壮絶なまでに発達したその恐るべき肉体は、
目の前にある最新式の戦車と比較しても遜色ないほどの凄みを放っていた。

「撃て!!」

ドーン!!
私の集中力は、音速で飛んでくる砲弾を見切るほどにまで研ぎ澄まされていた。
人間の、いや、あらゆる生命体の限界を超えた肉体が、
その反射神経を可能にしたと言ってもいいだろう。
紙一重でその砲弾をかわすと、さっきまでいた模範囚棟が爆発して炎上した。

「何してる!しっかり狙わんか!・・・撃て!!」
ドーン!!
私は、迫り来る第二撃を胸元でしっかりキャッチすると、
爆発する前に大胸筋と上腕で押さえ込む。
3階建ての模範囚棟を一撃で破壊した衝撃が、私の胸元に襲い掛かる。
「・・・っ!」
並の人間なら、間違いなくコッパミジンだ。
でも、私の体は並じゃない。
銃弾を弾き返して、鉄の塊を粘土のごとく引き延ばしてプレスする絶対的な力がある。
「・・・ごはっ!!」
胃袋から胃液が逆流してくる。
昨日の夜から、たった一切れのパンしか口にしていなかった。
しかし、それだけだった。
しゅーという音を立てて、腕と胸の間から煙がこぼれる。

「!!!」

軍で専門的な訓練を受けているはずの看守達が言葉を失っている。
私は、口元に溢れてきた胃液を吐き捨てると、
彼らの方を向き直って、あどけない笑顔を浮かべた。
首から上は、ちょっと可愛いだけの女の子。
「そんな目で見られたら、傷ついちゃうんだけど・・・」
わたしは、彼らの元に歩み寄ると戦車の銃口を握りつぶした。

バキン!

さらに、銃身をググッと折り曲げてU字型にすると、
今度は輪っかにして、結び目を作る。
「こんな危ないもの持ち歩いてちゃ、いけないと思うんだけどな」
どの兵士もその場に立ち尽くし、唖然としている。
それもそのはずだ。まだ若干10代の少女が、戦車の砲弾を受け止めた後、
最新鋭の戦車をおもちゃのように弄んでいるのだ。
あまりに現実離れした光景に、頬をつねって夢ではないことを確かめる者もいれば、
悪夢から覚めようと、自らの頭を銃で打ち抜く者も現れはじめた。

「待て!早まるな!」
さっきの小隊長だ。
「あの砲弾には、ゴンザを廃人にした時と同じ科学物質・・・
 つまりホルモンが配合されているんだ・・・
 といっても、あの脱獄騒動を知ってる看守は俺を除いてここにはいないが」
バカな私でも、環境ホルモンとか聞いたことがあった。
「それって、ヤバイってことかしら?」
「やばいなんてもんじゃない。お前は自分自身の怪力にやがて耐えられなくなり、
 その強大すぎる筋肉が災いして自滅するんだ。」
「どういうことなの?」
「簡単に言えば、先に言ったホルモンは成長ホルモンの一種だ。
 普通、体内のホルモンは互いに干渉してバランスを保っているから、
 貴様のように異常な筋肉お化けになったところで、死ぬことはない。」
「何が言いたいの?」
私は、少し悪い予感がした。
だいたい、私はゴンザが今どこにいて、どんな状況にあるかよく知らなかった。
ただ、力に物を言わせて刑務所を破壊して
脱獄騒動を起こした怪力自慢の凶悪囚人。そのくらいにしか認識してなかった。
彼のその後の処遇を知る由もない。
もし、彼が私のような肉体と能力を備えていたとしたら、
彼を再び牢に収めることは不可能だろう。
「今から、貴様は筋肉だけが勝手に成長していく・・・言ってみれば病気にかかる。」
「あら、それは嬉しいわね☆」
この、太さと重量感はなんて言っていいのかわからない。
ゆうに1mを超えている上腕部がムキムキ盛り上がり破裂してしまいそうだ。
「筋肉が皮膚を突き破るとでも言いたいの?」
「それだけなら、まだいいが・・・」
「早く言いなさい!スクラップにするわよ!」

ドガーン!

私は、戦車の装甲に拳を打ちつけた。
さすがに最新式。少し凹んで、ひびが入っただけで済んだようだ。
「ば、馬鹿な・・・そ、それは核爆発の衝撃にも耐える装甲だぞ!」
「へー、興味ないんだけど。」

ドガーン!

今度は体重を乗せたパンチをお見舞いする。
すると、戦車の前方が見事に凹んで、さながら高速道路の事故現場だ。
「わ、わ、わかた。言う、言うよ。だからこれ以上はやめてくれ!」
「じゃあ早く、続きを言って」

バリバリバリ! ガシャーン!

私は戦車の装甲を引き裂いていく。核爆発にも耐えるという言葉は魅力的だった。
「ほ、骨が折れるんだ。筋肉だけが成長すれば、相対的に骨が脆くなる。
 骨が折れてしまっては、さすがの筋肉もただの肉の塊ってわけだ。
 悪くすれば複雑骨折・・・いや、骨が跡形もなく粉々になって一生動けない」
「・・・」
迷彩柄の水着を作りながら、私は背すじが凍る思いがした。
この凍った背すじも、自らの腹筋と後背筋によって粉砕されるのだろうか。
銃弾に耐え、核装甲を破壊した今、その恐怖は妙なリアリティーで私に襲い掛かった。


つづく





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