プリズン筋肉〜シーズン8

「守山がいるほうが勝つから練習にならねぇよ」
体育祭の練習。種目は綱引き。ついに私は練習メンバーから外された。
「ねぇ、ハンデつけようよ。私対男子全員ってのはどう?」
男子全員はお互いに顔を見合わせる。
いくら私が高校生離れした怪力を持ち合わせているとはいえ、さすがに勝負にならないだろう。
みんなそんな目だ。
「ねぇ、一回だけ!」
「・・・一回だけだからな。」
私は、ロープの中ほどを持つと、男子達が渋々反対側の位置についていく。
「行くわよ〜」
たまには男子に負けて女の子っぽい所も見せなきゃ・・・
20対1で負けた所で、女の子っぽいも何もないだろうが、
入学当初の体力測定以来、男子達は私とまともに会話どころか、目も合わせてくれなかった。
みんなで力をあわせれば、私にも勝てることを教えてあげたかった。
「せーの!」
男子が一生懸命引っ張ってくる。
一瞬、私の体が持って行かれそうになるが、それは一瞬だけだった。
下半身を踏ん張って、上腕に力を込める。
右手で少し力を込めると、前の方にいた男子が前につんのめってくるのがわかった。
「わざと、負けなきゃ・・・」
私は寂しくなる。彼らは決してひ弱な男子ばかりではない。
野球部で1年生ながら4番を打つ高橋君がいたし、
何よりも中学時代に柔道部の地区大会で上位に入賞した巨漢の沼田君だっている。
それすらも凌駕してしまう私の腕力・・・
「はぁ・・・」
自分自身の怪力ぶりに思わず溜息がこぼれた。これは、私が望んでなったこと。。

「あーあ、負けちゃった」
惜しくも敗れる演技をした私は、長縄跳びの練習をしている女子の輪の中に入った。
男子全員と、そこそこ勝負になっていた私に、ほとんどの女子は完全に引いていた。
しかし、体力測定の一件以来仲良くなったエリちゃんが話しかけてくる。
「キミコちゃん、本気出してなかったでしょ?」
「ま、まさかぁ。さすがに男子全員には勝てないわよ」
「ほら。動揺してる。私ね、キミコちゃんが本気出すと腹筋が8つに割れるの
知ってるんだから」
「嘘!さっきは?」
「6個。それでも、充分すごかったけどね」
「そ・・・そうなんだ」
「一体、本気出したらどうなっちゃうのかしら」


・・・こうなる。

特注サイズのタンクトップを突き破らんばかりに、大胸筋とバストが盛り上がり、
極限まで研ぎ澄まされた肩と二の腕が、大量の血管を浮き上がらせ、
破裂しそうな勢いで盛り上がると、ガコンとバーベルのシャフトが悲鳴を上げる。
・・・やはり今日もジムに来ていた。
最近は学校が終わるとすぐに電車に飛び乗って、ジムに通う毎日だ。
トレーニングも益々ハードなものとなり、
それを補うべく、日に日に私の食欲は増大していき、
その栄養をすべて強靭な肉体へと昇華されていく。
限界を超えて、とめどないく進化していく自分の肉体に、更なる限界への好奇心が沸いてくる。
「これ以上強くなったらどうなるんだろう・・・」
五十嵐さんの倍以上はある上腕に力を込めて、鏡の前で私はポーズをとる。
傍から見れば充分逞しいと言える五十嵐さんが全力で力を込めても、
私の半分くらいの力にしか及ばない。
実際にトレーニングで扱っている重量もそのくらいはあった。
「このジムではトレーニングが出来なくなる」
「え?」
「今、君が扱ってるのがうちで用意できる最大の重量だ。
非公式ながらとっくに世界記録を更新してるんだよ。」
「嘘!?」
「君さえ良かったら今度の大会にエントリーしたいんだけど、どうだね?」
「うーん。今はいいわ。だって、もうとっくに世界記録更新してるんでしょ?
だから、今から鍛えられるだけ鍛え上げて、世界中の人を驚かせたいの。」
「気持ちはわかるが、これ以上の設備は日本中探したってないぞ?」
「私にいい考えがあるの」
そう言うと、私はラックから一本のバーベルを取り出して片手で持ち上げると、
ゆっくりとカールさせていく。
いままで両手で持ち上げていたものを、片手で持ち上げる。
「どう、かしら?」
予想以上の負荷に、私の右腕が悲鳴を上げていたが、
余裕の笑顔を作って五十嵐さんに微笑みかける。
さすがの五十嵐さんも、これには口をあんぐりあけて呆然としていた。
私の右腕が熱を帯びて真っ赤に膨れ上がり、内側の方から更なる力が湧き上がってくる。
それに比例するように、ググッと右腕が盛り上がる。
太さは五十嵐さんのウエストくらいはある。
これは腕と呼んでもいいのだろうか?
「気持ちいいっ!」
思わず私は左手でもう一本あったバーベルを掴む。
「バカ!危ない!200キロあるんだぞ!」
その重さに、全身に稲妻が落ちたような衝撃が走ったが、
私の鍛え上げられた肉体は、この負荷を圧倒的怪力で乗り越えていく。
「なんと言う事だ・・・」
超重量級のバーベルを交互に上下する女子高生は、
元ボディービルダーの五十嵐さんの目にどのように映ったのだろうか?
「結構効くわね・・・」
5分ばかりバーベルを上下させていた私のカラダはとんでもないことになっていた。
180cm・100kgの巨漢の五十嵐さんがひ弱な少年に見えるほどに
私の筋肉は途方もなく盛り上がっていた。
膝を覆い隠すまでに盛り上がった大腿囲は、まさかの103cm
驚くなかれ、バーンと突き出したヒップは155cm
8つに割れてさらに無数のカットが刻まれたウエストは88cm
とてつもないモンスター級の上腕囲は96cm
お待ちかね、Iカップを搭載した特大バストは199cm
なんだかもう凄いことになっていて、お互い笑うしかなかった。


そして、迎えた体育祭は私の独壇場だった。
運動部だろうが文化部だろうが帰宅部だろうが、私には関係のないことだった。
腕相撲大会の一件で私の名前は全校に知れ渡っていたし、
私に対抗意識を燃やそうなんていう愚か者は、もうこの学校にはいなかった。
各種目で超人的な能力を発揮し続けた紅組の私は、
白組の精鋭たちを終始圧倒し続けて、記録的大差で勝利を収めた。

私の快進撃はまだまだ続いた。
秋の球技大会では、野球部のエース小林先輩と対決。
4番は高橋君に譲ったけど、私は女の子ながら5番を打つことになった。
女子のスタメンは1人につき1点のハンデだったから、
どのクラスも2〜3人は女子がいたけど、
クリンナップを任されていたのは私だけだった。

2回表の第1打席。さすがの高橋君も小林先輩には手も足も出ずに三振。
「小林先輩のカーブは打てると思っても、そこから更に変化するから手を出すな。
素人には打てるもんじゃない。だけど、お前にはパワーがある。
お前のパワーがあれば力負けすることはないだろうから真っ直ぐを狙ってけ」
まったく野球初心者の私には高橋君のアドバイスの意味はわからなかったが、
お互いに真剣勝負であることは彼の気迫から伝わってきた。
「いいな。遅い球は見送るんだ。速い球を打てよ」

・・・。

「ストライーク!バッターアウト!!」
「え? もう終わりですか?」
これだからルールがある競技はつまらない。
私は思わず審判の方を振り返る。結局、速い球は来なかった。

「おい、3つとも打ちごろの真っ直ぐだったじゃないか!」
ベンチに戻ると高橋君が詰め寄ってきた。
「だって、遅い球は打つなって・・・」
「遅い!? 小林先輩の真っ直ぐは調子が良けりゃ140Km/h以上出てるんだぞ?
・・・って、お前は俺達とは次元が違う怪力女だったな。」
「何ですって?」
「もう好きにしろよ。助言した俺がバカだった」
彼の心無い一言に、私は持っていたバットを彼に向けようかと思ったが、
次元が違う怪力女なのは事実だから、文句は言えない。
私は彼に怒りをぶつける代わりに、金属バットを2つに折り曲げて見せた。
グググッ!
造作もないことだったが、彼を黙らせるには十分効果があったようだ。。

5回の第2打席は、高橋君がフォアボールで出塁してノーアウト1塁。
初めてのランナーが出て、本当ならば盛り上がる所だろうが、
打席に向かう私に声を掛ける者は一人もいなかった。
恐れのあまり、誰も声を掛けることが出来なかったという方が正確かもしれない。
1塁塁上の高橋君も、素人に何が出来るんだという目でこちらを見ている。
どうしても、彼を見返してやりたい。

140Km/hを速いと感じなかった私に、打てない球などなかった。
初球のインコースの「遅い球」はハエが止まるのではないかというほどに感じられた。
かつて、一流の打者がボールが止まって見えると称したそうだが、
本当に止まっているように見えるのだから、それは仕方のないことだ。
真芯で捉えて力いっぱい振りぬく。

カキーンという快音とともに白球は外野ネットの遥か上を越えていった。
「ファール!」
「え〜?駄目なんですか?」
これだからルールのある競技は厄介だ。
とんでもない飛距離を飛んでいったボールは
数100メートル先の田んぼの中から後日発見されたらしい。

小学生の時に野球を始めて以来、常にエースだった小林先輩は、
今日はじめてバットを持ったという女子相手に
ファールとはいえ場外に運ばれたことで、自信を喪失しかけているようだ。
しかし、彼にはまだ切り札であるカーブが残っている。
これまで各地区の強打者と幾人も対戦してきたが、
初見でバットに当てた打者は1人もいない。

続く第2球。同じ失敗は2度するつもりはなかった。
タイミングをばっちり合わせて、バットを出す。
しかし、今度はさっきよりもさらに遅い球だ。
さっきよりも飛距離を伸ばそうと思いっきり踏み込んでいたため、
前につんのめりそうになるが、ここは抜群の下半身で踏みとどまる。
すると今度はボールの軌道が変わり始める・・・
これがカーブね。確かに遅い。
軌道が変わった上に、なかなかボールがこっちに来ない。
もう腰は回ってしまっている。
腕だけ残して何とか対応するが、さらにボールは逃げていく。
手首を返す寸前で強引にバットを傾けて、バットの先端部にボールを当てる。
何とか当たった!

ビューン!

バットの先に軽く当てただけのつもりだったが、鋭いライナーが一塁線を襲う!
地面すれすれで捉えられた打球は、高橋君の肩口をすり抜け
そのまま一直線にライト後方にある校舎の4階窓に突き刺さった!
一塁を回った所で、喜びのあまり高橋君にハイタッチを求めたが、
しばらくの間、高橋君は恐怖のあまり動けず、試合は一時中断してしまった。
無理もない。超高速の打球が彼の顔面すれすれを擦り抜けて行ったのだから。

4回までノーヒットだった小林先輩はこの回に調子を崩して大乱調。
私たちのクラスは見事に3年生チームを下したが、
次の試合は私の全打席敬遠などにより、あっさり敗退。
別に、敬遠のボールを打っても良かったんだけど、
そこまでしても余計に目立つだけで、何のメリットもないからね。
ほんと、これだから団体競技ってつまらないのよね〜

私の学生時代の武勇伝は数え切れない程あるけれど、
この時の私は、あの日が刻一刻と迫っている事を知る由もありませんでした。


つづく





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