圧殺!レインボー・ミカ

 とあるそれほど規模の大きくない体育館は騒然とした空気に包まれた。
弱小インディ団体・新関東プロレスの、試合開始前のリングに突然、部外者が乱入したのだった。
それもただのよそ者ではない。その姿に関係者、観客ともに唖然とさせられた。

 いきなりリングに上がりこんでマイクを握り締めた、とてつもなく大きな人影。
しかもそれは以上に肌の露出のきわどい衣装に身を包んだ、髪の長い女だったのだ。
長い髪をウサギの耳のように二つにまとめたかわいらしい髪型。
目の部分のみを覆うような帯型の覆面をまとってはいるが、その素顔はまだあどけなさの残る少女であることは
一目見て誰もが理解できた。ただ正確にどのような顔立ちなのかがわからないだけで。
 しかしその少女の、幼い顔に似合わない体格はどうだ。
明らかに、これから登場するはずだったどの男子レスラーをも軽く上回っている長身。
広いという言葉だけでは物足りないような、筋肉の盛り上がった肩幅。
身に付けているものが今にもちぎれ飛んでしまいそうに前にドンと突き出された巨大なバスト。
暴力的なまでの背筋の隆起を見せグリグリと力こぶが内部で躍動している大きな背中。
巨大なボールのような力こぶでパンパンに膨れ上がる、丸太のごとき腕。
コスチュームにギリギリと割れ目を作ってうごめく、きれいに6つに分かれた腹筋。
見るものを威圧するかのように大きく突き出された形の良い丸いヒップ。
筋肉が深い割れ目を刻み、すさまじい逞しさで盛り上がる太腿。
 そんな堂々たるド迫力ボディを、水色のリボンで巻き付けただけのような危ういコスチューム。
鋼鉄のような筋肉に、ところどころにフリルをあしらったアイドルのようなアンバランスな衣装。
深い谷間を作った巨乳がそのきつめのコスチュームからはみ出てしまいそうにゆさゆさとゆらめく様子に
客席からの視線が釘付けとなった。
彼女が身にまとっているのは、その男どもを挑発しているとしか思えない衣装と目の辺りを隠すマスク、
それと白いリングシューズのみ。観客たちは劣情を煽られ生唾を飲み込みながらも疑問を感じずにはいられなかった。
彼女は何者なのか?一体ここに何のために現れたのか?まさか、レスラーなのか?と。

 その少女がマイクを通して何かを言おうとする寸前に、新関東プロレスの若手数人が走り込んできて叫んだ。
「お前、一体何者だ!」
「部外者が勝手にリングに上がることは許さんぞ!」
「早くそこから降りろ!一体何のつもりだ!?」
 ジャージ姿の若い男数人が血相を変えてリングに駆け上がり、少女のもとへ詰め寄る。
が、観客の多くが予想したとおり彼らの誰一人としてその少女よりも体格でかなうものはいなかった。
プロレスラーである自分たちが女を見上げなくてはならない屈辱と、目の前の女のその体つきに
わが目を疑う気持ちを交錯させながら男たちは彼女にまた一歩詰め寄る。
 そのとき、客席から観客の1人が声を上げた。
「も、もしかしたら、この女・・・レインボー・ミカ!?」

 レインボー・ミカ。
世界各地で格闘技の武者修行を続けている謎の大女のことを、格闘技マニアなら一度は耳にしたことがある。
その目的とは女子プロレスラーとしてデビューすること、とだけ伝えられてはいたがそれ以外は一切謎。
そんな謎に包まれた女が、今ここに何の予告もなく姿を現したというのか?
「そうッス!あたしはレインボー・ミカ!今日からプロレスラーとしてデビューすることになったッス!
あたしはこのプロレス界で全てのベルトを奪って、世界中のプロレス団体を統一する真の王者になるのが夢ッス!
それで手始めにこの団体を標的に決めたッス!チャンピオンは今すぐ出てきてあたしと勝負するッス!!」

 彼女がマイクで伝えた言葉に、会場はますます騒然となった。
「ふざけるなこの女!!寝言もたいがいにしろ!」
「女がうちのベルトに挑戦だと!?女が男子のリングに上がること自体が異常なんだぞ!!」
「しかも今日がデビューだってなめてんのか!冗談ではすまさねえぞ!!」
 若手の男たちはミカに怒声を浴びせながらぐるりと周りを取り囲んだ。
しかしミカはこんな状態でも何ら動じる気配を見せず、さも当然のことのようにさらりと言い返した。
「戦いに男も女も関係ないッス。ただあたしはこれからデビューする新人ッスから
始めに一番弱そうなこの団体から手を付けることにしただけッス」

 この言葉に男たちはついに切れた。
いつしか新関東プロレス所属レスラー一同がリング上に集結し、蜂の巣をつついたような騒ぎに発展していた。
口々に男たちがミカに怒鳴りつける。
「よ、弱そうだと!?」
「貴様、女だからって下手に出てりゃいい気になりやがって!」
「うちを侮辱する奴はたとえ女でもただでは帰さんぞ!!」
「なんならたっぷりかわいがってやってもいいんだぞ!」
「別にそんな怒らなくても、事実を言っただけじゃないッスか。ここにいるみんな、なんか小さくて細いし。
あんたたちほんとにプロレスラーッスか?大体口で文句言うだけなのが弱い証拠ッス。
小さい人がゴチャゴチャ騒いでたって、あんまり恐くないッス」
 その言葉には男たちは何も言い返すことはできなかった。
事実、この明らかに190cmオーバーの巨体と猛々しく盛り上がる筋肉をまとったレインボー・ミカを前にして
肉体面で正面から勝負を挑める男など1人もいないのだから。
インディ団体といえば聞こえはいいものの、所詮はメジャーになりきれないマイナーな地方団体でしかない
新関東プロレス。体格のいい選手は集まらず、選手たちは皆身長や基礎体力のなさを指摘されて
メジャー団体から門前払いを受けた三流レスラーの集まりといってよかった。いわゆるサラリーマンレスラーで
本当の意味でのプロレスラーのようなトレーニングは積む間がなく、ミカと比較しようものなら
まさに大木と割り箸ほどの違いがある。

 ミカの男たちを軽く見下ろしながら平然と嘲るその態度に、ついに1人の男が我慢しきれず掴みかかった。
「このアマなめてんじゃねえぞ!!」
 ゴッ!!
 次の瞬間、その若い男はコーナーポストに顔面から衝突して大量の鼻血を流し昏倒していた。
襲い掛かった男のジャージの襟首をミカが瞬時につかみ、力まかせに軽々と投げ飛ばしたのだった。
男の飛んでいく、そのあまりのスピードと衝撃に選手を含めて会場は一瞬凍りついた。
「な、なんだ!?何が起こった・・・?」

「こんなふうに、十分受身も取れないのは完璧に素人ッス。プロの資格ないッス。
・・・で?ここにいる人たちで全員ッスか?チャンピオン、出てきてあたしの挑戦受けるッス」
 コーナーを血に染めて完全に失神している男を無造作に蹴り落とすとミカは男たちのほうを向き直した。
「・・・ふ、ふざけるな!たった今入ってきたような奴に、しかも女の挑戦なんて認められるわけねえだろ!!」
「部外者は出て行けと言ってるんだ!!」
 仲間が一瞬にしてKOされたショックを必死に隠しつつ、男たちは口々にミカを追い返そうと罵る。
「強い者が王座を狙って何がおかしいんッスか?・・・ははーん、わかったッスよ。
もしかして、女に負けるのが恐いんッスね?」
 ミカは膝に両手を当てて中腰になり、男たちに視線を合わせて覗き込みながらニヤリと微笑んだ。
それによりミカの砲弾のようなバストが寄せられて谷間が男たちを睨みつけるように強調される。
年端も行かないはずの少女に子ども扱いされているような構図で辱められているのを感じながら、
普段女に縁のない生活を送る彼らには刺激の強すぎる情景だった。

 必死に欲情を振り払いながら男たちが反論する。
「な、なんだと!?このアマ、どこまでバカにすれば気が済むんだ!」
「女なんかと戦ったら男子プロレスラーの名折れだ!!」
「男のプライドにかけて女に手なんかあげられるか!」
「女ならおとなしく女子の王座を狙うんだな!怪我しないうちにさっさと帰りやがれ!!」
「女が恐くないって言うんなら男らしく挑戦受けて欲しいッス。男のプライドがあるんなら女に負けるの恐れて
逃げ回ってちゃダメッス。プロレスラーはいつ何時誰の挑戦でも受けるんじゃなかったんッスか?
・・・これだけ言っても出てこないんッスね。ここのチャンピオン、とんでもない腰抜けッス。
やっぱりあたしの思ったとおり、この団体って弱虫の集まりッス。明日から弱虫プロレスに改名したほうがいいッス」
「こ、この女、言わせておけば・・・」
「うーんどうしよう・・・そうッスねぇ・・・なんならここにいるみんなまとめて相手してあげてもいいッスよ。
ここにいるのが全員ならみんなやっつけちゃえばあたしが新しいチャンピオンなのは間違いないッスから。
それとも、本当のチャンピオンさんはあたしにブッ倒されるのが恐くてどっかに逃げちゃったッスか?」
「ここにいる全員相手だと!?貴様正気でもの言ってるのか!?」
「マジで潰すぞ、コラァ!!」
「そうやって口で言い返すしか能のない人ばっかりの弱虫軍団だからみんな一度に相手したって大したことないッス。
どうせ弱虫毛虫なんだから楽勝でつまんでポイッス」
 ミカは堂々とした口調で胸を張りながら男たちに蔑んだ言葉を容赦なく浴びせる。
まるで、何人もの男に取り囲まれるこんな状況など慣れっこであるかのように。
そんな彼女の自信に満ちた態度が男たちを逆上させた。
「いい度胸だてめえ!!ブチ殺してやる!」
「やっちまえ!!」

「待て!!」
 男たちが一斉に飛びかかろうとしたその瞬間、1人の男が輪の外側から一喝して止めた。
「ま、増岡さん・・・」
「増岡さん、なんで止めるんですか!こんなふざけた女潰しちゃいましょうよ!」
 血の気の多い男たちの輪を掻き分けながら、増岡と呼ばれた男がミカの前に歩み寄った。

 増岡啓三。昨年、この新関東プロレスの創始者で社長も兼任するレスラー。現チャンピオンでもある。
某メジャー団体に入門するも挫折して脱走、その後も夢は捨てられず地方のインディ団体で再デビュー。
その後紆余曲折を経てようやく夢だった自分の団体旗揚げにこぎつけたのだった。
まだ設立間もなくて資金面でも苦しく、所属選手は皆一般のサラリーマンと兼業しなければならない、
プロレス団体としては邪道とも言われる団体ではあるが、増岡にはこの団体を昔憧れて入門した団体なみの
メジャーな組織にするべく日々夢を持ってひたすらにプロレスを続けている。
そんな、この新関東プロレスに人一倍愛着を持つ増岡だから、今目の前にいる大女が自分の団体に土足で
上がりこんで好き勝手に侮辱することを黙って見ているわけには行かなくなったのだった。
「あんたがチャンピオンッスか?弱虫さんたちの」
「貴様、少々おいたが過ぎたようだな・・・」
「ま、増岡さんがわざわざ出ることはありませんよ。ここは俺たちにまかせてください。
こんなでかいだけの女、すぐに叩きのめして追い出しちゃいますから・・・」
「いや、俺が直々にこのお嬢ちゃんに世間の厳しさを教えてやろうと思ってな。
うちの団体に泥を塗ってくれた落とし前は、この俺からきっちりと付けてやらんとな・・・
来い、女。男の力というものをたっぷりと味わわせてやる!お望みどおり、ベルトも賭けてやるぞ」
 Tシャツを脱ぎ捨て、増岡は黒いショートタイツとリングシューズという戦闘体勢にはいった。
増岡の目は怒りに燃えていた。自分が人生を賭けている団体を弱虫の集まりとからかったミカへの復讐の念に。
「代表、女相手だからって遠慮なんてしないでくださいよ。こいつは俺たちをなめくさってるんです」
「この世間知らずのデカ女に、男と女の違いを思い知らせてやってください!」
「おい女、今さら許してなんて言うんじゃねーぞ。増岡さんに全身の骨折ってもらえ」
 増岡を除いて男たちがリングを降りていく。急遽決定した、男対女の真剣勝負のゴングが打ち鳴らされた。

「(見てろ、グラウンドでプロの、男の恐ろしさをその身に焼き付けてやる)」
 開始早々増岡の、アマレス出身らしい素早いタックルがミカの下半身を捉える。
そのままテイクダウンして寝技でじわじわとスタミナを奪うのが増岡の得意パターンだった。
両足を刈って、一気に引き倒す!
 ガッ!
「ん?」
「う!?」
 ミカの両脚を素早く捕らえたはずの増岡は焦った。
倒れない!!
今まで破られたことのない自慢の両足タックルが・・・いとも簡単に止められた!?しかも女に!
「これって・・・タックルのつもりッスか?もしかして」
 ミカは両手を腰に当てたままきょとんとした表情で上から問いかけてくる。
「そ、そんな・・・なぜ倒れない・・・?」
 客席から失笑が漏れるのが聞こえた気がして、増岡は恥辱に震えながら
同時に、捕らえたミカの両脚の逞しさに驚愕した。
自分の団体に所属する選手には存在しない、いや自分より、それよりこれまで対戦したどの男子レスラーよりも
太い太腿。ミカは女子レスラーなので肉付きが多少男子のそれとは違うが、内包する筋肉が並のレスラーの
硬さではないことは触れてすぐに思い知らされた。何という鍛え方であろうか・・・

「タックルなら、さっさと倒してみたらどうッスか?あたし、待ってあげてるんッスけど」
 ミカのその言葉にプライドを大きく傷つけられた増岡は必死になってその体勢からミカをダウンさせようと
渾身の力を込めた。
しかし、ビクともしない。
押しても引いても、ミカのドッシリした下半身は微動だにしない。まるで、リングに根でも生えているかのように。
少し離れて思い切り肩からぶつかっても、グラつかせることすらできない。ミカは笑みを浮かべたまま。
なぜだ!?増岡はドッと脂汗を額に浮かべた。
力を込めれば込めるほど、増岡のリングシューズがズルズルと音を立ててリングを空しく滑る。
「増岡、なにやってんだ〜!!」
「女になめられてんぞ!」
 観客からブーイングと笑い声が聞こえる。そんなバカな、こんなはずが・・・増岡の焦りは増していく。

「レスリングの基礎の、タックルもできないんッスか?情けないッスね〜。やっぱり素人の集まりッス」
 ミカの嘲る声が上から降り注いできて、増岡はとにかくいったん離れて仕切りなおそうとした・・・が!
「ぅ!?うぅっ・・・ぐぐぐぐ・・・」
「ほらほら、どうしたんッスか?がんばらなきゃダメッス」
 増岡は異変に気づき、心の底から焦燥した。・・・立てない!!
ミカが、上から片手で増岡の頭を押さえつけているのだ。
「いつまでそうやってしがみついてるつもりッスか?あんた、いやらしいッス」
「ぐ、ぐぉぉ・・・な、なんて力だこの女・・・」
 傍目から見ればミカの手は増岡の頭に軽く添えられているだけのようにしか見えない。
そのため、また観客やリングの周りの若手から増岡に対する叱咤や檄が激しく飛び交う。
「ただつかまってるだけか!なにやってやがる!!」
「しがみつくだけで何もしねーのか!」
「女に抱きついて気持ちいいから離れたくないだけじゃねえだろうな!?」
「増岡さん!しっかりしてください!!」
「代表、女なんか、早いとこ仕留めて放り出しましょう!遊んでる場合じゃありません!!」
 しかし、この体勢は当事者である増岡にしかわからない苦痛を与えていたのだ。
上から押さえつけてくるミカの手のひらは、時間の経過とともに次第にその圧力を増してきていた。
増岡は自らの首に渾身の力を込めて、脂汗で上半身をびっしょりにしながら必死にその重圧に耐えていた。
少しでも力を抜けば、その瞬間首の骨がへし折れてしまう危険に恐怖し、増岡は体中をプルプルと震わせながら
片方だけで自分の胴体よりも明確に太いミカの太腿にがっしりしがみついたまま動くことができない。

 と、次の瞬間ミカがその手をするっとずら増岡の額のあたりにずらして軽くトンと突き離した。
それだけで増岡はバターン、ゴロゴロと音を立てて紙くずのごとく突き飛ばされリングを転がっていった。
弱小団体とはいえれっきとしたプロレスラーであるはずの自分が、大きいとはいえ今デビューしたばかりだという
まだ幼い女の子を1mmたりとも動かすことすらできず、逆に軽々と数mも吹き飛ばされてしまう屈辱。
「女だからって手加減してくれてるんッスか、チャンピオンさん?優しいッスね。
でも戦いに情けは禁物ッス。遠慮なんていらないッスから早く全力でかかってきてほしいッス」
 何cmあるのか見当も付かないような爆乳を揺らしながらミカはのっしのっしと歩み寄ってくる。
彼女の言葉にまた自尊心を深くえぐられるのを感じながら、増岡は目の前の少女のあまりの怪力ぶりに
得体の知れない恐怖を感じ、怯えた。
「(つ、強い・・・一体何者なんだ、この女・・・)」

「あっ、何件かヒットした・・・ま、マジかよこれ!!」
 観客の1人が思わず叫び声をあげた。手持ちの携帯端末で、今リングに上がっている謎の少女、
レインボー・ミカを検索して調べたのだった。
「ひゃ、194cm、110kg・・・ベンチプレス390kg、背筋力330kg、握力115kg・・・ば、化け物だ・・・」
 その数字を立ち聞きした周辺の観客の間から異様なざわめきが起こった。
「男でもそんな力があるプロレスラーいないぞ・・・?」
「そ、その数値が本当なら・・・こんなうさんくさいマイナー団体の選手じゃ勝ち目なんてあるわけが・・・」
「ぁがああああああああああ!!」
 リングのほうから聞こえてきた悲痛な絶叫に、再び観客たちの目はハッとして戦いの場へと向けられた。

 悲鳴の主は増岡だった。彼の太腿よりも逞しいミカの豪腕が頭部に巻きつき完璧に捕らえていた。
「プロレスの基本中の基本、ヘッドロックッスよ。まさか、外せないなんて言わないッスよねぇ」
「はががが・・・が、が、が・・・」
 巨大な力こぶがボコリと盛り上がる上腕で増岡の頭蓋骨を強烈に圧迫しながら
ミカはその腕を円を描くようにねじって増岡を拷問にかけつつリング内を引き回す。
その股下の違いと頭蓋骨を今にも割られてしまいそうな圧迫の激痛で増岡の足はついていかず、
人形のごとくいいように引きずり回される。男として惨め過ぎる光景だ。
 増岡のまるで命乞いのような情けなく悲痛な叫びが、客の入りの悪い体育館にこだまし
増岡の頭から発せられるメリメリ、ベキベキといういやな音がリングサイドにまで聞こえ
きっと増岡がこの女を圧倒的に叩きのめしてくれるものと期待していた新関東プロレス所属のレスラー一同は
言葉と血の気を失い、ただ目の前の大きな少女の強さに焦り、怯えていた。ガチガチと歯の震えが止まらない。

「ねぇ、あたしと戦う前になんて言ってたッスか?男の力を教えてくれるって言ってたッスよね?
早く教えて欲しいッス。あれだけ偉そうなこと言ってたッスからほんとはめちゃめちゃ強いんッスよね?」
 メキ、バキバキ・・・
「ぐ、ぐぁぁぁぁ」
 増岡は苦し紛れにミカの脇腹めがけてパンチを繰り出すが、ポスッポスッと間の抜けた音が響くだけで
何の役にも立たない。ミカは腹筋も、こんなサラリーマンレスラーたちとは次元の違うハードなトレーニングにより
培われた、鋼鉄を超えた鎧と化しているのだ。逆に増岡のほうが、ミカの硬い硬い腹筋により
拳を痛めてしまったようだ。いまだヘッドロックは外れない。いやむしろその力はますます強まる一方だった。
「男と女の違いって、何ッスか?どうやって思い知らせてくれるのか、すっごい楽しみなんッスけど」
「た・・・助けて」
 増岡は頭蓋骨を粉砕されかねない恐怖と脳みそが破裂しそうな苦痛に発狂一歩手前となり、
ついには涙をこぼしながら蚊の鳴くような声で許しを乞い始めた。

「今、よく聞こえなかったッス。なんて言ったんッスか?もう一回、ちゃんと聞こえるように言って欲しいッス」
 ミカはさらにその絞める腕力を強めて増岡に問いただす。
ゴキッ、ミシバキ・・・
「ゆ、許して・・・もう助けて!」
 これまでの長いプロレス人生でも経験したことのない、命すら奪われかねない恐怖に男のプライドは崩壊。
デビューしたばかりの、年端も行かない少女の腕の中で・・・プロレスラー・増岡啓三は泣いて謝り始めた。
「助けて?助けてって言ったんッスか?・・・見そこなったッス。
あんたは仮にもひとつのプロレスの団体で最も強い男として君臨するチャンピオンじゃなかったんッスか?
今さっきデビューしたばっかりの女の子相手に、しかもまだ始まったばっかりッスよ?
ちょっとヘッドロックかけられただけで泣き出して助けてって・・・呆れてものも言えないッス」
 ミカはヘッドロックをいまだ緩めようとしない。増岡は泣き叫びながらミカの逞しい上腕をタップする。

「ふっ・・・ふざけるな!!こんな試合認められるか!!」
 リングサイドで試合を見ていた新関東プロレス若手の1人が、こんな屈辱に満ちた展開に我慢しきれず
リングに駆け上がり椅子を手にミカの背後から襲い掛かった。
それに続いてほぼ全員の選手がリングに上がってミカの元へ踊りかかろうとする。
自分の団体のトップが、乱入してきた女にあっさり負けたとあってはレスラーとしての面子は丸つぶれだ。
何とかこの女を叩き潰してこの試合をなかったことにしようとなりふりかまわず襲い掛かろうとしたのだが・・・
 ズガアァァァン!!
「ぐふっ・・・」
 ミカはその攻撃に素早く反応し、増岡から手を離すと振り向きざまにその豪腕でのパンチ一閃!
貫通して吹き飛んだパイプ椅子の座面が男の顔面を直撃、男は前歯を撒き散らし膝からマットに崩れ落ちた。
またも男が一撃でノックアウトされたその様子に、男たちの足はピタリと止まった。
ようやく解放された増岡もミカの足元にへたり込んだまま動けない。早くも虫の息だ。
「これは1対1の厳粛なタイトルマッチッス。男なら卑怯な真似しないで正々堂々と勝負するべきッス」
 リングの周りに陣取った男たちはミカに見据えられると、蛇に睨まれた蛙のように静まり返ってしまった。

「特別に、さっきまでのはなかったことにしてあげるッス。試合は最初からやり直しッス。
れっきとした男子プロレスラーが女の子にタックルも決められなくてヘッドロック1発で泣いちゃったのは
この際忘れてあげるッス。男のメンツとかいうのに一応配慮してあげることにしたッス。
やさしいッスよね、あたし」
 ミカはわざと客席にまで聞こえるような口調で男たちに屈辱たっぷりの言葉を投げかける。
これには今さっきまで泣いてギブアップしようとしていた増岡も恥辱のあまり怒りに火がついた。
「ゆ、許さんぞこの女!どこまでも俺たちをコケにしやがって・・・」
 増岡はいまだ頭蓋骨と拳に走り続ける痛みをどうにか隠しながら立ち上がり、ミカを睨みつけた。
「そう、そうやってあきらめないで最後まで戦うのが男の子ッス!えらいえらいッス〜」
 フラフラと立ち上がりやっとのことで構える増岡を、ミカは子供を褒めてあげるように拍手しながら見下ろす。
その完全に見下した態度に男たちから口惜しげな怒声が飛ぶ。
「お前たちは下がっていろ!この女だけは・・・俺の手で地獄に送ってやらなければ気がすまんのだ!」
 増岡はリングに入っている後輩レスラーたちを手で払いのけるようにリング外に出るよう促す。
何年と努力を積み重ねたレスラー人生を女子のデビュー戦で簡単に踏みにじられ
自分が苦労して作った団体をこんなまだ子供っぽい女に好き勝手に蔑まれる耐え難い屈辱・・・
自分1人の手で落とし前をつけなければ!この女を叩き潰してその忌まわしい記憶を消し去らなければ!
 その増岡の気迫を感じ取り、周りを取り囲んでいた若手の男たちは次々にリングを降りていく。
「代表、まかせました。あの女だけは・・・殺しちゃってください!」
「女にいつまでも調子に乗らせるわけにはいきません!増岡さん、お願いします!」
「言われるまでもないわああああ!!」
 余力をふりしぼり、増岡は目の前にそびえる巨大な壁のような少女めがけて突進していく。

「(化け物女め、これならどうだ!)」
 男が女に奇襲戦法を仕掛けるのはプライドが許さなかったが、もはやそんなことにこだわっている
場合ではなかった。ミカの胸板めがけて、増岡のドロップキックが放たれた。
 ドン。
「!!」
 次の瞬間、増岡はまたしても驚愕と焦燥にとらわれた!全体重を乗せたドロップキックが、キャッチされたのだ。
何が起こったのか把握しきる前に増岡の体は逆さ吊りにされていた。わけのわからない恐怖が増岡を襲う。
ミカは片手で増岡のキックを受け止め、そのまま片手で両足首を掴んで宙吊りにしていたのである。
「あたしはプロレスラーとして相手の攻撃は全て受け止めるつもりでいたんッスけど、あんたの技って
いちいち受けてあげる気にもならないような貧弱な技ばっかりッスね。基本がなってないッス」
「ひぃぃ・・・あ、あ、ぁ・・・」
 ミカは男子プロレスラー1人を片手でぶら下げたまま、笑みさえ浮かべて軽々と左右にブラブラ振ってみせる。
「それにしても軽いッスねえ。足首だってこんなに細いし。鍛え方から全然なってないッス。
あたしはデビューする前に、世界中で格闘家といろんなルールで戦い続けてきたッス。
毎日毎日、あんたの2倍も3倍も体重のあるような男の人を投げ飛ばして絞め落としてきたんッスよ。
あんたぐらいの体つきの男の人なら20人ぐらいまとめて相手してあげたこともあったッス。楽勝だったッスけど。
今度はあたしの番ッスよ。鍛えぬいた本物のプロレスラーの攻撃ってものを教えてあげるッス」
 ミカはそう言って、増岡を吊るしたままもう一方の手で拳を作りハァッと息を吐きかけた。
逆さまになりながらその様子を目に入れた増岡の顔が恐怖に引きつった。こ、こんな腕で殴られたら・・・
 ドッズゥゥゥン!!
「っぐぼぇ・・・」
 腕周り60cmに迫るミカの豪腕がうなりをあげ、増岡の貧弱な腹筋を貫かんばかりに突き上げた!
戦車の大砲の直撃を受けたかのように、増岡の細い体は大きくくの字に折れ曲がる。
それでもまだ逆さ吊りの刑から逃れることは許されなかった。ミカは増岡の足首から手を放さない。
ダラン、と力なく戻ってくる増岡。これまでに戦ったどの男からも受けたことのない重さのパンチの衝撃に、
1発で早くも白目を剥いて両腕が重力に従って頭上にぶら下がっている。

「プロレスラーの基礎はまず受けからッス。チャンピオンの座についてるほどの男の人なら当然、
女のパンチぐらい全部受け止めてみせてくれるッスよね?」
「ぁがが、そんな・・・やめ、ゃめて・・・」
 想像を絶する威力のボディブローを叩き込まれた増岡はまたしても瞬時に戦意を喪失していた。
しかしみぞおちを強烈に突き上げられて呼吸困難に陥っていた増岡の懇願の言葉は声にならず、
許しを乞う叫びはミカの耳に届くことはなかった。

 ドゥッ!!ドゥッ!!ドムッ!!ドムッ!!ドスッ!!ドンッッ!!
殴られるたび、増岡の貧相な体は90度以上折れ曲がり力なく大きく揺れ動く。
戻ってきて垂れ下がったところをすかさず拳で打ち抜かれ、口をパクパクさせて聞こえない悲鳴をあげる。
今日がデビュー戦の女子プロレスラーに片手で吊るされいいようにサンドバッグにされる男子プロレス王者。
格闘技の強さを象徴する立場など微塵も感じさせない哀れな光景である。
公式プロフィールで180cmと発表しているものの、実際はサバを読んでいて176cmでしかない増岡が
194cmのミカに楽々吊るされている構図もまたその惨めさを強調する。
「あー、また泣いてる〜。あんたたち、日ごろどれだけ痛くなくて楽なプロレスしてるんッスかぁ?
弱虫プロレスじゃなくて、泣き虫プロレスに改名ってのもいいアイデアかもしれないッスねぇ」
 虫ケラがあえぐようなか細いうめきとともに、増岡の目から大粒の涙がとめどなくマットに降り注いでいるのを
ミカが見つけておもしろがって嘲笑を浴びせた。
同時に会場の観客のうちごく少数の女性客の間からも、男子レスラーが女子に一方的に痛めつけられる姿を
クスクスと嘲り笑う声や陰口があがるのが、リングサイドの若手選手たちの耳に届き始めた。
「うっわー、女の子にボコられてる。なさけなーい」
「あれでもプロっていえるんだー」
「ほんとは、すっごい弱かったんだね〜。サイテー」
男のプライドをじわじわと破壊されていく、いたたまれない雰囲気が男たちを包んだ。
自分たちの中で最も強い増岡が女に叩きのめされていく焦りが男たちの胸をかきむしる。

「こんなどうしようもない泣き虫でも、一応はプロレスラーとして世間は見てるんッスね。
弱虫にプロを名乗られると、プロレス界全体が迷惑するッス!これはおしおきが必要ッスね!」
 ミカに両足をつかまれたまま片手で投げ飛ばされた増岡は猛スピードでコーナーポストに背中から激突。
激痛が全身を駆け抜け、増岡はまた間の抜けた悲鳴を上げた。コーナーにもたれたまま、起き上がれない。
そこにミカが悠然と歩み寄って見下ろしてくる。194cmの迫力が増岡を怯えさせた。
「ご、ごほっ・・・な、なにをする気だ・・・」
「試合らしい動きもできない、みっともない姿をさらすヘボレスラーには罰を与えないといけないッス。
男として、最高の屈辱技でおしおきッス!」
 その言葉とともにミカがその場でクルリと振り返って増岡に背中を向けたかと思うと、
次の瞬間、へたりこんでいた増岡の視界いっぱいにミカの丸みを帯びたヒップがじりじりと迫ってきて・・・

 ドンッ!むぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・
「む、ぐうううう!!」
「キャーッ!」
 増岡のくぐもった悲鳴と、女性客の蔑みを含んだ黄色い声がリングを包む。
「男子プロレスラー失格の罰として、女の子のお尻にキッスの刑ッス!」
 ミカのサイズ不明の超巨大なヒップが、増岡の顔を正面から完全に覆い尽くしてしまった!
「これであんたは誰が見たって女の子の強さの前に全面的に屈服した哀れな負け犬ッスね!
弱者は弱者らしくチャンピオンに敬意を表して、強いあたしのお尻に屈服の証をささげるッス!」
 ダメージが深く体の自由がきかない増岡を、ミカはお尻だけで組み敷いてしまった。
ミカはまた両手を膝に置いて中腰になると、その巨尻はまた一段と突き出される形となり
なおも強烈に増岡の顔面を圧迫、目も鼻も口もわずかな隙間さえ残さず塞いでしまう。
呼吸が一切許されない極限状態に増岡は両手を踏ん張り、情けなく両脚をバタつかせ暴れた。
誇り高いはずの男子プロレス団体のチャンピオンの面影はもはやそこにはなかった。
女の尻に敷かれ、窒息の恐怖に怯えて無駄な抵抗を続ける弱虫男の姿だった。
押し付けられ、揺すられるヒップとの間に一瞬わずかにできる隙間から、悔し涙が数滴こぼれ落ちる。

 今この体育館にいる全員の中で最も強いものとされた増岡啓三が、この新関東プロレスそのものが、
デビューしたての新人女子プロレスラーのお尻の下敷きとなりペチャンコに潰されようとしている。
たった1人の女に、制圧されるのだ・・・

 唇をかみ締めわなわなと震えるしかない、恥辱に打ちひしがれる周りの男たちの表情を楽しむかのように、
ミカは楽しそうな笑顔をのぞかせながら突き出したヒップを上下左右に動かして、また回転させるようにくねらせ
負け犬と認定した増岡の顔をおもしろがってもみくちゃに蹂躙する。
その圧力に、増岡の後頭部が当たっているコーナーポストが音を立てて軋み、揺らいでいる。
ミカのお尻キッス地獄から逃れようとする増岡の抵抗が時間の経過とともに弱まっていく。
頭蓋骨への圧迫と酸欠により、今にも失神のときが訪れようとしている。
女の尻の下で、KO負け寸前・・・もしそうなろうものなら、男子プロレス界前代未聞の醜聞だ。

 と、そこで突然ミカはヒッププレスを解いた。その瞬間崩れ落ち、ぐったりとダウンする増岡。
「おしおき完了ッス。少しは女の強さ、わかってもらえたッスか?」
 二つに分けた長い髪をかきあげながら、動けない増岡の目を覗き込みんで微笑みかけるミカ。
こうして笑顔だとマスクの上からもわかる、まるでアイドルを思わせる顔立ちの超美少女だ。
 と、そのとき、細かく震える以外には身動きが取れない増岡の様子を危険と察したレフェリーが
ミカとの間に割って入って試合続行の可否を確認しようとしたが、ミカは何を思ったかそれを許さず
「別にまだ終わったわけじゃないッス。じゃましないで欲しいッス」
 レフェリーの襟首をつまんで、コーナーの対角線まで丸めたティッシュのごとく軽々と放り投げてしまった。

「これは聞いた話ッスけど・・・プロレスで相手がろくに試合もできないようなつまんない奴だったら、
手加減なしで思いっきりブッ潰しちゃってもかまわないんッスよね?たしか。
リングに上がる資格のないレスラーは二度と上がれなくしてあげるのがこの世界の常識だって聞いたッス。
だから・・・あんたも覚悟するッス」
 かすかに痙攣し力なく横たわる増岡を見下ろしながら、ミカは両手の骨をボキボキと鳴らしながら微笑んだ。
「実は今まで、あたし力抜いて相手してあげてたのが大変だったッス。
レスリングなんてろくにできない素人の男の人相手にちょっとでも力入れたら死んじゃうかもしれないッスから。
でもそれはあくまで普通の試合としての話ッス。今からはこのプロレス界のために行う粛清の儀式ッス。
試合なんて甘っちょろいものじゃなくて、潰しだから・・・遠慮なくいかせてもらうッス」
 それまで余裕の微笑を絶やさなかったミカの眼が変わった。
まだ10代後半と思われる女の子のお尻の下敷きにされプライドを修復不可能なほど破壊されつくして
身動きの取れない哀れな男子プロレスラー・増岡啓三をミカは片腕を掴んで軽々コーナーから引きずり起こすと
その腕をすさまじい勢いで増岡の背後へと、可動範囲をはるかに超えたあたりまで一気にねじり上げた。
 ボキッ!ゴギィィィィィッ!!
「あぎゃあああああああああああああ!!」
 何のためらいもなかった。ミカは増岡の腕を情け容赦なくへし折り、肩を脱臼させたのだ。
とんでもない角度に増岡の腕がねじれている。増岡は声を限りに泣き叫び、マットをのた打ち回った。
ミカはまだ手を緩めない。転げまわって激痛にわめき暴れる増岡のそばに歩み寄ってトーキックを叩き込む。
 ドボォォォッ!!
 ベキバキバキッッッ!!
「ぅぐぇええええええええええ!!がは、ごぼっ・・・!」
 ミカの白いリングシューズが一切の憐れみもない力で増岡の脇のあたりに突き刺さった。
苦痛に顔をものすごい形にゆがめ泣き崩れながら、口から大量の鮮血をほとばしらせる増岡。
「肋骨のまとめて折れる音が聞こえたッスね。でもこんなもので終わりだと思ったら大間違いッス。
あんたみたいな半端者がリングに上がる気を二度と起こさないためには、完璧に潰さないとダメッス」
 増岡の薄い胸板を蹴り飛ばして無理やり仰向けにするミカ。そこにドンッと大きなお尻で乗りかかり、
完全に増岡の動きを封じてしまう。肋骨の折れた胸に110kgの重圧がかかり、増岡は悶絶した。
 ビシャアアアアン!! バッシイイイイイイン!!
「はがあぁぁ!! ぶぐぇええええ!!」
 返せる望みのないマウントポジションに捕らえられ、上からミカの巨大な手のひらが右から左から顔面を襲う。
風船が破裂するような打撃音とともに、グキッ、ベギィという音が響いてくる。
ミカのあまりの腕力のため、ビンタ1発1発で増岡の首はねじれるたびに関節が違えているのだ。
このままぶたれ続ければ増岡の首の骨は確実に折れてしまう。
リングサイドで戦いの、いや弱き男子プロレスラーの公開処刑の様子をただ見守るしかない男たちのもとに
赤い液体と小さな白い塊がパラパラと飛んでくる。その正体を確認した男たちの表情が恐怖にこわばった。
白い塊とは・・・増岡の歯だったのだ!ミカの往復ビンタが炸裂するたび、増岡の顔からは
鼻血と前歯、奥歯が右に左に飛び散っていたのだった。
それでも、気絶は許されない。デビュー前から海外で幾多の男を1発で眠りにつかせてきたミカの平手は、
今下敷きにしている増岡程度の小男ならなおさら容易に意識不明にしてしまえる威力を持っているのだが、
返すビンタで無理やり意識を呼び戻させているのだ。ミカが自分からやめる気になるまで、
この苦痛から逃れる術はない。凄絶な拷問である・・・

 ミカの張り手地獄からようやく解放された増岡の顔は既に原形をとどめていなかった。
青紫色に2倍近い面積にはれ上がり、毒々しい色のアンパンマンのような顔に変形させられていた。
目はストッキングをかぶって引っぱったように細く塞がり、涙と鼻血でグシャグシャ。歯は3本しか残っていない。

「立つッス」
 もはや完全に戦闘能力とその意思を失っているのは明白な増岡にも、まだ容赦はしない。
髪の毛を掴んで強引に増岡を宙吊りにすると、太腿の部分も掴んで高々と差し上げたミカ。
「はが、はががが、が・・・」
 増岡は男子プロレスラーとしてのプライドなどかなぐり捨てて必死の思いで女の子に慈悲を乞うが、
かなりの骨を叩き折られた激痛と歯を失ったことによりそれはまるで言葉にはならない。
いや、きちんと口が動いてもミカは聞く耳など持たないはずだ。
「レインボーバックブリーカー、味わってみるがいいッス」
「はぐ・・・ぐがああああああああああああああ!!」
 体育館の外までとどろきそうな増岡の悲痛な絶叫がこだました。
レインボー・ミカが独自に編み出した怪力殺法。
仰向けにした増岡の顎と太腿をわしづかみにし、背骨を力任せに軋ませる荒技だ。
普通にプロレスラーが使うアルゼンチンバックブリーカーと異なる点は、相手の体が
自分の肩の上に乗っていない点である。
つまり今増岡は、ミカのはるか頭上で高々と宙吊りの状態で背骨をへし折られんとしているのだ。
ミカほどの人間離れしたパワーの持ち主でないと到底できない、恐ろしい技である。
女の子に腕の力だけで空中に担ぎ上げられ背骨折りの拷問にかけられてしまうという、
男子プロレスラーとしてこれ以上の生き恥があるだろうか。
自分たちの団体のトップがそんな恥辱にまみれた技で泣かされている姿を、リングサイドの男たちは
とても直視できなかった。
「男と女の差?男の力と恐ろしさ?笑わせてくれちゃうッスね。こんなにヤワっちい骨してるのに!」
 ベキッ!!

 鈍く太い、いやな音とともに増岡の断末魔の叫びがとどろいた。
増岡の体が、へその辺りを頂点に・・・人体では考えられない角度で曲がっていた。
ミカは両腕の力だけで、増岡の背骨を二つにへし折ってしまったのだ!!
「まっ、増岡さーん!!」
「代表ーっ!!」
 男たちのうわずった絶叫が響いた頃には、増岡の体はミカの頭上で後頭部とリングシューズの裏が
ピッタリくっついていた・・・
 ドサンッ、という音を立てて二つ折りになったチャンピオンがマットの上に無造作に下ろされる。
悲鳴すら奪われてただとめどなく痙攣する増岡。折れて外された腕関節が力なくプラプラと揺れる。
「惨めな姿ッスね。まるで水から上げられてひからびたお魚さんみたいッス。
こんなに楽々ポッキンしちゃうレスラーなんて初めてッスよ。やっぱり素人の弱虫ッス」
 対戦相手にここまでの重傷を負わせてもなお平然と笑みを浮かべて嘲笑する巨大美少女プロレスラー、
レインボー・ミカの姿に選手、観客一同は血も凍る恐怖を覚えた。

「そろそろとどめッスよ・・・完全に潰してあげるッス。ペチャンコにね」
 もはや指一本すら動かせなくなってしまった増岡を蹴り転がして仰向けに伸ばすと、
ミカはその巨体にたがわぬ敏捷な動きで素早くコーナーポスト最上段へと飛び乗った。
「大サービスとして、あたしの必殺技で天国に送ってあげるッス。あたしってどこまでも優しい女ッス」
「な、何を仕掛ける気だ!?」
「まさか・・・増岡さん、やばい!あの体で飛ばれたら・・・」
 リングサイドの男どもが騒然となる。
ミカがコーナーの上で194cm、110kgというヘビー級のスーパーボディを揺すってはずみをつける。
バスケットボールを2つ入れたかのようなスーパーバストも同時に上下にコスチュームの中で暴れ、
こぼれ落ちそうな迫力に観客たちはある部分が総立ちとなる。
地方のマイナー団体らしい安いリングが壊れそうなほどにコーナーを揺さぶってから、ついにミカが飛んだ。
 ドオオオオオオオオオオオオォンッッッ!!

 マットが抜けてしまいそうな衝撃と轟音をともなって、レインボー・ミカの必殺ダイビングボディプレスが炸裂!
増岡の貧相な体はミカの巨体に全て埋め尽くされるように、110kgの全体重をまともに浴びてしまった・・・
哀れにもミカのヘビー級の肉体の下敷きとなってしまった増岡はミカのダイナマイトバストに顔をうずめた状態で
2度3度と大きく痙攣したあと、ついにはピクリとも動かなくなってしまった・・・
「もうカウントなんて必要ないッスね。あたしの、ノックアウト勝ちッス」
 ミカが増岡の上から余裕たっぷりの表情で立ち上がると、レフェリーが恐る恐る増岡を覗き込む。
糸のように細く塞がった目から眼球を飛び出さんばかりにひん剥いたまま舌を出して赤い泡をブクブクと吹きこぼしている。
意識はない。
「たっ・・・担架だ!!急げ!!」
 レフェリーは青ざめた顔で救急班を要請。同時にゴングがけたたましく打ち鳴らされた。

○レインボー・ミカ  5分10秒 失神KO(ダイビングボディプレス)  増岡啓三×

「これで、リングに上がるにふさわしくない中途半端レスラーが1人片付いたッス。
あたしはこれから全ての団体を制圧すると同時に、プロを名乗るに値しないヤワなレスラーは1人残らず
こうしてブッ潰しちゃうッスから覚悟しといたほうがいいッス!
・・・さぁ、あたしの勝ちッスからここのベルトはもらうッスよ。それから、さっき言ったとおりこの団体は
明日から弱虫プロレスに名前を変えること!新チャンピオンからの命令ッス」
 無様な負け姿をさらして失神している増岡を踏みつけながら、ミカはマイクで会場内に男たちに辱めの言葉を
容赦なくぶつける。

 と、次の瞬間団体所属のレスラー全員が一斉にトップロープをくぐってリング上に乱入、
十数名の男がミカを取り囲んだ。
「何かまだ用でもあるッスか?あんたたちも見たとおり、新しいチャンピオンはあたしに決定ッスよ」
「ふ・・・ふざけるな!こんな試合は無効だ!!」
「いきなり入ってきた奴にやらせてやるほどタイトルマッチってのは軽いもんじゃねえんだぞ!」
「しっかりと試合に向けた準備さえしていれば、代表は貴様ごとき・・・」
 男たちは担架で運ばれていった惨めな元王者をかばいながら、目の前で起こった悪夢のような事実を
必死に打ち消そうとしていた。女に王座を奪われる・・・男子プロレスラーとして、意地でも認めたくない現実だった。
「あんたたち、一番近い場所で見ててまだわからないんッスか?ここで寝てた男とあたし、どっちが強いかぐらい
誰が見たってわかりそうなものッスけど。強いほうがチャンピオン、当たり前のことッス」
「くぅぅ・・・女のくせに・・・女のくせに!!」
「女がチャンピオンなんて死んでも認めねえ!!ベルトは渡さん!」
 これ以上はいくら食い下がっても恥の上塗りにしかならないことは、男たちも十分承知していた。
しかし強さの象徴であるベルトを女に持ち去られるのを、男として指をくわえてみていることは
どうしてもできなかったのだ。男たちはミカを包囲する輪をジリジリと狭め、今にも一斉に飛び掛らんとしていた。
「ふぅ、ヤケになって認めないなんてあんたたちはそのへんの駄々っ子と大して変わらないッス。
なんなら、頭の悪いあんたたちにも十分わかりやすいように思い知らせてあげてもいいッスよ。
まとめてかかってくるッス。本当にベルトを巻くにふさわしいプロレスラーの強さってものを、
一人一人にわかるまで親切に叩き込んであげるッス」
 そう言ってミカは自信に満ちた微笑みを浮かべながら男たちを人差し指でチョイチョイと招いてみせた。
その態度に男たちは屈辱にまみれた感情をさらに逆なでされ、半ば狂乱状態で一度に女1人に襲い掛かっていった・・・

「この通り、ここのチャンピオンベルトはいただいていくッス。小さい団体らしい、ケチくさいベルトッスね・・・
返して欲しかったらいつでも取り返しに来ればいいッス。待ってるッスから。
あたしに勝ってベルト取り返すことができたら、新関東プロレスに戻すこと許してあげるッスよ。
もっとも、素人とそんなに変わらないあんたたちにそれほどの根性があればの話ッスけどね」
 リング上にあふれかえる、大の字になったまま動かない男たちを一瞥すると、本部席においてあったベルトを
取り上げてその広く逞しい肩に担ぎ、巨大に盛り上げて誇示した上腕の力こぶにキスして見せたミカ。
そして唖然とする客席を尻目に新王者・レインボー・ミカはまだ幼さの残る笑顔をのぞかせつつ、
それとあまりに不釣り合いな重戦車を思わせる超ド級の筋肉と爆乳を大きく躍動させながら引き揚げていった。

 突如現れた、素性のわからない部外者の女の子に全員完膚なきまでに打ちのめされチャンピオンベルトまで
持ち去られるという醜態を演じた、新関東プロレス改め弱虫プロレスは当然、この日をもって事実上崩壊した・・・


つづく





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