武闘家少女リューン


場所は聖王国の北方。そこは、普段誰も足を踏み入れないような険しい山道。時間は真昼。
一人の少女が、屈強な男たちに囲まれていた。
男たちはぐるりと少女を囲み、訝しげにその顔を見つめる。だが、少女は取り乱す様子もなく、落ち着いている。
「大将、こいつがほんとに例の、、、"神の腕"を持つ女、、ですか?」
斧を持つ男の一人が、頑丈そうな鉄鎧を着込んだ男に話しかける。
「そうだ。手配書どおりだ。間違いない。」鉄鎧の男は言い、こう続けた。
「見た目に騙されるな。こいつは今まで何千という人間をあの腕で殺している、、、」
斧の男は、まじまじと少女を凝視した。優しげな顔。流れるような黒髪。細い腕。華奢な体。
どこからどう見てもただの娘っ子だ。
服は武闘家の服装だが、とてもそこまで強そうには思えない。
「、、、あれが、ほんとに?」と、斧の男は疑問の声を上げた。

そこに、少女がおずおずと声をあげる。
「、、あの、、皆さん、何か私に御用でしょうか?」と、見た目どおりの優しげな声。
問いに、鉄鎧の男が答える。
「我々は傭兵団"獣の牙"だ。武闘家リューン・フレイヤという人物を捕らえるよう依頼されている。」
「はあ、、それ、私です。」と、のんきにリューンが答える。
「なお、生死は問わないと言われている。」と、鉄鎧が続ける。
「はあ、そうですか。それは穏やかじゃないですね。困りました。」と、またもやのんきにリューンが答える。
「また、私、」リューンが言葉を切る。口元にニヤリと笑みが浮かぶ。それは、悪魔の笑みだった。
「また、殺さなきゃならないんですね。めんどくさいです。」と、言った。
周囲の男たちに動揺が走る。さらにリューンは言葉を繋ぐ。
「だめですよ、いまさら焦っても。もう、泣いて謝っても許してあげませんから。」
「全員の顔覚えちゃいました。誰一人として逃げられませんから。覚悟してください。」くす、と、少女が笑う。

「ああ?ふざけてんじゃねーぞ、このアマぁ!」一人の男が飛び出した。
右手に持った長めの棍を真っ直ぐにリューンへ向ける。
「こいつをてめえのケツに突っ込んで犯してやろうか?ああ?」男が罵倒する。
「棒術ですか、、、まあ、せいぜいがんばってください。」と、リューンは鼻で笑う。
「うおおおお!」侮辱された男は一気に間合いを詰め、リューンの顔をめがけ突きを放った。が。
「遅いです。」それは信じられない光景だった。
男が両手で突いた棍を、顔に当たる寸前で、リューンは軽々と片手で掴んで止めた。
「な、、、、」男が焦る。(お、、おれの突きが見切られてる?)慌てて棍を引き戻そうとする。

しかし、がっちりと掴まれた棍はまるで万力で固定されているかのように、ビクともしなかった。
「どうしたんですか?コレを取り戻さないと戦えませんよ?」くす、と、また少女が笑う。
「、、、、、、、ッ!!」両手で引いても、押しても、捻っても。まるで微動だにしない。
(こ、この娘、、片手で、、、何て腕力だ、、)男の顔が青ざめる。
「もう、いらないんですか?じゃ、もらいます。」ぶん!とリューンは勢いよく棍を引き寄せる。
「ぐあ!」男はバランスを崩し、前のめりになる。
「あ、この棒、けっこう頑丈ですね。」
リューンはおもちゃを扱うように、ぐいんぐいんと、両手で棍を曲げてみせた。
そして、
「えい☆」バキィ!!と、大きな音を立てて棍は真っ二つに折れた。
(ば、、ばかな、、、鉄並に硬い黒杖棍が、、)男の顔がさらに青ざめる。
「じゃ、これ、返します。」と言い、リューンは一呼吸で、男のすぐ側まで跳躍した。
「はい、どうぞ。」
次の瞬間、リューンは残酷にも折れてギザギザにささくれ立った断面を、男の口の中に力づくで押し込んだ。

「ぐあああああ!!が、、、あ、、、」ビクビクと男が痙攣する。
が、リューンは笑みを浮かべ、さらに奥へと押し込む。
男は必死にそれを留めるが、腕力が違いすぎた。男の抵抗はまるで意味を成していなかった。
男の口から血と泡が溢れ出す。
「まあ、このへんで勘弁してあげます。」リューンは男の口から半ば突き出している棍を強引に引き抜いた。がくんと、男の体が崩れ落ちる瞬間。
「ふんっ!!」ドム!!リューンが放った腹部への右拳の一撃が、男を宙に舞わせる。
口から色々なモノを撒き散らしながら男は地面に落ちる前に、内臓破裂により絶命した。
「あはは、もうちょっと腹筋鍛えたほうがいいですよ。」
地面に横たわる男の死体を見下ろし、リューンは残酷な笑みを浮かべた。


「よ、よくも、、、」まわりの男達が憤る。この国では手合いは1対1が原則だ。どんな状況でも、例外は無い。仲間がどんなに劣勢でも手を貸すことはご法度だ。彼らはその怒りを自分の手で彼女にぶつけるしかない。
「次は、、俺だ!」曲刀を持った男が踏み出した。
「こいつで、お前を切り刻んでやる、、」ヒュンヒュンと、曲刀を回す。
「、、、、いくらよく切れる刃物を持っても、私には勝てませんよ。」腰に手を当てて、リューンが言い放つ。
「そんなもの、私にはカスリもしませんし、」ぎゅっと拳を握り締め、リューンが言う。
「私の拳のほうが、そんなものよりずっと強いです。」
じりじりと、男が距離を詰める。リューンの間合いを警戒しているのだ。ゆっくりと、相手の出方を伺う。
「、、、、はあ。めんどくさいです。いまからそっちへいきます。」
リューンは、スタスタと散歩でもするかのように、無造作に男に近づいた。
「もらった!」男の曲刀が閃く。リューンの左肩から斜め下に、袈裟切り。一刀両断。する、はずだった。
ガキン!と、地面を刀が叩く音。一瞬の間に、リューンの姿は消えていた。
「こっちですよ、こっち。」とんとんと、男の背中をリューンが指で叩く。
「!!」男が振り向く。が、既に遅かった。リューンの右手が、男の右手を、刀を持っている手を掴んでいた。そして、力いっぱい握り締める。
「ご、、ごおおおおお!!」メキメキと嫌な音を立てて、男の手から刀が落ちる。
「柔らかい手してますね。私の手とは大違い。」くすくすと、リューンが笑う。男の右手は既に壊れていた。
指は曲がり、内出血で真っ赤に腫れている。
「私の手、見かけよりもけっこうゴツゴツしてるんですよ。鍛えすぎちゃたみたい。」
手を押さえてうずくまる男の首を、そっと右手で掴んだ。そのまま、上方に片手で持ち上げる。
男の足が地面から離れる。
「は、、、はな、、、せ、、、、」男が必死に言葉を搾り出す。が、リューンは。
「何か、言い残すこと、あります?あなたは今から、私に首の骨を片手で握り潰されて死ぬんです。」
笑いながら語りかけた。
「、、、や、、やめ、、、」男の顔がだんだんと赤くなっていく。
「ねえ、どんな気持ちですか?今から、16歳の少女に片手で殺される気分は。」くすくすと、リューンが笑う。
「、、、、、ぐ、、、」男の反応が鈍くなってきている。呼吸ができない。
「私が何で、"神の腕"って呼ばれているかわかります?」リューンが問う。
「私、こう見えても、世界一腕力が強いんですよ。びっくりでしょ。えへへ。」
リューンは本気で、思いっきり右手を握り締めた。メキメキと骨の砕ける音ともに、男が動かなくなる。
首の骨ごと頚椎を破壊され、男は死んだ。どさりと、地面に男を片手で投げ捨てる。
「次は、誰ですか?」


「、、、、俺だ、、、」男がリューンの前に立ちはだかる。大きい。まさに巨人だ。
背も、体重も、リューンの倍近くはありそうだ。
「仲間達の恨み、、思い知れ、、」男が構える。鋼鉄の手甲を両手に嵌めている。
「あらあら、あなたも武闘家なんですか。」リューンが興味を示す。
「じゃあ、それなりのおもてなしをしてあげないと。」ニヤリと、リューンが笑う。
「、、、、、、、」男は答えない。替わりに、地面を蹴りつけ、砂をリューンに浴びせる。
「きゃっ」リューンが小さな悲鳴をあげる。その瞬間、男は猛牛のように突進していた。
そのまま、その巨大な体をリューンに叩きつける。そのまま地面に、、、、が。
「、、、、、、、、、!」男は、目を疑った。あの強烈なタックルを。渾身の一撃を。リューンは受け止めていた。
「あの、何がしたいんですか?」リューンは仁王立ちで、そこいた。ただ、立っていた。
「な、、、」男が狼狽する。だが。いくら押しても、まるで動かない。
この細い腕に。細い足に。小さい肩に。これほどの力が、、
「あ、そうだ。」すばやくリューンは男の手を取る。両手ががっちりと組み合わされる。
「力比べしましょう。あなたが私に腕力で絶対にかなわないって、思い知らせてあげます。」
そういって、リューンはゆっくりと両腕に力を込め始めた。
「ぐ、、、、」男もそれに答える。
「ほらほら、まだまだ序の口ですよ。」さらに、リューンが力を込める。
「ぐぐ、、、」男もなんとか持ちこたえる。
「な、、何て力だ、、娘、、」男が、リューンに問う。
「しゃべる元気がまだあるんですね。おじさん、結構強いです。
まあ、私たちに比べれば、、どれも同じですけど。」さらにリューンが力を込める。
「こ、、この、、細い、、腕の、、どこに、、力が、、、」男の腕が震え出す。限界だった。
「まあ、鍛え方が違いますから。ぜんぜん。体の作りが根本的に違うんですよね。筋肉の強さとか、骨とか。」そういって、さらに。力を込める。
「、、、、、、、、」男はもう限界だった。がくがくと、体が震える。足がすくむ。
「まあ、しょせんこの程度ですよね、やっぱり。」
「この程度の力しかないくせに私に勝てると思ったんですか?」
「そんなでかい図体して、情けないですよ。」リューンが男を侮蔑する。
「、、、、、!」男は賭けにでた。ツバをリューンの顔めがけて吐いたのだ。
「やっ!」リューンの手が外れる。チャンスだ。男は渾身の鉄拳を、リューンの顔面に放った。ガキイイン!!!

金属音。そして、砕け散った鉄甲。激しい痛み。男の右手はグシャグシャに破壊されていた。
「おおおおおお!」男が叫ぶ。リューンは殴りかかってきた男の拳に、自分の拳を重ねたのだ。
「私の拳のほうが硬かったみたいですね。」くすくすと笑いながら、
リューンは硬く硬く握り締めた拳を男に突き出した。


「そもそも、そんな鉄甲に頼るなんて、武闘家として恥ずかしいとは思わないんですか?
己の武器は肉体のみ、でしょ。まったく。」リューンが言い放つ。が、激痛に身をよじる男に届くはずもない。
「まあ、その武器の肉体が、そんなに貧弱では道具に頼るのもわかりますけどね。」リューンが男に近づく。そして。
「さて、、、私の顔にとんでもないことをしてくれたあなたには」男の襟元をぐっと、掴む。
「たっぷりとお礼をして差し上げないと。」そして、悪魔の笑みを浮かべた。
「どんな死に方がいいですか?全身の骨を一本一本折っていくとか。首の角度がどこまで曲がるか実験するとか。
あ、股裂きとかも面白いですね。」ニヤニヤと、リューンは笑いかける。
「た、、助けて、」男は蒼白な表情で、リューンに懇願する。
「だめ♪」
リューンは硬く握った右手を、高々を振り上げ、一気に男の頭部に振り下ろした。
ガン!
さらに振り下ろす。
ガン!ガン!ガン!ガン!
さらに。さらに。何度も。何度も。
男の頭頂部がべっこりとへこんでいく。既に意識は無い。が、止まらない。
「はい、とどめ。」最後に強烈な一撃。
グシャ!!
男の頭は砕け、血と脳髄が飛び散った。
「脆いですね。ほんとに。」ぽい、と男の死体を地面に投げ捨てる。

「み、、みんな、やっちまえ!」もう、なりふりかまってはいられない。男達は一斉にリューンへ襲いかかった。
「あは、そんなに死にたいんですか、、そうですか。」リューンの目が細くなる。そして。その血塗られた両手を。

構えた。
それは地獄だった。あまりにも力の差が大きすぎた。リューンは撫でただけで、男達を絶命させることができた。

指で心臓を一突きにされたもの。両腕をもぎ取られたもの。顔面の半分を吹き飛ばされたもの。かなうはずもない。
逃げ出したものも何人かいたが、すぐに追いつかれ、後ろから首をつかまれ、あるいは後頭部をつかまれ、
殺されていった。リューンにとって、男達はただの、狩られるだけの獲物だった。

「さて、みんな死んじゃいました。まあ、私が殺しちゃったんだけど。」リューンが笑いかける。
唯一生き残された、鉄鎧を着た男に。
「お、、お許しを、、」男は命乞いをした。地面に土下座した。この少女はバケモノだ。
まわりには、仲間の死体。死体。死体。
血で真っ赤に体を染めながら、自分に笑いかけているこの少女は。人間ではない。
「どう、私、強いでしょ。」ぐっと、両腕でガッツポーズを取る。だが、その細い腕には力瘤のかけらも浮き出ない。

細い、ただの少女の腕だった。
「まあ、あなたたちじゃ私にはぜったい勝てないです。力のケタがふたまわりは違いますから。」すっと、男に近づく。
そして、男を、鉄鎧を着込んでいる男を。優しく、抱きしめた。
「抜け出せないでしょ。」抱きしめる。強く、強く。金属音を立て、鎧がひしゃげていく。男の断末魔も、無視して、強く、強く、抱きしめる。
「あなたは、弱いから死ぬんです。もっと強ければ、今、この瞬間、助かったかもしれませんね。」
強く。強く。抱きしめる。「今度生まれ変わったら、もっと体を鍛えておいたほうがいいですよ。」
強く。強く。ギギギギギと、鎧が音を立てて変形していく。男の声はもう聞こえない。
「まあ、いくらあなたが鍛えても、ムダですけどね。」強く、強く。そして、最後に、一気に力を込める。
グシャリ。と。嫌な音。ガシャン!リューンが手を離すと、地面に鉄と肉の塊が転がった。
「それじゃ。ごきげんよう。」
少女が去ったその後には。11体の肉塊だけが残されていた。






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