■21世紀の男女関係(青春編)

第2話 長身の転校生

 その日の朝のホームルームの時間、剛の3年C組に女子の転校生が紹介された。
肩にかかるストレートヘアの黒髪が印象的な長身の美少女。
学級委員長の剛をはじめ、クラス中の男子の目つきが一瞬にして輝いたのは言うまでもない。
「松永真由美です。みなさんと早く慣れて仲良くしたいと思います。
趣味は読書とスポーツならいちおうなんでも得意です。よろしくお願いします」
 スレンダー美人なところは今朝の1年生・亜沙美とも共通しているが、さすが3年生だけに、もっと大人びた落ち着きがあって、
日焼けしたうなじやスラリと伸びた引き締まった脚からは健康的な色気が発散されていた。
剛より少しだけ背の高い真由美は剛のすぐ後ろの席に座ることになり、掃除当番などは剛と同じ班になった。
「へぇ、剛くんって学級委員長なんだ。よろしくね」
 真由美はすぐに声をかけてきた。
そのため、ホームルームの後の英語の時間は、色めき立った男子生徒が真由美のことで何かとメモを回覧してくるので、
剛は落ち着いて授業が受けられないほどだった。それほど真由美はクラスの男子をくぎづけにしてしまった。

 次の授業は体育だが、女子の担当教師がインフルエンザで休んだため、男女合同で行なうことになった。
体操着姿の男子と女子が体育館に集まった。
男子は女子の短パン姿、特にひときわ脚の長そうな真由美の美脚を拝めることを期待したが、
5月にしては肌寒い雨の日だったので、みんな下半身はジャージ姿で現れ、男子は落胆していた。
 授業は、男子担当体育教師の山田が跳び箱をやらせようとしたが、女子たちが先週やったばかりと猛反発し、
結局バレーボールの男女対決となった。
 バレーボールの男女の対戦はこれまで3回とも男子が女子に圧勝していた。
だが3回負けたといっても、このクラスの女子にはバレー部の部員が3人いて、
トス回しの上手さなら、男子に決して劣ってはいなかった。
そこで女子たちはスポーツ万能だと言う転校生、真由美の力を借りて今度こそ一矢報いようとしていた。
 それでも
「女が男に勝てるわけないだろ。ひとり入ったところで変わんねえよ。愚かなやつらだよな、女子は」
と男子バレー部に所属し、クラス一のスポーツマンである鈴木拓哉は女子にも聞こえるような大声で笑っていた。
 剛だって同じように思っていた。 

 いよいよ試合開始!
 試合は授業なので変則的に6人制ラリーポイント15点の3セットマッチで、男女とも交代は自由だが、
かならず全員が参加するというのがいつものやり方だった。
 しかし注目の真由美は女子たちにフル出場をうながされながらも、
「みんなが公平に試合に出なくちゃ」
と遠慮して、最初のセットは控えでのスタートとなった。
 男子もエースの拓哉を温存したが、やはり着実に点を積み重ねていった。
バレー部以外のメンバーは男女ともに細かいミスが多い。それでも男子の方が勢いがあった。
あっという間に第1セットは10対4と男子の一方的なリードとなり、
女子の学級委員の高坂玲子がしびれを切らして真由美に出場をうながしたが、真由美はなぜか固辞して出なかった。
 第1セットが15対5で終わると、男子たちの間に余裕の笑みが洩れた。
「あの転校生、運動はなんでも得意ですなんて言ってたけど、バレーは苦手なんじゃないか?」
「まあ出てきたら、せいぜいお手並み拝見といこうぜ」。
 男子たちは、せせら笑っていた。


つづく





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