■21世紀の男女関係(青春編)
第3話 拓哉vs真由美

 第2セット、ついに真由美は最初からコートにあがった。
すると女子たちの意気が上がった。ほかの女子も元気になり、動きの悪い男子のスキをついて先取点をあげる。
真由美のうまいサーブでもう1点連取し、0対2。しかしそのあとはトス回しが乱れて、
たちまち男子が5点を積み重ねて5対2と逆転した。
ここで男子チームがいよいよ拓哉をコートに投入すると、剛たち男子はもう勝ったも同然と、士気があがった。
拓哉の強烈なスパイクが女子コートに! だが真由美を含めて誰も動けずに6対2。男子たちはガッツポーズする!
「よし、みんな、どんどんオレに集めていいぞ!」
拓哉が得意げに叫ぶ。立て続けに拓哉の強烈なスパイクがまたまた女子コートにつきささった……はずだった。
だが気がついた時、主審をつとめる山田の手が女子側にあがっていた。
拓哉の打点の高いスパイクが真由美のブロックに跳ね返されたのだった。
「まさか!176cmの俺のスパイクはバレ−部でも100発100中に近い決定率なのに…」
 拓哉は信じられない!といった様子ながら、試しにもう1本打ってみることにした。
だが結果は同じだった。拓哉が跳んだ瞬間、コートを挟んで目の前の真由美が信じられないようなジャンプ力で拓哉の高さを越え、
楽々とスパイクを跳ね返してみせた。今度はブロックしたボールが男子コート内に落ち、
ボールを追った男子たちがコケると女子ベンチから一斉に歓声があがった。
真由美のブロックで2点差まで追いすがると、真由美自らが女子キャプテンの玲子に合図をしてタイムをかける。
玲子と真由美を中心にして女子全員が円陣を組んだ。
 男子たちも円陣を組む。だが切り札である拓哉のスパイクが決まらないことで浮き足だつ男子たち。
「見たか、すげえジャンプ力だったな。あのブロックじゃ、松永が前衛にいる限り、誰のスパイクも決まらねえぞ」。
焦るメンバーに拓哉が言う。
「大丈夫だ。ブロックだけじゃ、勝てねえってことを女に教えてやろうぜ」。
剛が続いて言った。
「フェイントで松永以外を狙って、あいつを早く後衛に下げれば勝てる」。
 拓哉は剛に次の作戦を耳打ちした。

 だが、円陣を解いてコートに戻ってきた女子たちは、すっかり自信の表情だった。
剛は長身の松永真由美を見た。背は170cmちょっとありそうだが、
それでもあのブロックの高さと正確さは男子顔負けの運動神経とジャンプ力を秘めているに違いない、と思った。
次のチャンスボールが男子コートにあがった。が、今度は拓哉が打つと見せかけて、剛がフェイントをかけた。
強打の拓哉をマークする女子のスキをついてボールを落とす作戦だった。
だが信じられないことに、バレー部の萩原美紀がなんなく拾ってしまう。
それをセッターの玲子が高くトスする。そこにいたのは真由美だった。
“バシッ!”
 真由美の腕が振り下ろされると、力を乗せた強烈なスパイクが拓哉に襲いかかった!
拓哉は「うわっ!」と情けない声をあげて、スパイクの直撃を受け、コートにひっくり返った。
それは目にも止まらぬような早さだった。女子のコートでは、真由美が高々と手を揚げガッツポーズ、
歓声をあげた女子たちが真由美を囲んで盛り上がった。
拓哉は「信じられない」という顔でよろよろと起き上がった。その拓哉をすべての女子が憐れむように見つめていた。
剛はふたたび真由美を見た。
と、真由美はうしろ手にサインを出し、次のフォーメーションを指示しているではないか。
さっきの剛のフェイントを美紀が楽々カットしたのも、すべて、次の動きを真由美に見抜かれていたのだ。
あせる剛たちを真由美は涼しい顔をして見つめている。
次のボールも剛のフェイントだった。だが、また同じようにカットされ、再び真由美にボールがあがる。
“バシーッ!”
「わっ!」
 もうひとりのバレー部員・田中俊夫も真由美のスパイクに歯が立たなかった。
ならばと拓哉がまた力を込めたスパイクを打ち返すが、これも分かっていたと言わんばかりに真由美は
軽々とブロックで跳ね返してくる。

 男子チームは1点も取れなくなり、フォーメーションもガタガタでパニックになってきた。
逆に1点、また1点と、真由美は威力十分のスパイクをコートの隙間ではなく、ライト側から順に、
男子の正面めがけて狙い打ちしていって、恐怖心を植え付けていった。
「あっ!」
「痛っ!」
「うわっ!怖え〜よ」
 男子たちは次々と悲鳴のような声を発しながら、コートに這いつくばるしかない。
そして次は剛が狙われるという時、なんと真由美は剛を見てウインクした。
「委員長、次はあなたに強烈な一撃が行くわよ。心構えはいい?」
と言われているようで剛は身震いした。
 そしてついに……ボールを追う剛の目の前で真由美が高々と華麗に舞い上がるのが見えた。
と、跳び上がった彼女は上から剛を威圧するように鋭い目つきでにらみつけ、右手を振り下ろす。
次の瞬間、そのスパイクのものすごい威力に、剛も例外なくコート上に踊らされた。その時、
「おい、剛、しっかり取れよ!」
 興奮した拓哉が思わず発した言葉に「何っ!」と剛が食ってかかって喧嘩寸前になったが、
もはや余裕の女子たちがネットの向こうから冷ややかに笑っているのを見て、あまりのみじめさに怒りを沈めた。
 だが本当に真由美の放つスパイクの衝撃は、これまで何度も受けたことのある拓哉の渾身のスパイクを
超えていることは明らかだった。こんなスパイクを打てるなんて、真由美はどんなしなやかなバネの持ち主なんだろう。
そして撃つ瞬間に、しっかりと獲物を見据えるような真由美の表情は、スポーツ万能少女の自信を感じさせる迫力だった。
 なすすべもなく男子たちは真由美のパワーに牛耳られていき、第2セットはたちまち6対15で終了した。

 男子は第3セットも2対15で完敗した。
 だが点差にも増して屈辱的だったのは、真由美に徐々に手加減されていったことだった。
すべての選手が、剛も含め、拓哉までが、次第に狙い打ちのスパイクに、無意識のうちに身体が逃げていった。
 女子のなかには、その滑稽な姿を見て露骨に指さし、笑う者すらあらわれた。
それを察した真由美がスパイクを手加減しはじめたのだ。
だが威力のないスパイクでも、真由美が打つだけで男子はほとんどレシーブミスし、自滅していった。
それほどまでに真由美に対する恐怖心が高まっていたのだ。
「よし、セットカウント2対1で女子の勝利! ハハハ、男子は全員、真由美には頭があがらんなぁ」
 山田が総括すると、女子は全員大騒ぎ。
「男子なんて、ただ威張ってるだけじゃない。どう? しょせん真由美の敵じゃないわね〜」
と玲子が勝ち誇ったように言うと、はしゃぐクラスメートたちのなかで、真由美はひとり恥ずかしそうに笑っていた。


 つづく





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