■21世紀の男女関係(青春編)

第5話 スーパーウーマンの両親

思いがけない真由美と亜沙美の訪問に、剛も武史も面喰らっていた。
とりあえず2階の剛の部屋に上がってもらい、4人で車座になって紅茶を飲みながら、お互いのことを話した。
剛は心のなかで「そうか、ふたりは姉妹だったんだ、どうりでふたりとも運動神経がいいわけだ」と納得していた。
ふたりが男勝りな少女なのは分かっていたけれど、こんなかわいい美人が一度にふたりも部屋に来て、いまはとにかく夢見心地だった。
「今日はちょっとやりすぎちゃったわね。私、スポーツだとつい熱くなっちゃうから」
と真由美。
 すると「何? 何かあったの?」と武史が興味を持つ。
「体育の時間に、バレーボールで男女の試合があって、
お姉ちゃん、得意のスパイクで男子全員をコテンパンにやっつけちゃったんだってさ…」
 亜沙美がばらすと、武史は「えっ、女に負けたの? ありえないよ〜。アニキのクラスの男、だらしねえな」と笑った。
確かに兄弟でも、剛より武史の方がスポーツはできる。弟の武史は小学校では陸上の地区選抜選手として大活躍したのだ。
これから中学でも記録を伸ばすに違いない。
「じゃあ、今度は剛くんのかわりに武史くんが、うちのクラスの男子チームに入ってよ」と真由美がいう。
「武史くん。でも、お姉ちゃんのスパイクはホントにこわいよ〜」と亜沙美。
「僕は平気ですよ。アニキと違うもん」
「武史くんは、なんのスポーツやってたの?」亜沙美が興味深そうに聞いた。
「ずっと陸上だよ。でもスポーツだったら、だいたいなんでもOK」
「記録はどのくらいなの?」
「男子の記録を数字で言ってもわからないと思うけど、100m走が13秒8、走り幅跳びが4m25で、これは去年の学年の1位なんだ」
と、いつも落ち着いている武史が今日は妙に得意げにいう。それだけ亜沙美にアピールしたいのだろう。
 だが、それを聞いた亜沙美が真由美に何ごとか耳打ちすると、ふたりは顔を見合わせてクスクスと笑い、
その話題はあっさりと終わってしまった。やはり数字で言ってもピンとこなかったようだ。
「それにしても驚いたわ、昨日あたしを見てた3年生と武史くんが兄弟だったなんて…」
「なに? アニキ、もう亜沙美ちゃんのこと、知ってたの?」
「う、うん」
剛は体力テストで亜沙美を見かけたことを武史にまだ話していなかった。
「意地悪だなあ」
「いや、こうやって話したのは今がはじめてだよ」
剛は必死に弁解した。

 確かに先週の体力テストで見かけたときから、この魅力的な1年生のことが気になってはいたが、
武史に訊ねたりすると、なんとなくおちょくられるような気がして黙っていたのだ。
「アニキ、いつ会ったのさ?」
武史は気になるらしい。言い淀んでいると亜沙美が答えた。
「先週の木曜日に学校でよ。授業に出たのは今日からだけど、
父と職員室にご挨拶にいって、その帰りにみんなはもう済んでしまってたけど、体力テストだけ受けていきなさい、って。
その時に3年生のテストとちょうど一緒だったのよ」
「でも、その時は確か、真由美ちゃんはいなかったよね」
「あたしは遅れてこっちに来たから。あたしたち姉妹なんだけど、別々の場所からここにきたのよ。
いろいろあって、ここ数年、母はアメリカで仕事をしていて、私は母と一緒にカリフォルニアに、妹は父と横浜にいたの。
でも姉妹一緒に暮らした方がいいっていう母の提案でここに引っ越して来たわけ。私だけが数日遅れて東京に来たの」。
「さっきも父一人って言ってたね。それって、ひょっとして御両親が離婚したってこと?」
「そうじゃないんだけど、母の仕事が重要なの。とある会社の社長をしていて、いま事業が北米で急成長しているの。
で、大事な時だからアメリカを離れられなくて」
「すごいお母さんだね。どんな事業?」
「ひとことでいうと女性をターゲットにした健康事業ね。サプリメントとかスポーツジムとか。
母はもとプロスポーツ選手で、そういう知識が豊富だったから、引退後にそういう世界に飛び込んだのよ」
「へえ、すごい。どおりで二人とも運動神経に恵まれてるわけだ。でもお父さんは小柄だね」
「父はかわいいでしょ、中1の妹が168cm、中3の私が172cmあるのに160cmしかないのよ(笑)。
あれでも東大卒のエリート経理士で、母の所属してた実業団バレーボール・チームの専属経理士だった時に
エースだった母に憧れて猛アタックしたんだって。それはゾッコンだったみたいよ。
母は現役引退後、父から学んだ起業ノウハウで独立して会社を起こし、父は母の会社のマネジメント・パートナーになり、
母の会社が大きくなった今は日本部門のマネジメント担当をしてるわけ。だから日本を離れられないの」
「でもお母さんが社長だったら、日本担当からアメリカ担当に配置変えをしてあげれば、家族一緒にアメリカで暮らせるのに」
「アメリカのビジネスにはアメリカ人の担当者の方が向いてるって、母が向こうに呼びたがらないのよ。
でも本当は別に理由があるの。母は恋多き人で、美人だし身体も欧米人並みに大きいから、
アメリカでも多くの男性に求愛されて、実は向こうにもいっぱい彼氏がいるの。
だから父を日本に置いてあっちで結構楽しんでいるの。父も、最近薄々気づいてはいるんだけど…」
「お父さんは知ってて怒らないの?」
「だって、今や父の地位は社長である母が支えているわけだから、面と向かっては逆らえないのよ。
それに父はなんだかんだ言ってもモデルのような母にゾッコンだし。私たちも父に同情はするけど、
正直いって、母のような“自由で強い”生き方に憧れてしまうから、父が許すならいいかって思ってしまうのよね」
真由美と亜沙美の話は、剛と武史にとっては別世界のような話だった。

 二人の母は174cmの美人だという。160cmの男にとっては確かに憧れの存在かもしれない。
そして剛は、目の前の真由美と亜沙美にも母親ゆずりの男子を惹き付ける魅力があると感じていた。
「二人ともお母さんの遺伝子が強いとしたら、恋多き女になったりしてさ」と剛がからかうと、
「うふふふ」と顔を見合わせて嬉しそうに笑う二人。
というのも、剛はこの部屋に二人が入ってきたときから、真由美と亜沙美の存在感に圧倒されていたのだった。
 学校での二人は、かっちりとしたブレザーの制服を着ていたせいか着やせして、長身でスレンダーという印象が強かったが、
いまは違う。身体にフィットしたTシャツ姿の二人の身体には中学生とは思えない迫力があった。
中1で、まだ比較的細身の亜沙美でも、よく見ると、横に並んだ武史よりも肩幅があって背中も大きい。
中3の真由美は亜沙美をもうひとまわり大きくした感じだ。
 正座していた二人はやがて、「しびれちゃった」と言って、長い脚を剛たちの目の前に無防備に投げ出してきた。
その驚くべき長さと足の大きさに剛も武史も思わず見とれてしまう。
すると真由美が先んじて言った。
「どうせ、大きい足だなとか思ったんでしょ。でも26cmぐらいなのよ」
中3女子で26cmだったら、じゅうぶん大きいのに…! だが聞くと、中1の亜沙美も、もう26cmあるという。
さらに、亜沙美はジーパンだったが、
真由美の方はジ−ンズ地のミニスカート姿で、裾からスラリと伸びた陽に焼けた脚がたまらなく眩しかった。
そして、遠目に見た細い印象とは違って、裾から覗く太腿は驚くほどに太く、
発達したふくらはぎからキュッと細く締まった足首までのカーブが際立ち、ものすごい迫力だった。
美しいといってもアイドル雑誌のグラビアで見るようなものではなく、鍛えられたスポーツウーマンらしいカッコいい脚。
そんな真由美の脚の迫力に、剛はわけもわからずアソコが固くなった。
あれ?どうしたんだろう?と思うが、抑えようにも抑えられない。股間がふくれあがり、ヤバイと手で必死に隠す。
すると剛の異変に気づいた真由美が、亜沙美や武史が見ていないうちに、サッと剛の股間にふきんを投げて合図する。
剛は股間をふきんで覆い隠した。
真由美は「しっかりしてよね(笑)」と言いたげに、剛の肩を軽く叩いた。
その様子は中3の女子らしく、恥じらいがあって、今日の体育の時間の“強い真由美”とは別人のように優しかった。

 松永家の3人は、それから30分ほどで帰っていった。
帰り際、真由美は剛に、
「また明日。あたしたち、いいお友だちになれそうね」
と言い残し、二人ともバイバイとかわいらしく手を振って帰っていった。
母親はそんな後ろ姿を見送りながら、
「それにしても今の女の子は背が高いわね。二人ともお前たちより大きいじゃないの。
それにスラリとして、中学生とは思えないプロポーションだし、キレイなお嬢さんたち。
ああいう子がお前たちの彼女になってくれたらいいのにね」とつぶやいた。


 つづく





inserted by FC2 system