■21世紀の男女関係(青春編)

第15話 女子躍進の秘密

 6月の4週目、3年生の教室の廊下には、先日の模擬テストの成績が張り出されていた。3年生の全生徒が一喜一憂する瞬間だ。
しかし、今回のそれは、いままでとは明らかに違った傾向が表れていた。
これまでは……例えば3年C組でいえば、だいたいトップは数学のいちばん出来るサッカー部の啓太で、
そのあとにガリ勉タイプで学校が終わるといつもすぐに帰宅する雄吉や健太が続いていた。
女子の常連トップは、女子学級委員の高坂玲子だ。その4人までがだいたい学年のベスト20に食い込んでいた。
気の強い玲子は、雄吉や健太が部活動もやらず、クラスのことに非協力的で、すぐに帰宅することをいつも批判的に話していた。
「あなたたち、そんなに勉強ばかりしてたら、テストができても当たり前よね」
すると雄吉や健太はこうやり返してきたのだ。
「学校での活動を犠牲にするくらいでないと、受験戦争には勝てないんだ。悔しかったら、もっと勉強しろよ」
 
 だが、ついに異変が起きた。
今回、学年のトップに立ったのは、3Cの女子だったのだ。
啓太、雄吉や健太のみならず、3年すべての男子がまた3年C組の女子に負けた。
その噂を聞いて、まず転校生のスーパーウーマン、松永真由美の名前を思い浮かべる者は多かった。剛もそうに違いない!と思った。
しかし、全男子をおさえてトップに立ったのは玲子だった。
しかも、これまでベスト20に一度も入ったことのない美紀が4位、久美子が9位、ひとみが12位、綾が15位と、
3年4クラスがあるうちで、3Cの女子は5人を送り込む大躍進をした。
男子は逆に、啓太は5位といつも通り健闘したが、雄吉と健太にいたっては、はじめてベスト20から脱落した。
「すご〜い、玲子!」
 真由美の祝福を受け、玲子は大喜びだ。
「真由美のおかげよ。成績上位者はみんな真由美のとこのジムにいった仲間だもん」
 バレー部の美紀、バドミントン部の久美子、フットサル部のひとみ、水泳部の綾はみんな真由美を囲んで感謝していた。
 
 最近、真由美の母は、女性をターゲットにした新しい健康事業の基盤として、
女性専用スポーツジムの日本全国主要都市での一斉オープンに向けて、日々、忙しくしていた。
アメリカにいながら、日本にいる社員を指揮し、
日本全国の立ち行かなくなった古い体質のジムを次々に買収し、改装を急いでいた。
実は剛たちの最寄り駅前の雑居ビルにも、かつて一世を風靡したが、いまや赤字の大手スポーツジムがあった。
真由美たちの母はそこも買収し、改装し終え、着々と準備を進めていたのだ。
その一環として、真由美と亜沙美の同級生の女子たちにも、1ヶ月前から、モニターとして、ここを開放していたのだった。

 真由美の母の新しいジムは、アメリカで著名なジョーダン医学博士の提唱する理論の実践を売り物にしていた。
それは「脳と筋肉は密接に係わり合い、その調和こそが、健全な身体をつくる」というものだった。
それによれば、人間の頭脳の衰えは細胞の老化と比例する。
常に筋肉を鍛え、運動によって刺激して細胞を活性化させた身体は、脳も活性化させ強靭にするが、
逆に運動をしないと脳はどんどん衰える。しかも持久力を鍛え、心肺機能を鍛えることによって、
脳の活性時間も飛躍的に伸びるというものだった。
とくに女性ホルモンは男性ホルモン以上に安定感があるため、
若い時期の女性においては男性以上にその効果が顕著であるという研究結果もあった。
簡単にいえば、スポーツで体力、特に心肺機能を鍛えれば脳も活性化され、若い女性においては、それが特に顕著に表れる、という研究だ。
そして、そのジョーダン博士の実践研究に基づき、女性ひとりひとりに合った運動プログラムと食生活を
プランニングするというのが、この新しい女性向けジムならではの特徴だった。
このジムでは、アメリカで博士からじかに理論を勉強したものだけがインストラクターとして雇われる。
真由美の母の新会社では、いま、すでに300人の女性が、この研修中であり、
これから全国でオープンするジムに配属される準備が着々と進められていた。
そして、実はそれに先駆けて、真由美の母親は、真由美にも3ヶ月ほど、ジョーダン博士の授業を受けさせたのだった。
ある意味で真由美は、第一号のインストラクター資格を得ていたのである。

 あのバレーの試合のあと、バレーを教えてほしいと慕ってくる同級生たちに、真由美はそれならばと、
女子たちの基礎体力作りも兼ねて、このジムでのプログラムを薦めたのだった。
ジムのオープンまではモニターなので、週3日の無料開放。
もちろん真由美もいっしょに参加し、最近は、これに1年の亜沙美のクラスの女子も加わって大変賑やかになっていた。
3Cと1Bの女子たちがこのところみるみる自信をつけはじめた背景には、密かにこのジムの存在があったのだ。

「くそっ、まぐれだよ。お前ら、たまたまヤマを張ったところがテストに出たんだろ」
 こういって、健太が悔し紛れに玲子に毒づく。だが玲子は冷静だった。
「そう思うなら思えばいいわ」
「だいいち、お前たちが部活とかやってる間も、オレたちは勉強してるんだからな。本番の試験では、そううまくはいくもんか」
「だけど……勉強は時間じゃなくてよ。いま私たち、ものすごく頭が冴えてる気がするの。
短時間でも信じられないぐらいどんどん覚えられるしね。それに最近、体力がついてきたから、
夜もどんなに勉強しても能率がおちないんだもん(笑)」 
 日頃、運動に精を出している玲子たちは、勉強が楽しくてしょうがないといった感じだ。 
 一方、毎日、必死に勉強している雄吉や健太は、このところだいぶ疲れてきていて、
夜などは眠気を抑えるのに苦労ばかりしていた。自分たちがこれまで苦労してきたことは報われないというのか? 
そんなことはない、受験は体力ではなく根気なのだ。
 だが上位にあがってきた女子たちは、模擬テストで早くも男子を追いつめ、余裕で笑っている。
「まあ、雄吉も健太も、いっしょに頑張りましょうよ。
でも受験まで一日中勉強ばかりしてても、最後に笑うのは体力に勝る私たち女子かもしれないわよ(笑)」

(第15話 完)





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