■21世紀の男女関係(青春編)

第16話 真由美の手料理

 いっぽう、模擬テストの成績が思うように伸びず、真由美はまったく元気がなかった。
真由美は3年生120人中、35位という成績だった。
帰宅する道すがら、今日はいつもと逆に、剛が後方からポーンと通学カバンで真由美の背中をたたく。
剛は模擬テスト38位。学級委員長としては威張れた成績ではないが、
テスト当日、真由美の姿に翻弄され、もっと成績が落ちると思っていたわりには前回比で4位しか下がらなかったことにホッとしていた。
何よりも、あらゆることで敵わなかった真由美にほぼ肩を並べられたことが満足だった
「真由美ちゃん、元気だしなよ。まだ本番までは7ヶ月もあるんだし」
「そうだけど……」
「もっと自信があったんだろ」
「ウン、勉強はできないほうじゃないから」
「でも、こんなこと言ったら悪いけど、オレは正直ちょっとホッとしたね(笑)。
テストでも真由美に大差つけられたら、つらいなと思ってたし」
「今回は完敗よ。でも、こんな結果になりそうな予感はしてたけど」
「そうなんだ?」
「だってテストの設問の立て方が、アメリカとは全然違うの。
アメリカのテストは理由を書かせたり、公式の立て方でも、その過程をチェックするようになってるんだけど、
日本のテストは答えが正しくないとバツでしょ。問題もただひとつの答えを問うようなものばかり。
向こうの時のように、考え方の発想を見る問題じゃないのね。だからちょっと戸惑ったわ。
まあ、いい勉強になったけどね、ちょっとショック!」
「ふ〜ん。まあいいじゃん、いい勉強になったんなら……」
「剛くん、真面目に聞いてくれてる? 人が真剣に悩んでいるのに……友達だったら、もっと親身になって励ましてよね」
 すると剛はめずらしく言いかえした。
「真剣に聞いてるよ。
それよか真由美ちゃん、えらそうなことは言えないけど、みんな勉強だってスポーツだって一生懸命やってるんだよ。
でもたいがい真由美ちゃんには敵わない。
たったひとつのことで、そんなにネガティヴになるんだったら、オレたちはどうすればいいわけ? 
それにみんな、クラスで輝いてる真由美ちゃんが好きなんだよ、元気だしなよ」
剛にそう言われると、真由美は不思議と元気がでてくるような気がした。
真由美は剛が学級委員を務めている理由がいまようやくわかった。
彼がときどき発する真面目な言葉には、なにか人を勇気づける力があるのだ。
「ねえ、剛くん。今日の夜、ヒマかな」
「まあヒマだけど」
「夜、良かったら、ウチでお夕飯食べない? 珍しく父と妹がデートなので、今日は私がひとりきりなの。手料理ご馳走してあげるわよ。どう?」
 剛は小躍りしそうだった。真由美の家にこんなに早く呼ばれるなんて!!

 家に行くと、真由美はピンクのエプロン姿になって、料理を作り出した。
中学3年とはいえ、長身・美脚でスタイルのいい真由美は、エプロンを巻いた後ろ姿も魅力的だし、
包丁さばきもなかなか様になっている。その思いがけない女らしさに触れて、
剛は、ただ強いだけではない真由美の新しい魅力を発見していた。
「いつか、松永ン家って、お父さんがほとんど家事をやるっていってたじゃん。
だからオレ、松永ン家って、女がみんな大きいし強すぎて、お父さんがかわいそうって思ってたんだ。
でもちゃんと真由美ちゃんも料理をするんだね」
「うーん、でもやっぱりあまりしないかな? 私はその気になれば料理はなんでも作れる自信あるのよ。
けど、普段はほとんどしないわね。うちはやっぱりそれがお父さんの役目でもあるから。今日みたいなことは珍しいわ」
「そ、そうなんだ(汗)」
「お父さんはいまは基本的にヒマなので、私たちがあんまり甘やかすと、社長のお母さんが怒るし」
「お母さんが?」
「松永家は代々、家のことは男がやるルールなのよ。おばあちゃんのころから、女が強い家系だから、しょうがないの。
もうこれが当たり前になってるのよ」
「真由美が大きくなったら?」
「私もやっぱり家のことはぜ〜んぶ未来のダンナさまにお願いしたいかも。
そのぶん私が外でバリバリ働いて、たっぷりと稼いであげればいいんだもん」
「それでいいのかなぁ?」
「それでいいかどうかじゃなくて、それでもいいのよ。だって21世紀の社会は変わって当たり前じゃない? 
これが男の役割、女の役割って決めるんじゃなくて、相性のいいもの同士が結婚して、お互い気持ちよくやれればいいんじゃないの?」
 真由美はそんなことをいいながらも、実に手際よく、クリームシチューとサラダを作った。
御飯だけはお父さんが炊いていってくれていたようなので、あっという間に夕食が出来上がった。

 真由美はちょっと顔を赤らめ、照れくさそうに料理をリビングのテーブルに並べた。
「アメリカのときはホームパーティとかでよくみんなに料理を作ってあげたんだけど、
ふたりきりだと、こういうの結構テレるわね」
 そういいながら、自分もエプロンを取って席についた。
ふたりは声を合わせて「いただきます」をした。
「遠慮しないで、どんどん食べて。いっぱい作ったから」
 剛はまずシチューを口に運んだ。
「ね、どう? 口に合う?」
「すごくおいしい。真由美ちゃんすごい」
「ちょっとその褒め方、怪しいなぁ?」
 そんなことはなかった。本当にむちゃくちゃおいしかった。
 剛は夢想した。真由美と結婚して、こんなおいしい夕飯をいつも作ってもらえたらいいな、と。そう考えるだけでも幸せになった。
 さっきのエプロン姿の真由美は可愛かった。真由美と結婚したいな。こんな思いを毎日したいな。
 でも、実際は……真由美は「料理はしない」と早くもいっているのだ。
たまには作ってくれるのかもしれないが、ふだんは夫に作らせるのかな? 

 そんな夢のようなシチュエーションを夢想していると、真由美の声が飛び込んできた。
「ねえ、ちゃんと私の話聞いてくれてる?」
「えっ、何?」
 真由美はいつの間にか真剣になにか相談事を始めているのだった。

(第16話 完)





inserted by FC2 system