■21世紀の男女関係(青春編)

第27話 恐怖のカラオケボックス

 萩原美紀にとってその日は、今まで生きてきて最高の終業式だった。
 いつも終業式の日は嫌いだった。もちろん通知表を持ち帰らなければならないからだ。
美紀は中2までこれといって自慢できるものはなかった。勉強は苦手ではなかったが、成績は中位で目立たなかった。
スポーツは、小学校の時はクラスでいちばん背が高かったからリレーのアンカーなどをやったこともあったが、
中学に入るとこれも目立たなくなった。相変わらず背だけは高いほうだったのでバレー部に勧誘されて、しぶしぶ入部。
だがそれも、一緒に入部した玲子がどんどん伸びたのに、美紀はレギュラーに定着できずに置いてきぼりを食った。
スポーツでも駄目となると、いっそう自信を喪失し、中2の1年間では成績も下降気味だった。
 だが中3になって彼女に運が向いてきた。
 きっかけは2ヶ月前。5月末のある日、真由美が3Cに転校してきたことだった。
その日、偶然、バレーボールの男女対決となった時、女子は信じられないことに、これまで歯が立たなかった男子に勝ったのだ。
美紀も真由美のアドバイス通りに動いて、数多くのレシーブを決めることができた。
その一方で、それまで部活で美紀のヘタなバレーを笑っていた拓哉が、真由美の強烈なスパイクを浴びて半べそを書いていた。
ざまあみろ、と思った。そして最後は女子の圧勝……!!
勝利の瞬間は、小学校4年のとき、リレーで男子を抜いて一着になった以来の快感だった。身体に電流が走ったような感じだ。
思い出したわ、勝つ喜びを! 
思い出したわ、自分のことを見下した相手を打ち負かす快感を!
拓哉に何かと笑われてきた美紀にとって、男子を打ち負かした快感はなにものにも代えがたい喜びだった。
自信のなかったバレーも、その後真由美のアドバイスを受けてメキメキ上達し、バレー部のレギュラーを奪うまでになった。
なにより良かったのは、その影響で、それまでうまく付き合えなかった玲子と打ち解けて話せるようになって、
いつも強気の玲子に対するコンプレックスもなくなったことだった。
真由美とは親友になり、玲子たちとともに真由美のお母さんがオーナーを務めるというスポーツジムにも
オープン前からモニターとして通うようになった。
科学的な根拠に基づいたトレーニング、そしてジョーダン博士のレシピによるという
トレーニング後のサポートドリンクを欠かさぬようになってから、メキメキと体力がついてきた。ふたたび身長も伸び始めた。
 人生とは不思議なもので、ひとつのことがうまくいくと、すべてがうまく回り始める。
それから美紀はスポーツにも勉強にも俄然やる気が出た。
成績もみるみる上がり、前回の模擬テストでは自分でも信じられないような結果が出た。
トップの玲子に次いで、クラスで2番目の学年4位。そして今回はトップの真由美、2位の玲子に次いでの学年5位。
 つまり美紀は、一日10時間もガリ勉している啓太も、雄一も、そして健太をも、いまや見下ろす立場に立ったのだ!
 美紀ははじめて終業式の日が待ち遠しかった。どんな成績が来るんだろう。
 そして、その日になった。通知表をもらった。
 なんとオールAの判定。しかも受験備考欄には「早慶クラスも合格圏内」とある。
 親にも自信をもって持ち帰れる成績だった。

 玲子が「どうだった?」と話しかけてくる。
「すご〜く上がった」
「私も!」
 玲子は学級委員を務めているほどだから、前から成績優秀だったが、
真由美に次いでの学年2位になったのだから、美紀以上に嬉しそうだ。おそらく国立のトップクラスを狙えるはずだ。
「ねえねえ、ウチに帰るの楽しみでしょ」と玲子。
「うん」
「この気分、しばらく味わっていたいでしょ」
「うん」
「じゃあ、帰りにカラオケ行かない? まっすぐ帰ってもつまんないよ。歌おうよ」
「えーっ? でも制服はヤバイよ」
 学校では制服でカラオケに行くことを禁止していた。
「大丈夫だって、私に秘策があるの」
 ならばと美紀は即決で賛成した。ふたりは玲子が最近開拓したという新しいカラオケ店に向かった。
 ふたりは喜びを爆発させるようにカラオケで熱唱した。玲子は倖田来未や浜崎あゆみのダンス系が得意、
美紀はちょっと可愛らしくAIKOなどが好きだった。自信がついてきて、ときどき男子に挑みかかるようなことを言う美紀も、
素顔はまだまだ乙女チックなのだ。
「あいかわらず美紀はおとなしい歌が好きだね。美紀らしいよ」
「私は玲子みたいにカッコ良くないから…」
「ほら、またそういうこと言う。今度、美紀もエロカッコいい歌に挑戦してみなよ」
「だけど恥ずかしいな」
「美紀、いま輝いてるから似合うと思うけどな。そうだパヒュームなんてどう? 美紀が歌えば男子なんてすぐ釣れちゃうよ」
「そ、そんな〜、“釣る”なんて」
「美紀のそういう消極的なトコ、イラッとするなあ。私たち、受験生なんだから、男子を見下ろすぐらい強気でないとダメよ。ぜったい釣れるって!」
「ホント? 今度、覚えようかな。ウフフ」
 いつもながらの玲子の勝気な言葉も、美紀には心強かった。
 そんな楽しい話をしているところに、さっきからかすかに耳障りな声が聞こえ始めていた。
ガラガラ声を精一杯張り上げてブルーハーツを歌っている。
あまりに大きな声なので、こっちが静かにしているときは隣のブースから聞こえてくるのだ。
しかもひどい音痴。最初は玲子とクスクス笑っていたが、美紀もその曲が好きだったので、耐え難かった。
「ちょっと酷すぎるよね」
 美紀が言うと、
「どんなヤツが歌ってるか見てやろうよ」と玲子。
「じゃ、ちょっと私が先に偵察してくるね」
 そういって美紀は隣りのブースを覗きにいった。美紀はガラスのドア越しにそっと中をうかがう。
 すると……美紀は我が目を疑った。

その声の主は美紀にとって、思い出したくない相手だったのだ。3年学年主任の山本宗太。
彼こそは、美紀がいま、ようやく身につけはじめた自信をふたたび元に戻しかねない、美紀の天敵ともいえる教師だった。

              ―――――――――――

 それは美紀が中1のとき、宗太は学校でも厳しさで知られる生活指導担当だった。
ある木曜日の放課後、美紀はバレー部の練習に体育館に向かって唖然とした。
体育館ではバドミントン部とバレー部が体育館の使用を巡ってやり合っている。
バドミントン部は、いまは自分たちの使用時間だと言い張っている。バレー部は木曜日の放課後は自分たちの時間だと譲らない。
その原因は美紀にあった。確かに木曜日の放課後は通常バレー部の予約時間なのだが、
学校の規則では、前日までに必ず体育館使用届出をする義務があった。
今週の予約当番の美紀が、つい忘れたため、バドミントン部が当日予約をして体育館を押さえてしまったのだ。
その場に居合わせた玲子を含め、バレー部の仲間たちは美紀をかばった。しかし、そこに現れた宗太は違った。
「萩原、お前が悪いんだよ。担任の先生に聞いたが、お前は授業でも落ち着かないらしいなあ。
いくら勉強で伸びないからって、部活はいい加減、こういうルールも適当ってことになると、
生活指導のオレとしては眼をつけざるを得んな。まったくお前みたいになんのとりえもない生徒は困る…!!」
 そう罵るような口調で言った。
 それは、まだやんちゃな中1生相手とはいえ、あまりにも思慮に欠ける言葉だった。
 そのひとことは中学に入ってから自信を失いかけていた美紀を大きく傷つけた。
それから美紀は何をするにも人の視線を気にするようになったのだった。

              ―――――――――――

 いま美紀の前で、美紀の大好きな曲「リンダリンダ」を歌っているのが、あのイヤミな教師だなんて信じたくなかった。
しかも、真面目で規律的な態度をふりかざす学校での姿とは別人のように、
縦ノリでジャンプしまくり、白目を剥いてハジケている。美紀は思わずプッと吹き出してしまった。
 すると、中で歌っていた本人とふいに視線が合ってしまった!!
 宗太が吹き出した美紀に気づいたのだ。急に宗太は歌うのを止めた。
次の瞬間、宗太は狂ったようにドアのほうに突進してきた。美紀はあわてて逃げ出した。

 ドアの外の視線と目が合った瞬間、宗太は一瞬青ざめた。
「ああ、何てことだ。オレの誰にも見られたくないブルーハーツの熱唱姿を見られてしまうなんて! 
それにあの制服は、よりによってウチの生徒じゃないか。あの顔は確か…はっきりとは思い出せないが、3年の女子だな。
しかも制服でカラオケに来てるとは。ようし、ここは少々大げさに叱りつけて、何も見なかったことにさせよう」
 そう決めると、勢いよくドアを開け、外に飛び出した。
「こらっ、待ちなさい。そこの生徒!!」
 カラオケ店の廊下で、大声で恫喝した。
 すぐ目の前の女子はあわてて逃げていく。「よし、つかまえてやる」と飛びかかり、手を伸ばした。しかし……
ああ、届かない! 宗太はビールで酔っていた。しかも相手は宗太よりも背が高く、意外なほど足が速いのだ。
まったく今の中3女子のすごい成長といったら……なんてことだ!
 その女子生徒は宗太の伸ばした手をヒョイとかわすと、酔った宗太がひるんだ隙に廊下をUターンして戻り、
結局、宗太が歌っていた隣のブースのなかに逃げ込んだ。
「な〜んだ、すぐ隣だったのか。しかしバカなやつだ。ブースの中じゃ逃げ道がないだろうに」
 宗太は廊下からガラスばりのドア越しに、そのブースの中を覗き込む。中には女生徒が2人いた。
2人は宗太の方を見て、怖がるように身を寄せ合って、何か話し込んでいる。
 1人は確か3Cの学級委員の高坂玲子だな。あの子は1年生のときから生意気で目立っていたから覚えている。
さっき逃げた子は誰だ? 同じ3Cだとすると……思い出した!
1年のとき、オレが叱った萩原美紀だ! あのグズグズした劣等生だな。
「(ようし、ここで学年主任として彼女たちをシメれば教員室での点数稼ぎにもなるし、
モンスターペアレンツへの反撃材料にもなるぞ。)」
宗太は、教師としての威厳を保つために少しの間、ドアの外からじっと2人を睨み付けた。
充分に睨みを効かしたところで、ブースのなかに踏み込んだ。

「お前たち! 逃げたところを見ると、制服でこういうところへ来るのが校則違反だというのは解ってるようだな!」
 ゆっくりと2人ににじり寄る。
「す、すみませんでした。これから気をつけます!」
 2人は揃って頭を下げた。それは宗太には思いがけないほど素直な謝罪だった。
 しかし、これで済ませては宗太の教師としての威厳が保てない。恥ずかしい姿を見られた分、ここで恫喝しておかなくては。
「謝ってすむんなら校則なんていらないんだ。何かペナルティを与えないとな」
 するととたんに玲子の目つきが変わった。ふてぶてしい態度になり、宗太のほうをじっと見ている。
宗太はそれが気に入らず、さらににじり寄り、2人を壁際に追いつめた。
 だが近づくと、バレー部の玲子と美紀の大きさをまじまじと感じずにはいられない。
2人とも宗太の記憶よりずいぶん成長し、いつのまにか背は168cmの宗太を追い抜いていた。
そして制服のスカートから伸びた健康的な脚がまぶしい。
「そのスカートも校則違反だぞ。まったくC組の担任は何も言わないのか!」
 2人のスカートは巻き上げられ、通常よりもミニになって膝上20cmぐらいになっていた。
長い脚と魅力的な太腿。中1のあの時はまだ2人とも線が細く、宗太よりも小さかったのに、
今はなんと迫力のボディを持っていることか! 
 開花し始めた玲子と美紀の女の魔性の前に、宗太の脳が次第にかき乱されていく。
 宗太の頬をひとすじの汗がつたった。
 その狼狽ぶりを、するどい玲子に気づかれた。
「先生、なに興奮してるの? いやらしい」
「何をっ!」
「素直に謝ったんだから、許してよ。それが教師ってものじゃないの! それとも何か別の目的があるのかしら?」
 そんなはずはない。宗太は純粋に職務を遂行しているだけだ。教師10年のプライドを賭けて。
ただひとつだけ想定外のことがあるとすれば、このブース内には成長した女子の色香が漂いすぎている。
それがますます宗太を焦らせるのだ。
 そんな宗太の隙をつくように美紀が突然、ブースから逃げ出そうとした。
だが今度は逃がさない。宗太のすぐ横をすりぬけて、ドアノブを握った美紀を後ろから羽交い絞めにした。
「こらっ、逃げようったってそうはいかない……」
だが……、
「今よ!」
 そう美紀が叫ぶと、宗太の後ろで数回フラッシュが光った。
 玲子が携帯のカメラで、美紀を羽交い絞めにする宗太を撮影したのだった。

「何をするんだ。その携帯をよこしなさい」
 宗太はこんどは玲子に向かい、携帯を奪おうとした。
だが背も高く、腕も長い玲子が携帯を頭上高くあげると宗太には届かない。
「アハハ、おかしい(笑)」
 逃げたはずだった美紀が宗太の後ろで笑っている。
宗太は気づいた。美紀が逃げると見せかけて、2人で宗太をワナにはめたことに。
「まあいいさ。オレは学年主任だ。とにかくその写真もお前たちが制服でカラオケに来ていた証拠になるんだからな。
もし誰かに見せたら、お前たちの立場が悪くなるだけだぞ」
「あら、先生ってもうちょっと頭がいいと思ってたんだけどなぁ。
もし、私たちが先生に無理やりカラオケに連れてこられたと言ったら、どうなるかなあ?」
「なんだと!」
「例えば、女子の私たちの制服姿を観察したくって、無理やり……とか」
「そ、そんなこと誰が考えるか」
「ニュースを見てないの? 今はそういう犯罪も多いのよ」
 宗太もそういうニュースは知っていた。しかしウチの女子がそんなとんでもないことを言い出すとは。
「先生って、中学、高校のとき、ガリ勉だったんでしょ。そういう感じするわ。
ウチのクラスの雄吉や健太みたいな匂いがするもの。勉強ばっかりしてきても、こういう時に使うオツムは弱いのね」
 玲子は強気の言葉をどんどん浴びせてくる。
しかし宗太は、その横で玲子ほど強気になれず、不安げにその様子を見ていた美紀に気づいた。
 そこで一計を案じた。美紀は玲子と一緒にいるからこんなことをしているが、内面は相変わらずグズグズした気の弱い子だ。
そこにつけ込んで美紀を泣かせば、玲子もあきらめるはずだと。
 宗太は玲子の強気を無視するように言った。
「オレをそういう犯罪者と一緒にするつもりか。オレの、ウチの学校での信用は絶大なんだぞ。
オレの年で3年の主任を任されるのは異例なんだ。それはオレが、この学校で築いた長い時間の信用があってのこと。
なにもかも校長先生の期待をいただいてのことだ。対してお前たちはどうだ。
玲子はまあ学級委員だし成績も悪くはないが、美紀ははっきりいって劣等生。
お前たちがあの写真にどんなもっともらしい理由をつけたところで、オレより信用されるはずないだろ!」
 宗太にそう言われ、美紀は動揺しているように見える。
 宗太は、これで2人はおとなしくなるはず、と思った。
だが横で、玲子は相変わらず態度を変えず、「それがどうかしたの?」といわんばかりに、腕を組んで宗太を見ている。
「フフッ、私いまでも覚えてる。中1の時、私たちの前で、先生が美紀のことをどんなにバカにしたか。
あのとき美紀がどんなに傷ついていたか。あのときから先生はぜんぜん変わってないんですね」
 そう呆れるように言って、さらにつづけた。
「まあ、そんな昔のことはもういいわ。でも先生、私たちのこの前の模試の成績を知って、そんなこと言ってるのかな? 
だとしたら、おかしいわ。3年男子は全員、私たちより下なのに」
 宗太は一瞬、わが耳を疑った。まさか?
 自分は学年主任だ。3年生全体の成績は熟知しているつもりだった。
しかし……今回のテストでは男子のあまりにひどい成績に気を奪われ、彼らの個々の成績を把握するのに精一杯だった。
そうしないと親たちからの電話攻撃に応対できないからだ。成績のよかった女子のことは、
つい各クラスの担任まかせにしていた。
「先生、男子ばかり気になって、私たち女子なんてどうでもいいんでしょ?」
「そ、そんなことはない」
「だったら、どうして今驚いたの? 私の言ったことが信じられないんでしょ」
 宗太は慌てて隣のブースに走ると、自分のショルダーバッグを持ってきて、
玲子と美紀のまえでバッグの中の資料をまさぐった。そして模擬テストの順位表を取り出して見た。
<3年模擬テスト順位……1位:松永真由美(C組)、2位:高坂玲子(C組)、3位:山崎由香(A組)、
4位:七尾智子(D組)、5位:萩原美紀(C組)、6位:大森信二(B組)…>
 ホントだ。ふたりはベスト5に名を連ね、それより上に男子は誰もいない。
 宗太は呆然として、その順位表をもう一度確認してみたが、玲子の言うとおりだった。

「そ、そうか……。決めつけるようなことを言って悪かったな」
宗太が急に態度を変えると、美紀はじっと宗太を睨みつけている。
さらに宗太を追い込むように玲子がいった。
「先生はさっき、学校では自分のほうが信用あるって言ってたわよね。でもどうかな? 
昨日の模擬テストの成績で先生が親たちからの電話攻撃を受けたことはみんな知ってるわ。
けれど、そのことで先生をかばってくれる人はいる? いないでしょ。
みんな嫌なことの責任は取りたくないものね。逆に私たちはいま、期待されて困ってるの。
今日も終業式のあとに教頭先生に呼ばれて、“とにかく頑張りなさい。困ったことがあったら何でも相談に乗るから”って。
いま、学校でかばってもらえるのは先生か私たちか、どっちだと思う?」 
玲子の言うことは正論だった。
校長はここ数年、3年生の進学実績をあげることに必死になっている。ほとんど命がけと言ってもいいほどに。
だから今、成績伸び盛りの2人を誰もとがめることはできない。逆に宗太の教員室での信用は地に堕ちかけていた。
玲子の言うとおり、宗太と彼女たちの、学校での力関係はいまや完全に逆転したのだ。
「ああ……」
宗太は頭を抱えてその場にうずくまった。10年間の苦労とはこんなにもろいものだったのか……。
自己崩壊していく気分だった。
すると美紀が宗太の前に立ち、こう言った。
「いいよ、山本先生。私、許してあげる」
 宗太が美紀のことを見上げると、美紀の顔には笑みがこぼれていた……。

美紀はさっきまで腹を立てていた。
宗太に対してではなく、玲子のように言い返せなかった自分に……。
真由美や玲子に比べ、まだまだ自分は弱い。そう感じていた。
だが、この瞬間、それは変わった。
玲子の言葉に追い込まれ、とうとう目の前にうずくまってしまった宗太を見ていて不思議な感情が湧いていた。
それはいままでにはなかった感情。
「(先生が大事に守ってきたものって、こんなにつまらなく、もろいものだったんだ。
それを私はずっと信用し、恐れ、縛られてきたんだわ)」
 宗太の前で気弱になっていた自分がバカバカしくなってきた。
いま、ただひとつの真実。それは美紀が、自分の出した成績で宗太との立場を逆転させたことだ。
そう考えると、メンツにばかりこだわる宗太がとてもちっちゃな男に見えた。
「いいよ、山本先生。私、許してあげる」
 無意識のうちにそう微笑んでいたのは、美紀がほんとうに呪縛から解放された証しだった。
 同時に美紀は玲子の友情にも感謝していた。
 さっき、追いかけてきた宗太がドアの前に立ち、ふたりを睨んでいたとき、玲子は美紀にこう囁いた。
「美紀! あんなやつ、ぜんぜん恐れることないよ。いま化けの皮をはがしてやるから。ここは私に任せて! 
美紀に自信をつけさせてやるから」
そう言って、宗太をワナに嵌めるアイデアも考えてくれた。
美紀をリードして、いま感じている自信を与えてくれたのは他ならぬ玲子なのだ。
美紀は、真由美と玲子についていけば、もっともっと強くなれると確信していた。

さっきまでと違い、いまの美紀には宗太をもてあそぶ余裕すら生まれていた。
「許してあげる」と投げかけた言葉の次にこんなアイデアが浮かんできたのも、美紀が精神的に優位にたったせいかもしれない。
「先生。仲直りのしるしに、私たちとカラオケしようよ」
 そう言うと、うずくまっている宗太に手をさしのべた。
 だが宗太はなかなか顔を上げない。
「ねえ、いつまでグズグズしてるの!」
 強気に変貌した美紀の、容赦ない叱咤が飛んだ、
 宗太はようやく顔を上げ、助けを求めるように美紀の手をとる。
美紀は最近自信をつけた腕力でグイッと引き上げてやった。
いまの美紀には、こんなちょっとした行為にもなぜかゾクゾクするような快感がある。
立場の逆転、それは美紀に新たな喜びを発見させていた。

「先生はお客様だから、こっちに座って!」
美紀と玲子はお互いに目で合図すると、備えつけのテーブルを挟んで二つ置かれたソファーの、
小さいほうの真ん中に宗太を案内した。大きいソファーは4人ぐらいかけられるが、小さいソファーは3人すわるのが精一杯。
だが、肘掛がついて、貴賓席という趣きだ。
「先生、だいぶ汗をかいてるわよ。ビール頼んだら?」
「いや、生徒の前で飲むわけには…」
「何いってるの。遠慮しなくていいわ。ほら頼めば! 私たちのジュースも一緒にね」
 そういってインターホンを強引に宗太に渡す。受話器の向こうに受付の男の声がして、
宗太は仕方なくビールとジュースをオーダーした。
 ほどなく、ウエイターが飲み物を届けて、去っていった。
「じゃあ、まず歓迎の意味を込めて、私たちが歌うわね」と美紀が言うと、
「じゃ私が、倖田来未いこうか。山本先生もきっと好きだよ」と玲子。
「おっ、いいね。イエーイ!」
 美紀は掛け声をかけて宗太の横にちょこんと座ると、慣れた手つきでリモコンを操作し、
玲子の好きな「バタフライ」を入れた。
玲子は立ったまま、曲が流れ出すのをじっと待ち、やがてイントロが始まると前に出て、テ
レビの歌番組でよくみるダンスを始めた。そしてワンコーラス目をカッコ良く歌いこなす。
やがて間奏に入ると、玲子は美紀にそっとウインクし、宗太のすぐ前に立って、見せつけるように腰をグラインドさせ始めた。
激しいダンスに玲子の頬を汗がつたう。
そして踊りながら、宗太の注文していたジョッキを掴み、グイッとひとくち喉に流した。
「な、何してる。未成年が飲酒なんて!」
「だって先生が一緒なんだから、いいでしょっ」
宗太は目の前のセクシーダンスに半分気をとられて、怒ろうにも怒れない。玲子は2コーラス目に入った。
のどが渇いてしょうがない宗太は、玲子が返したジョッキを半分まで飲み干した。
「(ウフフ、先生、最後まで持ちこたえられるといいんだけど…)」
美紀は思惑通りに2人の誘いに乗ってきた宗太を見て、
ふたたび玲子と視線を交わし、これからどうやって、この男を料理しようかと考えをめぐらせるのだった。

一方、宗太は、玲子のダンスを驚きを持って見つめていた。
目を離すことができなかった。
玲子はさすがバレー部だけあって、中3で早くも170cmのダイナミックボディだ。
制服姿でセクシーダンスを踊るだけでも刺激的なのに、スカートを巻き上げて超ミニにし、太腿を思いっきり露出していた。
その太腿はプルンと揺れるかと思いきや、意外にどっしりと力強く、床を踏みしめたときには筋肉がくっきり縦の筋を浮かび上がらせる。
健康的に鍛え上げられたその迫力は、昼間、奈々子の肉体にひるんでいた宗太を、またも刺激するに十分だった。
長い脚を振り上げ、宙をキックするような振り付けのときは、正直、この脚にキックされたいと思った。
ものすごい破壊力かもしれない、と思う。
それほどまでに興奮していたが、教師のプライドから、股間の勃起だけはなんとか抑えた。
また喉が渇いてビールを飲もうとすると、もうジョッキは空だった。なぜ?と思っていると、美紀が
「先生すみません、私飲んじゃった〜」と笑っている。
 2人は教師の監視下であることをいいことに、堂々と飲酒してケロッとしている。宗太は2人のしたたかさに舌を巻いた。

やがて「バタフライ」を歌い終わると、玲子は宗太の向かい側のソファーに座ると思いきや、宗太の右隣りにやってきた。
そして、3人だと窮屈そうなソファーに無理やり腰掛けようとする。
「美紀、どきなよ。美紀の番だよ〜」
と玲子は言うが、
「まだ曲決まってないよ〜」
と美紀は座ったまま立とうとしない。
玲子はしびれを切らして宗太の右のわずかなスペースに、強引に割り込んできた。
宗太は狭いソファーで美紀と玲子に挟まれて座ることになった。2人はスカートを巻き上げているので、
宗太の両側には、見るからに健康的な2本ずつの太腿がびっしりと並んでいる。
改めてみる彼女たちの太腿の幅と重量感は宗太のそれを圧倒していた。玲子も美紀もまだ中3なのに!!
2人は両側からはさみ撃ちにするように、その健康的な太腿を宗太の体に押し付けてきた。
ズボン越しに伝わってくる2人の太腿の体温。宗太はテーブルの下にもぐりこまないと、このはさみ撃ち状態から逃げられない。
焦りまくる宗太は、
「萩原、早く歌いなさい」
 と、玲子が踊っていた場所を指して、美紀に早く立つようにうながした。しかし美紀は
「先生ズル〜い。玲子が入ってきたら私を追い出すなんて! やっぱり前から私のことが嫌いなんだ!」
と意地になって、その場所をどこうとしなかった。
 宗太は時間がたつにつれ、しだいに2人の存在感に圧倒されはじめていた。両側から漂ってくる芳しい香り。
それは中3というより、もう魔性を備えた女だった。
そしていま、狭い空間に、彼女たちが身体を小さくたたむようにして座っていた。
ミニスカ−トからのぞく2人の太腿の異様な太さ。
この太い脚が、立つとスラリとカッコよく見えるというのは彼女たちの全身がそれだけ大きいことを物語っていた。
色香もスゴイが、バレー部だし、彼女たち、けっこう体力もあるのかもしれない。
まだ中学生とはいえ、この大きなたくましい脚で締めつけられたとしたら、どんな気分だろうか、と想像した。
酔った宗太は、次第に汗だくになり、無意識のうちに玲子の両太腿の間に右手をかけてしまった。
すると玲子が脚に力を込めてきて、たちまちその太腿が並の鍛え方をした女とは思えないたくましい筋肉に包まれた。
「イテテッ!」
指の骨が砕かれるような激痛に襲われたかと思うと、
我にかえる前に、すかさず宗太の右手は玲子の腕力でグイッとねじ上げられた。
 宗太はただただ圧倒されていた。まだひよっこの、自分よりずっと目下の生徒だと思っていた玲子と美紀の思いがけない
“魔性”と意外な力強さに。そして、なぜか勃起した。
 どうしてなんだ! どうしてこんなことで勃起してしまうんだ! あんなに抑えていたのに…。
だがそれは、宗太自身にもうまく説明できない。
しかしマズい。教師が生徒を見て勃起してしまうなんて……! なんとか隠さなければ。
だが一瞬、遅かった!
「ウフフ」 
 耳元で美紀のささやくような低い笑い声を耳にし、宗太があわてて美紀のほうを見ると、
案の定、美紀の視線はまっすぐに宗太の股間を見つめていた。
「ねえねえ玲子、先生のココ、すごいことになってるゥ」
 美紀が大騒ぎする。玲子はその元気ぶりに目を丸くして、楽しそうにいった。
「何シカトしてるのよ美紀。勃起よ勃起。そうよね先生」
 宗太は答えられない。
「ウフフ、私たちって、先生をそうさせちゃうほど、魅力あるんだ(笑)」
と美紀。
「でもね先生、私たち生徒だよ。先生が生徒に勃起したらマズイよね〜。美紀、どうする? 先生のこと、許してあげられる?」
「どうしよっか」
「私の太腿にお触りしたし…」
「ヤバイよね〜」
「それに私たち、さっきの写真という切り札もあるし……」
「そうだよね。先生にもそれ相応の罰を与えないと、気がすまないね」
「何か罰を考えてよ、美紀」
「そうだ先生、私たちだけナマ脚見られてるのは不公平だよ。先生もパンツ一丁っていうのはどうかな」
 これには玲子も爆笑した。
「それケッサク。私も乗った〜」
「お、お前たち、何を考えて……」
だが、そう怒鳴りかけた宗太の口は、すかさずうしろから宗太を羽交い絞めにした美紀の手によって塞がれ、
気がつくと、宗太のズボンはあっという間に玲子によってズリ降ろされた。
2人がバレーとジムで鍛えた力は、宗太の想像を遥かに超えていたのだ。

宗太のパンツは高々とテントを張っていた。
「うわっ」
「すごーい。びんびんだよ」
「こんなに凄いと、中を見たくなっちゃうね」
 玲子が手始めにパンツの上から軽く指でタッチしてみた。
「あひ〜ん」
と、宗太が小さく感じている。そのカワイイ声を聞いて、宗太を抑え付けている美紀が言った。
「やっぱ、パンツも脱がしちゃおうよ」
「でもね〜、見て気分悪くならないかな〜」と玲子。
「平気だよ、あたしなんか、いつも弟の見てたもん。かわいいものよ」
 美紀のこのひと言で決まった。美紀はふたたび宗太を強く羽交い絞めにし、
玲子がいともあっさりと宗太のパンツまでもを剥ぎ取った。
「意外にかわいいじゃん」
 玲子が笑う。
「私の弟のと、あまり変わんないわ」
 美紀も笑った。
 宗太はいま、はっきりと確信した。
 カラオケに誘ったのは、最初から、玲子と美紀のお仕置きだったのだと。
そして2人はいま、アルコールの勢いをかりて、肉食系女子の本性を見せ始めた。
 だがすでに遅かった。宗太の煩悩はいまや彼の生徒である玲子と美紀の魅力のまえに、抵抗する気力を失っていたのだ。
 ピクピク反応するぺニスを、まるで希少動物でも観察するように眺めている美紀と玲子。
玲子がその先をつまんでひねると、宗太は気持ちよさそうに悶える。
「宗太ちゃん、かわいい!」と美紀。
 宗太は中3の女子生徒に「宗太ちゃん」呼ばわりされたくない、と思ったが、今はただただ言いなりになるしかなかった。
 それを見て、美紀がある曲をカラオケに入れた。
「よーし、私は玲子に対抗して『キューティーハニー』を歌っちゃうわ」
 イントロが鳴る。やや酔っている美紀は、さっきの玲子に負けない迫力でダンスを踊り始めた。
宗太はふたたび圧倒された。そして今、気がついた。
あの劣等生だった美紀は、いまや玲子以上に背が高く、シャープなボディの持ち主であることを。
美紀は気の弱さという弱点を脱ぎ捨てれば、玲子以上にワイルドな魅力があった。
美紀にはもとからコワイ女になる素質が十分にあったのだ!
「お願い、お願い〜、近寄らないで。宗太のあそこ〜が〜チュクチュクしちゃうの〜」
 と美紀が替え歌にして歌う。調子を合わせて玲子が宗太のペニスをしごく。と、宗太は耐えられずに悶えまくる。
「い、いや! あ〜ん」
宗太は必死に立ち上がろうとする。だが、玲子が睨みを効かし、つまんだ指の先に力を加えると、もう抵抗できない。
2コーラス目の同じ歌詞の部分が近づいてくると、「や、やめてくれ〜」と宗太は大声をあげた。
「お願い、お願い〜」
 また同じフレーズで、玲子がさっき以上に念入りにしごいた。
すると今度は耐えられず、白濁の液体を勢いよく発射した。
ピューッ!!!!
「わっ、すご〜い!」
「宗太ちゃん、意外とやるじゃん」
 宗太は、もはや女子たちの奴隷状態だった。

 やがて、歌い終わった美紀が宗太の横に戻ってきた。
「宗太ちゃん、よく頑張ったね〜」と美紀は宗太の顔をなでて、軽く胸に抱きしめてやる。
 宗太は今更ながらのように、この自分の教え子が、自分よりも大柄で、力強いことを思い知らされた。
いまや美紀の魅力のとりこだった。
うっとりとした表情の宗太を見て、美紀は大笑いする。
「ねえ玲子、宗太ちゃんのソレ、踏みつけてみよっか〜」
すると
「美紀、それだけはやめときなよ」
今度ばかりは、やや暴走ぎみな美紀を玲子が止める番だった。
「自分の体格を考えなよ。美紀、172cm、58kgでしょ。それしたら、宗太ちゃんが男でいられなくなっちゃうかもよ」
「わかった。あきらめる」
 美紀も玲子の言うことは素直に聞くのだった。
「先生みたいに偉そうなこと言ったって、しょせん男なんて、こんなものよね〜(笑)」
「アハハハ」
「さあ、そろそろ家に帰って、親に通知表を見せなくっちゃ」
 やがて2人は宗太にブースの後始末を言い渡して、カラオケを出ていった。

いまや優等生揃いとなった3Cの女子は、こうして今日もひとりの(表向きだが)優秀なる教師を完全にその支配下においたのだった。
(第27話、おわり)





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